表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/244

賢者達との旅路5-4

 太陽が遥か彼方の地平線から顔を出し、青く染まった空の(いただき)へと昇り始める。

 その頃には全員起床し、昨日の夜に侍女(メイド)のライファが作り置きした簡単な軽食を済ませ、王都アラムディストへ向けて馬車を進ませていた。

 その馬車に続く様に、岩石の魔獣も野盗達が入っている鉄の檻を固定された荷車を引っ張りながら、一緒に歩み進む。

 今日も変わらず、見渡す限りの背の短い芝生(しばふ)()(しげ)ったラフォノ平野を見渡しながら、先頭の馬車の進む速度に合わせて岩石の魔獣は続く一本道を歩む。

(今日も良い天気だなぁ)

 今日も透き通る様な美しい青空を見上げながら、岩石の魔獣は歩む。

 途中の道の分岐点を幾つも通り抜け、(しばら)く進んだ先には森が広がっていた。ポフォナ森林の様に鬱葱(うっそう)(まで)はしていないが、日光が森の中まで届いており、明るく照らし出された綺麗な緑が視界に広がっていた。

 道は見晴らしの良い森の中へと続いており、森を抜けた更に先を進めば、王都アラムディストへ到着する一本道だ。

 賢者一行の馬車はそのまま名称の無い森を進み、岩石の魔獣もその後に続き森の中へと足を踏み入れた。

 見慣れた平野の風景から一変して見晴らしの良い森の風景になり、岩石の魔獣は何か目新しい事はないかと辺りをキョロキョロと見回しながら歩き続ける。

 ポフォナ森林とは違い、日の光が森の中全体を照らし出している為、背の高い樹々とその枝に無数に付いている()()や地面に生えている植物が光を反射して、鮮やかな緑が森の中を美しく彩っていた。

(やっぱり自然は良いものだなぁ)

 岩石の魔獣はのほほんとしながら、美しい自然が広がる森の風景を目の保養として堪能していた。

 森の中を進んでいた馬車が途中で止まり、それに気付いた岩石の魔獣も歩みを止めた。

 何だろう? 如何(どう)したんだろう? と岩石の魔獣は疑問を浮かべた。

 そして馬車から老魔導師とシャラナと侍女(メイド)が降りてきた。

(一時的な休息かな? にしてもちょっと早いような……)

 確かに太陽は青空に高く昇ってはいるが、未だ正午の時間でもない。その事を踏まえて、岩石の魔獣は彼等が此処(ここ)で止まる理由を考察する。

(周囲には強い魔力を持った生き物は居ないし、この森に何かあるのかなぁ?)

 岩石の魔獣は特殊技能(スキル)〈魔力感知〉で周囲を探っては見たものの、特に何も反応は無かった。近くに何かが居る気配も全く感じない。

 答えが分からないまま考察を続けていた最中、岩石の魔獣の疑問に答えてくれる様に老魔導師が口を開いた。

「さて、折角じゃからこの辺りで素材でも採取しに行こうかのう」

(お! 素材とな!)

 老魔導師の素材という言葉に、岩石の魔獣は喰い付く。

 前世には無い、空想の絵に描いた様な様々な薬草や鉱石等を思い浮かべながら好奇心を(うず)かせた。

「お前さんも一緒に来んか? 折角じゃから」

 老魔導師は岩石の魔獣を誘おうと手招きをした。

「ンンン~!」(行く行く~!)

 岩石の魔獣は素材採取のお誘いに即答する様に声を発した。

 引いていた荷車をその場に放置し、老魔導師達の下へと近付いて行った。

「では、留守と見張りは頼むぞ」

「分かりました。御気を付けて」

 老魔導師は騎士に留守と見張りを頼み、一本道を外れて森の中へと足を踏み入れて行った。


 森の中に生い茂る雑草を踏み締めながら散策し、何か手頃な素材は生えていないだろうかと老魔導師達は辺りを見回していた。

 岩石の魔獣は彼等が如何(どう)いう形の、どんな素材を探しているのかは分からなかった。

 (いま)だ、この世界のあらゆる知識については(ほとん)ど知らない事ばかりであり、昨日は老魔導師の魔法講義である程度の魔法に関する知識は得たものの、それはこの異世界に存在する全てのほんの一部に過ぎないのだ。

 特殊技能(スキル)に関しても自分の保有している特殊技能(スキル)以外は未だ知らず、魔法だって昨日の講義で全てを知った訳ではない。

 そして今回採取する素材についても、何1つ知識が無いのだ。

 なので、見付かるまでは完全に人任せなのだった。

 だが、見付けてその素材の名前と形さえ憶えてしまえば、一緒に探す事は出来る様になるだろう。

 だから今は森の風景を見回しながら、老魔導師達の後に続いた。

「あ! ()った!」

 何かを見付けたシャラナが声を上げ、その視線の方向へと歩いて行った。

 どんな物を見付けたのだろうと岩石の魔獣は期待を膨らまし、シャラナの後を追った。老魔導師と侍女(メイド)も続く様にシャラナの方へと向かった。

 1本の樹の近くに生えていた何かを摘み取り、シャラナは振り返り手に持った物を見せた。

「〝マナルディマッシュ〟がありました!」

 目にしたそれは、見た目通り(キノコ)の類だった。

 大きさは丁度良い(てのひら)サイズであり、傘部分も大きめで丸みを帯びた綺麗な形をしていた。青色を若干薄めた色彩をしており、その上から何やら不思議な模様が描かれた様な白色の細い線が(キノコ)の傘全体を彩っている様だった。

(わぁ! 随分と綺麗な色をした(キノコ)だなぁ!)

 前世には無い初めて見る異世界の(キノコ)を、岩石の魔獣は興味と好奇心で輝かせた目でまじまじと見た。まるで子供が宝物を見付けたかの様な心境に。

「ほう、この森に生えているのは珍しいのう。丁度、魔力回復薬(マナ・ポーション)の数が減っていた所じゃから、他の所にも無いか探して見るかの」

 老魔導師はシャラナからマナルディマッシュと言う(キノコ)を受け取り、そのまま空間魔法で開いた亜空間に仕舞い込む。

 そして再び3人は素材を探しながら辺りを見渡していた。

(あの(キノコ)ってポーションの材料になるのかぁ。ん? ポーションって魔法薬の事だよね? これは良い事聞いたぞ! 色も形も名称も憶えた! よーし、僕も探すぞー!)

 やっと岩石の魔獣も素材探しに参加する事が出来る様になり、地面を見渡しながら記憶したばかりの(キノコ)――――マナルディマッシュを探し始めた。

何処(どこ)かな~? 何処かな~?)

 素材探しをしている岩石の魔獣こと白石大地は、まるで知らない場所へ探険しに行く子供の様な心境になっていた。未知の異世界での冒険が楽しくてワクワク感が止まらなかった。

 前世での何も無い干からびた荒れた平野暮らしで、遠い山に出向いて僅かな木の実を集めに行ってたひもじい人生には、良し悪しの刺激すら無かった。そんな前世での人生と比べれば、何か面白い出来事を探す楽しい刺激がある今は、とても幸せだった。

 岩石の魔獣は老魔導師達から少し離れた場所を探し、そこまで時間が掛からず記憶したての(キノコ)を直ぐに発見する事が出来た。

(おっ! 見っけた!)

 別の樹の側に生えていたマナルディマッシュを視認し、手を伸ばしそのまま摘み取ろうとしたが、途中で手を止め、岩石の魔獣はある良い事を閃いた。

(そうだ! 1つや2つだけじゃ少ないし、特殊技能(スキル)で増やして採取しちゃおう! よーし、沢山増やして沢山採るぞ~!)

 岩石の魔獣は早速マナルディマッシュに向けて、特殊技能(スキル)〈栄養素譲渡〉を発動した。

 特殊技能(スキル)発動の瞬間、岩石の魔獣の身体が緑色に近い明るい緑の光に包まれた直後、マナルディマッシュも明るい緑の光に包まれた。

 そして、栄養素を与えられたマナルディマッシュはいきなり青白く輝く胞子を噴出し、辺りに散蒔(ばらま)く。大地に付着したマナルディマッシュの胞子達は直ぐに大地に根を張り、ほんの数秒で多量のマナルディマッシュがムクムクと膨らむ様に生え、立派な(キノコ)へと成長し、また胞子をばら蒔く為に噴出し、大地に付着させ次々と新たなマナルディマッシュが生えていった。

(豊作~っ!)

 岩石の魔獣は次々と生やした大量のマナルディマッシュを、気の済むまで採取し続けた。


(うん、うん。大量、大量)

 岩石の魔獣は大量のマナルディマッシュを腕の中に抱え込み、満足そうに頷いた。

 そんな時、後ろから雑草を踏み締めながら近付いて来る足音が聞こえて来た。

「如何? 何か見付けた?」

 女性の声を耳にし、近付いて来た足音が誰のかが判明した。

 シャラナだ。

 後ろから岩石の魔獣の顔を(うかが)う様に覗き込んで来ていた。

 丁度良いと思い、岩石の魔獣は身体をシャラナの方へと向き合った。

(見て見て~、沢山採れたよ~)

 大量に抱え込んだマナルディマッシュを、目の前に居るシャラナに堂々と見せた。

 岩石の魔獣の大量に抱え込んだマナルディマッシュを見て、シャラナは呆然の表情を浮かべた。そして直ぐにその表情は、驚愕の色へと一変するのだった。

「え……ええ!? 何、この量!? いったい何処(どこ)で見付けたの!?」

 シャラナの驚愕の反応は無理もない。

 たった数分程度で大量の素材(キノコ)を集めていれば誰でも驚く筈だ。

 (むし)ろ、不自然にさえ感じるだろう。

「おや、如何したシャラナよ。何かあったか………のっ!? な、なぬぅっ?!」

 シャラナの驚く声を聞き、様子を見に来た老魔導師と侍女(メイド)も、岩石の魔獣が大量に抱えているマナルディマッシュを見てシャラナと同じ様に驚愕の反応をするのだった。

「こ…こんな大量に採れたのか!? ……いや、妙じゃな。こんな普通の森にこれ程まで大量に生えているのは有り得んぞ。この森は魔素の溜まり場など無い筈。何処からか魔力を吸い上げて育っておったのか? だとしても、いったい何が原因で……」

 何やら老魔導師は大量のマナルディマッシュを見て明らかに不自然だと感じ、マナルディマッシュに関する知識を掘り下げながら考察を無意識にブツブツと喋り出していた。

(ん? この(キノコ)って其処(そこ)ら辺に生えてる様な素材じゃないのか? お爺ちゃん随分と深く考えてるみたいだけど、何か育つ為の特殊な条件があるのかな?)

 岩石の魔獣はマナルディマッシュが魔法薬(ポーション)の材料になる事は学んだが、マナルディマッシュの性質というものを未だ知らなかった。

 性質を知ってる老魔導師から見れば、この森で大量に採れる事が異常だと(とら)えていた様だ。

 しかし、老魔導師は深く考察するも結局謎の(まま)で解明出来ず、大量のマナルディマッシュを空間魔法で仕舞い込み、再び森の散策を開始したのだった。

 また大量にマナルディマッシュを持って来た時には、老魔導師は驚愕を通り越して呆然とした表情と為ってしまうのだった。


 そして今度は何故か、岩石の魔獣の後を付いて来る様に老魔導師達は少しだけ離れた距離から観察をするのだった。

 隠れている訳ではなかった。

 特に老魔導師の視線はちょっとした行動も見逃すまいと、翠玉(エメラルド)の様な緑色の瞳をギラリと光らせていた。

 だが、岩石の魔獣は気にもせず、暢気(のんき)に森の中の見回しながら素材探しに夢中だった。

「あの…先生。もしかしてあのマナルディマッシュは……」

「うむ……(わし)も同じ事を考えておる」

 シャラナは頭の中に浮かんだ不確かな予想を問い掛けようとするが、途中で言葉を止めてしまう。だが、賢者エルガルムもシャラナと同じ不確かな予想をしていた。

彼奴(あやつ)が何かをしたとしか考えられん」

「…ですよね」

 マナルディマッシュに限らず、基本的に根を張った所から栄養を吸って成長する性質は、大抵の植物と共通する。しかし、マナルディマッシュの場合は単純に栄養だけでなく、特定の場所の空気中や大地の中に流れ漂う魔素と言われる残留魔力を少しずつ吸って取り込み、自身の身体に魔素を蓄えるという性質を持った(キノコ)である。その蓄えられた魔素が、魔導師御用達(ごようたし)の魔力回復薬――――マナ・ポーションの材料として使われているのだ。

 しかし、大量に増える為には栄養素だけではなく、多くの魔素を取り込まなければ胞子が出来ず、数を増やす事が困難になる為、魔素の溜まり場以外では余り増える事は無いのが普通だ。

 だが、岩石の魔獣が採って来た大量のマナルディマッシュと魔素溜まりすら無いこの森という2つの点から、明らかに不自然かつ可笑(おか)しいと結論が出る。大量に増えるにしても、魔素の濃度が薄ければ胞子を増やす為の魔素は充分に蓄えられない為、時間がかなり掛かってしまう。なので魔素溜まり以外でマナルディマッシュの群生地は出来ないのが一般常識だ。

 そんな一般常識を()ち破る様な数を持って来た岩石の魔獣に、何か原因が在るに違いないと、賢者エルガルムは視界に捉えている謎に満ちた存在の挙動を見逃さない様に観察をし続けた。

 暫くは、岩石の魔獣の後を付いて行く様に賢者エルガルム達は散策し続けた。

 ピタリと岩石の魔獣が歩みを止めた事に気付き、賢者エルガルム達も脚を止めた。

 岩石の魔獣の視線の先が気になり、賢者エルガルムは近付き、岩石の魔獣の視線の先を見た。

 目線の先には1輪の花が咲いていた。

 花弁(かべん)はまるで雪の様に白く、鬱金香(チューリップ)より少し花弁が開いており、白い花弁の上から細く青い線が美しい模様を彩っていた。少し開けた辺りで太陽の光を受け、白色の花弁が輝くかの様に美しく咲いていた。

 岩石の魔獣はその花に見惚(みと)れている時、賢者エルガルムは白い花の名を口にした。

「ほう、〝月光花(げっこうか)〟か。こりゃまた、この森では珍しいのう」

 岩石の魔獣は白い花の名称を聞き、老魔導師の方へ顔を向けた。

(げっこうか? 月光の花?)

 岩石の魔獣が首を傾げ、月光花の疑問に答える様に後から来たシャラナが話してくれた。

「確か暗い所で、大気や大地の魔素を吸って蓄えた魔素を花弁全体に廻らせて発光する花ですよね。でも、本当に珍しいですね。こんな森の中に咲いているなんて」

「そうじゃな。本来なら魔素の濃い場所に咲く筈の花なのじゃが、相当な時間を掛けてこの場所に咲いたのじゃろうなぁ」

 シャラナと老魔導師の話を聞き、岩石の魔獣はぽつんと咲いている月光花という花が、この森では珍しいという事に理解した。

 月光花はマナルディマッシュと同様に、大気や大地に流れ漂う魔素を吸い上げ蓄えながら成長する花で、闇夜になると蓄えた魔素を発光させる性質へと変え、月光の様な優しい光を灯す事から〝月光花〟と名称されたそうだ。

 その性質を利用する為に魔導師、特に錬金術師が単純な明かり代わりだけでなく、様々な消耗品マジックアイテム製作の素材として、特別な正規の手順で月光花の魔素を抽出して研究材料としてストックされる素材ではあるが、そう易々と手に入る素材ではない貴重な花でもある。

「1輪だけでも綺麗な光ですけど、沢山咲いている場所ではとても幻想的な光景であると本で読んだ事があります。何時かは見てみたいなぁ…」

「そうじゃな。儂も今迄(いままで)の人生の中で群生地を見たのは1度だけしかない。初めてその光景を見た時の感動は、今でも忘れられんのう」

 岩石の魔獣はシャラナと老魔導師の話を聞き、そんな美しい光景を自分も見てみたいと1輪の月光花をもう一度見た。

(そっかぁ…この花ってそんなに綺麗な光を放つのかぁ。夜に光る月光花のお花畑の光景………どんな光景なんだろう)

 岩石の魔獣は想像した。

 月光花が夜に光るその姿を―――。

 月光花が一面を埋め尽くす程のお花畑を―――。

 そして、闇夜に光り優しく輝く月光花のお花畑を―――。

 見てみたい。

 そんな美しい幻想的な自然の光景を。

 そこで岩石の魔獣は、またさっきと同じ様に閃いた。

(増やしちゃおう! 何なら幾つか摘んで別の場所でお花畑を作っちゃうのも良いな! よ~し! そうと決まれば早速…)

 岩石の魔獣は、意識を目の前に咲いている月光花に向けて特殊技能(スキル)を発動させた。

特殊技能(スキル)〈栄養素譲渡〉!)

 特殊技能(スキル)の発動と同時に、岩石の魔獣は明るい緑の光に包まれた。

 その場に居た賢者エルガルム達は初めて見る光景に目を見開き、驚愕する。

「な、何じゃ、この光は? いったい何を――――」

 賢者エルガルムが言葉を言い切り掛けた時に、岩石の魔獣の前に咲いている月光花も同じ光に包まれた。

 明るい緑色の光に包まれた直後、月光花は花弁を収縮させる様に(つぼみ)の形に変えながら、(うつむ)く様に地面に垂れると、中から小さな種が幾つも出てきて、そのまま地面に散蒔(ばらま)かれながら落ちていった。

 月光花から出て来た種子は僅かながら青白い光を輝かせ、まるで小粒の青い宝石の様に見えた。

 そして地面に落ちた月光花の種子も明るい緑色の光に包まれた直後に、発芽には数日は待つ必要があるのにも関わらず、直ぐに芽が出て地面に根を張り、発芽から一気に成長し、僅か5秒程であっという間に美しい月光花が咲いたのだ。

 賢者エルガルム達は神秘の現象に、目を大きく見開き驚愕し続ける。

 しかし、これだけでは終わらなかった。

 新しく咲いた月光花にも光が包まれ、先程の月光花と同じ様に花弁を(すぼ)ませ地面に俯き、小粒の青い宝石の様な種を地面に落とし、落とされた種も光に包まれ、直ぐに発芽し、同時に根を張り、一気に成長し、花を咲かせ、また新しく咲いた月光花が種を蒔き、種は直ぐに発芽し、一気に成長し、花を咲かせる。

 何度も、何度も、何度も、花が咲き、種が蒔かれ、それ等の一連が繰り返される毎に、次々と月光花は増えていく。

 シャラナとライファは奇跡と言える神秘の現象の光景に感動し、見惚れてしまっていた。

 しかし、賢者エルガルムはその現象を見て驚嘆――――いや、驚きという面では間違い無いが、感動という色は余り混じっていなかった。

 それは今迄に無い衝撃を受けた様子だった。

 そんな彼は、記憶の中に(もや)の掛かった知識――――ある古の歴史に一筋の光が差し込み、一部の靄が掃われた。

 確信とは程遠い理解、目の前の存在の正体が何なのか僅かばかり掴んだ。

「まさか……そんな……。確かに上位(クラス)の自然系統には、大地の栄養素を回復させ実りを促進させる魔法は在る……。じゃがこれは特殊技能(スキル)……この様な現象を起こせる存在は……いや、未だ確信としては足りん。しかし、これはまるで……」

 しかし、岩石の魔獣の正体をとある古の歴史に結び付けられなかった。歴史に関する記憶のほんの一部だけでは、確信する為の材料としては余りにも少な過ぎる。完全な確信を得る為には、(いま)だに掛かっている靄を全て払わなければならない。

 そんな深い考察に囚われる様にブツブツと独り言を口にしている賢者エルガルムに、シャラナは深い考察から引き戻す様に声を掛けた。

「せ…先生? 如何したんですか?」

 シャラナの声で賢者エルガルムは我に返った。

 そして我に返った後に、その顔は賢者の威厳を持った真剣な表情が(あらわ)に為っていた。

「如何やら、儂も魔導学院に用が出来た様じゃ」

「え? 如何いう事ですか?」

「正確には魔導学院図書館にじゃ。ちょいと古の歴史を調べねばならなくなった」

 ほんの僅かな光の一筋から調べ、徐々にその先を辿って行けば確信を得られる筈。賢者エルガルムはそう考え、願ってさえしてしまった。

「儂等は想像を遥かに超えた、奇跡とも言える存在に出会ってしまったのかも知れんぞ」

 賢者エルガルムはそう呟き、予想を胸に秘める様に抱いた。

 

 目の前に存在する者が、遥か古に存在したとされる〝神話の存在〟なのではないかと―――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ