迷宮の異形創造者24-2
大晶洞へと足を踏み入れてから30分以上が経過した。
ミュフィとライファが奥の様子を探る為に先行してから暫くの間、ダムク達とエルガルム達はひたすら歩を進める。
「ねぇリーダー、かなり奥の方から地鳴りしてる。何かが暴れてるみたい」
ミリスティは長い耳をぴくっと無意識に動かし、驚異的な聴力で奥で鳴り響いている地鳴りを拾う。
(…………全然聴こえない)
ガイアは短く集中して耳を澄ませてみたものの、彼女が言う地鳴りの音は僅かすら耳に入って来なかった。
(ホント凄い耳してるなぁ)
特殊技能による強化が有るにしても、常人では聴き取れないかなり長距離先の音を拾えるのは驚異的である。
「なるほどな。大物決定だな」
ミリスティの報告を聴いたダムクは、この先の奥に大物が居ると確信する。
「後はその大物が暴れてる原因と状況だな。他に何か別の音は聴こえないか?」
「えっとねぇ、人が駆ける足音が複数混じってるよ。人数は8人だね」
「戦闘中って所か」
「ううん、ずっと殆ど同じ律動の足音しかしないよ。それも此方に向かって」
「あー……逃走中か」
如何やら先の奥で他の冒険者達が居り、何かしらの大物に襲われているらしい。
「如何するリーダー、助けに向かうか?」
ヴォルベスはダムクに同業者を助けに行くか否かを問う。
「未だ詳しい状況と大物が何なのかは定かじゃねぇが、助けれるなら助けに行かねぇとな」
その問いに対し、ダムクはニッと笑みを浮かべて答えた。
そしてエルガルム達の方へと振り返る。
「という訳で、今から急いで救助しに向かいます」
「構わんとも。それに儂等が行く先に居るのじゃから、何の道戦闘は避けれんじゃろう」
ダムクにそう言われたエルガルムは、鷹揚に返答する。
「では走る前に…。シャラナ」
「はい。〈敏速な脚〉〈助力の大追風〉」
シャラナは魔法を発動させ、この場に居る全員に移動速度の強化・補助の魔法を施す。
「良し! それじゃあ走るぜ!」
先頭のダムクが最初に駆け出し、その直後に彼の後を追う様に他の全員も駆け出した。
大晶洞内を驚異的速度を以て疾走し、奥深くへと一気に進み出して僅か1分程、不規則に鳴り響く地鳴りが聴こえてきた。
その地鳴りは巨大な何かが地面を強打している様な印象だ。
そして何やら不思議な音も混じって聴こえる。
パキパキパキンッと、まるで硝子が割れる音と金属が圧し折れた音が混ざり合った神秘的に思わせる音だった。
そんな不思議な音が鳴り響くその中から、人の悲鳴が微かに聴こえた。
「ミリスティ、未だ感知出来ねぇか?」
ダムクは駆けながらミリスティに確認を問う。
「未だ」
それに対し、ミリスティは短く返答する。
そんな短い遣り取りの直後、前方から全身黒尽くめの者が此方に向かって来るのが見えた。
「皆様、御待たせしました」
奥から戻って来たライファは途中で疾走を止め、駆けて来るダムク達とエルガルム達が近付いて来るのを待つ。
「ミュフィは何処に?」
ダムクは疾走しながら前方で待つライファに問い掛ける。
「ミュフィ様はこの先の奥で残られました。詳しい状況は道中で御説明致します」
ライファはそう返答した後、彼等が一定の距離まで縮まったのを確認してから再び駆け出し先行する。
「ライファ、そのままで。〈敏速な脚〉〈助力の大追風〉」
「ありがとう御座います、御嬢様」
シャラナはライファにも移動速度の強化・補助の魔法を施し、ライファはダムクの前を走りながら彼女に感謝を告げた。
「それで状況は?」
「奥で巨大な結晶大蜥蜴が8名の冒険者を襲っています。その数は3匹、現在ミュフィ様が御1人で冒険者達を護りながら立ち回っております」
「巨大な結晶大蜥蜴……やっぱり〝結晶巨大蜥蜴〟か」
ライファからの現状報告に対し、ダムクは驚かずだった。
この大晶洞で出現する大物――――結晶巨大蜥蜴は大体の中堅冒険者達が知る有名な魔獣種だ。予想するのは容易い上、S等級冒険者であるダムク達は幾度も倒した事がある。故に驚くのは今更というものである。
「結晶巨大蜥蜴が3匹となると、B等級の一党一組だけでは骨が折れる状況だな」
「ああ。それくらいの力量が有れば何とか逃げ延びれるだろうが、現在逃げ回ってる冒険者一党がそれより下のC等級となると不味いだろうな」
ヴォルベスとダムクは、奥で結晶巨大蜥蜴3匹から必死に逃げてるであろう冒険者達の心配を抱く。
「しかしミュフィが居るとはいえ、1人で8人も護りながら3匹同時に相手取るのは難しいだろう」
ミュフィは高い俊敏性による移動速度や回避、隠密からの不意打ち、力では無く技量と高速による鋭い一撃を得意とした盗賊職の冒険者だ。しかしその反面、自身を含む味方を護るという防御面はとても弱い。
S等級冒険者であるミュフィの実力なら、ある程度の攻撃は防ぐ事も往なせる事も出来るが、防御に特化した戦士職である守護戦士と比べれば劣っている。
ミュフィが本気を出せば1人でも結晶巨大蜥蜴3匹程度は容易く倒せるが、他の同業者8人を護るという不利な状況を課されるとそうは行かなくなる。
結晶巨大蜥蜴を優先でどんなに迅速に倒しても、その短い間で万が一に敵の攻撃が護るべき対象に飛んでしまう事が在る。脅威を排除したが死者が出たなど、それでは意味が無い。
敵を倒し排除するのでは無く、人命を救助し、安全の確保を優先するのが〝護る〟という事に成るのだ。
「大丈夫だよ。ミュフィの事だし、籠手の魔力糸でも巻き付けて引っ張り回してるよ」
「おっとぉ……それはそれで急いだ方が良いな」
ミリスティの言葉にダムクは苦笑の色を浮かべ、逃げ回ってる冒険者達に別の不安を抱くのだった。
ライファと合流してから約1分、奥から響く音が徐々に大きく為っていく。
音の発生源へと近付いている証拠だ。
「感知範囲内に入った」
「なら再確認だ。行く道での魔物の数は?」
「変わらず3匹」
「冒険者達は生きてるか?」
「現在も気配は在る。生きてるよ」
ミリスティとダムクは短い問答で、他の全員に未だ視ぬ先に居る存在と数と生死を把握させる。
「良し、先ずは救助からだ。俺が特殊技能で大物を釘付けにしている間に、全員で同業者の救助と安全確保を。それが完了したら戻って戦闘だ」
ダムクの指示に対し、他の全員は其々返事をし、了解の意を示す。
「それと御令嬢さん。結晶巨大蜥蜴と鉢合わせたタイミングで良いから、俺に対魔法属性の防護魔法を頼む」
「はい、解りました」
ダムクから魔法属性に対する耐性強化を施す魔法を即座に発動出来る様、予め必要量の魔力を手に持つ短杖に込める。
更に疾走し続けて数十秒、彼等の視界に小さな影が9つ映り込む。
そして後ろからは大きな影が3つも映り込む。
「やっぱりか」
ダムクは視線の先で起こっている光景を目にし、予想通りだったと苦笑の色を浮かべる。
小さな影9つの中で先頭を走る者――――ミュフィが籠手から生成した魔力の紐を其々8人の冒険者の胴体に巻き付け、背後から迫り来る魔獣に追い付かれない様引っ張りながら疾走していた。
それに対し、引っ張られている8人の冒険者は必死の形相で走っていた。
背後から追い掛けて来る3匹の魔獣――――結晶巨大蜥蜴が水晶弾を複数放たれた際、ミュフィが巻き付けた魔力の紐を思いっ切り引っ張り、冒険者達に攻撃が当たらぬ様に強引に回避させていた。
しかし、遣り方が少々雑であり、跳ねるが如く無理矢理引っ張られる冒険者達は、心身共に相当苦しそうな様子だった。
どれ程の時間を走っているのかは判らないが、体勢がブレながら走っている状態で転ばずにいられるのは奇跡と言える。
「急ぐぞ! 追われてる冒険者が素っ転ばねぇ内に!」
何時転んでも可笑しくない。そんな最悪の事態を避ける為にダムクは全員に速度を上げる事を促し、脚の回転を加速させた。
互いの距離が一気に縮まり一定の残り距離と為った瞬間、ダムクは背の大剣を鞘から素早く引き抜き、それと同時に大型の盾を前方に構えた。
「〈中位魔法防護〉!」
シャラナはそれを見逃さず、即座に魔法属性への耐性強化を彼に施す。
「ミュフィ、俺が引き付ける! そのまま全員を安全な距離まで退避させろ!」
「了解!」
ダムクは更に加速させ、ミュフィと擦れ違うと同時に前方から迫り来る3匹の結晶巨大蜥蜴へと向かって跳躍する。
「そぉら、俺が相手だ蜥蜴共ーっ!!」
ダムクは咆哮と共に特殊技能〈敵意挑発〉を発動させ、3匹の結晶巨大蜥蜴の敵意を強制的に自身へと向けさせた。
特殊技能による特殊な挑発効力を受けた結晶巨大蜥蜴3匹は、背面の巨大水晶を飛ばし、迷い無くダムクへと攻撃を仕掛け出す。
一方、他の者達は結晶巨大蜥蜴から離れ、安全な場所まで走っていた。
救助した8人の冒険者は酷く疲労している状態だ。その様子から推測するに、長時間追い回されていたのだろう。その証拠に彼等の駆け足は遅く、重々しさが感じられる。
ダムクを除く一行は、そんな彼等の手を各自で引っ張り背負ったりと走る補助をし、その中でガイアは大きな岩石の両手で2人を持ち上げて共に駆ける。
「此処まで来れば、一先ず大丈夫じゃろう」
安全な距離まで退避したと判断し、全員は脚を止めた。
「うん、近くに魔物はうろついていないね」
ミリスティは自身の感知範囲内――――中距離範囲に魔物はうろついていない事を口にし、それを聴いた8人の冒険者は深い安堵を浮かべ、崩れ落ちる様に地面に座り込んだ。
「た……助かった……」
「や……ヤバい……、息……苦しい…」
「あんなのが……出るなんて……」
ぜぇぜぇと荒い息を幾度も吐き、過剰に溜まった疲労を吐き出し息を整える。
「助けてくれて……はぁ、ありがとう御座います……はぁ…」
そんな彼等の中から戦士風の男性冒険者が口を開き、代表で感謝を告げる。
「出会って早々済まないが、俺達はあの結晶巨大蜥蜴を倒してそのまま先を行く。逃げ回ってた様子から見るに、帰還の巻物は持っていない様だな」
ヴォルベスは8人の冒険者に向けて、これから直ぐにさっきの場所に戻る事と帰還の巻物の有無の確認を口にする。
「実は……はぁ…、あの結晶巨大蜥蜴が現れた時に、急いで使おうとしたんだけど、いきなり、息吹を打っ放されたんだ。はぁ……そ、それで…避けた時に手放しちまったんだ。御蔭で帰還の巻物は水晶漬け、腕はこの様だ」
(水晶漬け? ってうわっ?!)
息吹を吹かれてからの水晶の中という内容にガイアは首を傾げるが、成り行きを説明してくれた1人の冒険者の腕を目にし驚愕する。
(如何なってるのソレ…!)
彼の片腕は水晶で固められており、まるで氷漬けにでもされたかの様な状態だった。
「なるほど。それはこの先の奥で手放したのか?」
ヴォルベスの質問に対し、彼等8人の冒険者は頷き肯定の意を示す。
「良し解った。暫くは此処に魔物は来ないだろうから休んでいろ。結晶巨大蜥蜴を倒した後に探そう」
「本当ですか!? 助かります!」
ヴォルベスの言葉に、8人の冒険者は表情を明るい色を浮かべた。
「あの、済みません。少し待って下さい」
急発進しようとしていたヴォルベスに対し、シャラナは慌てて止める。
「重傷の方は居ますか? 居ましたら私がこの場で直ぐ治癒します」
「嬢ちゃん、聖職者なのか!? 良かった、この2人を頼むよ。あの結晶巨大蜥蜴から逃げる際中で飛ばしてきた水晶弾に被弾しちまったんだ」
怪我を負った2人――――1人は腰に小剣、背には鎚鉾を有し、革鎧とその下に鎖着といった軽装で身を固めた戦士の男性。そしてもう1人は頭巾を被り、胸部に革鎧、金属製膝当て付きの革製長靴を履いたやや華奢な女性で、一見盗賊に見えるが背に金属製の弓と矢筒が有る事から弓術士の様だ。
何方も防御面が低い軽装だった為、被弾での損害が大きかった様だ。背中辺りから出血し、着ている衣服や防具に血が流れ染み込んでいた。
「そのままジッとしていて下さい。〈中傷治癒〉」
シャラナは負傷した2人に治癒魔法を施し、傷を治した。
「如何ですか? 未だ痛みは有りますか?」
「大丈夫だ、全く痛みは無いよ」
「ありがとう、助かったわ」
傷が完治した2人の冒険者はシャラナに感謝を告げる。
「なぁ、これは如何にか出来ないか?」
腕を水晶で固められた冒険者は、シャラナに治癒魔法で自分の腕を如何にか出来ないかと、淡い期待を抱き訊ねる。
「それは治癒魔法じゃ除去出来ないわ」
そんな彼の問いに対し、シャラナではなくベレトリクスが答えた。
「損傷ではなく纏わり付いて固まってる、謂わば拘束された状態みたいなものよ。壊しちゃえば済むけど、物理的に壊すとなると苦労するわ」
「となると、手っ取り早く壊す魔法は……そうだ、錬金魔法の〈物質分解〉が在る」
冒険者8人の内の1人である男性魔導師は自分の頭の中にある知識から、仲間の腕に纏わり固まった水晶を取り除く最適な魔法を思い出し、ベレトリクスの方へと視線を向けた。
男性魔導師は錬金魔法を修得していない。
錬金魔法に関して玄人である錬金の魔女――――ベレトリクス・ポーランなら、水晶を分解し壊すなど御手の物である。
「そ。錬金魔法での分解なら破壊効力を持った魔法で壊すよりずっと安全」
ベレトリクスはそう言った後、水晶で固められた腕に杖を差し向け、魔法を行使する。
「〈物質分解:分裂〉」
対象である水晶を分解する術式が構築された魔法陣を展開した直後、腕に纏わり固まった水晶に一筋の亀裂が生じる。そして水晶は独りでにぱっかりと分かたれ、冒険者の腕から離れ地面へと落ちた。
「おお……あっさり取れた。ありがとう御座います」
水晶の纏わりから解放された彼は御礼を言い、ベレトリクスは妖艶な笑みで彼からの感謝を受け止める。
「さて、急ぎ戻るとしよう。例え彼でも結晶巨大蜥蜴3匹は少々梃子摺るじゃろうしな」
「そうね、のんびりしてたら素材が逃げちゃうかもだし」
(そっちかい)
心配の対象が結晶巨大蜥蜴という素材である事に、ガイアは胸中でツッコミを入れるのだった。
「では俺達は行く。帰還の巻物を見付けた後に直ぐ戻る」
ヴォルベスはそう言い残した後に颯爽と駆け出し、それに続きエルガルム達もダムクの下へと駆けて行くのだった。
その場に残された8人の冒険者は、高速で駆けて行く彼等の後ろ姿を見送る。
そしてあっという間にその姿は小さく為り、視界に映らなく為った。
「はぁ~。本当に助かった…」
誰かが疲労と安堵の息を深く吐く。
「ああ…。やっとの思いで此処に着いたってのに、まさか結晶巨大蜥蜴に出遭すとはな……」
此処に居る彼等はC等級の冒険者だ。C等級に昇級してから7ヶ月程、一党としてだけに限らず、個々としての力量もC等級帯の中では申し分無い。
しかし、結晶巨大蜥蜴を倒せる程の実力は流石に未だ無い。未だ闘った事が無い結晶大蜥蜴なら、此処に居る一党の何方か一組で何とか倒せるくらいだ。
そんな彼等の前に、今回は運悪く結晶巨大蜥蜴が現れてしまったのだ。
「けど良かったよ……充分に此処の水晶原石を採掘出来た後で」
彼等は今回初めて大晶洞に辿り着き、手当たり次第に水晶原石を採掘していた。
此処に辿り着く迄に倒し獲得した魔物の素材もそれなりに良い値として売れるが、大晶洞での水晶原石採掘はとても稼ぎ易い。
重さ200グラム位の大きさの水晶原石で相場は銀貨1枚。同じ大きさの他の原石と比べれば非常に安く、子供がちょっと溜め込んだ小遣い程度の価値である。
しかし、この大晶洞には膨大な水晶原石が在る。大量に採掘するれば、丸1日で金貨数枚は簡単に稼げるのも夢では無い。
塵も積もれば山と成るというやつだ。
因みに、運が良ければ紫水晶や黄水晶といった別の種類の水晶も採れる事があるらしい。
「……凄い人達に遇ったな」
誰かがぽつりと呟き、別の話題へと移す。
「ああ、あのS等級冒険者の一党――――堅実の踏破に助けられるとはな」
その呟きに対し、もう1人が口にし出す。
「しかも、まさかあの賢者と錬金の魔女に遇えるなんて、夢にも思わなかったよ」
「そういえば、あの可愛い嬢ちゃんは俺達と同じ冒険者なのかな?」
「彼女、冒険者にしては気品が有ったわ。もしかしたら貴族令嬢なのかも」
「となると、あの娘はあの一党に何かしらの依頼をして護衛して貰ってるって所か?」
8人の冒険者は次々に思った事を口にし出す。
この世で数少ないS等級冒険者や魔導師の頂点に君臨する偉人への憧憬や、テウナク冒険者組合では見掛けない気品の有る美少女の素性の予想、そしてS等級冒険者一党が美少女と偉人2人共にこのダンジョンに訪れた理由を其々が予想し合う。
「いや、それよりもさ、一番驚くモンが居ただろ」
「一番驚くモン?」
「ホラ、あのデッカい岩の奴!」
短い沈黙の後、発言者以外の者は思い出し、ハッとした表情を瞬時に浮かべた。
「あ!! そういえば居た!!」
今になってあの大きく異様な存在をはっきり思い出し、異口同音に驚愕の声を上げた。
「……まぁ、余裕が無かったから俺も忘れてたんだけどさ。ってかお前、俺と一緒にあのデッカい奴に運ばれてたじゃん」
「あ。うん、まぁそうだったけど、あの時は必死だったからそこまで把握する余裕無いって」
脅威から逃げるのに相当必死だったのだ。その姿を見て驚く余裕が無いのも無理は無い。
「あれって岩石の動像……なのか?」
「いや、あれは岩石で身体を構成された生物だ」
其処に男性魔導師が否定した後、己の見解を口にする。
「え!? あれ魔獣なのか!?」
「何の種かは判らないが、恐らくは超希少な生物なのだろう」
「あれ凄いよな! 背中にデッケー鉱石やら原石が有ってさ。あれ何種類有るんだ!?」
「あんなの見たら結晶巨大蜥蜴が掠んで見えちまうな」
岩石の巨体に加え、背には小さな規模の芝生が茂り、更には常緑の木の葉が無数に宿った小さな樹木を生やし、そして突き出した幾種もの鉱石や原石の塊。
あの異様にして神秘的な姿は印象に残る――――いや、一生忘れられないだろう。
「あれ全部売ったら、金貨何千枚に成るんだろう…」
「いや、金貨どころか白金貨数枚は軽くいくね。間違い無く」
「おいおい、冗談でも手ぇ出しちゃ駄目だぞ」
「そんな勇気無い無い。賢者様か錬金の魔女様の何方かは判らんけど、偉大な魔導師様のものに手を出すなんて畏れ多いよ」
堅実の踏破は有名だ。もし魔獣を飼っているのなら直ぐにテウナク迷宮都市中に知れ渡る筈だ。
しかし、ここ最近でそんな確かな情報どころか噂すら無い。
なので消去法で残るのは、賢者エルガルム・ボーダムと錬金の魔女ベレトリクス・ポーランだ。その何方かが、あの岩石の動像の様な生物の飼い主である可能性が非常に高い。
だがもしかすると、意外にあの美少女が飼い主である可能性があるやもしれない。
「確かにあれは非常に物欲が刺激されるな。……だが私はそれよりも、あの生物が持つ魔力に驚かされたよ」
「へぇ……あのデッカい奴の魔力そんなに凄いのか?」
男性魔導師の僅かに震える声に如何したのだろうと思いつつ、軽装戦士の男性はそんな彼に訊ねた。
「凄いなどという言葉では収まらない。あれは……賢者様と魔女様を遥かに凌いでたぞ」
「え…!?」
男性魔導師の言葉に全員が驚きの声を上げると共に、顔に驚愕の色を浮かべた。
「それ……冗談…なのか?」
軽装戦士の男性は問うが、男性魔導師は首を振って冗談では無い事を無言で肯定する。
「というか、賢者様と魔女様って魔獣使いの職業なんて持ってたっけ?」
そんな疑問にその様な噂は在っただろうかと、賢者と錬金の魔女に関する事を各々は思い返すが、出て来なかった。
「如何やって手懐けたかも気になるが、いったい何処で見付けたのやら……」
そんな疑問に対する予想も考えるが、誰も浮かべる事は出来ないのだった。




