迷宮の異形創造者24-4
休息を取っている8人の冒険者の前に、ダムク達とエルガルム達が何も無い空間から突如と姿を現す。
転移魔法による不意な出現に彼等は吃驚するも、その後には明るい色を浮かべた。
「少し待たせたな。ほら」
ダムクは彼等が落とした帰還の巻物を手渡す。
「良かったーっ! これで帰れる!」
手元に帰還の巻物が戻り、彼等は安堵した。
もし帰還の巻物が見付からなかったら、大晶洞から地上へ歩いて戻らなければならない。順調に戻っても1、2週間は掛かる距離だ。
ダンジョン内を潜れば潜るだけで、休息を入れてもそれに比例し、心身の疲労は多く溜まっていく。
上層部なら未だ良いが、中層部から地上へ戻るとなると相当苦労する。魔物の遭遇もある為、戦闘の回数を重ねる毎に体力だって削れてしまう。
「お前達は何時頃から此処で金策してるんだ?」
「ああ、いや。俺達は昨日大晶洞に初めて辿り着いたんです」
ダムクの問い掛けに、戦士の男性が答えた。
「初めてとはいえ、結晶大蜥蜴とか結晶大蟹が生息してるのは知ってましたけど、まさかいきなりその上位種の結晶巨大蜥蜴に当たるとは思いませんでしたよ~」
「初めてであれに遭遇しちまったのか。そりゃあ災難だったな」
「いやホントに…。水晶原石の採掘中で、まさかの結晶巨大蜥蜴が現れて。しかも3匹って……」
初めての大晶洞で遭遇した魔獣が結晶大蜥蜴の上位種だった事に、ダムク達もエルガルム達は彼等に同情を抱く。
「けど、結晶巨大蜥蜴の遭遇を差し引いても、今回は運が良い方です」
「ん? そうなのか?」
「助けて貰ったのもそうですが、水晶原石の採掘で偶然別の原石も手に入れたんです」
戦士の男性は腰に付けた小袋から長さ5センチメートル、横幅4センチメートル、厚さ3センチメートル程の綺麗な石を取り出す。
「あら、黄水晶!」
煌めく黄色い半透明な特徴をした水晶原石を目にしたベレトリクスは、ずいっと間を詰め喜々とした色を浮かべる。
「これ以外の色付き水晶も見付けたんですよ。えっと、他の2つって誰が持ってたっけ?」
そんな彼からの問い掛けに、頭巾を被った弓使いの女性と男性魔導師が自分の小袋から別の水晶原石を取り出し、戦士の男性の下へ歩み寄る。
弓使いの女性の手にはピンク色の水晶が、そして男性魔導師の手には真っ黒でありながら煌めきを持つ水晶である。
「あら素敵! 紅水晶に黒水晶じゃない!」
ベレトリクスは更に2種類の水晶原石を目にし、瞳を輝かせる。
「ほう、確かにこれは運が良いのう」
エルガルムも3種類の水晶原石を見て、それ等を発見し手に入れられた事は実に幸運だと口にする。
「もし皆さんが居なかったら、この幸運は無かった事に成ってました。本当に感謝してもし切れないですよ」
「構わんとも。お前達は未来有る我々の後輩なのだ。何れ肩を並べる強者と成る可能性を護るのも、S等級冒険者を与る者としての責務だ」
戦士の男性の感謝に対し、ヴォルベスは当然の事をしたまでだと胸を張って言う。
「けど、憧れのS等級冒険者の一党に助けて貰ったのですから、出来れば何か御礼はしたいです」
「とはいえ、私達はC等級の若輩者。今回の件に相応な謝礼品が無いのが申し訳無く思います」
ダムク達とエルガルム達に謝礼を形として何かを渡したいという意見に、他の冒険者達は其々頷いたり同意を口にする。
「有るわよ、それ」
そんな時、ベレトリクスはある物を指差す。
「……え、これですか?」
指が差された先、それは3種類の水晶原石である。
8人の冒険者は顔を見合わせる。
運良く見付けた3種類の水晶原石を謝礼として渡そうか、躊躇いが生じる。
通常の水晶原石よりも其々価値は高いが、3つとも小さいので換金しても銀貨17枚程である。
しかし、折角見付けたのだからそれを換金し、少しでも冒険者稼業の元手にしたいという気持ちも有る。
彼等が躊躇うのも無理は無い事だ。
「あぁ、別に寄越せって意味じゃ無いから。ちゃんと倍以上にして返すから」
倍以上にして返すとは如何いう事だろうと、8人の冒険者は理解出来ないといった表情を浮かべ、また顔を見合わせる。
「……まぁ……よく解りませんが、それでしたら…」
何とも言えない疑い気味な気持ちを抱きつつ、ベレトリクスに3種類の水晶原石を渡した。
錬金の魔女の事だ、少なくともそのまま奪って逃げたりはしない筈だ。
「良ーしガイア~、おやつの時間よ~」
ん? おやつ??
彼女が発した言葉に8人の冒険者はキョトンとし、自分の耳を疑った。
「はい、お口あ~ん」
「ンア~」(あ~ん)
ベレトリクスに言われるが儘、ガイアは口を大きく開ける。
「ほい」
そしてベレトリクスは3種類の水晶原石をガイアの口の中へ放り投げ、ガイアは放り投げられた水晶原石を噛み砕いた。
「え?!!」
8人の冒険者は驚愕の声を思わず上げた。
まさかの謎の生物に水晶原石を喰わせるという予想出来ない行為に、冒険者達は理解が出来なかった。
噓でしょ!? 勿体無い! ていうかあの生き物、水晶食べれるの!?
そんな驚愕の思いを彼等は抱く。
ガイアは飴玉の様に噛み砕いた鉱物を飲み込み、身体に3種類の鉱物が蓄積されると同時に、その構成成分が自身の知識に記憶された事を実感した。
「如何、作れる?」
(作れるー)
ベレトリクスの問いにガイアは親指を立てた後、大きな岩石の片腕を見せる様に前へ出し、特殊技能〈宝石物質生成〉を発動させた。
するとガイアの片腕から黄水晶、紅水晶、黒水晶の原石が突き出す様に生じ、質量を増加させ大きく為る。
その現象を目の当たりにした8人の冒険者は驚愕を超え愕然と為り、言葉どころか声すら出せなく為るのだった。
ガイアは自身の腕から生成した黄水晶原石を無造作に引っこ抜き、それを持った手をベレトリクスの前に近付ける。
「〈物質分解:分裂〉」
ベレトリクスは錬金魔法でその原石を適度な大きさに割り分け、残りの分は〈収納空間〉へと突っ込む。
「これ位で良いかしら?」
「え…!? こ……これ位って…!?」
これ位と言いつつ大きさは人の掌程。
1つ売れば最低でも銀貨14枚は成る。
それが十数個。
倍以上なんてものでは無かった。
「こんなに頂いても良いんですか…!?」
ガイアから手渡された彼等は、恐る恐るといった感じでベレトリクスに訊ねる。
「良いわよ別に。未だ食べさせてない鉱物をくれたんだから、これ位の御返しはしなくちゃね」
ベレトリクスは更に紅水晶と黒水晶も同じ様に分割し、それをガイアが彼等に渡す。
「………これ、全部で幾らに成るんだろう…?」
冒険者達の内誰か1人がぽつりと口にする。
「全部で金貨65枚辺りには成るでしょ」
「金貨65枚!!?」
ベレトリクスが口にした換金金額に冒険者達は驚く。
「よっしゃー!! 戻ったら飲むぞーっ!!」
そして高額な臨時収入に冒険者8人は其々喜々の声を上げるのだった。
「ははは。良かったなお前達」
そんな彼等にダムクはそう声を掛ける。
「折角のデカい臨時収入だ。今後の冒険者稼業用の分は取っとけよ」
「はい! ありがとう御座います!」
8人の冒険者は目を輝かせながら、大きな水晶原石の塊を自分達の魔法の小袋に1つ1つ仕舞い込んだ。
「改めて、助けて頂きありがとう御座いました」
戦士の男性が代表で感謝を伝え、彼と共に他の仲間は会釈する。
「ところで何ですが、賢者様か魔女様の依頼を受けてダンジョンに潜ってるんですか?」
「ああ、そうだ。正式な書面上での依頼主は賢者エルガルム様だ」
戦士の男性からの質問に対し、ダムクは答えた。
「儂とベレトリクス、そしてこの娘の護衛を彼等に頼んでの。現在はこの娘に力量と経験を積ませるのが目的じゃ」
(あれ? 僕は護衛対象外?)
何故自分だけ護衛対象に入っていないのかとガイアは思ったが、自分自身は人外な上に規格外な強さを持っているからその必要性が無い事を自己納得するのだった。
「やっぱ下層に行くんですよね?」
「いや、今回は最下層の探索だ」
「最下層!!?」
それを聴いた冒険者8人はどよめいた。
「遂に挑むんですか!」
「まぁな。賢者様から指名依頼が切っ掛けだが、そろそろ挑む事は一党内で話し合ってたしな」
「無事戻って来たら最下層の事、色々聴かせて下さい! 応援してます!」
「そうだな。酒の席で会えたらな」
そんなダムクの口約束に、冒険者8人は期待を抱き目を輝かせるのだった。
「では皆さん、御武運を!」
戦士の男性は御別れの言葉を告げた後、帰還の巻物を開き自分を含む8人の冒険者仲間を冒険者組合へと転移帰還しようと―――――。
その時、彼等――――いや、その場に居る全員の視界に、突如と異様な闖入者が何も無い空間から現れた。
「――――え……?」
戦士の男性は呆然とし、帰還の巻物を開くが、起動しようとした手を止めてしまう。
その闖入者は人の形をしているが、軀体はやや長身で細く、腕は4本も有り、脚は2本、何方も共に細く、指は枯れ木の枝を彷彿させる程に細く異様な長さをしていた。身体全体はまるで禍々しく歪な全身鎧であり、顔全体も歪かつ不気味であり、まるで仮面が顔と一体化しているかの様である。
しかし、その顔には目も口も無く、金属細工が施されているかの様な模様が、顔や身体の彼方此方に浮き出ていた。
音も無く、壁の中からズルリと現れた異形の化け物を目にした、その場に居る全員は息を呑んだ。
その場の空気が不気味な静寂に満ちた中、それを作った化け物はゆっくりと顔を動かし、8人の冒険者へと顔を向ける。
化け物から目の無い視線を向けられた冒険者達は、恐怖混じりの困惑を生じ、内数人が僅かに後退りをする。
脚が地面を擦る音が鳴った瞬間、ピクリと反応した化け物の額が縦真っ直ぐに亀裂が生じ、ばっくりと開いた亀裂から大きな眼球が露わした。
「ひっ…!」
化け物が目を開くのを見て、冒険者達は思わず悲鳴を上げた。
その次の瞬間、化け物は右手を振り被ると同時に8人の冒険者の眼前へと瞬く間に接近した。
そんな化け物の急速な動きに冒険者達は反応出来ず、やや斜め上から横へと彼等の動体視力では見切れない速度で振り抜かれた。
化け物の手は冒険者達の肉体に届かず――――遮られた。
「……間に合った!」
エルガルムが瞬時に発動した〈魔力大防壁〉が冒険者達を囲う様に覆い、化け物の攻撃をギリギリ防いだ。
化け物は5本の指に宿した紫黒色の魔力で構成した悍ましい爪を強く突き立て、眼前の障害を無理矢理破壊しようとする。
其処にミュフィが音も無く、特殊技能〈無音跳躍閃進〉で瞬きを超えた速度で化け物に迫り、死角と成っている背後から武技〈暗殺羅刹閃斬〉による光の如き速度と思わせる超高速の斬撃を繰り出し、漆黒の刃を後ろ首に目掛けて奔らせた。
しかし、化け物は彼女の閃きの如き一撃を見もせず、直前に屈んで回避するのだった。それも恐るべき速度――――攻撃開始と同時にだ。
ミュフィが化け物に迫る直前から攻撃した迄の時間―――――僅かコンマ1秒にも満たずである。
「ヌン!!」
そのコンマ1秒に満たない経過の直後、ヴォルベスが〈縮地:閃〉で即座に迫った瞬間にミュフィの横から武技〈砕破金剛閃速正拳〉を繰り出し、化け物を殴りに掛かる。
しかし、化け物はヴォルベスが攻撃を繰り出す直前にその場から離れ、彼の超高速な攻撃をも回避した。
化け物が回避し移動し出す瞬間を捉えたミリスティは武技〈閃速連射〉による〈上位魔法矢〉を連射し、追撃を即座に仕掛ける。
化け物は後退しながら広げた手を前に突き出し、視界前方に紫黒色の防壁を展開する。
ミリスティが放つ強力な魔力の矢は化け物の細い身体に届かず、防壁に遮られる。
「武技〈砕破金剛護法壊破撃〉!!」
既に移動し待ち構えていたダムクは、既に抜いた大剣に膨大な気力を溜め込み、力の限りに振り抜き化け物の魔力防壁を粉砕する。そしてそのまま化け物を斬り付け、殴り飛ばすが如く壁に叩き付けた。
「帰還の巻物を起動しろ!! 急げ!!」
「は、はい…!!」
ダムクの指示に8人の冒険者は身を寄せ合う様に集まり、急ぎ帰還の巻物を起動させ、その場からダンジョン外である冒険者組合へと転移するのだった。
壁に叩き付けられた化け物は地面に付かず、浮遊し出す。
「硬ぇな此奴……!」
大剣で攻撃した時に伝わった感触から、化け物の防御力は高い事を理解し、大して損傷は与えられていないと悟る。
「何なの、あの魔物…!? あんなの大晶洞に居たっけ!?」
ミリスティは狙いを定め続け、何時でも狙撃が出来るよう弓弦を引き、〈上位魔力矢〉を放つ構えを取りながら、初見の化け物に対する疑問を口にする。
「何という反射神経……! まさか俺とミュフィの攻撃を避けるとは!」
「……正直、少し驚いた」
ヴォルベスとミュフィは攻撃を避けられた事実に、驚きと悔しさを僅かに滲ませる。
「……まさかこの中層に現れるとは。下層辺りで遭遇する可能性は入れてたが、これは流石に予想外じゃのう」
「同感。見るのも随分久し振りね」
「あの魔物を知ってるんですか?」
偉人2人の知っている様子に、ダムクは現れた化け物について訊ねた。
「〝迷宮の現身〟。ダンジョンにしか生息しておらん魔物じゃ。危険度はA等級じゃが、奴はダンジョンが持つ魔物を生み出すという厄介極まり無い特殊技能を有しておる」
(魔物を生み出す…!? 何だその特殊技能、ヤバくないか!?)
エルガルムが口にした魔物が持つ特殊技能を聴いたガイアは、驚きと不安が生じた。
その特殊技能は生成系に属するものだ。
ガイアも農作物や金属・原石を生み出すとんでもない特殊技能を有しているが、魔物を生み出す特殊技能も前者に匹敵するものである。
そして恐ろしいのは召喚魔法とは違い、一度生み出した魔物は死ぬ迄この世に残り続ける点である。
それを際限無くされれば、村や町、都市は魔物で塗り潰せてしまう。
「魔物を生み出すか…。それに加え、魔法も使えるとなると実に厄介だな」
ヴォルベスは睨む様に迷宮の現身の挙動を窺い、即座に対応出来るよう構える。
「しかもあの魔物、如何やら感知に対する隠蔽特殊技能が有るようだ」
「なるほど……道理で感知特殊技能持ちのお前達が接近に気付かなかった訳だ。……ミリスティ、もしかして〈魔力感知〉にも反応しないのか?」
「うん、全く感知出来ない」
ヴォルベスとミリスティの発言から、迷宮の現身という魔物は気配と魔力を隠蔽する上位特殊技能を有しているのだろうとダムクは確信する。
一行を空中から俯瞰するその化け物は、4本の腕を奇妙に動かし出す。
「〈大迅雷〉!」
その僅かな初動を視認したベレトリクスは間髪入れず、上位級の電気系統攻撃魔法を発動させた。
しかし、強烈な雷撃が直撃しようとした瞬間、迷宮の現身は忽然と姿を消す。
「……やっぱ見られてると避けられるわね」
ベレトリクスが放った迅雷は対象に当たらず、そのまま一直線に奔った雷は壁を一定範囲破壊した。
「後ろ!」
ミュフィの一声に、全員は瞬時に身体ごと視線を後ろに向ける。
「転移魔法も使えるのか。こりゃあ参ったなぁ」
動きが速い上に転移魔法まで使える。そんな化け物に対し、一党の中で移動速度や攻撃速度が遅い方であるダムクは眉を顰める。
大きな隙を作らなければ、大損傷を与えられない。
(如何するか……)
ダムクは思考し出す直前、迷宮の現身が何かを始め出す。
4つの内2つの手に、紫黒色の球体が出現した。その球体はビー玉程だが、出現直後に質量を増し、サッカーボールやバスケットボールよりも大きく為るのだった。
「あれってまさか、魔石?」
シャラナはその球体を目にし、直感で浮かんだ予想を口にする。
2つ球体は肥大が止まったその直後、ごぼごぼと紫黒色の半液状物が一気に噴き出す。闇から生まれた汚泥を彷彿させるそれは球体を覆い尽くし、急速に肥大しながら何かへと形成されていく。
形が定まり、闇は流れ落ち、生み出された2つのそれは正体を露わす。
1つは蜥蜴にも蛇にも似た魔獣種であり、全長は凡そ10メートル以上の巨大な軀体を有している。その躯体に見合う大きな四肢に付いた鋭い爪、太く長い尻尾。そして2つ大きな眼球が別々に動き、辺りをギョロリと一瞥する。
「石化眼の巨大蜥蜴…!」
ダムクは生み出されたその1匹の魔獣の名を呟く。
石化眼の巨大蜥蜴。
それは生物を石化させる特殊な視線を持ち、体内には即死級の猛毒血液が流れ、分厚い皮膚は真銀以上の硬度を有する魔獣種だ。
石化と猛毒の対策をしていなければ倒す事は困難であり、たった1匹だけで町や都市を滅ぼせる最悪な存在と言われている。
もう1つは獅子と山羊の2つの頭を生やし、脚は山羊、脚以外は獅子の軀体と前脚、そして尻尾は太く長い蛇と成っている。
「ほう……混合魔獣か」
エルガルムは冷静さを保ちながら、異形の魔獣の名称を口にする。
混合魔獣。
それは生命を持つ自然物から外れた人工生物であり、大昔の時代にとある錬金術師が複数の生物を合成し造り出した禁忌の魔獣である。
それを最初に造り出した張本人の倫理感は狂っていたそうで、生命に対する冒涜的な研究を誰の目にも届かない場所で密かに行っていたという。
そして造り上げた複数の混合魔獣の戦闘記録を取る為に、都市内にそのまま放つという狂気の行いを仕出かすが、自ら造り出した混合魔獣に殺されてしまうという自業自得な報いを受けてしまったとか。
創造主である錬金術師を喰い殺した混合魔獣はそのまま都市を襲い混乱を齎したが、騎士団や冒険者達によって討伐された。しかし、全て討伐されてはおらず、生き残った混合魔獣は都市から逃げ出し、広大な世界の何処かへ消えてしまった。
そして永い年月を経て、生き延びた混合魔獣同士で種を残し、徐々にその数を増やし、野生の魔獣と化したと伝えられている。
何方も推定危険度はA等級。
S等級冒険者であるダムク達の方が個々の強さは上ではあるが、必ずしも容易く倒せる魔獣では無い。
それが3体――――僅かな油断が命取りに為る。
「さて…、先に倒すべきは――――」
ダムクが呟くその時、石化眼の巨大蜥蜴がギョロッと視線をダムクに向け、それとほぼ同時に瞳を怪しく光らせる。
「〈上位全抵抗力強化〉」
石化眼の巨大蜥蜴からの特殊な直視に対し、エルガルムは即座に状態異常耐性の強化魔法を全員に施す。
視線を向けた対象が何の変化が起こらない事に、石化眼の巨大蜥蜴は訝し気に少し長い首を傾げる。ならばと思い、次々に視線を別の対象へと向けるが変化は起こらず、また首を傾げる。
「おお怖い怖い。相変わらず石化眼の巨大蜥蜴の目は厄介じゃのう」
「助かりました、エルガルム様」
石化眼の巨大蜥蜴が一行に向けた視線――――〈石化の魔眼〉は視線上の対象生物を石化という状態異常を発生させる特殊技能だ。石化に対する耐性の無い生物――――特に人間や獣人といった人種がその視線を向けられれば、あっという間に石像と為ってしまう。
因みに、石化状態は特殊な仮死状態であり、石化してしまったからといって即死する訳では無い。石化解除の魔法や特別な魔法薬を施せば復活する事が出来る。
但し、石化状態で砕かれたりすれば、その時点で死は確定である。
だが、一行は状態異常耐性を強化する魔道具を装備している為、そう簡単に石化する事は無い。更にエルガルムの状態異常耐性強化の魔法によって、石化する可能性を限り無く0に近くさせていた。
石化眼の巨大蜥蜴の〈石化の魔眼〉が無為に終わったその次に、混合魔獣の獅子頭が口を大きく開く。それとほぼ同時に口内から炎が凝縮された球を一行に向けて勢い良く吹き出す。
「俺が遣る」
ヴォルベスは冷静に申し出ながら数歩前に進み、掌を軽く開いた状態で構え、急速に飛来する火球を待ち構える。
「武技〈流水万状術:流明操送〉!」
瞬時に練り上げた気を纏わせた右手で、眼前にまで迫った火球を吸い寄せる。腕を引きながら、小さな円を描くかの様に手首を動かし、直に触れずに手繰り寄た火球の進む力に逆らわず、瞬時に軌道を変えて勢い良く流し返した。
それはほんの一瞬―――動作の過程が殆ど認識出来ない速度だ。
返された火球はヴォルベスに飛来する時よりも速度を増し、石化眼の巨大蜥蜴へと飛んで行く。
石化眼の巨大蜥蜴に直撃した火球は爆ぜ、分厚い皮膚を焼き焦がした。
攻撃を受けた石化眼の巨大蜥蜴はよろめき、太い喉から唸り声を鳴らしながらヴォルベスを睨み付ける。
「ヴォルベス、一丁吠えるぞ」
「応とも」
ダムクはヴォルベスの横へ並んだ後、2人は同時に息を大きく吸い出す。
そして目一杯に空気を吸い込んだ2人はほんの僅か息を止め、グッと腹と肺に力を入れ、口から一気に放つ。
「オォオオオオオオオオオオオオー!!!!」
放たれた咆哮は空を揺るがす程に轟く。
ダムクとヴォルベスが放つ咆哮――――〈威圧轟咆〉は、複数の敵を強烈な咆哮で威圧させる特殊技能であり、敵を萎縮させ、一時的に怯ませる事が出来る。更に弱い敵ならば恐怖状態に陥れ、行動を封じる効力をも有している。
強烈な2つの咆哮による重圧を浴びる2体の魔獣は怯み、ビクッと身体を硬直させてしまう。
その瞬間を狙い、ミュフィは一瞬で石化眼の巨大蜥蜴の後ろ首へ、ミリスティは混合魔獣の獅子頭と山羊頭の眼球目掛けて〈上位魔力矢〉4連射を瞬時に仕掛ける。
それに対し、二重の〈威圧轟咆〉に怯まなかった迷宮の現身はその一瞬の強襲を捉え、相手の攻撃の軌道上に〈魔力の剛盾〉を瞬時発動させ、生み出した2体の魔獣への攻撃を防いだ。
「〈転移発動遅延化〉!」
迷宮の現身が魔法を発動するその瞬間、ベレトリクスは妨害魔法を発動させた。
奇怪なその身に妨害効力を齎す魔法が付与された迷宮の現身は動揺する。
そしてほんの僅かの時間で付与された魔法の効力を理解し、慌てて地面へと急降下し出す。
「〈同化拒絶化〉!」
化け物が急降下するとほぼ同時、ベレトリクスは更に別の妨害魔法を瞬時に発動させる。
急降下した迷宮の現身は地面に着地するが、均衡を崩し、前方に転ぶかの様に手や膝を着いてしまった。
いったい何が起こったと、化け物は更に動揺する。
「駄目よぉ、自分だけ逃げ隠れするなんてぇ」
ベレトリクスは動揺する迷宮の現身に暗みの有る妖艶な笑みを向け、強大な魔力の圧を放つ。
彼女から放たれる圧に怯む事無く、化け物は大きな目を細くし睨み返す。
「〈影の束縛〉」
其処にライファの魔法によって実体化した不形状の影が迷宮の現身を捕えようとする。
しかし、透かさずその場から跳ねる様に飛び退かれ、動きを封じに掛かる影から逃れられてしまう。
「〈暗殺羅刹閃斬〉」
だがその直後、ミュフィが瞬時に背後を取り、再び迷宮の現身の後ろ首を狙う。
漆黒の刃が振るわれるその直前、標的は空中で前転しながら回避すると同時に、背後のミュフィに蹴りを仕掛ける。
ミュフィは敵の蹴りをひらりと躱し、空いた片手で蹴りを繰り出した脚を掴む。そして空中で急速横回転で遠心力を加え、をダムクが居る方向へと投げ飛ばす。
「〈砕破金剛護法壊破撃〉!!」
ダムクは再び防壁を粉砕する武技を発動させ、手裏剣の様に飛んで来る迷宮の現身に強烈な一撃を喰らわせる。
高速で振るわれた大剣の刃は硬質な肉体を斬り付けるが、完全に胴体を切断する事は叶わず、大剣が直撃した直後は吹っ飛ばす結果と成った。
其処に混合魔獣がダムクへと一気に距離を詰め、攻撃を終えた瞬間を狙い鋭利な獅子の爪で斬り掛かる。
「〈疾風の矢〉!」
ミリスティは風属性の魔力で構成した矢を即射し、混合魔獣の獅子頭を穿ち風穴を開ける。
しかし、混合魔獣は絶命せず、穿たれ際に停止した身体はほんの僅かの後に再起動し、振り上げていた獅子の前脚を眼前の獲物に向けて振り下ろす。
「〈防盾反射〉!!」
混合魔獣の攻撃に合わせ、ダムクは気を瞬時に込めた大型の盾を振るい弾き返す。
ダムクはそのまま流れる様に大剣を振るおうとしたその時、混合魔獣の尻尾である大蛇が放電を発し出し、口を大きく開くと同時に眼前に魔法陣を展開した。
そして放たれた電撃の魔法は一直線に奔り、ダムクに襲い掛かる。
それに対しダムクは――――愚直に突っ込んだ。盾を構えずに。
高電圧が伴う電撃が直撃する。
伝導性が高い金属製の鎧は電撃系の攻撃には弱い。鎧自体は受けても問題は無いが、電撃は鎧の内側まで貫通する為、装着者は損害を受けてしまう。
しかし、電撃を直に受けるダムクは一切怯まず平然としていた。
「〈砕破金剛瞬斬〉!!」
ダムクは電撃を浴びながら、真銀すら斬り裂く斬撃武技を繰り出し、混合魔獣の山羊頭を斬り飛ばした。
「悪ぃな。俺の鎧は強力な電気耐性が付与されてるんだ」
地面に崩れ伏した混合魔獣に対し、ダムクは不敵な笑みを送る。
だが、混合魔獣は未だ絶命していない。
残った尻尾である大蛇は威嚇の声を上げながら長い軀体を急速に伸ばし、射程範囲内のダムクの首目掛け噛み付こうとする。
己の牙を突き立てる至近距離まで接近したその瞬間、混合魔獣の大蛇はいきなり後ろへ引っ張られ、噛み付きは空振りと成る。
そして引っ張られたその後、頭上から下顎へ何かが貫通した。
大蛇を引っ張ったのはミュフィであり、混合魔獣の尻尾の根を切断した直後に即引っ張ったのだ。
其処に大蛇の頭を穿ったのはミリスティであり、武技〈急降曲射〉によって放った〈疾風の矢〉を頭上から貫いたのだ。
それは一瞬の出来事。
いったい何が起こったのか理解が追い付かない大蛇は地面に落ち、意識を失い絶命するのだった。
「先ずは1体!」
ダムクは視線を石化眼の巨大蜥蜴へと向ける。
視界に映した石化眼の巨大蜥蜴は、ヴォルベスに激烈な連撃に見舞われていた。
体格さや硬質な皮膚など御構い無しに、ヴォルベスは鍛え抜いた身体の全てを使い容赦無く打ち込み続けていた。
「武技〈烈大発勁〉!!」
石化眼の巨大蜥蜴の胸部に手を添え、強烈な気の衝撃波を直接内部に炸裂させる。
強烈な衝撃によって心臓に多大な損害を受けた石化眼の巨大蜥蜴は激痛を感じるが、それはほんの僅か数秒の後、視界が暗く為ると同時に生じた痛みは消えていく。
そして大きな眼球を晒した儘、命が尽きるのだった。
「後はあの化け物だけだ!」
ヴォルベスは直ぐに迷宮の現身へと透かさず迫る。
そのまま勢いで武技による強烈な拳を打ち付けようと、眼前にまで迫ったその時、横から何かの気配をヴォルベスは感知する。
「飛竜! 既に新しいのを生み出してたか!」
視界に現れた飛竜が、ヴォルベス目掛けて噛み付こうと急速に飛来する。
それに対し、ヴォルベスは身体を捩じりながら躱し、直後に飛竜の首を掴んで手刀を繰り出す。
「武技〈砕破金剛手刀閃打〉!!」
ヴォルベスの超高速手刀が直撃し、飛竜の長い首の骨を粉砕する。
迷宮の現身はその隙にその場から浮遊した状態で逃げ出す。
「〈魔力断裂刃〉!」
戦闘開始時から迷宮の現身を窺っていたエルガルムは逃げ出す瞬間を狙い、高い魔法防御力の敵に大損傷を与えられる魔力の刃を逃走先へと放つ。
化け物は直にエルガルムの魔法を受け、頑丈な細い身体に深い裂傷を負う。
「悪いが逃がさんぞ。〈雷霆の一撃〉!!」
エルガルムは透かさず次なる魔法を発動し、巨大な雷の柱を標的に目掛けて落とす。
強大な雷を直に浴びた迷宮の現身は―――――未だ生きていた。
「……頑丈じゃのう。それにもう新しい奴を生み出しおったか」
雷の一撃の後、迷宮の現身の背後に4つの影が居た。
結晶巨大蜥蜴の亜種―――――結晶巨大紅蜥蜴。
6つの大鎌の腕を持つ奇怪な大蟷螂―――――六鎌蟷螂。
地に縛られた怨霊―――――地縛霊。
そして結晶化した樹木の身体を持つ怪樹人―――――古き結晶怪樹人。
何れも危険度が高い魔物である。
「いえ、更にもう1つ追加されるわよ」
ベレトリクスの言葉通り、迷宮の現身は更にもう1体を生み出すのだった。
生み出されたそれは15メートルを優に超える屈強な巨体であり、たった1つだけ顔に付いた眼球は異様に大きい人型の魔物―――――一つ目怪巨人である。
(デッカ!)
ガイアは初めて目にした一つ目怪巨人を見上げ、その巨体さに驚きを抱く。
「あらぁ、素敵な素材が更に取れるわねぇ」
ベレトリクスは新たに生み出された魔物を見て嬉しそうにする。
「まぁ確かにそうじゃが、これ以上生み出されると今後に支障が出かねん。急いで仕留めるぞ」
「解ってるわよ。あんたは当てる事に集中してくれれば良いわ。転移の方はあたしに任せなさい」
エルガルムとベレトリクスは視線を迷宮の現身に向け、魔法を何時でも即放てるよう杖を構える。
「シャラナよ、御主は地縛霊を頼む。遣り方は御主に任せる」
「はい、先生!」
「ガイアも折角じゃ、あの一つ目怪巨人を頼む」
(良し来た!)
シャラナは短杖を構え、ガイアは拳同士をガツンと打つけ合い戦闘態勢を取る。
「ヴォルベス、ミリスティ、ミュフィ!! 上げて行くぞ!!」
ダムクの一声に一党仲間は気合の入った返事をし、各自一斉に戦闘を再開し出す。
シャラナとガイアも其々行動し出し、定めた魔物へと向かって行く。
それを見た魔物4体も動き出し、向かって来る彼等を迎撃し出す。




