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転生1-2

 現実世界から非現実世界へと知らない内に渡り、人間であった身体が生物とは思えない人外の身体と()り、新たな世に生まれ変わった。

 本来であれば、とても好ましくない事であるだろう。

 人間としてではなく、化け物として生きていかなければならないのだから。

 ()ず、この世界に生きる――――特に人間達から見れば危険な存在であるのは間違い無い。

 化け物は恐ろしい存在だからだ。

 危害を加えてくるかもしれないからだ。

 誰もが持つ共通認識だ。

 この世界に存在し生きる化け物は大雑把に〝魔物〟と呼ばれる。

 基本的に魔物は人間よりも身体能力が高く、中には高度な知性を持ち、中には魔法を操る強力な魔力を秘めた化け物も存在する。

 それは人を害する存在であり、強さによっては災害の様な危険な魔物も存在する。

 その様な危険な存在が群れを成し、襲われでもしたら先ず助からないだろう。


 だから殺すのだ。

 襲われるのなら殺さなくてはならない。

 当たり前の自己防衛だ。

 自分を護る為に―――。

 家族を護る為に―――。

 国を護る為に―――。

 愛する人を護る為に―――。

 大半の魔物は確実に討伐対象になるのは明らかだ。

 だが白石大地は元人間だ。身体は完全に人外でも、優しい意思はそのまましっかりと残っている。無闇に人を傷付けようとする非道さは有していない。

 しかし、中身が善であっても人外は人外。人間からして見れば、それは奇妙かつ恐ろしい未知の化け物としか映らない。

 此方(こちら)が一切手出しをしなくても、彼方(あちら)側は此方を危険な存在だと判断し、対処しに来るだろう。

 良くて追い払われ、最悪の場合は命を狙われ討伐される。

 何もしていない本人からして見れば、それは余りにも理不尽な歓迎である。

 只々(ただただ)、そんな嫌な思いをしながら、この世界で新たな人生を歩んでいかなければならないのだから。


 しかし、白石大地は――――。


(わ――――い!! やった――――!! 異世界だー!!)

 異世界に転生した事実に歓喜していた。

 自分の身体が岩石の怪物に為ってしまった事など、全く気にしていなかった。

(人じゃなーい! 岩の身体だー! 何だこりゃー! アハハハハハッ!)

 それどころか、落ち込む様子など全く無く、その事にも歓喜しているのだった。

 決して錯乱(さくらん)している訳ではない。本当に心の底から喜んでいるのだ。

 生まれ変わっても前世と何も変わらずの性格で、この異世界に転生した所為か妙にポジティブ思考が強く為っていた。

 人間であろうが怪物であろうが、彼にとって如何(どう)でも良い事であり、そんな事など知った事ではないのだ。

(この世界はどんな所が在るんだろう? どんな自然が在るかなぁ? どんな風景が観られるかなぁ? 生き物はどんなの居るかなぁ? あ! (ドラゴン)とか居るのかな!? 魔法とかもあるかも!? 国はどんな感じの造りなんだろう? 歴史的偉人とか居るかなぁ!? ああ、楽しみだなぁ!)

 最早(もはや)心は童心に帰り、大きな目を輝かせていた。

 頭の中も未知に対する好奇心と期待感で一杯になっていた。


 早く、今直ぐ、冒険がしたい!


 名も無き岩石の獣は歩み出し始めた。

 森の中を進む。

 ひたすら真っ直ぐ進む。

 行先(ゆくさき)(あて)は当然無いが、ひたすら歩み進む。

 未知への期待を胸の中で膨らませ、ひたすら歩く。

 重い岩石の脚を軽々と運び動かし、歩き続ける。

 心は今も(なお)幾度(いくど)なく弾み続けていた。

(おっ、彼方(あっち)の方に開けた場所がある。日の光に当たるに丁度良さそうだ)

 (しばら)く歩き続けて、(ようや)く日の光を妨げる樹々が無い場所を見付けた岩石の獣は、その方向へと向かった。

 日の光が遮られていた森の中でも充分に暖かかったが、やっぱり直接春の日光を浴びたかった。

(冬の寒さに暫く(さら)されてたからなぁ。折角だから日向(ひなた)ぼっこしてこ)

 前世では死ぬ前に、寒気が吹き抜ける冬を薄着で過ごしていた。その為か、自然と日の当たる場所に向かってしまうのだった。

 さぞ気持ちの良い暖かさを全身で感じれるだろう。

 そして、日の当たる場所へ、暖かな光が差し込む場所へと身体を入れた。

 

 

 ――――その瞬間に、全身に電流が(はし)ったかの様な感覚に襲われた。



 岩石の獣は自身に突如と起こった奔る感覚に驚愕し、何が原因でそれが起こったのか解らず動揺する。

 そんな心境が生じると同時に、大量のある情報が直接脳の中に流れ込んで来た。

(エッ!? 何だ…これ!?)

 大量の情報が一気に脳内へと流れ込むが、激しい頭痛や吐き気は催す事は不思議と無かった。

 そして突如と起こった現象は、ほんの数秒足らずで直ぐに治まった。

 その直後、全てではないが、岩石の獣は理解した。

 いや、理解したと言うより、()()()()()()()()()ような感覚があった。まるで生まれた時から自分の一部として共に在り続けたかの様な、そんな感覚が自身の中に存在していた。

(す……〝スキル〟!? 僕…スキルを持ってるのか?!)

 特殊な力、技術、魔法、性質などの、己の身体に秘めているものが、全く知識など無い筈がその知識と使い方が手に取るように解るのだ。

 自分はどんな存在かは不明のままではあったが、元居た世界には無い概念――――内に秘めた〝特殊技能(スキル)〟を感覚で認識する事が出来る様に為ったのだ。

(〈光合成〉! これが僕の特殊技能(スキル)か!)

 彼は初めての特殊技能(スキル)――――〈光合成〉と呼ばれる力を体感した。

 身体は心地良い暖かさに包まれ、全身に力が(みなぎ)ってくる。

 まるで太陽に祝福されているかの様に思えてしまい、身体の(しん)から隅々(すみずみ)まで癒される様な心地良さだ。

 いや、実際に(いや)されているのだ。

 そして自身の内に存在するもう1つの力を感じ取り、それが何なのか理解出来てしまった。

(これが……〝魔力〟なのか)

 不思議な感覚だった。

 何とも言えない感覚だ。

 と言うよりも、他に例える鮮明な言葉が思い浮かばない。

 不思議としか、それしか相応しい言葉が見付からなかった。

 それは内から溢れ出す様な、(みなぎ)る感覚と似ているが、頭が()え渡ると言う方がしっくりくる。

 この感覚は、もしかすると知性に関係しているのでは? とちょっとした解釈をした。実際に本当か如何(どう)かは判らないが、それはそれで興味が湧いた。

 先程からずっと魔力と生命力が漲り溢れていた。

 と言うより、未だ溢れている。

 今も尚溢れ続けている。

 際限無く溢れ続けている。

(おお! これが僕の特殊技能(スキル)かぁ! これは良いぞ!)

 彼が岩石の獣に生まれ変わり、様々な特殊技能(スキル)を複数得た中で一番気に入った特殊技能(スキル)が常時発動していた。

 特殊技能(スキル)〈光合成〉。

 それは日光をその身に浴び続ける事で身体の中で多種多様の栄養素を自己生成し、生命維持を(にな)う特殊な能力である。更には自己生成した栄養素を身体の中に幾らでも蓄える(ストックする)事が可能。なので、日光に当たってさえいれば食事など不要となるのだ。極端に言えば、全く何も食わずに生き続ける事も可能にしてしまう特殊技能(スキル)である。

 つまり、基本的に飢えとは無縁になると言う事だ。

 そして更にこの特殊技能(スキル)は、魔力と生命力の回復機能まで付いている。

 特に魔力に関しても日光を浴び続けていれば幾らでも、無限に回復し続ける事も出来てしまう。更には魔力も栄養素と同じ様に幾らでも蓄える(ストックする)事も可能なのだ。

 飢えと無縁になると同様、魔力切れに為る心配も全く無くなるという事だ。

 そして最後は生命力回復による自己再生機能も備わっており、損傷の自己治癒に加え、蓄えた膨大な栄養素による疲労回復も出来てしまう欲張り3点セットの能力である。

(これは凄く良い特殊技能(スキル)を手に入れたぞ! これならのんびりと長旅しても飢えに困らないし、沢山歩いても疲れないから体力の心配はしなくて済むぞ! 後は……)

 彼は自分の両手を目の前に出し、見詰めながら考え始めた。

 それは魔法の発動の仕方。

 その条件について、岩石の獣は考察し始めた。

(魔法かぁ…)


 魔法。

 それは物理的な現象を超え、自然では有り得ない物理法則を無視した摩訶(まか)不思議な力。

 特殊技能(スキル)が使えると判明した瞬間には、今の自分にどれだけの特殊技能(スキル)が有しているのかは把握する事は出来たが、魔法に関しては完全と迄にはいかなかった。だが、全く分からないと言う訳でもない。

 実は体得している様々な特殊技能(スキル)の中に〈魔力操作〉と言う特殊技能(スキル)が在ったのだ。

 その特殊技能(スキル)を有している御蔭なのかは不明だが、何となくと言う曖昧(あいまい)な感覚ではあるが、ある程度の直感で理解をする事が出来る。

 魔法の発動条件の1つである魔力の操作をする事は出来る。

 だが、その先を如何やれば良いのか難儀してしまう。

 他の条件が判明しない。

 それも当然だ。

 前世には魔法は空想概念(がいねん)として知ってはいるが、この異世界での魔法という概念()(もの)の知識は全く無いのだから。

(う~ん。この後が分からないな。イメージ? 魔法陣を作るイメージ? それとも……う~ん)

 彼は()()えず、目の前に魔力を集める事を試み出す。魔力を集め易い様に両手を目前に出し、(てのひら)で支える様にしながら感じ取れる魔力を眺めていた。

 そして両手の間の中心に多数の光る微粒子が集まり、人の握り拳程の大きさの魔力が出来上がった。

 フワフワと浮かぶ青白く輝く魔力の塊は、何とも綺麗な、まるで実態の無い光る水晶の様だ。

 (ただ)の魔力を操る事に関しては、如何やら大丈夫そうだ。

 問題は此処(ここ)からだ。

 今度はこの集めた魔力を如何やって御伽噺(おとぎばなし)の様な魔法に変換する事が出来るか、だ。

 岩石の獣は悩み続けた。

 魔法知識ゼロの脳味噌を絞りながら模索する。

 しかし、正確な答えが中々見つからない。

(ムウゥ~。取り敢えず簡単な事からやってみるか。先ずは単純なイメージとかで良いよね。習うより慣れろ、何て言葉もあるし。色々試して行けば良いし、時間もたっぷりあるし!)

 取り敢えずはイメージという簡単な事から始める事にした。

 そして早速、魔力にどんなイメージに変えてみるかを考えた。

 魔法と言えば、どんなのが在るのか想像を膨らませてみる。

(火とかがよく使われてるイメージはあるけど、電気もありだなぁ。でも何かしっくり来ないなぁ。うーん、水…は何か地味かな。土もあるし。あっ、光の魔法……難しそうだから後回しにしとこ)

 思い付く魔法の種類はそんなに多い訳ではないが、如何しても悩んでしまう。

(うん、無難に水にしよう。イメージし易いし。)

 少し(しばら)く悩みぬいた結果、選択したのは水の魔法だ。

 手の中にある魔力に意識を向けた。

(イメージ…。水の…、水になるイメージ…)

 そのまま魔力に向けて、頭の中の、魔力が水になる様な、何も無い所から水が創られるようなイメージを、魔力に注ぎ込む。

 だが、暫く苦戦するのではと思っていたが、たった1回ですんなりと水を創り出す事が出来たのだ。

 其処(そこ)には魔力の塊から変化した水が浮いていた。

 両手の上でふよふよと水球が浮いている。

 思ったよりあっさり出来てしまった。

(なるほど! イメージ次第で魔法は発動す――――)



 ――――特殊技能(スキル)〈魔力制御〉獲得――――

 ――――特殊技能(スキル)〈水系統魔法制御〉獲得――――



(ウワッ!!! な、何だ!!?)

 いきなり音声の無い情報連絡が直接脳内に刺激され、岩石の獣は驚く。

 驚いた所為で魔法から意識を離してしまい、ふよふよ浮いていた水球の形を崩してしまい、意識下から離れた水の塊は下へ落下し、バシャンと音を立てそのまま地面に染み込んだ。

(ビ……ビックリしたぁ!)

 これは誰でも驚くに決まっている。

 何の予兆も前触れも無く、いきなり知らされるのは心臓に悪いものだ。

(…でも、なるほど。魔法の発動の仕方は理解出来たぞ。後、スキル――――特殊技能の獲得の仕方も少しだけ理解出来たぞ。得る為の条件を実際に行えば獲得出来るみたいだ。よし! 後は練習あるのみ!)

 これで魔法の発動に関する悩みは解消された。

 少しの間、()の場で水の魔法の練習に没頭するのだった。



 魔法の簡単な練習を切り上げた岩石の獣は、再び歩み始める。

 真っ直ぐ、真っ直ぐと。

 森の中を歩き続ける。

 勿論行く宛など全く無いが、ひたすら歩み進む。

 早く色んな景色を見てみたい。

 ()だ見ぬ異世界の生き物を見てみたい。

 摩訶不思議な出来事に出会(でくわ)したい。

 この広い未知の異世界を冒険したい。

 魔法も見てみたい。そして知りたい。

 心の中は期待で一杯だ。

 今の岩石の獣は、無邪気な子供の心境に為っていた。

 広い森の中を真っ直ぐ歩き続け、漸く森の中を抜けた。

 抜けた先で視界に入ったのは、なだらかな丘だ。その丘も森の中と同じ色鮮やかな緑の植物が茂っており、優しい微風(そよかぜ)が吹き抜ける度に丘の植物が(なび)き、緑の波模様を幾度も作り出していた。

 そんな緑鮮やかな丘の向こうには何があるんだろうか。

 岩石の獣は丘へと向かい、なだらかな丘をゆっくりと上り始める。

 重く大きな岩石の身体を、前へと、前へと進ませる。

 そして、丘の頂上に辿り着き、丘の向こうに広がる景色を目にし――――。


(――――凄い…)


 岩石の獣の目から涙が急に溢れ出し、岩石の頬を流れ(こぼ)れ落ちる。

 涙が止まらなかった。

 溢れる感動が抑えられなかった。

 岩石の獣にとって、そんな光景が広がっている。

 視界一面に広大な草原が広がっていた。風に揺られる草と草が(こす)れ、静かな波風が立つ心地良い音が耳に伝わって来る。

 視界に映る地平は色鮮やかな輝く緑が広がっていた。

 まさに草の絨毯(じゅうたん)と言うに相応しい。

 ほんの少しだけ大きな岩が所々に鎮座(ちんざ)していたり、1本だけぽつんと樹が生えても在るが、これもまたそんな風景に良い味を出している。

 そして地平線の彼方には、巨大な山岳地帯や巨大な森林地帯が(そび)え立ち、目に映る全てが世界の壮大さを感じさせる光景だ。

 これ程の絶景は前世で一度たりとも見た事は無かった。

 前世で生まれた時からずっと、殺風景な狭い世界ばかりを見続けてきた彼にとって、それは無理も無い事だ。

 だから人間だった岩石の獣は、感動の涙を流したのだ。

 視界全体に広がる広大で壮大な大自然の光景に対し、誰でも思い浮かべられる簡単な感想の言葉だった。


(世界って…こんなにも綺麗なんだ……!)


 感動と共に涙が溢れ続ける。

 この世界に生まれ変わって本当に良かった。

 岩石の獣として生まれ変わった者は感謝の念を抱くが如く、そう思うのだった。

 人外と為りし者――――白石大地は生まれて初めて、歓喜と感動の涙を流し続けるのだった。

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