迷宮の異形創造者24-5
戦闘は激烈と化する。
敵を打ち付ける重い音や空を切る鋭い攻撃が幾度も鳴り、戦闘によって立ち昇る土煙はあらゆる出来事によって幾度も吹き飛ばされる。
ダムクは吹き荒ぶ結晶巨大紅蜥蜴の〈水晶の息吹〉を豪快に斬り裂き、ヴォルベスは古き結晶怪樹人の幾本もの水晶大枝の攻撃を掻い潜り、ミュフィは六鎌蟷螂の高速斬撃を短刀1本だけで容易に捌く。
そんな彼等3人を、ミリスティは後方から援護射撃で敵の行動を妨害し、穿ち、破損させ、仲間の戦闘を優勢へと大きく傾ける。彼女の連射撃は驟雨の如く魔物3体を打ちのめし、放たれる矢はまるで奇妙な生き物の様に軌道を幾度も変え、あらゆる方向から敵を貫く。
「〈砕破金剛盾烈突〉!!」
ダムクは強靭な脚で一気に全速前進し、結晶巨大紅蜥蜴に強烈な盾強打を喰らわせる。
「〈砕破金剛旋昇瞬斬〉!!」
盾による突撃を喰らわせた直後に跳躍し、それと同時に身体を捻らせ逆袈裟斬りを繰り出し、旋風を巻き起こす勢いで急上昇する。
結晶巨大紅蜥蜴は豪快な斬撃により首が切断され、地面を鳴らしながら倒れ伏した。
ミュフィは六鎌蟷螂の絶え間無い高速連撃を、涼しい顔で往なし続ける。
六鎌蟷螂は獲物である彼女に反撃させまいと6腕の大鎌を振るい続けるが、ミリスティの援護射撃に邪魔され、攻撃の精度が落とされる。
脚や腕の関節を穿たれ、致命的な損傷を負わされたその瞬間、勝敗は決定された。
「〈暗殺羅刹連閃斬〉」
ミュフィが背後を取ったその瞬間、ほんの一瞬だけ一閃が浮かんだ。それも同時に7本。それが消えた直後、六鎌蟷螂の6本の腕と頭が同時に切断された。
目にも止まらぬ速さ。
斬撃の過程すら視認出来ない速度。
七連続攻撃がたった一撃によるものだと思わせる一瞬をも超えた速度で、六鎌蟷螂を瞬殺するのだった。
「〈流水万状術:流連武撃〉!!」
ヴォルベスは己が是迄に修得した数々の武技を連続行使し、絶え間無く流れる様に突き技や蹴り技などのあらゆる武術を超高速で繰り出し続ける。
古き結晶怪樹人から伸びる幾多の水晶大枝を打ち砕き、太い水晶の幹をメタメタに打ち付ける。
堪らず距離を取ろうとする古き結晶怪樹人は退避しながら〈水晶弾〉を多数放つが、ミリスティの射撃により全て穿ち壊されてしまう。
「〈砕破金剛輪転閃脚〉!!」
ヴォルベスは超高速横回転から繰り出す激烈な回し蹴りを打ち込み、古き結晶怪樹人の身体をバキバキに破壊する。
破壊の際に結晶の身体を荒々しく圧し折られた古き結晶怪樹人は壁面に叩き付けられ、力無く地面へと崩れ伏すのだった。
「〈神聖なる投槍〉!」
シャラナは地縛霊へ迫りながら神聖魔法攻撃を仕掛ける。
それに対し地縛霊は大晶洞の水晶に干渉し、硬質かつ分厚い水晶の壁を作り出す。
魔力が込められた水晶の壁に〈神聖なる投槍〉が激突するが貫通せず、深く突き刺さった壁は大きな亀裂を生じる。
「〈暗影の騎士槍〉」
其処にライファが己の影から作り出した真っ黒な騎士槍を放ち、亀裂のほぼ中心に撃ち込み水晶の壁を破壊した。
破壊された水晶壁は幾多の塊へと成り、地面へと崩れ落ちる。しかし、突如時間でも停止したかの様に水晶の塊がピタリと空中で止まり、重力に逆らい上昇し出した。
幾多もの水晶の塊は意思を持っているかの様に奇妙な動きをし、シャラナとライファに向かって突進し出す。
それは〈騒霊の悪戯〉と呼ばれる、死霊系の上位不死者が持つ特殊技能。謂わばポルターガイストと呼ばれる心霊現象だ。その影響を受けた水晶が浮き、恰も独りでに動いているのだ。
「御嬢様、私の後ろへ。〈暗影障壁〉!」
ライファは自身の影から黒い壁を周囲に広げながら駆け、襲い来る水晶の塊を防ぐ。
シャラナは彼女の実体と成った影に護られながら、後ろを追う様に走る。
地縛霊は死霊系統魔法を発動させる。地面から死霊の手を無数に出現し、彼女2人を捕えようとする。
「〈崇高なる信仰の祝福〉!」
シャラナは自身とライファに、聖なる強化と護りを宿す魔法を発動する。
地縛霊が生み出した無数の死霊の手は2人に纏わり付くが、祝福による聖なる護りによって浄化され、触れる前に消滅してしまうのだった。
「〈暗影の鋭刃〉」
ライファは地縛霊の攻撃を防ぎつつ、地面に広げた自身の影から真っ黒な刃を複数放つ。
影の刃はまるで水面に突き出した背鰭の様に地面を高速で移動し、地縛霊の霊体を刻み去る。
「〈神聖十字架〉!」
地縛霊が怯んだその瞬間に、シャラナは魔法を発動させる。
神聖な十字架が強烈な光を発し、その中に閉じ込めた地縛霊の悪しき霊体を浄化すると同時に消滅させた。
(どっせーい!!)
一方ガイアは、一つ目怪巨人を一方的に捻じ伏せていた。
体格的に一つ目怪巨人の方がガイアの5倍程の差が在るのにも関わらず、殴り飛ばし投げ飛ばしと、武技を使わず純粋な膂力だけで圧倒する。
(ちょーっと試させて貰うよ!)
ガイアは豪快な背負い投げで一つ目怪巨人を地面に叩き付けた後、武技の試し撃ちをする。
(武技〈大発勁〉!!)
一つ目怪巨人の広大な胸部に掌を当て、凝縮し集めた己の気の力を炸裂させるが如く放出させる。
気の力による衝撃を受けた一つ目怪巨人は体内に損害が生じたが、巨腕を乱暴に振り回し、ガイアを払い除ける。
(あたた……威力が足りなかったか。だったら更に強くだ!〈烈大発勁〉!!」
振り払われたガイアは再び急速接近した後、慌てて起き上がった一つ目怪巨人に更に強烈な発勁を喰らわせる。
その一撃により一つ目怪巨人は倒れ、地面に横たわりたその巨体は動かなく成った。
「〈極大爆裂〉!!」
「〈転移発動阻止〉!!」
エルガルムが繰り出した魔法は大炸裂し、迷宮の現身を大晶洞の空洞全体ごと埋め尽くす。
迷宮の現身はベレトリクスに掛けられた転移魔法限定の発動遅延化魔法によって発動が遅くされているが、相手の魔法発動を直ぐに感知すればギリギリ転移発動は間に合う。
しかし、ベレトリクスから転移の発動を妨害され、瞬時に空間移動する術を何度も潰されてしまう。
その直後に爆発が起こるのを察知し、その場から高速飛行で急ぎ離れ、ギリギリ回避する。
「〈雷纏金剛鉄の投槍〉!!」
エルガルムは金剛鉄で構成された巨大な投槍を瞬時に創り出し、強大な雷を投槍全体に纏わせ迷宮の現身に目掛けて放つ。
巨大な質量を持ちながら恐るべき速度で飛来する投槍は大気を穿ち、標的の眼前に迫る。
「〈捕縛魔導球〉!!」
其処にベレトリクスが球体上の立体魔法陣で対象を瞬時に閉じ込め、指1本すら動かせなくさせ、その場に拘束固定する。
拘束魔法〈捕縛魔導球〉は物理的な移動と動作を完封するだけで、魔法の発動まで封じる事は出来ない。それに転移魔法を使われれば簡単に脱出されてしまう。
だが、問題は無い。
迷宮の現身には〈転移発動遅延化〉が付与されている為、転移で脱出しようとも発動が間に合わない。
エルガルムが放った巨大な投槍の切っ先は、完全無防備状態の迷宮の現身に直撃し、その細さに相反した頑丈な身体に痛々しく突き刺さり、超高圧電流が全身を焼き焦がす。
そしてそのまま押し込まれ、大晶洞の壁へと激突するのだった。
「〈焼滅の紅玉群〉!!」
エルガルムは超高温を宿す膨大な活力を凝縮した真紅に光る掌サイズの球体を多数創り出し、それ等を迷宮の現身に向けて放つ。空中を高速で飛行する超高熱の球体は真紅の線を引き、次々にあらゆる方向から標的に突撃し、触れた物を超高温で瞬時に焼き尽くす。人間なら皮膚など一瞬で炭化し、肉をボロボロに崩してしまう威力だ。
しかし、それでも未だ迷宮の現身は生きていた。
「しぶといわねぇ~。〈転移発動阻止〉!」
何が何でも転移し、距離を取ると共に反撃や僕の創造をしようとする迷宮の現身に対し、ベレトリクスはひたすら転移を妨害し続け、優勢を保ち続ける。
「ホントにのう。〈烈風の刃〉!」
エルガルムは鋼鉄すら容易く切断する鋭利な烈風を連続で放ち、標的をズタズタに斬り裂く。
2人からの蹂躙に、迷宮の現身は防戦一方という名の劣勢を強いられる。一対一なら真面な攻防が出来るが、こうも遣りたい事を潰されては、遣られる側は堪ったものでは無い。
転移しようとすれば阻止される。
何かしようとすれば拘束魔法で動きを封じられる。
その2つ何方か、若しくは両方の後に、強烈な魔法攻撃が叩き込まれる。
このままでは殺られてしまうのも時間の問題だ。
迷宮の現身は攻撃を喰らいながら、新たな僕を強引に生み出そうとした。
「させないっての!〈捕縛魔導球〉!」
ベレトリクスは再び拘束を仕掛ける。
「〈破砕の雷撃〉!!」
その直後にエルガルムが放った破壊の雷撃が、標的を焼き焦がす。
全身が白い光に包まれ、炸裂を起こし、超高圧の電撃に蝕まれながら激しい痙攣を起こす迷宮の現身は、自身の遠く背後に魔物の生命核である魔石を大量に創り出す。
「未だ倒れんか…!」
生み出された魔石は一斉に汚泥の闇を噴き出し、姿形を成していく。
魔狼。
大魔狼。
射殺し大蜂。
大喰らいな大黒蛇。
暴虐の漆黒熊。
人喰い大鬼。
結晶大蜥蜴。
翼刃鷹。
正確な数は判らないが、はっきり解るのは数え切れない―――――多数という眉間に皺を寄せたくなる光景である。
「ちょっとちょっと~、数でゴリ押す気ぃ?」
それ等の危険度はC等級とB等級、一行にとっては大した敵では無い。
しかし、こうも数が多いと面倒臭くなる。広範囲型の上位級魔法で一掃する事は可能だが、迷宮の現身がそれを邪魔しに来るのが目に見える。
何方も無視出来ないのが実に厄介だ。
「おうおうおう、こりゃとんでもねぇ数だな!」
「ひゃー。凄い数ぅ」
「くはははは! だがあの様子だと、苦肉の策といった所だろうな!」
「でも、これはこれで、面倒」
其処に戦闘を終えた堅実の踏破一党がエルガルムとベレトリクスの前へ出て、新たに生み出された魔物の群れを視界に映す。
「うわっ、何ですかこの数は!?」
「これはとんでもない数ですね。御嬢様が闘った小鬼の王率いる群れよりも圧巻な光景です」
地縛霊を倒したシャラナとライファも彼等の下へ集い、異常な数と言える魔物と魔獣の群れを目にする。
(良ーし、他の皆は如何かな……って何だあの数!? どんだけ生み出したんだよあの魔物!)
ガイアも一つ目怪巨人を倒した後に他の皆の戦況を見ようとし、とんでもない魔物の数を目にし驚愕するのだった。
ガイアは少々慌てて皆の下へ駆け寄る。
迷宮の現身は生み出した僕の一番後ろへ移動し、複数の魔法を同時に発動し出す。
「――――無駄よ」
ベレトリクスはその複数の魔法を一瞬で理解し、発動される前にそれ等の魔法に干渉する。
迷宮の現身が発動した複数の魔法が魔物達に掛かり、効力を及ぼす。
しかし、僕達に掛けた魔法の効力に違和感を感じ取った。
何故か弱体化状態に成っている。
迷宮の現身は困惑した。
強化魔法を行使した筈なのに何故だ、と。
「あたしの前で強化魔法は使っちゃ駄目よぉ」
謎の弱体化現象を起こした犯人―――――ベレトリクスは口元が少々裂けた様な恐ろしい笑みを浮かべる。
彼女が発動したのは〈増減効力逆転〉と呼ばれ、強化効力を逆転させる妨害系魔法である。既に付与された強化効力にも有効だが、発動前の展開された魔法陣に干渉し、強化術式を弱体化術式へと改変すれば、効力は100%逆転する事が出来る。
因みに、弱体化効力も逆転させる事も可能である為、敵からの弱体化の魔法や特殊技能の効力を強化として利用する事も出来る魔法である。
迷宮の現身は目をひくひくと痙攣させ――――逃走し出した。
「あ! 逃げやがった!」
このまま闘ってもジリ貧な上、確実に負けてしまうと悟ったのだろう。
規則や法則無用のダンジョンという大自然に於いて、その決断と行動は正しい。
「それも無駄よ」
ベレトリクスがそう口にしたその後、電光と共に強烈な雷鳴が爆裂するが如く轟き出す。
光の中に迷宮の現身が捕らわれ、迸る超高圧電流が幾度も爆裂を起こす。
いったい何が起こったのか、ベレトリクスとエルガルム以外の者は直ぐに理解する事が出来ず驚く。
「御免なさいねぇ。如何せ最後は逃げ出すと思って逃走先に罠仕掛けちゃった」
その現象はベレトリクスが仕掛けた魔法――――〈浮遊電撃大機雷〉によるものである。迷宮の現身は魔力の隠蔽と不可視化された設置型爆撃に気付かず、突っ込んで行くかの様に引っ掛かったのだ。
膨大な電気属性魔力の爆撃を受け、迷宮の現身は意識を大方吹っ飛ばされる。
「それ〈金剛鉄の手〉」
其処にエルガルムが地面から金剛鉄製の巨大な手を創り出し、標的をがっちりと掴む。
「良ーし、行くぞガイア!」
(ほぇ?)
金剛鉄の巨大な手が後方へ大きく反り、勢いを付けて振り被り、掴んでいた迷宮の現身を打ん投げる。
「思いっ切り噛ましてくれ!」
(え、ちょっ、そういう事?! 待って待って!)
ガイアは慌てて岩石の巨拳を構え出す。
此方へ飛んで来る迷宮の現身が急速に迫り、一定の距離まで縮んだ瞬間にガイアは武技を発動させた。
(せーのっ!〈金剛迅速拳鎚〉!!)
拳を斜め上から一気に振り下ろし、巨鎚の如き一撃を飛んで来た標的に叩き付ける。
痛々しい骨折らしき音が何重にも鳴り、地面へと叩き付けられた迷宮の現身は跳ね返り、壁や天井へと幾度もぶつかり、けたたましい激突音を幾度も鳴らし跳ねるのだった。
「うわぁ……。えげつない…」
まるで何度も跳ね回るピンボール。
強烈過ぎる打撃と跳ね返りで、迷宮の現身は瀕死状態と為る。
普通なら最初の拳で即死しても可笑しくない一撃を喰らったのに、未だ生きている事には驚きである。
迷宮の現身は薄れた意識を何とか保ち、激痛に苛まれながら地べたを這いずり、何が何でも生き残ろうと逃げる。
「あの攻撃を受けても未だ動けるか。何と頑丈な魔物か」
その頑丈さと生命力に、ヴォルベスは内心驚く。
だが、最早抵抗する力は無い状態だ。
最後に強烈な一撃を与えれば倒す事が出来る。
「一気に一掃するぞ。ヴォルベスとミュフィは機動力が高い魔狼と大魔狼を優先に叩け。ミリスティは射殺し大蜂と翼刃鷹の排除を優先しろ」
「応!」
「了解」
「任せて!」
ダムクの指示に他の一党仲間は返事をすると同時に、戦闘態勢を構え直す。
「御令嬢さんとライファさんは俺の支援を。残りのデカ物は俺が斬り伏せる!」
「解りました!」
「畏まりました」
「ンンン~?」(僕は~?)
「おっと、そうだな。なら神獣様は結晶大蜥蜴を頼みます」
(オッケー! 任せてー!)
ガイアは岩石の両手にグッと力を入れ、多数の結晶大蜥蜴を視界に映す。
「では、儂等は彼奴の止めと行こうかの」
「止めは任せるわ。あたしは彼奴の行動妨害するから」
エルガルムは杖を上に掲げ、巨大な白き魔法陣を作り出す。
「さあ行くぞ。〈天界の轟雷〉!!」
展開された魔法陣が起動し、急激に集束された神々しい強大な魔力が上空から放たれた。
真上から巨大な聖雷が迫り来るのを目にした迷宮の現身は死に物狂いで魔法を発動させ、自身の周囲に魔法防壁を展開し身を護る。
範囲は非常に狭い代わりに7重もの防壁だ。これなら何とか凌ぐ事が出来る筈と迷宮の現身はそう辛苦に思った。
「――――〈上位防壁脆弱化〉」
しかし、ベレトリクスがその魔法防壁の硬度を著しく脆くさせる。
天上から轟く巨雷が落ち、展開された7重もの魔法防壁は一瞬で粉砕され、己を包み込むが如く降り注いだ。
神聖属性と電気属性の強大な破壊活力による強烈な余波が空間全体に迸り、その近くに居た魔物達は怯み体勢を崩す。
「行くぞ!! 1匹残らず殲滅だ!!」
ダムクが気合の有る声が上がった直後、全員は一斉に攻め入る。
強烈に、鋭く、重々しいあらゆる一行の攻撃が敵を瞬く間に蹂躙する。
魔狼と大魔狼は宙を舞い、射殺し大蜂と翼刃鷹は頭を穿たれ地に落ち、大喰らいな黒大蛇と暴虐な漆黒熊、人喰い大鬼は次々と一刀両断される。
結晶大蜥蜴は〈水晶弾〉や〈水晶の息吹〉を物ともせずに突っ込んで来るガイアに蹂躙され、強烈過ぎる拳の一撃で瞬殺されて行くのだった。
魔物数はかなり多いが、それ等は複数の弱体化を受けている。
貧弱と化した膂力の攻撃は容易く防がれ、自慢の機動力が鈍間と化した脚では簡単に追い付かれ、頑強だった身体が柔くされ通常以上の損傷と痛みを負ってしまう。
戦闘は1分も経たず、あっという間に終わった。
魔物の死体が多数転がる光景が視界に広がる。
倒した魔物を幾つか回収し、残った奴は擬態宝箱に喰わせた。
(それにしても……ホント不気味だな…)
ガイアはピクリとも動かなくなった迷宮の現身を拾い上げ、まるで神話や御伽噺に出て来る悪魔と思わせるその姿形を観察する。
「ガイア、それ此方に持って来て」
呼ばれたガイアは、ベレトリクスの下へと歩み寄る。
「あんた達には悪いけど、これはあたしが貰ってくわ」
「構いませんが、此奴を如何するんですか? 解体して魔道具の素材にするとか?」
ダムクはそうベレトリクスに尋ねる。
「それもしたいけど、生体解明が先ね。身体の構成とか、此奴は何が要因でダンジョンにのみ生まれてるのか、結構不明な部分が多いのよ。滅多に遭遇しない魔物だから、中々調べる機会が無くってね」
「……まるで金属鎧みたい。けど、金属にしては異質な感触」
ミュフィは死した迷宮の現身の細い腕に触れ、鑑識でもするかの様に観察する。
「確か、下層部で遭遇したと申していましたな。俺達も永年下層部に幾度も潜っていたが、此奴に遭った事が無い」
「それは無理も無い。儂とベレトリクスでも今回を除いて1度だけしか遭遇しとらんからのう」
「でも驚いたわぁ。まさか中層部に現れるなんて」
「本当にのう。じゃが、此奴は特殊技能〈迷宮同化移動〉が有る。下層部に限らず、ダンジョン内なら何処に徘徊しても可笑しくは無いからのう」
「そんな特殊技能持ってたんですか此奴!?」
初めて聴く迷宮の現身の固有特殊技能に、ダムクは少々驚いた表情を浮かべる。
「そうなのよぉ。生み出すだけ生み出してから無機物に同化して隠れたり逃げたりするのよぉ。転移魔法の阻害もそうだけど、同化能力も一時的に封じないと手の出しようが無いのよぉ」
「それに加えて魔力も気配も隠蔽されるのは、凄く厄介だなぁ……」
ミリスティは嫌そうな表情を浮かべる。
全く気配が感じれない存在が、突如と壁や地面から現れる術を持っているのは実に厄介だ。気付かれずに死角に入る事を可能にし、暗殺を容易にする事が出来る。更に身の危険が迫れば何かの無機物に潜り込む様に同化し、深く遠い場所まで安全に逃げる事だって出来るのだ。
それに対する魔法や魔道具といった対策が無いと、如何する事も出来ない特殊技能である。
「……今後はこの魔物の対策も打たないといけねぇな」
ダムクは今回の戦闘経験を振り返り、迷宮の現身への対策――――いや、転移や同化能力を有する魔物や魔獣種への対策を今後の冒険者活動の為に思考する。
「さて、先へ進もうかのう。思ったよりも脚を止められた事じゃしな」
「そうね。じゃ、仕舞うから頂戴」
(はーい)
戦闘を終え、再びダンジョン内を進み出そうとする。その前にガイアは死した迷宮の現身をベレトリクスの〈収納空間〉に仕舞い込もうとした。
ベレトリクスが亜空間を開こうとしたその時――――
ガイアの手中に収まった迷宮の現身が目を開き、片手を掲げ出した。
(へ…!?)
死んでいた筈の化け物が動き出し、ガイアは驚愕した。
迷宮の現身が片手を掲げた直後、一行を囲う大きな魔法陣が出現する。
「はぁ!!?」
ダムク達も|化け物が存命だった事に驚愕する。
「此奴、死んだ振りして…!!」
これにはベレトリクスも驚愕する。
「この術式……転移の魔法陣じゃ!! いかん!! 近くの者同士で掴まれ!!」
エルガルムは叫びながら全員に指示を出し、近くに居たシャラナとライファを掴み、他の者達へと急ぎ接触しようと駆け出す。
他の全員其々、弾かれた様に近くに居る者を掴もうと手を伸ばし、急ぎ接触しようと動き出す。
(ヤ、ヤバ―――――)
だがその瞬間、魔法陣の光が急激に強まり、一行は包み込まれた。
そして光が消滅したその場から――――一行は忽然と消えてしまうのだった。




