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毒沼の主25-5

 十字の残光が(またた)く間に消えた直後、毒沼の精霊ポイズンスワンプ・スピリットの身体は4つにばらける。

「ア……ガ……?!」

 断ち斬られた身体は急激に崩れ出し、(きら)めく無数の粒と成っていく。

「…ヤ……イヤ………!」

 消滅していく事によって伴っていた激痛が嘘の様に消え、同時に意識も薄れていく。

「…死ニ………た…ク………」

 そして意識が途切れ、命が潰えるのだった。


 毒沼の精霊ポイズンスワンプ・スピリットが完全に形を失った瞬間、強い発光現象を起こし出した無数の粒は急激に一ヵ所へと集束する。

(え!? 何々、何が起きてるの!?)

 ガイアは目にするその現象に驚く。

 煌めく粒が一点に吸い込まれる様に集まった後、美しい紫色の結晶体が形成された。その煌めきと透明度は、まるで紫水晶(アメジスト)を思わせる神秘的な結晶であった。

 そんな結晶体が形成された(わず)か後、不思議な浮遊の力をふと失ったかの様に落下し出す。

(あ! 落ちちゃう!)

 そのまま落ちてしまえば毒沼の中に、そしてそのまま底へと沈んでしまう。

 毒が効かないガイアは焦って毒沼へと入ろうと、脚を前へ動かそうとした。その直前、(ほの)かな光を発する糸状の魔力が矢の様に飛んで行くのを目にする。

 魔力の糸は生き物であるかの様に紫の結晶に絡み付き、その直後に引っ張られる。

「取った」

「ナイスキャッチ」

 そしてそれはミュフィの掌に収まり、ダムクは彼女を褒める。

 それを見たガイアはホッとし、僅かに浮き掛かった片脚を戻す。

「ミリスティ、周囲確認!」

 戦闘が完全に終わった後、ダムクはミリスティに魔物の存在が近くに居るか如何(どう)かの確認を()く。

「半径100メートル以内に気配は無いよぉ」

「良ーし! 全員御疲れ!」

 安全だと分かった全員は、張っていた緊張の糸を適度に緩めた。

「良く遣った、シャラナよ」

 エルガルムはシャラナの下へ歩み寄り、労いの言葉を送る。

「力任せに攻めず、天使への指示も良し。中位(クラス)の精霊ならば其処(そこ)まで問題無いじゃろう」

「はい。ですが、闘いを有利に運べたのはこの聖遺物具(レリックアイテム)が大きいかと。召喚した大天使の力や速度が随分違っていました。これは思った以上に強力な物です」

 シャラナは初めて使用した召喚の聖鈴ホーリーベル・オブ・サモンの性能の高さを実感し、これが無かったら召喚した大天使はそれなりに苦戦していた可能性が在っただろうと思った。

「そうじゃな、天使への能力強化性能は見た限り相当高かったのう。大天使であれじゃから、更に位階が上の天使は相当強力に成るのう」

 能力強化の有無は戦況の優劣に変化を(もたら)す要因の1つ。個人の能力値や敵の能力値にもよるが、何かしらの能力1つだけでも強化すれば劣勢を(くつがえ)す事だって在る。しかし、弱点といえる短所を()かれれば、それは無意味なものと化す事も必ず(ともな)う。

 しかし、全ての能力が強化されるとなれば違って来る。全てを強化するという事は、長所をより強くすると同時に幾つかの短所を補われる事だ。強化幅にもよるが、全能力強化は1つだけの能力強化よりもかなり得である。

 そして召喚の聖鈴ホーリーベル・オブ・サモンによる天使限定の強化効力は、別の強化魔法を上乗せする事が可能だ。全能力強化に加え、更に膂力(りょりょく)を強化するのも良し、魔力を更に強化するのも良し、天使の得意な戦闘方法に合わせて強化魔法を施せば非常に強力な護衛と成る。上乗せ強化をしなくても、強化魔法分の魔力を召喚魔法に回し、天使を多数呼び出すだけでも敵からすれば充分脅威である。

「今後は御主の判断で召喚するか否か決めると良い。その際は状況と戦力差を良く見極める様にの」

「はい、先生」

 (エルガルム)に言われた事をシャラナは肝に銘じ、召喚の聖鈴ホーリーベル・オブ・サモンをスッと仕舞い込んだ。

「はい、これ」

 其処にミュフィが歩み寄り、回収した紫色の結晶を差し出す。

貴女(あなた)が倒したから、これの所有権は貴女に有る」

 その様子を目にしていたガイアは、ミュフィが手にするそれを近くで観ようと近付く。

(おお…! 綺麗…)

 毒沼の精霊ポイズンスワンプ・スピリットの魔力が結晶化したそれはとても美しく、内に宿る紫色の光はゆっくりと流動している現象は神秘的である。中心からあらゆる方向へ突き出す様に形成された幾つもの六角柱状の結晶は加工せずとも、観賞用として飾りたいと貴族の誰もなら欲しがるであろう代物だ。そして当然それは、魔道具(マジックアイテム)の貴重な素材にもなる。素材の性質上、毒に関する物が作れるだろう。

 そんな神秘的な結晶――――毒沼の精霊石の美しさに、ガイアは見惚れたかの様にジッと観る。

 そんなガイアを他所(よそ)に、シャラナは少し考えた後、毒沼の精霊ポイズンスワンプ・スピリットの魔力結晶の価値を理解した上で如何するかを決めた。

「でしたら、これはベレトリクスさんに譲渡(じょうと)します」

「良いのか? 遠慮せず(うち)への土産(みやげ)にとかしても良いんだぜ。ダンジョンで毒沼の精霊ポイズンスワンプ・スピリットを倒したって土産話付きでさ」

 折角労して得た貴重な素材を譲渡してしまうのは勿体無いのではと、ダムクはシャラナに訊く。

「うーん…。それも良いかもしませんが、飾りにしてしまうのは素材の価値的に勿体無い気がして。だったら、この素材でしか作れない魔道具(マジックアイテム)を製作出来る職人の方に渡した方が生産的かと」

 シャラナは――――というより、フォルレス家は宝石や工芸品といった高額資産を大量に所有している訳では無いが、侯爵という爵位に相応しい多くの資産を有している。たった1つで金貨数千枚の物は数十程、宝物倉庫に仕舞い込んで厳重管理している。

 決して金銭感覚が狂っているとか無頓着という訳では無い。

「ほう、やはり御令嬢殿は他の貴族とは格別な心を御持ちだ」

 ヴォルベスはそんな彼女に感心する。

「そう……でしょうか?」

「そうだとも。少なくとも、大半の冒険者ならこういった金銭的価値が高い物は喉から手が出る程欲しがるものだ。良くも悪くも、生きる上で金は必要だからな。だが、俺達が是迄(これまで)見て来た貴族は俗物な奴が殆どでな、それもかなり欲深かった。あれは冒険者以上だ」

「俺達冒険者の中には貴族出の奴はそれなりに居るのはそう珍しくは無いんだが、その中で金銭面に関して強欲な奴が多いんだ。貴族としての自尊心(プライド)相俟(あいま)って、報酬とかの分配でよく面倒事を起こしたりするんだ。そんでそれを何度も続けた貴族は一党(パーティー)から追い出されたって話が結構在ったんだ」

(あ~、価値観の違いって奴? お金は沢山欲しい気持ちは解るけど、自分だけ多く得しようとして何度も一方的に騒がれちゃ、流石に迷惑だよねぇ)

 ヴォルベスとダムクが口にする貴族出の冒険者が起こす面倒事を聴いたガイアは、冒険者稼業ならではの苦労の1つを知った。

 人は皆同じでは無い。

 性別や種族は勿論の事だが、やはり性格と価値観の違いが互いの関係性を左右させる一番の要素なのだろうとガイアは思う。特に身分の違いがそれを促してしまっている所も在る。

「追い出された貴族は別の仲間に取り入ろうとする。だけど素行の悪さが広まってるから、何処(どこ)にも入れて貰えない。だから、ずっと単独(ソロ)で遣り続ける破目(はめ)に為る」

 ミュフィは少し呆れた表情をわざと作り、仲間への迷惑や独断専行をし続けた冒険者の末路を口にする。

 冒険者稼業をする中で複数人と組むとなれば、一党(パーティー)という機能を活かさなければならない。そして其処に仲間同士の良好な関係性が必要に為る。共に仕事をし、互いの命を預けるのだから。

 (ゆえ)一党(パーティー)の和を乱し続ける者は、遅かれ早かれ、弾かれるのが道理だ。1人のちょっとした無謀かつ勝手な行動で全員を危険に晒してしまう。そんな事を毎度されては堪ったものでは無い。

 金銭での報酬分配での意見衝突は珍しくは無いが、明らかに分配の偏りや差が大き過ぎれば手取りが少ない仲間は当然抗議し、多く貰った者は非難される。こういう状況での原因は分配を多く取った者に有り、3人に1人辺りの確立で一党(パーティー)代表(リーダー)がその原因を作っているそうだ。この問題に関しては身分問わずに在るが、貴族出の者の場合だと騒ぎになる程の抗論に発展する事が多く、最悪喧嘩まで勃発する事もあるそうだ。

「そりゃあ報酬は多く取りたい気持ちは誰だって有るけど、一党(パーティー)を続けたいなら其処は抑えないとねぇ」

(お姉さん、顔、あんまり説得力が無いよ)

 手にした毒沼の精霊石を見詰めるベレトリクスの表情はニヤけており、言ってる事と表情が一致していない事にガイアは心の中でツッコミを入れた。

「ま、そういうのは冒険者に限った話じゃないからねぇ。信用が悪ければ客は来ないし、信頼を何度も裏切れば良い仕事は貰えなくなる。他人すら気遣えない野蛮人なんて誰も相手したがらないからね」

 ベレトリクスはそんな事を言いながら毒沼の精霊石を目で堪能した後、それを〈収納空間(スペース・ストレージ)〉へと仕舞い込んだ。

「ベレトリクスの言う通りじゃ。シャラナよ、繋がりを持つべき相手とは信用を積み重ねて信頼を得なさい。良き繋がりは障害を打破する力にも成り得るものじゃからな」

(………何だろ。何か会社の縁故関係(コネクション)作りの話を聞いてるみたいだな)

 エルガルムの言葉をシャラナの傍で耳にするガイアはそう思う。

 冒険者は前世の世界で置き換えるならフリーターの様な存在だ。いや、フリーランサーの方が近いかもしれない。冒険者組合(ギルド)は派遣会社で、一党(パーティー)冒険者組合(ギルド)の依頼を請け負う子会社と言った所だろう。

「さて、話はこれくらいにして、倒した魔物を回収してしまおう。日が暮れる迄は()だ未だ時間は有るが、出来得る限り先へ進んでしまおう。此処(ここ)での長居は宜しくないからの」

 エルガルムからの指示に、全員は倒した魔物を次々と魔法の小袋(ポーチ)へと仕舞い込む。

 それを持っていないガイアは拾い上げた魔物を一ヵ所へと集める。

 全て仕舞い終え、一行は毒沼の精霊ポイズンスワンプ・スピリットの住処だった毒沼を後にしようとした。

「あ」

 そんな時、ミリスティが感知範囲外の遠方からある音を耳にした。

「ん? 如何したミリスティ」

 ダムクは何かを感知した様子のミリスティに問い掛ける。

 微笑を浮かべてはいるが、彼女のその表情は少々引き()った様な印象である。

「……〝ヤバいの〟が此方(こっち)に来てる」

「〝ヤバいの〟?」

 ダムクはこの汚染毒沼領域(エリア)に生息する魔物を頭の中から引き出し、ミリスティが言う〝ヤバいの〟を探し出す。それを聴いてたヴォルベスとミュフィも同様に思い出そうとする。

「――――あ」

 3人は〝ヤバいの〟が何なのか分かったその後、顔を少し引き攣らせた。

(え? 何、どしたの?)

 そんな彼等の妙な様子に、ガイアは如何したのだろうと首を傾げる。

「感知範囲外から何か来とるのか?」

 エルガルムはダムク達に問い掛ける。

「……賢者様、この領域(ここ)の有名な〝嫌われ者〟が此方(こっち)に向かって来てるそうです」

 その問い掛けに対し、ダムクは引き攣った笑みを向けながら答える。

この領域(ここ)の〝嫌われ者〟……」

 エルガルムとベレトリクスも汚染毒沼に生息する〝嫌われ者〟と称された魔物を頭の中に刻み蓄積した知識から引っ張り出し、素早くページを(めく)るが如く該当するそれを探し出す。

「あ」

 直ぐに見付け出し、思い出した。

「あー……あれか」

「あー……あれね」

 エルガルムは苦笑を浮かべ、ベレトリクスは白けた様な表情を浮かべた。

「一応訊きますが……撃退します?」

「止めとこう。シャラナにはちと厳しいじゃろうから」

 ダムクの問いに対し、エルガルムは即答で拒否する。

「あの……先生、何か危険な魔物でも来てるのですか? でしたら私は皆さんの補助(サポート)に回ります。魔力残量は未だ半分は切っていませんので」

 せめて魔法での補助ならと申し出るシャラナに、エルガルムはそっと彼女の肩に手を置く。

「済まんのう、初めてのシャラナには精神的に厳しい相手じゃ。今回は無理に闘わず、見て知るだけで良い」

(あれ? 何だろう……何か凄い不安に為って来た気がする)

 エルガルムが優しく口にした内容から、ガイアは嫌な予感を覚える。

「あ、感知範囲に入ったよぉ…」

 ミリスティは微笑の表情を固めた(まま)、気力が抜けた様な声で知らせる。

「……数は?」

 ダムクも同様に固まった表情の儘、恐る恐るといった様に(たず)ねる。

「………大体100匹」

(えっ!? 100匹!? 多っ!)

 その数にはガイアは目を丸くする。

 当然、シャラナもその数には驚く。

 ライファは相変わらず平静だが、向かって来ている何かが知らない為に覆面(マスク)の下はピンと来ないといった表情である。

 しかし、それ以外の者達は思わず片手で目を覆っていた。それは「マジかよ」とか「そりゃあんまりだ」とか「勘弁してくれ」といった落ち込んだ様子である。

「………しゃーない。一気に突っ切るか」

 ダムクは仕方なさそうに決断をした。

「じゃ、視界に映る前に移動速度を上げるわよー。〈助力の(グレーター・テイルウ)大追風ィンド・オブ・アシスト〉〈迅速な脚(ラピッド・レッグ)〉」

 ベレトリクスは移動速度強化魔法を2つ発動し、全員に施す。

「ミュフィ、経路(ルート)確認はするか?」

「大丈夫、しっかり記憶して――――」

 ミュフィは途中で言葉を止め、大きな猫耳をピクピクッと動かし、音の発生源へと顔を向ける。

 ヴォルベスも同様に犬耳をピクッと動かした後、此方(こちら)に向かって来る何かが居る方へと顔を向ける。

 そして2人は同時に眉間を(ひそ)め、嫌そうな色を少し濃くする。

「嫌な音……」

「……相変わらず速いな」

 何やら2人もミリスティと同様に、何かしらの嫌な音を耳にしている様だ。

(どれどれ……)

 ガイアは気になり、2人の視線の先に耳を澄ませてみた。

 数秒してから、遠くから鳴る複数の音を微かに聴こえて来た。

 カサカサと小刻みする様な―――――。

(ん…!!? この音って、まさか……!!)

 ガイアはある感情がゾワッと背筋を(はし)った。

 知っている。前世の世界でその音に聞き覚えがある。

 前世でそれなりに目にした、()()()()()の姿が脳裏を()ぎった。

「うわ~もう残り1キロ……あ、もう800メートルになったぁ」

 ミリスティの微笑が徐々に嫌悪感が混ざり色濃くなりつつあった。

「うーし、全員走る準備しとけー」

 ダムクの指示に従い、全員は走り易くする為に其々(それぞれ)手持ちの武器を仕舞い収めた。

 シャラナとライファは余り状況が飲み切れてないが、自分の武器を収めた。

「……?」

 そしてシャラナの耳に、その音が入って来た。

「え……何ですかこの音……」

 遠くであるが故に音の大きさは(かす)かだが、シャラナの生理的嫌悪を容易く生じさせた。

 シャラナとガイアは奥から此方(こちら)へと向かって来る方へと無意識に視線を固定させ、目を凝らす。

 未だ視認は出来ない。姿は映らないが、ザワザワと怖気(おぞけ)を立たせる多数の何かから鳴る音が徐々に近付いて来る。

(あれなのか…!? アレなのか…!!? まさかのアレなのか…!!?)

 ガイアは内心、冷や汗を滝の如く流し出す。

 如何か〝アレ〟ではありませんように、と。


 そして遂に、その姿を目にしてしまった。


 全長は約1メートル50センチ、全身は扁平状(へんぺいじょう)で幅広く、頭部には長い触覚を生やし、胸部には3対の(あし)、そして油でも塗りたくったかの様なテカリをした黒褐色(こっかっしょく)の身体。

 そう、その特徴はある虫――――いや、ある害虫が巨大化した様な怪昆虫種である。

 それはどの様な劣悪な環境でもしぶとく生きる(おぞ)ましい生命力の持ち主であり、毒物だろうが病原体が入った物だろうと、食せる物なら何でも喰らう悪食生物である。それ故に高い毒耐性と疫病耐性を保有すし、そして何より恐ろしいのは驚異的な繁殖力であり、一度に産卵する数は100以上である。

 怪昆虫学者(いわ)く、其奴(そいつ)を1匹見たら何処か近くに100匹は居る。

 汚染毒沼に生息する名物にして、誰もが知る怪昆虫種の中で有名な人類の嫌われ者。


 その名も――――大蜚蠊(ビッグ・コックローチ)


 そう、解り易く言えばデッカイ―――――


「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

(ギャアアアアアアアアアアアアアア!!! ゴ◯ブリーっ!!!)

 極まった怖気が全身を駆け巡り出し、シャラナは悲鳴を上げ、ガイアは内心で絶叫を上げた。

「そら、逃げるぞーっ!」

 そして一行(いっこう)は一斉に駆け出した。

 ダムクの一声でなのか、シャラナの悲鳴がなのか、何方(どちら)が逃げる合図だったのかは判らない。

 背後から追って来る小刻みに鳴らす肢音(あしおと)を耳にしながら、全員は大小と大きさが異なる生理的嫌悪を抱きながら毒沼林を突っ切る。

(うっそだろマジかーっ!!! この世界にもアレ居るのかよーっ!!!)

 ガイアは全員の走る速度(スピード)に合わせて共に駆ける。全速力で逃げたいが、毒沼林を抜ける経路(ルート)を完全に把握していない為、後に付いて行くしかない。

 これはまるで昆虫が異常巨大化したB級ホラー映画か、昆虫型生物が出て来るSF映画の世界に迷い込んでしまったかの様だ。そしてこの状況は昆虫の怪物から逃げ回る良くある場面(シーン)である。

「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「えっ!? ちょっ、御令嬢さん速っ!」

 相当な恐怖と嫌悪な所為(せい)か、シャラナの脚は先導するミュフィの脚に追い付きそうな驚きの速度を出していた。そんな彼女の必死な逃走速度にダムクは吃驚(びっくり)する。

「ミュフィ、もっと速度上げろ! 御令嬢さんが追い越して前に出ちまう!」

「えっ!?」

 ダムクから声を掛けられたミュフィは後ろを振り向き、もう少しで手が届きそうな近距離で必死なシャラナに少しギョッと驚く。全速力では無いとはいえ、まさか追い付かれるとは予想だにしなかったといった反応だった。

 ミュフィは指示に従い速度を上げ、それに合わせ他の者も速度を上げ、ひたすら駆け抜ける。

(そりゃそうだーっ!! 女性が初見であんなの見たらそら悲鳴上げて逃げるに決まってらぁーっ!! いや、てかホントにシャラナ脚速くない!!?)

 魔道具(マジックアイテム)や強化魔法によって移動速度が向上されているとはいえ、シャラナの全力疾走の速度にガイアも驚いた。

 しかし、大蜚蠊(ビッグ・コックローチ)の群れとの距離は中々離れなかった。

 6本の肢を高速で小刻みに動かし前進するその移動速度はかなりのものであり、短距離走選手の最高速度と同じ位の速さだ。これは流石に移動速度を強化しないと、あっという間に追い付かれてしまう。大蜚蠊(ビッグ・コックローチ)以上の脚の速さが無ければ逃走は不可能という事だ。

 もし追い付かれ、囲まれ、逃げ場を失い、最後は群がられ―――――。

(うわーっ!!! 想像したくない事想像しちゃったよー!!! もーヤーダー!!!)

 悍ましい最悪な想像を思わずしてしまったガイアは頭の中でギャーギャー騒ぎ立て、それを無理矢理追い出そうとする。

「燃やしましょう…!! 害虫は焼き払って滅却致しましょう…!!」

「いかんいかんいかん! 此処一帯が火事に為るから止めなさい!」

 ライファは毒沼林ごと大蜚蠊(ビッグ・コックローチ)の群れを焼き払おうとし、それをエルガルムが慌てて止める。

侍女(メイド)さんの目ぇ怖ぁ!! 何かもう恐怖が一周回ってゴ◯ブリへの殺意が極まっとる!!)

 それはそれは殺意駄々洩れであり、睨んだだけで人を殺せるのではないかと思える程の恐ろしい目であった。

 1匹なら未だ我慢出来た。

 ゴキブリ駆除剤噴霧器(ゴキジェット)を過剰に吹き付けるかの様に、武技(スキル)やら魔法やらでメタメタに破壊してしまえばあっという間に済むのだから。徹底的に駆除するなら灰に為るまで焼き尽くす方が良い。汚物は消毒的な奴だ。

 だがしかし……。

(流石にこの数は無理ぃー!!!)

 一行は暫く大蜚蠊(ビッグ・コックローチ)の群れに追われながら、これを機に一気に汚染毒沼領域(エリア)を進む。

 そして毒沼林を抜ける迄、シャラナの悲鳴は響き続けるのだった。

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