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賢者達との旅路5-1

 人工物が一切見当たらない大自然の景色。

 見渡す限りに広がる()(しげ)る背の短い芝生(しばふ)

 所々に転がり鎮座(ちんざ)している岩。

 そして一本道の途中に生えている樹々は、まるで旅人の休憩所の様な存在として見えてくる。


 ラフォノ平野。

 フォラール大草原に次ぐ広大な大自然の平野は、今日も透き通る青空に天高く昇った太陽が世界を照らし、美しい自然の光景を輝かせる。春の微風(そよかぜ)も、草木や大地を優しく()でる様に時折吹いていた。

 そんな広大な平野の一本道を進む一行(いっこう)が居た。

 その一行は2台の荷車と思われる物が一列に並び進んでいた。

 先頭を進んでいるのは馬車であり、2頭の馬が引きながら歩いていた。

 その馬車は豪華とまではいかないが、立派な作りをしており、一般の馬車よりも頑丈に作られ、耐久面にも優れた一品と言える代物だ。

 そして先頭の馬車に続く様に進んでいるのは、頑丈の鉄の(おり)を設置し固定された大きな荷車だ。

 檻の中にはつい先程捕縛した野盗11人が入っており、その荷車を引っ張っているのは岩石の魔獣だ。

 馬2頭でも重い荷車を、岩石の魔獣は片手で軽々と容易に引っ張っていた。

 歩く速度も先頭の馬車に合わせた速度で苦労も無く付いて行っていた。

 先頭の馬車の中には賢者エルガルム・ボーダムと、賢者エルガルムの弟子にしてフォルレス侯爵家の貴族令嬢シャラナ・コルナ・フォルレスに、シャラナの専属侍女(メイド)にして暗殺者としての戦闘技術を持つ護衛でもあるライファ・ベラヌが乗っている。そして外の御者台(ぎょしゃだい)には護衛騎士が馬の手綱(たずな)を握っていた。

 彼等と岩石の魔獣は目的地――――王都アラムディストに向かっている最中であった。

 正確には、岩石の魔獣を除く4人は王都アラムディストに帰る為に向かっていると言った方が正しいだろう。

 何故(なぜ)なら、シャラナの住んでいる場所は王都アラムディスト内にある屋敷なのだ。勿論、専属侍女(メイド)のライファと外に居る護衛騎士もフォルレス侯爵家に仕える者なので、シャラナと一緒に帰宅しているという事だ。

 賢者エルガルムの場合は転移魔法が使えるので何時(いつ)でも自分が密かに造った隠れ家に帰還する事が出来るが、大抵は野宿が多く、王都等では宿に泊まるといった事が彼の一般生活の一部でもあるのだ。しかし、賢者というだけあって、王都アラムディストでは王城に寝泊りする事もある。王城の近衛兵や騎士だけでなく、使用人どころか、ラウツファンディル王国を治める国王ですらも賢者エルガルムに口出しする事はしないのだ。


 岩石の魔獣を含む賢者エルガルム一行は、ひたすら王都アラムディストに続く一本道を辿り進み続ける。


 馬車内に設置されているマジックアイテムによって作られた快適空間の中に居る3人は、とある談義をしていた。

「やはり、彼奴(あやつ)は少なくとも魔獣の部類では無いと(わし)は思う」

 話題は当然、岩石の魔獣についてだ。

「魔獣の部類では無いのでしたら、どの部類になるのですか? 先生」

 シャラナも岩石の魔獣に対して興味を持ち、賢者エルガルムに質問を問う。

「正確な所は判らんが、妖精獣…いや、精霊獣の可能性が高いと儂は思う」

「精霊獣ですか? 万物の根源にして超自然の力が獣の姿として具象した、あの?」

「うむ。精霊獣は大精霊が治める森や湖といった人が居ない特定の自然界に住まい、基本的に訪れた人の前には現れない高位の存在じゃ。そして全ての妖精・精霊に属する種は己が持つ属性を含む幾種の魔法を行使する事の出来る特別な精神生命体と言える。まぁ、魔法の強さはピンキリじゃがの」

「それですと、あの岩石の生き物は精霊獣の可能性は低いのではないですか? 魔力は恐ろしい程に強大ですが、精神生命体の様な身体には見えないです」

「まぁ確かにのう、その意見も入れれば妖精獣に当て嵌めるじゃろう。じゃが世界は広い。例外というものも存在する。彼奴が良い例じゃ。精霊獣の生態とは当て嵌まらないのもそうじゃが、魔獣の基本的な生態としても当て嵌まらんからのう。妖精すら出没しない場所に居た所か、自ら人と友好的に交流する魔獣や精霊獣など前代未聞じゃ!」

 賢者エルガルムは、とても気分良く岩石の魔獣の例外的な点を語る。

 そんな岩石の魔獣の疑問内容に侍女(メイド)のライファが疑問を投じた。

「私の記憶では確か、元素霊(エレメント)で構成された肉体的な実体を持たない生命体であると聞いた事があります。しかし、あの不思議な生命体動像(ゴーレム)の身体は如何見ても岩石という肉体を持っており、元素霊(エレメント)で構成された身体にはとても見えません。そんなあの生き物をエルガルム様は如何見ますか?」

「うむ、確かに御主の言う通りじゃ。精霊獣の身体は基本自然的な力で構成された星幽(アストラル)体じゃからな。魔物にも非実態の存在は居るがのう」

「非実態の魔物といえば、不死者(アンデッド)に属する〝死霊(レイス)〟ですよね」

「うむ。それの上位種、ガラバディーナ大砂漠に居る砂漠の死霊(デザート・レイス)なんじゃが、あれは非実態でありながら砂漠の砂を(まと)う。砂は触れられるが本体には物理的に触れない、実体が在って無い様な身体。彼奴は少しそれに近い身体の構造かもしれん」

「えっと……非実体な身体に岩石を纏わせているって事ですか?」

「まぁ死霊系より、土や石の精霊の方が近いじゃろう。じゃが、これはあくまで仮説じゃ」

「では先生、()()()は妖精獣の可能性も在るという事でしょうか?」

 シャラナの言うあの子とは、一緒に付いて来ている岩石の魔獣の事だ。

 岩石の魔獣に対してあの子と呼ぶシャラナは、随分と心を許していた様子だった。

「ふむ……其方の可能性も充分有り得る。じゃが個人的には精霊の類に思えるがのう。例えば〝鉱物に宿る下位精霊レッサー・ミネラルマター・ヌーメン〟じゃったな」

「レッサー・ミネラルマター・ヌーメン…? いったいどんな精霊なんですか?」

 シャラナは初めて聞いた精霊種の名に、賢者エルガルムに質問をした。

「レッサー・ミネラルマター・ヌーメンとは、何処(どこ)かの岩石に宿る下位(クラス)の鉱物精霊じゃ。宿った岩石の形を自在に変え、更には攻撃力と防御力を常時強化状態にする特殊技能(スキル)も有しておる。特殊技能(スキル)を覗いては岩石の動像(ストーンゴーレム)と大体似とる奴じゃ」

「似ている……とは如何いう事でしょうか? エルガルム様」

 ライファも初めて聞く精霊の生態に、首を傾げながら疑問を投じた。

岩石に宿る下位精霊レッサー・ミネラルマター・ヌーメンには〈下位鉱物憑依変形かいこうぶつひょういへんけい〉という特殊技能(スキル)を保有しとるんじゃ。宿った岩石の質量を部分的にも全体的にも自在に大きくし、自在に形を変える事が出来るのじゃよ」

「その特殊技能(スキル)の効力は、何処まで大きく為れるのですか?」

「それに関しては個体差によるのじゃが、上位個体であれば小さな村1つは潰せる程の大きさに為る奴も存在する」

「うわぁ…村1つ…」

 鉱物に宿る下位精霊レッサー・ミネラルマター・ヌーメンの脅威を知り、シャラナは内心を少し恐怖で凍らせた。

「更に鉱物に宿る精霊レッサー・ミネラルマター・ヌーメンの上位種である鉱物に宿る中位精霊ミドル・ミネラルマター・ヌーメン鉱物に宿る上級精霊グレーター・ミネラルマター・ヌーメンも居っての、この2体は〝生きる宝〟とも言われておるが、精霊じゃから滅多に姿を現さない上に、中々発見出来ん希少(レア)な存在じゃ」

「その希少な2体を上手く倒せば、武具の貴金属素材や宝石が手に入りますね」

 ライファは冷静な表情を保ったまま、鉱物に宿る中位精霊ミドル・ミネラルマター・ヌーメン鉱物に宿る上級精霊グレーター・ミネラルマター・ヌーメンの価値観を理解し答えた。

「その通りじゃ。まぁ、もし遭遇(そうぐう)出来たとしても、最低A等級(ランク)の力量が無ければ返り討ちに遭うだけじゃがな。何より、宿っている金属と宝石の種類によって更に強さが変わってくる存在でもある。より貴重かつ希少な金属や宝石になる程、強さが増すと考えてよい」

「そうなんですか。では、その媒体と成っている身体を倒したら、宿っている精霊は如何なるのですか?」

「核と成っている精霊本体を倒せば、宿っている精霊は元素霊(エレメント)と成って消滅するだけじゃよ」

「という事は、あの不思議生命体動像(ゴーレム)はそれに似た違う生態をした精霊獣の可能性がある、と予想をしているという事でしょうか? エルガルム様」

「そうじゃ! それ等の考察から精霊獣の可能性が高いと導き出せる!」

 賢者エルガルムは少し興奮気味に、ライファの口にした可能性を肯定した。しかし、直ぐに冷静さを取り戻し真剣な表情を浮かべながら続きを語り始める。

「しかし、本当にその可能性が在るのかが、正直ピンと来んのじゃ」

如何(どう)いう事ですか…?」

 シャラナは賢者エルガルムの真剣な顔で悩む様子にを見て、その理由を聞き出そうと質問した。

「儂の持つ特殊技能(スキル)――――〈鑑定(かんてい)魔眼(まがん)〉で彼奴を見ても、何もかもが不明としか出てこなかったのじゃ」

「えっ…!?」

 賢者エルガルムの言葉に、シャラナだけでなくライファまでもが驚愕(きょうがく)の声を上げた。


 特殊技能(スキル)〈鑑定の魔眼〉。

 この特殊技能(スキル)はとても希少で、誰もが簡単に習得する事が出来ない最上位特殊技能(スキル)の1つである。

 しかしこの特殊技能(スキル)以前に〈鑑定(アプレイザル)〉と言う低位(クラス)魔法が存在すが、〈鑑定の魔眼〉とは違い、鑑定対象は1つにしか絞れない為、幾多の物を鑑定する度に一々(いちいち)魔力を消費して発動しなければならない。

 しかしこの魔法〈鑑定(アプレイザル)〉は、特殊技能(スキル)〈鑑定の魔眼〉を習得する為に幾つも在る条件の中で絶対必要不可欠な要素である。

 習得条件は()ず最低限は自身が魔導師系職業(クラス)を修めている事、平たく言えば魔法を扱える事が条件の1つである。これは非常に当たり前の事だ。だが扱えれば良いという単純な条件ではない。

 たった1つの系統魔法に限らず、幾種の系統魔法を習得し、更には自身の魔法に関する知識の習得や魔法技術の熟練度(レベル)といったものを学び、努力し、そして向上させ、より高みを目指し強化しなければならないのだ。

 知識に関しては魔法だけでなく、亜人種、魔獣種・妖精種・精霊種などに関する生態、薬草や樹木、鉱石や原石、魔物などから採れる様々な素材といった知識を知らなければならない。

 因みに、それに関しては〈鑑定(アプレイザル)〉で得る方法でも問題は無い。一見狡い方法かもしれないが、要は知識を身に付ければ良いのだ。

 そして扱う魔法に関しては最低限、上位(クラス)魔法を扱える事が出来る水準(レベル)である事。そして魔法に関する幾つもの特殊技術(スキル)を保有しているかで決まっていくのだ。

 その過程で様々な職業(クラス)を修める事により、修めた職業(クラス)に応じた特殊技術(スキル)を習得する事が可能になる。

 そして魔導師系の最上位職業(クラス)を修めた者だけが習得する事が可能になる特殊技能(スキル)〈鑑定の魔眼〉の効果は、対象物に目を向けて発動する事で、瞬時に頭の中に対象物の詳細な情報が流れ込む。物であればその物の名称と効果、そして用途等が解り、人や魔物等の生き物に対しては名前は勿論の事、種族や等級(ランク)付けによる強さを測れたり、相手の保有する特殊技術(スキル)や扱う系統魔法を知る事が出来る、魔力の消費を余り必要としない魔眼系特殊技能(スキル)

 まさに、最上位に相応しい特殊技能(スキル)である。


 (ゆえ)に、この特殊技能(スキル)を有するエルガルムだからこそ〝賢者〟と呼ばれる所以(ゆえん)なのだ。

 だが、賢者エルガルムの保有する〈鑑定の魔眼〉は、岩石の魔獣の詳細が不明と、全く解らないという判定が出てしまったのだ。

 シャラナとライファが驚愕した理由がまさにそれだった。

 賢者エルガルムですら、この様な〈鑑定の魔眼〉による結果は初めての経験だった。

「名称も解らん。保有する特殊技能(スキル)も不明。魔獣なのか妖精獣か、それとも精霊獣なのかも不明。扱える魔法は野盗との戦闘で使った土系統魔法と水系統魔法は見て解ったが、それ以外の系統は扱えるか如何かも不明。そして等級(ランク)すら不明。ほぼ未知数の存在じゃ」

「そんな……! 等級(ランク)まで不明なのですか…!」

「不明じゃ。しかし、等級(ランク)が不明という情報から最低限の強さが確定しとる」

「確定とは…それはいったい如何いう事ですか?」

 シャラナは賢者エルガルムの言っている事が理解が出来ず、頭の中が混乱したまま質問を投じた。

「よいか、儂の持つ特殊技能(スキル)〈鑑定の魔眼〉はA等級(ランク)全てと一部のS等級(ランク)までの対象の詳細を全て知る事が出来る。じゃが、より強力なS等級(ランク)になると詳細を完全に知る事が出来ないのじゃ。種族の部類や名称は解るが、保有する特殊技能(スキル)が判明出来ず、逆に特殊技能(スキル)が解るが扱う系統魔法が全く解らないといった感じでのう」

 賢者エルガルムはS等級(ランク)を対象に特殊技能(スキル)〈鑑定の魔眼〉を発動した時の一例を説明し、一息吐いてから再び語り続ける。

「じゃが、彼奴だけは全ての詳細が不明と出たときた! つまり、最低でもS等級(ランク)の強さを秘めている事が判明したという訳じゃ!」

「あの子が……、S等級(ランク)…!」

 シャラナは驚愕の事実に言葉を失った。

 そして改めて理解した。

 一緒に旅をする岩石の魔獣は、想像の付かないとんでもない未知の存在であると。

「…………」

「如何したの? ライファ」

 何かを考えていたライファに、シャラナは声を掛けた。

「あ、いえ。何だかしっくり来ないといいますか……」

「しっくり来ないって何が?」

「その……あの不思議生命体動像(ゴーレム)がS等級(ランク)とは思えなくて。威厳が全く無い雰囲気なものですから……」

 シャラナはその言葉にきょとんとした表情を浮かべた。

 賢者エルガルムはライファの言葉を聞き、真剣な表情が穏やかな微笑(ほほえ)みに変わり、笑い声を発した。

「ホッホッホッホッ! 確かにそうじゃのう! あんなにも穏やかで温厚そうな雰囲気を(かも)し出しとるのじゃから、しっくり来んのも無理もないのう! 本当に彼奴は不思議な奴じゃ。もし言葉が話せれば、時間の許す限り色々と語り合ってみたいものじゃ」

 馬車の中は穏やかな空気に変わり、笑い声が(わず)かだが外に漏れた。

「ふふっ。確かにそうですね。あの子は不思議と怖く感じませんね。何故か親しみ易いし」

 シャラナは遭遇した岩石の魔獣の、何とも言えない愛嬌のある仕草を思い出しながら笑ってしまった。

 岩石の魔獣の圧倒的強者の片鱗とのギャップは、不思議と心を穏やかにしてくれる様な不思議な魅力があった。そして、安心してしまうのほほんとした緩い雰囲気を醸し出している変な存在だった。

「何より、儂等の味方に為ってくれてるのじゃから心配は無い。不明な詳細は、一緒に居れば色々と発見出来るじゃろうて。じゃから今は彼奴との滅多に無い幸運の出会いに感謝すべき所じゃな!」

 賢者エルガルムはより一層、賢者としての探究心が(たかぶ)り溢れ出していた。

「あの~……」

「ん? どうした、シャラナ」

「やっぱり、あの子、王都に入れるんですか?」

「何が何でも入れるとも!」

「えぇええっ! 本気ですか!?」

 岩石の魔獣を王都アラムディストに入れようとする賢者エルガルムに対して、シャラナは驚愕と困惑が交差し頭を抱えてしまった。それも当然、魔獣をわざわざ王都内に入れるという狂人めいた事を目の前に居る賢者はやろうとしているのだから。

 たとえシャラナでなくとも、誰でも驚愕と困惑が交差し頭を抱えるに違いないだろう。

「入る前に絶対止められますよ!」

「儂の名の下に入れる! 強引に!」

「強引にって、入れたとしても他の貴族達があの子を出しに難癖(なんくせ)付けて来る可能性も…!」

()じ伏せる! (ろく)に貴族としての功績を成してない上に義務すら果たさん私利私欲の強欲者共など、兵力や権力で無理矢理押し通って来るなら完膚(かんぷ)なき(まで)に潰してくれるわい!」

「こ、国王陛下の耳に入ったら如何するんですか!?」

「ん? 隠すつもりはないぞ。寧ろ紹介するぞ」

「えぇええええっ!!」

 シャラナは賢者エルガルムのとんでも発言に更に驚愕し困惑した。

 この人絶対にやる気だ、と頭の中で確信が浮かんだ。

 もう何を言っても止まらないだろう。

「……御父様(おとうさま)に何て説明すれば…」

 シャラナは頭を抱えながら王都に帰郷した後、いったい如何すれば良いのやらと深く悩み考え込んでしまった。


 そんな3人の会話の内容など、外で荷車を引きながら付いて行く岩石の魔獣は知る(よし)も無いまま、暢気(のんき)にラフォノ平野の景色を眺めながら歩み進めるのだった。

(今日も良い天気だなぁ~)

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