迷宮の異形創造者24-3
「うぉおおおおお!!!」
大晶洞の広大な場所で、ダムクの雄々しい咆哮が響き渡る。
3匹の結晶巨大蜥蜴から放たれる数多の大きな水晶弾を、ダムクは〈不動剛堅防盾〉〈防盾受流〉〈防盾反射〉の武技3つを瞬時に切り替えながら巧みに行使し、確実に防ぎ、受け流し、そして弾き返し続ける。
盾だけで防御が間に合わなければ片手に持つ大剣も使い、降り注ぐ水晶弾を斬り払う。
「武技〈真空――――」
ダムクが瞬時に構え、武技による飛ぶ斬撃を放とうとする。
しかし、遠距離攻撃が来るのを本能で察知したのか、3匹の結晶巨大蜥蜴は大きな口を開けた直後、無数の煌めく微粒子の様な光が混ざった青白い息吹を勢い良く放つ。
ダムクは盾を前に構え、強烈な息吹による攻撃を防ぎつつ、体勢を崩したり吹き飛ばされたりしないよう膝を曲げ、脚に力を入れて踏ん張る。
結晶巨大蜥蜴の口から吹き出される青白い煙は立ち込め、地面に触れた瞬間から水晶が勢い良く発生し、辺りを氷漬けにするかの様に浸食する。
そんな特殊な息吹を盾越しで受けているダムクの身体にも、水晶が生じて纏わり付くが、シャラナの防護魔法による恩恵でその現象は小さく止められていた。
その御蔭で纏わり付いた水晶はそれなりに力が有れば簡単に砕け、引っぺがす事が出来る。
「……流石に3匹同時の息吹はキツいな」
ダムクは身体の所々や剣、そして盾に纏わり付いた水晶を拳で砕き払う。
「敵意向けてるってのに、そんなに俺の攻撃が怖いのか?」
結晶巨大蜥蜴の息吹はキツいと言いつつも、ダムクは余裕の有る笑みを浮かべる。
戦闘を始めてから、ダムクの攻撃は一度も魔獣の身体に触れていない。
結晶巨大蜥蜴の危険度はB等級ではあるが、膂力が非常に強いダムクなら一撃で屠れる相手だ。
しかし、3匹の結晶巨大蜥蜴は敵であるダムクの接近をひたすら妨げていた。
特殊技能〈水晶弾〉による弾幕を撃ち続け、遠距離攻撃が放たれそうに為った時には〈水晶の息吹〉で妨害を幾度も繰り返してだ。
そしてあわよくば、息吹で全身を水晶で固めて仕留めようとしている。
「やっぱ1人で3匹同時は攻め手に欠けちまうなぁ」
1匹だけなら強引にでも接近する事が出来るが、2匹増えただけでこうも接近出来ず、遠距離攻撃すらさせて貰えない現状に対し、ダムクは少々頭を悩ませるのだった。
「おーい、リーダー!」
そんな時、後方からヴォルベスの声が響いて来た。
「おお、少し遅かったな!」
ダムクは視界から結晶巨大蜥蜴が外れない様に顔を後ろへと少し向け、ヴォルベス達の姿を目に映す。
「如何した如何した!? 苦戦中か!?」
ヴォルベスは心配した様子の無い軽快な声で戦闘中のダムクに問い掛ける。
「苦戦って程じゃ無ぇさ! ただ、中々攻撃させてくれなくてちょいとヤキモキしてた所だ!」
そんなヴォルベスの問い掛けに対し、ダムクは笑い飛ばす様に答えるのだった。
「リーダー! 奥から別の結晶巨大蜥蜴が1匹此方に来てるよぉ!」
「おいおい、更に1匹追加かよ!」
ミリスティからの感知報告にダムクは呆れた笑みを浮かべる。
「なら追加が来る前に、とっとと此奴等を倒すぞ!」
「応!」
「はーい!」
「了解!」
ダムクの一声に一党仲間は駆けながら戦闘態勢へと切り替えた。
「シャラナよ、結晶巨大蜥蜴が放つ〈水晶弾〉は任せる。儂は防壁で〈水晶の息吹〉を防ぐ」
「はい!」
「ライファ、遠慮無く1匹仕留めてきなさい」
「畏まりました、エルガルム様」
「ベレトリクスは――――」
「息吹で発生した邪魔な水晶の除去でしょ。任せさない」
「では、ガイアには追加の1匹を任せようかの」
「ンンンンー」(まっかせてー)
エルガルム達も戦闘態勢へと切り替え、各自の役割分担を即座に決める。
3匹の結晶巨大蜥蜴は向かって来る彼等を目にし、即座に〈水晶弾〉で迎撃し出す。
「さぁ来たぞ、シャラナ!」
「はい!〈疾風衝撃〉!」
エルガルムの掛け声の後にシャラナは風系統魔法を発動させ、前方広範囲を吹き飛ばす爆風を発生させる。
飛来する多数の水晶弾は魔法の爆風によって弾かれる様に遮られ、そのまま強烈な風圧に押された水晶弾は結晶巨大蜥蜴へと吹っ飛び返る。
自ら飛ばした水晶弾に直撃を喰らった結晶巨大蜥蜴3匹の内2匹は怯み、特殊技能〈水晶弾〉での攻撃を止める。
「ヴォル、上に飛ばして」
「応とも!」
ミュフィは軽く跳躍し、それに合わせヴォルベスは彼女の背後で右脚を後ろへ振り被る。そして勢い良く蹴り上げを繰り出す直前、ミュフィは両脚で彼の脚に着地する。
着地の瞬間と言える直後、ミュフィはヴォルベスの蹴り上げに合わせ斜め上空へと跳躍した。
ヴォルベスの脚力から繰り出す蹴り上げの力により、ミュフィの跳躍は弾かれた銃弾の速度すら超え、一瞬で大晶洞の天井に着く。
「特殊技能〈縮地:瞬〉!」
ヴォルベスはミュフィを蹴り上げた後、瞬時に1匹の結晶巨大蜥蜴の懐へと潜り込む。
「〈剛烈瞬昇脚〉!」
そして透かさず結晶巨大蜥蜴の腹部に強烈な蹴り上げを繰り出し、衝くが如く上空高くへと飛ばす。
「〈暗殺致命斬〉」
その瞬間にミュフィは天井から地面に向かって跳躍し、武技による鋭利な斬撃で蹴り上げられた獲物の太い首を一瞬で切断した。
ミュフィがヴォルベスに蹴り上げられてから結晶巨大蜥蜴の首を切断する迄――――僅か4秒以内である。
「〈影の束縛〉」
別の結晶巨大蜥蜴1匹に対し、ライファが影による束縛の魔法で動きを封じ込む。
奇妙な実体を得た影に縛られた結晶巨大蜥蜴は口を開け、影を操る術者であるライファに〈水晶の息吹〉を放とうとし出す。
「はい、お口閉じてぇ!〈瞬速急昇曲射:大衝撃の矢〉!」
ミリスティは武技と魔法の合わせ技で、魔力で構成された矢を連続で三射放つ。
魔力の矢は急速に中空を奔り、至近距離に到達した直後に急上昇し結晶巨大蜥蜴の顎に直撃する。
しかし、魔力の矢は貫通せず鏃部分が接触した直後に衝撃が発生し、結晶巨大蜥蜴の頭は殴られたかの様に上へと押し上げられた。
ミリスティが放った魔法の矢――――〈大衝撃の矢〉は接触した対象に魔力の衝撃を与える特殊な〈魔法の矢〉だ。貫通性は無い代わりに、敵を吹き飛ばす強烈な打撃の如き衝撃を与える事が出来る。
それが3発、連続で顎に直撃した結晶巨大蜥蜴は、その衝撃で口を無理矢理閉じさせられ、息吹による攻撃を妨害されてしまうのだった。
「〈暗影の断頭台〉」
其処に透かさずライファは次なる魔法を発動させ、更に増やした実体の影を結晶巨大蜥蜴の首に纏わり付き、真っ黒な断頭台の立体影絵へと形作った。
そして暗影の大刃が勢い良く急速落下し、捕らえた魔獣の首を無慈悲に斬り落とした。
(ひぇ…! おっかね~…!)
ガイアはその恐ろしい魔法による残酷な光景を目にし、背筋を凍らせるのだった。
「良ーし、後1匹!」
ダムクは早々に片を付けようと剣を持つ右手を後ろへ構え、武技を放とうとした。
そんな彼の構えを視界に映した結晶巨大蜥蜴は即座に〈水晶の息吹〉を放ち、攻撃妨害を仕掛ける。
「そのまま構えておれ。〈魔力大障壁〉」
エルガルムは即座に魔法を発動させ、ダムクを中心に小規模に反し強固な防壁を展開する。
結晶巨大蜥蜴の息吹は辺りを水晶塗れにするも、魔法の防壁で護られているダムクには一切届かず。
〈水晶の息吹〉は生物無機物問わず、その特殊な息吹に触れたものを水晶で固めてしまう効力は有るが、衝撃といった破壊を齎す効力は無い。その為、障壁や盾といった物を破壊する事は出来ないのだ。
結晶巨大蜥蜴が息吹を止めたその瞬間に、今度はベレトリクスが魔法を即座に発動させた。
「物質分解:粉砕〉
魔法発動後、息吹によって広範囲に生じた水晶を一瞬で粉微塵と化す。
「武技〈真空瞬波斬〉!!」
視界から水晶の障害物が排除され、息吹を放つ為に息を吸う結晶巨大蜥蜴に目掛けて、ダムクは剣を右から左へと勢い良く振り、飛ぶ斬撃を放った。
真空を成した鋭い刃は、煌めき舞う無数の水晶粒の空間を斬り裂きながら一気に奔り抜け、結晶巨大蜥蜴の巨体を横一文字に両断するのだった。
「おっし、即回収!」
3匹の結晶巨大蜥蜴を倒した後、それ等を魔法の小袋に急ぎ突っ込み収納する。
「追加の1匹、来たな」
そしてその後、奥から地面を鳴らす足音をダムクは耳にした。
その足音が鳴る方向へ視線を向ければ、肉眼でも遠くから結晶巨大蜥蜴が此方へと迫って来ているのがはっきり視認出来た。
「ホッホッホッ。さ、出番じゃぞガイア」
「ンンンンー!」(良し来たー!)
四足走行し迫る結晶巨大蜥蜴に対し、ガイアは悠々と歩いて向かって行った。
向かって来たガイアを目にした結晶巨大蜥蜴は、先手で〈水晶弾〉を放つ。
放たれた数多の水晶弾を視界に映しながら、ガイアは標的に向かってただ歩く。
前方から放射線を描き飛来する水晶弾が降り注ぎ、全身を滅多打ちにする。
だが、怯む事は無かった。
傷付く事も無かった。
痛痒も生じ無い。
ガイアに直撃した水晶弾はただ当たって砕けるだけで、損傷を与える役目を果たせず無駄に砕け散らすだけだった。
「全然効いて無ぇでやんの」
水晶弾が降り注ぐ中、降雨を気にせず浴びるかの様にガイアは真っ直ぐ歩み、結晶巨大蜥蜴へと近付いて行く。
水晶弾が効いていないガイアの平然とした様子を目にした結晶巨大蜥蜴は、息を大きく吸い、特殊技能〈水晶の息吹〉を勢い良く口から吹き放つ。
吹き荒れる息吹は地面を水晶で覆い尽くし、地を伝い奔りながらガイアに向かって水晶が発生する。
それに対しガイアは―――――何もしなかった。
吹き付ける〈水晶の息吹〉を一切防がず、そのまま浴びる。
直に浴びた箇所から水晶が発生し、あらゆる方向へとガイアの巨体を浸食する様に伝い、発生した水晶は徐々に大きく成長する。
しかし、やっとの事で水晶は巨体の広い範囲を覆うが、動きを止めれたのはほんの一瞬だけ。全ての関節に達し固めるも、ちょっと力を入れて動かされただけで簡単に壊されてしまう。
顔に纏わり付こうとも、軽く掻くだけでいとも簡単に引っぺがされる。
止まる事無く平然と迫り来るガイアに、結晶巨大蜥蜴は困惑と焦りが生じる。
どんなに吹き付けても水晶の浸食は遅く、本来なら動けなくなる程に覆い固まっても容易く砕かれる。
――――特殊技能〈魔法属性耐性〉から〈上位魔法属性耐性〉へ昇華――――
(お! 魔法属性の耐性特殊技能が上がった! あの息吹、やっぱり魔法属性が備わってるのか)
此処で魔法属性への耐性が上昇した事に、ガイアは素直に喜ぶ。
その影響により、身体に纏わり付く水晶の成長速度が著しく落ち、更には先程よりも水晶が発生しなく為っていた。
結晶巨大蜥蜴に有ったたった1つの勝機である〈水晶の息吹〉は最早効かないと言って良い。
例え全身を水晶漬けにしても、ガイアの膂力なら強引かつ簡単に破壊して脱出出来るだろう。
(さぁて、もうあんまり効かないぞー。って、ちょっ、未だ吹くんかい)
しかし、結晶巨大蜥蜴はしつこく〈水晶の息吹〉を吹き付け続ける。
(それにしても、この息吹って本当に変わってるなぁ)
息吹を吹き付けられる中、ガイアは悠々と歩きながら結晶巨大蜥蜴の特殊な息吹について暢気に考察し出すのだった。
(息と共に魔力を吐いてる……感じかなぁ。魔力を何かに現象させる魔法とは違うし、魔力だけで如何やって水晶を発生させてるんだ?)
魔力は特殊な活力だ。魔法はその活力を術式によってあらゆる現象を起こす技術である。
性質によって異なるが、活力だけでは現象は起こらない。それとは別の何かが加わらなければ何かを発現出来ない。
この息吹には魔力以外にも何か含まれている筈だ。
そうガイアは思い、結晶巨大蜥蜴の息吹の観察し、その性質を見抜こうと考察し続ける。
(そういえば、このキラキラした粒は何だろう?)
ガイアは自分の身体に付着する煌めく微粒子を凝視しする。
視界に映した微粒子が手の甲に付着した直後、水晶が発生し、徐々に大きく成長し出す現象を目の当たりした。
(……もしかして、そういう仕組みか?)
ガイアは結晶巨大蜥蜴の息吹を理解し、ある試みをしようとする。
(魔力を喉辺りに溜めて……あ、喉が圧迫されてちょっと苦しい。圧縮圧縮っと。……良し、後は肝心の微粒子だ。上手くこの特殊技能が機能してくれれば良いけど…)
ガイアは喉に膨大な魔力をギュッと溜め、狙いを前方の結晶巨大蜥蜴に向ける。
(良し、行っくぞーっ!)
そしてガイアは膨大な空気を吸い込み、グッと腹と肺に力を入れた。
(お返しだーっ!!)
口を大きく開け、溜め込んだ魔力を一気に吹き出す。
ガイアが繰り出した強烈な息吹はまるで暴風の如き威力であり、その息吹に触れた場所は一瞬で大きな水晶が発生し、発生直後には更に急成長し大きく為る。
そして地を伝い奔る速度も結晶巨大蜥蜴のものより速く、ガイアの息吹は前方の地面全体をあっという間に水晶地帯へと一変させ、魔法属性への耐性を持つ結晶巨大蜥蜴を水晶で固めて拘束するのだった。
――――特殊技能〈水晶の息吹〉修得―――――
(お! やった! 新しい特殊技能だ!)
新たな特殊技能を得た事にガイアは純粋に喜んだ。
「おいおいマジか!〈水晶の息吹〉を真似やがった!」
〈水晶の息吹〉を吹き出すガイアの目にしたダムクは驚愕する。
「ホッホッホッ! こりゃあ凄まじい威力じゃ! 結晶巨大蜥蜴の息吹なんぞちっぽけに見えちまうわい!」
エルガルムは驚きを抱きながら愉快そうに笑う。
無論、他の全員もガイアが放った豪快な息吹に驚き、視界全体が水晶で埋め尽くされ一変した美しい光景に目を奪われるのだった。
(水晶を生成する特殊技能が有れば出来るかもって思ったけど、この威力は予想外だったなぁ)
結晶大蜥蜴には〈水晶生成〉という生まれ持った特殊技能を有している。この特殊技能により、攻撃特殊技能である〈水晶弾〉が使えるのだ。
そして結晶大蜥蜴が成長し結晶巨大蜥蜴に成ると、口内に石英微粒子を分泌する特殊な器官が形成され、特殊技能〈水晶の息吹〉を使える様に為る。
これ等の特殊技能は生まれ持った生体によって得る部類である為、身体の構成がそれに適していない生物は修得する事は出来ない。
しかし、ガイアには〈宝石物質生成〉の特殊技能が有る。〈水晶生成〉の上位互換だ、水晶以外の原石だって生成出来る。
ガイアは特殊技能を使って、魔力と共に吹き出すと同時に、喉の内側に微粒子状の水晶もとい石英を生成した。
その試みは成功した。
それも予想以上の結果だった。
(……これは遣り過ぎちゃったなぁ)
しかし、〈水晶の息吹〉の効力が思った以上だった所為で行く道一帯が大きな水晶で埋め尽くされ、道が塞がってはいないが面倒な障害物を造ってしまった。
そんな中に結晶巨大蜥蜴が、水晶でガチガチに固められた状態で埋もれていた。唯一埋もれていない頭と左前脚、そして尻尾に力を入れて動かし、脱出しようと必死に藻掻いていた。
(この状態を放置するのは冒険者の人達に迷惑掛けちゃうし、開通しないとな)
そう思ったガイアは自分で造り出した水晶地帯へと近付き、片手を前に翳した。
(えーっと、効果範囲を結晶巨大蜥蜴の手前までにして、手頃な大きさに。〈物質分解:分裂〉)
ガイアは錬金魔法を発動させ、視界全体を埋め尽くす水晶を自分の掌程の大きさへと一気に崩し割った。
(良し。出番だよー、ミッくーん)
そしてガイアは背に乗せている擬態宝箱ことミッくんを降ろし、鎖の拘束を解く。
地面には大き目の水晶が多数ゴロゴロと転がる光景を前にした擬態宝箱は飛び付き、喜々とし次々と水晶を喰らい出した。
(さてと、後は結晶巨大蜥蜴だけだ)
擬態宝箱に水晶の後始末を任せ、ガイアは固められて動けない標的へと向かう。
迫って来たガイアを目にした結晶巨大蜥蜴は〈水晶の息吹〉を吹き付けるが、それに対しガイアは只の息で吹き返す。
互いの距離が2,3メートル以内と為るも、結晶巨大蜥蜴は〈水晶の息吹〉で抵抗しようとする。
(そら! もう吐かせんぞー)
結晶巨大蜥蜴は息吹を吐く為に口を開こうとした所を、ガイアは大きな片手で口をガッチリ掴み、最後の攻撃手段を封じ込める。
(悪いけど、倒させて貰うよ!)
そして結晶巨大蜥蜴の首に腕を回し、顎を掴む。
「ンンンッ!」(そぉらっ!)
掴んだ頭を180度以上思いっ切り捻り回し、結晶巨大蜥蜴の太い頸骨を圧し折った。
そして頭を力無くだらんと下げ、静かに生命が潰えるのだった。
倒した結晶巨大蜥蜴を纏わり固まった水晶から持ち出す為に、ガイアは自分で発生させた水晶を殴り砕き、取り出したそれを皆の下へと運んで戻る。
「お疲れ、ガイア」
「ンンンンンンー」(シャラナもお疲れー)
シャラナは労いの言葉を、ガイアは労いを込めた声を互いに交わす。
「うーし、結晶巨大蜥蜴の掃討完了! 全員御疲れ!」
ダムクの掃討の終了と労いの言葉に、全員の表情に浮かぶ適度な緊張感が薄く為る。
「いやー結晶巨大蜥蜴4匹は大量だわぁ」
そんな中で、ベレトリクスは完全に緊張感が消え、結晶巨大蜥蜴の素材を手に入れた事に御満悦の様子だった。
「これだけ有れば巻物用の皮が軽く数百枚作れるわぁ」
結晶巨大蜥蜴の皮は中級魔法の巻物としても良く使われるのは勿論の事、防具の素材としても使われている。結晶巨大蜥蜴の皮は鉄より頑丈で軽く、更には特殊技能〈魔法属性耐性〉が宿っている。その素材で作られた防具は、防御面が低い軽装備の者達に好まれているのだ。
特に結晶巨大蜥蜴の背面の皮は特殊技能〈水晶生成〉の性質も有り、職人の腕次第で独特な防具にも成り、更には〈水晶弾〉を使用する事が出来る面白い武器にも成るそうだ。
「じゃ、それ仕舞っちゃうからちょーだいっ」
(はいはーい)
ベレトリクスに強請られたガイアは抱えている結晶巨大蜥蜴を渡そうとした。
その時――――
ガブリッ!
(………ん??)
「………え?」
不意でも衝くかの如く、擬態宝箱が結晶巨大蜥蜴の頭に喰らい付く。
いきなりの事に、ガイアとベレトリクスは呆然としてしまう。
そんな2人の様子など御構い無しに、擬態宝箱は喰らい付いた獲物を吸引するが如く、一気に呑み込み出す。
そしてガイアよりも大きい結晶巨大蜥蜴はあっという間に呑み込まれ、擬態宝箱の腹の中へと消えてしまった。
擬態宝箱はケフッと満足した息を吐いたその後、ベレトリクスは呆然から我に返った。
「おいコラァー!! 勝手に喰ってんじゃないわよ!! あたしの皮返せーっ!!」
折角の結晶巨大蜥蜴を勝手に喰われた事にベレトリクスはブチ切れ、ドスの利いた声を上げながら擬態宝箱の口を抉じ開けようとする。
「ムギギャギギギギ、ンギギャギギガガガガァ!」(良イジャンカ別ニ、1匹クライ喰ッテモ良イダロケチィ!)
そんな彼女に対し、擬態宝箱は抵抗しながら文句を発する。が、擬態宝箱が何を言っているのかは当然伝わらない。
(あちゃ~。ミッくんから目を離すのは不味かったか~)
砕いた水晶の後始末を快く遣ってくれたのは良いが、擬態宝箱の生まれ持つ性質を考えれば、結晶巨大蜥蜴に喰い付くのは当然だ。
その事を失念していたガイアは反省するのだった。
懐いているとはいえ、野性的な欲求衝動を内に持っているのだ。調教師系の職業を修めた者がそれを自制させる訓練が出来るだろうが、それが出来る者はこの中に居ないので仕方が無い。
「まぁまぁ落ち着け、ベレトリクスよ。皮の方は3匹確保してあるのじゃし、それに擬態宝箱が喰らった結晶巨大蜥蜴から何かが出来るじゃろうから、寧ろ今回は随分得をしとると思うぞ」
「……まぁ……そうね」
エルガルムにそう言われたベレトリクスは渋々な顔をしながら、擬態宝箱に何かしらの魔法――――恐らくは死なない程度かつ威力は高めの攻撃魔法――――を打ち噛まそうとするのを止めた。
ベレトリクスから解放された擬態宝箱はホッとし、自らガイアの下へと戻って行った。
「そうだ。リーダーよ、救助した冒険者達に頼まれた事が有るのだが」
「頼まれた事?」
「うむ。彼等は結晶巨大蜥蜴の不意な出現に帰還の巻物で緊急脱出しようとしたそうだが、息吹を放たれた際に落としてしまったそうだ。それを探し回収した後に戻ると約束したのだ」
「なるほど。帰還の巻物を所持してなかった訳じゃ無いって事か」
ヴォルベスから救助した冒険者達の事情を聴いたダムクは理解した。
「もしかして、その落とし物は水晶漬けにされてたり?」
「うん、されたって言ってたよぉ」
落とした帰還の巻物についての問いに対し、ミリスティが答えた。
「落とした場所となると、この先なのは間違い無いな」
この先の何処かに落ちているのは解った。
しかし、それが落ちている地点がどれ位の距離なのかが不明瞭だった。
「それなら丁度良いわ」
ベレトリクスはそう口にした後、視線をシャラナへと向ける。
「シャラナ、折角の機会だから探知の実践してみなさい。落とし物は魔道具だから……解るわね?」
「はい、遣ってみます」
シャラナは目を閉じると同時に短杖を真っ直ぐ縦に持ち、魔法を行使する。
「〈魔道具探知〉」
魔法発動時、シャラナを中心に魔法陣が展開される。
「……見付けました」
ほんの数秒で、この先で落ちている魔道具を探知した。
「此処から3キロメートル程の辺りに1つ在ります」
「3キロメートル先か。ミリスティ、其処迄に魔物の気配は在るか?」
「居ないよぉ。結晶巨大蜥蜴が暴れてたし、暫くは他の魔物はその辺りに近付かないと思うよ」
「それなら進みながらの警戒はする必要無いな。とっとと拾いに行こう」
ダムクの意見に全員は異議無しと頷き、一行は再び駆け出した。
駆け出してから早数分後、水晶で固められた帰還の巻物の在る場所へと辿り着く。
「これか。こりゃ見事に水晶漬けにされてるな」
ダムクは帰還の巻物が封じ込めている水晶へと近付き、軽く叩く。
「ふむ、そのまま砕くと中の巻物が破れる可能性が有るな」
「ああ。こういうのは鶴嘴で少しずつ丁寧に砕かねぇとな」
ヴォルベスが帰還の巻物が破けてしまう懸念を口にし、ダムクは鶴嘴を取り出そうと腰に付けた魔法の小袋に手を回す。
「あたしが遣るわ。ダンジョン内で彼等を待たせるのは危険だし、さっさと届けて上げましょ」
ベレトリクスはそう言い杖を水晶に差し向け、魔法を発動させる。
「〈物質分解:粉砕〉」
錬金魔法による分解作用で水晶は無数の微粒子へと一変し、サラサラと崩れた水晶の中から顕した帰還の巻物をダムクが拾い上げる。
「さて、後は届けるだけど、走って戻るより転移で楽しちゃいましょ。という訳で、エルガルム宜しくぅ」
「うむ、では転移するぞ。皆、そのまま」
エルガルムはそう言った後に魔法を発動させた直後、その場に居る全員は忽然と消えるのだった。




