導きの小さな虹23-5
広大な地下砂漠を照らす光量は減少し、暗い闇夜に包まれる。
そして猛暑の気温も一気に低減し、厳冬の如き寒冷地へと変化した。
そんな変化した空間の中、野営を設置し終えたダムク達とエルガルム達は防寒用の外套を全身で包み、篝火を囲い暖を取る。
そんな彼等の中、ヴォルベスは全身に毛が有るのと寒冷に対する耐性特殊技能を有している為、防寒用の外套を羽織らなくとも平然と過ごせる。
そしてガイアは〈極寒環境適応〉という特殊技能が有る御蔭で、寒さは当然へっちゃらである。
しかし、体感的寒さが平気であっても、暗い世界には如何しても火の明かりは欲しくなる。
篝火という明かりが存在するだけで、野外での暗闇に対する恐怖や不安という心の寒さは不思議と和らぐ。
そして寒冷の空気が充満した環境下で飲む暖かなスープは、普段よりも美味しく感じ、冷えた身体は芯から温まる感覚が心地良い。
此処はダンジョンという地下世界。夜が訪れれば、篝火といった何かしらの明かり無しでは何も見えない真っ暗闇に為る。
しかし、この地下砂漠領域は違った。
天井を見上げれば、数え切れない燐光の様な小さな光が在った。
その青白く淡い光は闇夜を仄かに照らし、天井を疑似的な夜空という光景を作り出していた。
まるで天然の天象儀である。
(うわぁ……綺麗だぁ)
ガイアはシャラナと一緒に天井を見上げ、地下世界ならではの自然的神秘への感動に浸っていた。
日常では決して見れない景色を自分の目で観る。
それは冒険でしか得られない体験であり、冒険ならではの醍醐味である。
「如何? 綺麗でしょ」
ミリスティがシャラナの傍に寄って声を掛ける。
「はい。こんな神秘的な光景は初めて観ました」
それに対し、シャラナは天井に鏤められた淡い光の光景の感想を口にする。
「あの光は全部鉱物でさ、夜光蛍石っていう原石なんだ。この地下砂漠を囲う天井や壁は、夜行蛍石の鉱床に成ってるんだ」
そこにダムクが天井で無数に存在する微光の正体を教える。
夜光蛍石とは暗い場所で自ら淡く青白い光を放つ特殊な原石で、暗闇の度合でよりはっきりと光り、明るい場所では光らない。
そしてそれは通常の蛍石が変質した鉱物であり、紫外線を浴びて蛍光を発する性質が、暗い場所で蛍光を発する性質と成った原石だそうだ。
まさに異世界ならではの鉱物である。
ガイアは思わず手を天井へと伸ばし、小さな淡い光を掴もうとする。
当然、幾度も空を掴む事しか出来ず――――唯々空振る。
そんなガイアの幼稚な行為に、他の皆は微笑ましく思いながら観るのだった。
「それじゃエルガルム、訊かせて貰おうかしら」
ベレトリクスはエルガルムに訊ね出す。
「あんたいったい何を視たの?」
その内容はエルガルムが視た不可知の存在――――ガイアを不規則な隠し部屋の場所へと導いた虹色の天道虫についてだ。
そんなベレトリクスの開口に、全員の視線はエルガルムへと向け出す。
(あ、そうだ! あの天道虫って何なのか解んない儘だった)
当然ガイアも虹色の天道虫について知りたいが為、皆と同様に視線をエルガルムに向ける。
「……このテウナク迷宮都市のダンジョンで、ある古い伝えが在るのは知っとるかの?」
「ある古い伝え?」
このダンジョンの探索経験の有るベレトリクスとダムク達は、此処のダンジョンに関する言い伝えを記憶から探り出す。
直ぐには探り出せない彼等の様子に、エルガルムはある言葉を口にする。
「――――〝幸運の虹虫〟と言えば解るかの?」
「…え?」
彼の言葉を耳にした瞬間、ダムク達は驚きの表情を浮かべた。
そしてベレトリクスは目を大きく見開き、ダムク達よりも濃い驚愕の色を浮かべた。
「あんたまさか、噓でしょ?!!」
「本当じゃ、この〈鑑定の魔眼〉であれをはっきりと詳細を覧た。間違い無い」
ベレトリクスの半信半疑な反応に対し、エルガルムは古い伝えが事実だと肯定する。
「あの、その〝幸運の虹虫〟とはいったい何ですか?」
古い伝えについて全く知らないシャラナは質問を口にする。
「〝幸運の虹虫〟ってのは、此処テウナク迷宮都市に古くから伝わる幻の虫なんだ」
彼女の質問にダムクが答えた。
「虫…ですか? それは何の種に属する虫なのですか?」
「それは解らないが、少なくとも怪昆虫種には属してはないらしい。妖精虫か精霊虫の何方かっていう説で伝わってるが、詳しい姿形は誰も知らないんだ。唯一伝わってるのは、虹色の小さな光と、其奴を目にした人は必ず幸運が齎されたっていうくらいさ」
(必ず幸運を齎す……)
通常では知覚する事が出来ないあの天道虫を視認出来た事。
導かれた先で不規則な隠し部屋が在った事。
そして、ダンジョンで中々手に入らない聖遺物具の入手。
そんな終始の出来事を思い返し、それが偶然の幸運とは違った特別な幸運なのだとガイアは納得を抱いた。
「では、この聖遺物具を手に入れられたのはその〝幸運の虹虫〟の御蔭なのですね」
シャラナは今日入手した召喚の聖鈴を手にしながら、それを見詰める。
「いや、それだけでは無い。ガイアの御蔭とも言える」
エルガルムは〝幸運の虹虫〟だけでは無い事を口にし出す。
「儂等の中で唯一視認出来たのはガイアだけじゃ。ガイアがあれを追い掛けてくれなければ誰も気付かぬ儘、それを手に入れる事は叶わんかったじゃろう」
「確かに。今回の幸運は神獣様が居て下さったからこそなのだろう」
エルガルムの言葉に対し、ヴォルベスは同意を口にする。
ヴォルベスに限らず、他の全員も同意の色を浮かべた。
「それで! 肝心の〝幸運の虹虫〟の鑑定詳細は!?」
ベレトリクスは問い詰める様に〝幸運の虹虫〟の鑑定結果をエルガルムに訊ねる。
問われたエルガルムは一息吐いてほんの短い間を置き、自身の目で視た〝幸運の虹虫〟の鑑定結果を口にし出す。
「正式な名称は〝豪福の虹天道虫〟。種別は精霊虫に属し、完全と言って良い高度な知覚阻害特殊技能で常に自身を不可知状態で身を隠しておるそうじゃ。等級はSじゃが、これは危険度や強さではなく発見の困難さと希少性を示したものじゃ」
今迄解明されなかった古い伝えの存在の名と属する種が明かされ、その場に居る語る者以外の者達は未知の何かを発見した新鮮な感動や驚きに似た声を思わず漏らす。
「面白い事に精霊の類でありながら攻撃系の魔法は一切使えず、補助と防御に特化した魔法ばかりと出てたわい」
「あら、それは珍しいわね。でもあるゆる知覚を阻害する高度な特殊技能があるから、闘う術もその修得も必要も無いんでしょうね」
精霊という部類に属していながら魔法による攻撃手段を有していないという詳細に対し、ベレトリクスは常に高度な不可知状態である為に、攻撃手段を持たないし有さないのだろうという見解を述べ自己納得する。
「特殊技能も同様に攻撃系の類は一切無いが、それ以外の特殊技能を多数有している上、その全て上位級ばかりじゃよ」
「ほう! どの様な特殊技能を有しているか?」
ヴォルベスは興味津々に訊ねた。
「防御・耐性系特殊技能は〈金剛鉄の肌〉に物理・魔法・炎・水・風・土・氷・電気・死霊・神聖・邪悪に対する上位損傷耐性、そして毒・麻痺・酸・石化・疫病・気絶・昏睡作用・恐怖・精神汚染・精神支配・幻覚・弱体化・呪詛・即死に対する状態無効と、灼熱と極寒の環境損害無効の特殊技能じゃ」
「うわっ! ヴォルの持ってる耐性より上回ってる」
保有している耐性特殊技能の多さにミリスティはギョッとし、それを聴いてたヴォルベスは目を見開き口をあんぐりと開ける。
(あの虹色天道虫さん、耐性特殊技能多過ぎ…! しかも状態異常に関して無敵過ぎるんだけど!)
ガイアも同様にあんぐりと口を開け、状態異常に関する反則級の無敵さに驚くのだった。
「感知系に関しても相当じゃ。魔力や気配の感知とその識別に加え、認識阻害による魔法を感知する〈完全隠蔽魔法看破〉。 更に〈暗視〉〈熱可視〉〈不可知可視〉の視覚補助。そしてあらゆる感知から逃れ知覚されなく為る認識阻害特殊技能――――〈存在隠絶〉を有しておる」
「〈存在隠絶〉……。姿は見えず、音も聴こえず、触れられてる事も認識出来ず、気配も魔力も、感知されなくなる特殊技能……。そんな特殊技能を持った攻撃的な魔物が居たら、凄く危険」
「確かに……。そういった厄介極まり無い特殊技能持ちの魔物とかは、このダンジョン最下層に居そうだな」
ミュフィが口にした内容にダムクは同意し、踏み入れた事が無い最下層部に生息する未知の魔物がどれ程強く、どれ程厄介な特殊技能を有しているのかを自分なりに想像する。
複数の属性無効、複数の状態異常無効、魔力の反射と吸収、常時超回復、高度な不可知、炎熱・冷気・電気といった特定の属性活力を纏い一定範囲内の敵に継続損害を与える等々。
魔法が扱える存在も複数の系統を有し、それ等殆どが上位級まで行使出来るに違いない。もしかすると、エルガルムやベレトリクス並の奴も居るやもしれない。
今の自分達――――S等級冒険者一党の堅実の踏破の実力は最下層部の全てに対し、何処まで通用するのだろうかとダムクは少し不安を滲ませた。
「あれ? でもガイアだけ視えてたのは何故でしょう?」
シャラナはふと不可解な疑問を口にする。
ガイアが看破系の魔法も特殊技能も有していないのは全員知っている。それなのに何故ガイアだけが通常の目で不可知の豪福の虹天道虫を視認出来たのか、そんな疑問を誰もが抱いていた。
「それに関する詳細は鑑定結果に出とらんが、それに関わっているかもしれん特殊技能が有る」
「それって〝幸運の虹虫〟だけの……ですか?」
ダムクの問いに対しエルガルムは頷き、その可能性が非常に高い事を肯定する。
「その特殊技能は〈豪運因果の導き〉と言い、必ず何かしらの幸福が齎され、あらゆる不幸や災いを必ず回避させ、自身に限らず他者の幸運因果を引き寄せるそうじゃ」
(な……、何そのとんでも特殊技能。無茶苦茶狡過ぎない…?!)
そんな特殊技能の強力無比と言える効力に、ガイアは愕然とする。
当然、他の全員も同様だった。
そしてその原因を知った全員は納得を抱いた。
「……なるほどね。幸運が齎されるってのは偶然のものじゃなく、その特殊技能による必然現象だったって事ね」
「ああ、じゃがあの不可知の精霊虫を素で見れる条件は解らん。これは儂の仮説じゃが、幸運の因果が強い者にだけが視認出来るのやもしれん。まぁ運気は常に変動するから、こればっかりは人の手で如何にか為るものではないからのう」
〝幸運の虹虫〟を目にすれば必ず幸運が齎されるが、それは遇えるか如何かによる。
つまりは全て運次第という事である。
「あー実に惜しかった。出来れば捕まえて詳しく調べたかったのう…」
エルガルムは残念そうな表情を浮かべ、肩を落とすのだった。
扱える系統魔法や特殊技能は大方知る事は出来たが、豪福の虹天道虫の生体はエルガルムとベレトリクスを含み、未だ誰も解明した者は居ない。
滅多に見る事が出来ない希少な生物を逃がしてしまったのだから、当然の反応である。
「でも、発見した上に古い伝えが事実だったのが知れただけでかなりの大収穫じゃない。ありとあらゆる手段かつ全身全霊を以てしても、その〈豪運因果の導き〉の恩恵で絶対に捕まえられないでしょうし」
ベレトリクスの言う通り、豪福の虹天道虫には強運ならぬ豪運を引き寄せる特殊技能を有している。故に決して捕まらず、決して危険な目に遭う事も無い。例え遭ったとしても、引き寄せた幸運の力で絶対に回避出来てしまう。
自身に対する不利不都合といったあらゆる不幸に対しては――――無敵である。
「豪福の虹天道虫かぁ。見てみたかったなぁ」
ダムクも少々残念そうな笑みを浮かべる。
「だねぇ、私も見たかったなぁ」
ミリスティも同様な事を口にし、ヴォルベスとミュフィも口にはしないが同感だと頷く。
「そうですね…、どんな姿形をしているのか凄く気になりますね」
そう口にしたシャラナは、視線をガイアに向ける。
「ねぇガイア、どんな感じの天道虫だったの?」
そしてガイアに豪福の虹天道虫の姿について質問する。
(ほえっ? あー……えーっとねぇ…)
まさか言葉を話す事が出来ない自分に質問されるとは予想だにしなかったガイアは少し戸惑い、紙と薄板と試し書きの羽根洋筆を〈収納空間〉から取り出し、言葉を綴り出す。
絵を描こうかと思っていたが、絵心が余り無い下手糞な絵を見せては伝わらないだろうと、ガイアは説明文という無難な選択をした。
そしてガイアは自分なりの姿の特徴を書き出した紙を、薄板ごとシャラナへ手渡した。
「〝頭とお腹と肢はキラキラした金色。薄い翅は薄虹色。全身が金属みたいに輝く虹色で、7つの斑点は一色ずつ違う宝石みたいだった。まるで生きた宝石で綺麗だった。〟」
シャラナが読み上げたガイアの綴った内容を聴いた殆ど全員は各々頭の中で想像し、より豪福の虹天道虫に対する好奇心を増す。特にミュフィは〝生きた宝石〟という言葉に強く反応し、好奇心だけでなく純粋な物欲を膨らませるのだった。
「何かガイアと一緒に居ると、色んな事が良く起こりますね。色んな意味で」
シャラナはもう一度ガイアに視線を向け、困った様な笑みを浮かべた。
「ホッホッホッホッ。そうじゃな、色んな事が次々と目にして良い刺激になるわい」
「そうね。永い事こういった刺激が無くて退屈だったし、一緒に来て正解だったわ」
エルガルムとベレトリクスは楽し気に笑い、シャラナの言葉に同意する。
ダムク達も其々同意を口にし、笑うのだった。
(……それにしても、何で僕に近付いて来たんだろう?)
そんな中、ガイアは別の疑問を抱き考察していた。
常に隠れている生物は基本、他の生物との接触を必ず避けようとする。直ぐ浮かび上がるその理由は、力が弱いのと臆病である事の2つだ。
豪福の虹天道虫の場合は後者だろう。何せ数多の耐性特殊技能を有しており、状態異常に対しては常に無敵だ。更に攻撃系は皆無ではあるが、防御や補助の魔法も行使出来るので力が弱いとはとても言えない。
それに無敵と言って良い幸運を引き寄せる特殊技能も有る。
しかし、高度な不可知状態を常に保ち、自ら姿を現し生物の前に近付こうとはしない。
そんな異常にして過剰と言える程までに警戒心が強い幻の天道虫が自らガイアの目の前まで近付き、更にはわざわざ宝が在る場所まで導いてくれた。
(………うん、神様の御蔭だな。うん、そうだ、きっとそう)
どんなに予想を考えても明瞭な理由は思い浮かばず、こういった偶然は神様が気紛れによるものだとガイアは無理矢理自己完結し、解明出来ない事への思考を止めるのだった。
そして再び無数の夜光が宿る天井を仰いだその時、硬質な何かが落下しガイアの頭上に直撃した。
「ンアッ?!」
不意な直撃にガイアは思わず変な声を発した。
「如何したの、ガイア?」
急に変な声を発したガイアにシャラナは問い掛ける。
しかしガイアは直撃した頭部に手を当て、動揺を浮かべた顔を動かし辺りをキョロキョロ見回し、シャラナの問い掛けを後回しにする。
そして自分の直ぐ近くの地表に目を落とし、淡く光る石を視界に映した。
(あれ? これって…)
自分の左直ぐ傍に落ちていたその石を拾い上げ、まじまじと見詰める。
「ん? それって夜光蛍石じゃないか」
ガイアが手にした原石にダムクは気付く。
「もしかして天井から落ちて来た奴か。珍しいな」
(あ、これあの天井で光ってる奴か)
ガイアは三度天井を仰ぎ、そして手にした夜光蛍石へと視線を戻す。
「ほう。天井の岩壁の一部が綻んで、偶然にも丁度崩れ落ちたのじゃろう。これまた運が良いのう」
(おう……マジか。当たったの僕だから良かったけど、人に当たったら洒落に成らん事故が起こる大きさだよコレ)
全身が岩石で構成されたガイアは、小石を投げ付けられる程度にしか衝撃は感じず、当然痛痒など生じる事は無い。しかし、頭上に喰らった実際の衝撃力はそれなりに強く、人ならたんこぶが出来たり気絶するだけでは済まず、大怪我に成る程の威力である。
ガイアにとっては棚から牡丹餅ならぬ天井から宝石ではあるが、人の場合では落石事故に成るだろう。
(でもホント運が良いなぁ。……ん? 運が良い?)
夜光蛍石が自分の所へ落ちて来たと幸運に思った直後、ガイアはもしやと思い辺りを再び見渡す。
(………居ないか)
幾度も見渡すが、広大な夜の砂漠を映すガイアの視界にはあの小さな虹色の光は入ってこなかった。
如何やら必然ではなく、偶然という幸運のようだ。
ガイアはそう思い、落ちて来た夜光蛍石を口の中へと放り込んだ。
「わっ! 食べたっ!」
初めて見るガイアが鉱物を嚙み砕き喰らう様子に、ミリスティは少々驚く。
ガイアはガリゴリと硬質な咀嚼音を口内で鳴らし、適度に嚙み砕いた夜光蛍石を飲み込む。
(……良し、蓄積完了。どれどれぇ)
自身の体内に夜光蛍石が蓄積した後、それを特殊技能〈宝石物質生成〉の力によって細胞分裂させるが如く質量を増加させ、背中に大きな夜光蛍石を宿した。
(でーきたっと!)
そして生成した大きな夜光蛍石を引っこ抜き、岩石の掌に収めた。
「デケェー! こんなデカい夜光蛍石は見た事無ぇ!」
自然では存在するか解らない大きさである夜光蛍石の塊を目にしたダムクは、驚愕と笑みが混じった色を浮かべる。
「凄ぉい! これだけ大きいと光も凄く綺麗!」
ミリスティも同様にその夜光蛍石の美しさに目を輝かせる。
ミュフィも彼女と同様に目を輝かせ、夜光蛍石の大きさと純度の高さに純粋な物欲を刺激されていた。
「おお……この大きさでの夜光の輝きは不思議と心地良い…。まるで蒼月の光の様だ」
ヴォルベスは驚きよりも輝く夜光の大きさにうっとりとしていた。
(狼だからかな? 狼男的な?)
種族上、生まれ持った性質が故に月光といった暗みの有る神秘的な光が好きなのだろうか。
そんな彼の様子を観て思っていたガイアは、ある強い視線を感じ取る。
(……この視線は…)
感じ取った視線が誰なのか、ガイアは直感に近い予想が浮かんだ。
向けられた視線へとガイアは何とも言えない顔を其方に向けた。
(……やっぱり)
予想通り――――ベレトリクスだ。
子供の様な無邪気な眼差しを輝かせ、ガイアが顔を向けた後に両手を伸ばし、掌を広げ、「頂戴」と言わんばかりに可愛くお強請りの意思表示をするのだった。無論、欲しがっている物はガイアが手にしている大きな夜光蛍石だ。
整った美麗な顔立ちに煽情的な身体付きだ。そんな絶世の美女に部類する彼女に愛嬌の良い強請りをされた世の男性達は、愛されたい気に入られたいという欲求が爆発して逆らえないだろう。
ガイアは神獣である故に情欲は無いが、元は男性という人間なので彼女の可愛さに動揺しながらも惹かれるのだった。
ガイアは手に有る夜光蛍石を欲しがるベレトリクスに差し出し、ベレトリクスは嬉々の色を濃く浮かべ目をよりキラキラと輝かせた。
そしてベレトリクスは何も無い空間に別空間への孔を開け、ガイアはその空間に大きな夜光蛍石を入れた。
「ンギャギャ。アギガギャギャ」
(ん? ミッくんも欲しいの?)
それに便乗でもするかの様に続いて、今度は擬態宝箱ことミッくんがガイアに強請り出す。
「アグギギャギャギャ!」
(おう…、分かった分かった。直ぐ生成するから落ち着けい)
擬態宝箱も夜光蛍石が欲しいと言わんばかりに口を幾度も開閉し、ガイアは直ぐに特殊技能で夜光蛍石の大きな塊を1つ生成して与えた。
「ンギャガギャギャギャ!」
(ちょっ、未だ欲しいんかい!?)
しかし、大きな塊1つでは満足出来なかった擬態宝箱は更に欲しがり騒ぎ立てる。
(もー、しょうがないなー)
ガイアは仕方なく更に2つ3つ追加で与え、擬態宝箱は満足し大人しく為っ―――。
(じゃ、今度は中身の確認だ。そいっ!)
「ンガァッ?!」
――――た直後に手を口の中に突っ込み、何かしらの魔道具が出来たかを確かめようと探り回すのだった。
そんな地下砂漠での夜を過ごす彼等は気付かなかった。
天井から落ちて来た夜光蛍石が偶然によるものではなく、齎されたちょっとした幸運だという事に。
彼等はずっと気付かなかった。
その幸運を齎したそれがずっと近くに居る事に。
それは聖遺物具を手に入れた後から――――ガイアの背に宿る常緑の樹木にずっと付いて居た。
その不可知の虹の光彩を輝かせ、ひっそりと見守っている事を――――誰も、気付く事は無かった。




