導きの小さな虹23-4
「ええー?!! ガイアーっ?!!」
滑り落ちてしまったガイアの余りにも間抜けな様子に、シャラナは思わず叫ぶ。
「あっちゃー、土竜が掘った後の空洞を踏み抜いたか」
ガイアが滑り落ちた穴を目にしたダムクは、それが迅速な砂漠土竜が掘り残したものだと確信を持って口にする。
「けど大丈夫だよ。地中に気配は無いから」
ミリスティは常時発動中の〈気配感知〉で地中深くの存在の有無を確認し、現時点では安全だと口にする。
「それならこのまま突入だ。神獣様なら何か遭っても平気だろうが、見失っちまうのは不味いから――――」
「待てぇええええい!!! 逃がさんぞぉおおおおおお!!!」
「っていうか賢者様、マジで脚速っ!!」
先を疾走するエルガルムは、そのまま勢いでガイアが滑り落ちた穴へと躊躇い無く突っ込んで行ってしまった。ガイアを追い掛けてというより、不可知の存在を追い掛けて行く勢いである。
「だから何を視たのか教えろ爺ーっ!!」
そんな彼を追い掛けるベレトリクスも続く様に、空いた穴へと躊躇い無く突っ込んで行った。
「しかしあれ程迄に驚くとは、いったいどれ程珍しいものを見たのか」
ヴォルベスはエルガルムが驚く程の見えない存在に対する興味を口にする。
「分からねぇ。だが賢者様が彼処まで驚く程だ。滅多に見れない何かじゃないか」
「滅多に見れない何か、か。何がこの目に映るか実に楽しみだ」
「ははは、同感だ」
ダムク達とシャラナとライファは偉人2人の後を追い掛け、地中深くへと続く穴に辿り着く。
「私が先行する」
着いて早々、透かさずミュフィが穴へと進入する。
「私も先行致します」
ミュフィに続いてライファが入る。
「良し、ミリスティは俺の後ろ、ヴォルベスは最後尾だ!」
「了解!」
「応!」
「行くぞ、御令嬢さん! 足元に気を付けろよ!」
「はい!」
そしてダムク、ミリスティ、シャラナ、ヴォルベスと順に穴へと入り込み、下り坂を駆け下りて行くのだった。
(ちょっとー! 何処まで滑るのこれ~!)
一方のガイアは、現在進行形で下り滑り続けていた。
崩れた多量の砂に運ばれるかの様にどんどん下へと深く滑って行く。
この先に何が在るのか判らない所為か、下り滑る事に少しばかり恐怖が生じる。
滑り下った先には凶悪危険な魔物が待ち構えているのか、それとも残虐な即死罠が仕掛けられているのか。
落とし穴の先は大抵碌な事が無い。
防御力が頑強過ぎるガイアなら問題無いが、先が見えない判らないというのは如何しても少なからず恐怖が生じてしまう。
暫く滑り続け、漸く終着地点に着いた。暫くと言ってもざっと20秒くらいだが、滑り落ちる経過時間にしては永い方だろう。
(やっと着いたぁ…)
ガイアは重い身体を立たせ、滑り着いた先を見渡す。
(薄暗いなぁ。場所が地中だからかな)
視界に映る光景は薄暗いが、全く見えない訳では無い。滑り通って来た穴から光が差し込んでいる御蔭だろう。
(以外と広いような……)
はっきりとは見えてはいないが、体感的に今居る空間は広いと感じている時、目の前に虹色の天道虫が飛んで来た。
(あれ? 付いて来てたの?)
虹色の天道虫はガイアの目の前に現れた後、薄暗い空間の奥へと真っ直ぐ飛んで行く。
そして飛んで行った先に、在る何かへと止まった。
ガイアは目を凝らし、虹色天道虫が止まった何かを目視する。
(あれって……)
「何処じゃーっ!!! 何処に居るーっ!!!」
(うわっ!! ビックリしたっ!!)
その時、後ろから追って来たエルガルムの興奮に満ちた大声に、ガイアは吃驚するのだった。
「待たんかい爺ーっ!!」
彼に続いてベレトリクスも大声上げながら追い付いて来た。
エルガルムは着いて早々、目を大きく開き薄暗い空間を幾度も見渡す。
「ぬぉー!! 見失ったー!!」
しかし、どれだけ探しても見付からず、エルガルムは頭を抱えながら残念がるのだった。
(……ん? 見失った?)
そんな言葉を口にしたエルガルムの様子に、ガイアは違和感を感じた。
(もしかして、お爺ちゃんあの天道虫見たのか? さっきは見えもしなかった筈なのに………かなり高度な看破魔法を使った?)
ガイアは頭の中で、エルガルムが虹色天道虫を視認出来る様に成った理由を予想する。
「先生、ベレトリクスさん、待って下さーい!」
そんな事を思考している時、シャラナの声が後ろの穴から響いて来た。
ダムク達、シャラナ、そしてライファが追い付き、全員無事に揃った。
「もー、1人で勝手に行動しちゃ駄目でしょう」
「ンンンン」(ごめーん)
シャラナはガイアを叱り、ガイアは困った笑みを浮かべながら頭を人差し指でポリポリと掻くのだった。
「薄暗くて判んないが、随分広い空間だな」
ダムクは視界前方の薄暗い空間を見渡す。
「ミュフィ、この空間はどんな感じの造りだ?」
「遺跡の様な造り。見た感じ、別の空間は無さそう」
ミュフィは特殊技能〈暗視〉で薄暗い空間をはっきりと目視し、上下左右に辺りを見渡す。
「! リーダー、奥に宝箱か在る!」
辺りを見渡す途中で視界に宝箱が映り込み、ミュフィは奥を指差す。
「マジか! って事は此処って不規則な隠し部屋なのか!」
「何と! まさか短期間で2度も見付けるとは何という幸運!」
ダムクとヴォルベスは純粋な驚きを口にする。
「だが、喜ぶのは未だ早いってもんだ。宝箱までの間に罠が仕掛けられてる可能性は在るし、何より薄暗くて足元も見えない。このまま進むのは危ねぇからな」
「でしたら私が明かりを」
「シャラナは少し休んで魔力を温存させときなさい。少しはあたしとエルガルムも働かないとね」
魔法で周囲を照らそうと名乗り出たシャラナをベレトリクスは止める。
「ほら、エルガルム。何時までもそうしてないで。それと後で何を視たのか詳しく聴かせなさいよ」
「ああ……済まん済まん」
未だ少しばかり残念そうな色を浮かべるエルガルムは顔を上げ、杖を掲げ魔法を発動させる。
「〈魔法照明〉」
魔法発動後、杖の先端辺りに青白い光球が複数作り出され、それ等は左右天井の端へと飛んで行く。そして魔力で構成された優しい光は薄暗い空間全体を照らし、空間の全容がはっきりと見える様に成った。
(おお、ホントだ。遺跡っぽい空間だ)
はっきりと見える様に成った空間をガイアは改めて見渡す。
(あ! 宝箱!)
そして視界に映った最奥に鎮座する宝箱へと視線を固定する。
目にした宝箱は背に乗せた擬態宝箱よりも少し小さいが、金で縁取られた白銀の箱であり、全面や金縁には天使の翼の上浮彫が施されてた美麗な宝箱である。
中身が無くても、その箱其の物は芸術品としての価値は高いだろう。
(あれ? そういえば、あの天道虫は何処だ?)
ガイアは宝箱を目にした後、此処へ導いた虹色天道虫の姿が見当たらない事に気付く。
今居る空間全体を見渡しても、あの小さな虹色の光は視界に映り込まなかった。
(……何だったんだろう、あの天道虫?)
結局解らぬ儘と成り、ガイアは首を傾げるしか出来なかった。
「ほう、少し小さいが意匠が凝った宝箱だな。これは期待出来るな」
奥に置かれた宝箱の中身に対し、ヴォルベスは期待を抱く。
「確かに。大きさから見て中身は魔道具の可能性が高いねぇ」
ミリスティも同様に期待を抱くのだった。
「けど、先ずは本物か如何か確かめないとね。エルガルム、鑑定宜しくー」
「相分かった。どれどれ…」
エルガルムは特殊技能〈鑑定の魔眼〉を発動させ、奥の宝箱に視点を合わせ鑑識する。
「うむ、施錠されとるが当たりじゃ」
その鑑定結果に、抱く中身への期待は更に増した。
「良し、後は罠だけだ。それじゃあミュフィ、確認頼む」
「了解」
ダムクに頼まれたミュフィは前に数歩出て、屈んで石の床、壁、天井を観察し出す。
「………無い」
「マジか。魔法の罠も無いのか?」
「うん、全く無い」
ミュフィは僅かばかり気が抜けた静かな声音で言う。
盗賊を修めた者が得られる特殊技能の1つに〈盗賊の観察眼〉というものが在る。その特殊技能は罠の存在を一目で見破る事を可能にする特定の看破特殊技能である。
そして盗賊という職業の中で上位の職業――――盗賊匠を修めたミュフィは〈盗賊の観察眼〉の上位互換である〈盗賊の看破眼〉を有しており、罠の有無、仕掛け、魔法による隠蔽の看破、そして隠蔽された魔法の罠を見破る事が出来る。
しかし、そんな特殊技能で見た結果が何も無く、ミュフィは肩透かしした気分を抱くのだった。
「良し! それなら心置きなく宝箱を御開帳といこうぜ」
安全だと解り、後は宝箱だけ。
一行は奥で鎮座する宝箱へと近付いた。
「とても綺麗な宝箱ですね」
間近で観たシャラナは宝箱に対する感想を口にする。
「確かに良い作りね。縁は金だけど、他の全体は真銀で出来てるわね」
ベレトリクスは宝箱を鑑識し、使われている素材を言い当てる。
「そして鍵穴……。うん、閉まってるわね」
そして蓋を開けようとし、ガッチリと閉まっている事を確認する。
「黒猫ちゃん、これ開けられる?」
「物理的なのなら、開けられる。けどその前に、見識してみる」
ベレトリクスに問われたミュフィは顔を宝箱の鍵穴へと近付け、ある特殊技能を使用する。
盗賊匠専用特殊技能――――〈鍵穴見識〉。
鍵開けを得意とする大抵の盗賊職の者が修めている特殊技能〈鍵穴観察〉の上位特殊技能であり、鍵穴を覗く事でその構造を把握だけでなく、魔法による施錠も解明する事が出来る特殊技能である。
「如何しよう……私だけじゃ開けれない」
「え?」
ミュフィから開けれないという言葉にダムクは少々驚く。
「これ、物理と魔法の二重施錠されてる」
「何だそりゃ!? そんな宝箱は初めてだな…」
まさかの物理と魔法の二重施錠にダムクは驚きの色を濃くし、他の仲間も同様に驚きの色を浮かべた。
今迄ダムク達が発見した宝箱は、物理的施錠が掛けられた物だけだ。魔法による施錠を掛けられた宝箱も存在はするらしいが、それは未だ見付けた事は無い。
しかし、最下層部へと向かう途中で、まさか物理と魔法の二重施錠された宝箱を発見するなど誰が予想出来ただろうか。
「でも、そんな厳重に施錠されてるって事はさ、きっと珍しい魔道具が入ってるって事じゃない?」
ミリスティの期待で彩る予想に、誰もが同感する。
「その可能性、かなり大だわ」
ベレトリクスは口元を妖艶な笑みを浮かべ、ミリスティの予想を肯定する。
「黒猫ちゃん、物理施錠の解錠を御願い。魔法施錠の解錠は私が遣るわ」
ベレトリクスは片掌を宝箱の鍵穴へと向け、魔法を発動させた。
「〈魔法解錠〉」
ベレトリクスの魔法に鍵穴が呼応し、宝箱の上に魔法陣が出現した。
(な、何だこれ…?)
浮かび上がった魔法陣は中心の円を6つの輪が囲い、其々6つの層内の文字が浮かび上がっていた。しかし、1つ1つの文字全ては出鱈目に配置されており、そのまま読み解く事が出来ない状態だった。
「へぇ、物理的施錠と連動してるわね。物理的施錠が解錠されると魔法施錠の解錠操作が可能に為る。そしてこの魔法陣内のバラバラな解錠術式を正常に並び替えれば解かれる仕組み、判じ物ね」
「うわ…何だこれ? 全然解んねぇ」
素人が見ても明らかに文字の並びが滅茶苦茶であると判る魔法陣を見たダムクは、難しそうな顔をする。
「ミリスティ、これ解るか?」
「解らなーい」
ダムクに訊かれたミリスティは顔を横に振る。
「むぅ……こういう謎解きは苦手だ。御令嬢殿は魔法施錠の解錠経験は御有りで?」
「いえ、私は未だ施錠と解錠の魔法は修得していません。恐らくですが、バラバラに配置された文字を並び替えて、言葉を作るんじゃないかと思います。魔法文字を予め刻んだりして魔法を発動させる場合、正しい組み合わせをしなければ術式は巧く構築されず、大抵は発動しませんから。ですがこれは、単純に文字を組み合わせて解除されるだけなので、この魔法文字自体は特に何かしらの効力は無いですね」
ヴォルベスに訊かれたシャラナは出来ないと言いつつ、目の前に浮かび上がった施錠の魔法陣の解き方の予想を口にする。
「リーダーよ、またこういった謎解きが立ちはだかった時の為に、こういった魔法の知識だけでも学んだ方が良さそうだな」
「魔法の知識か~。それはミリスティに任せるかな~」
「えぇ~」
ダムクからヴォルベスの意見を丸投げされたミリスティは、嫌そうな可愛い表情をする。
「外側から順に全部で6層の陣…。鍵穴の構造は解る?」
「普通とは違う構造。鍵を差し込んで60度回す毎にピンシリンダーが1本押し込まれる。ピンシリンダーは全部で6本、専用の鍵が必要」
「なるほど、1段階毎に交互かつ順番での解錠ね。最初はこの魔法陣の一番外側の層を解いてから、物理的施錠の第1段階を解錠する事が出来る。それが解けたら第2段階と交互に解錠する。物理と魔法の解錠が交互に連動する仕組みって訳ね」
「物理的解錠なら問題無い」
ミュフィは腰に付けた魔法の小袋から形状が様々なキーピックを取り出し、眼前の特殊構造の鍵穴に最適な物を2本選択し、それを鍵穴へと差し込む準備をする。
「何時でも行ける」
「オッケー。じゃ、始めるわよ」
ベレトリクスは浮かび上がった魔法陣に干渉し、バラバラな魔法文字を並び替え出す。
「えーと、これはこうして〝光〟。此処はこう入れ替えて〝守護〟―――」
ベレトリクスが文字の並び替えを終えた直後、宝箱の上に浮かぶ魔法陣の一番外側の層内の文字が光量を増した。
「1段階目、良いわよ」
ベレトリクスの指示にミュフィはキーピックを鍵穴に差し込み、手慣れた手先でキーピックを動かし1本目のピンシリンダーを押し込み鍵穴の中を60度回した。
カチンッと鍵穴が鳴り、1段階目は終わる。
続いては第5層内の文字の並び替えだ。
「これは〝扉〟。これとこれの文字を入れ替えて〝歌〟――――」
文字を並び替え意味持つ言葉へと成り立たせ、今度は第5層内の文字が光量を増す。
ミュフィは透かさず差し込んだキーピックを更に奥へと入れ、2本目のピンシリンダーを押し込んで鍵穴の中を更に60度回した。
2段目の解錠が終わる。
ミュフィとベレトリクスは役割ごとの解錠を交互に行い続け、次々と解錠する。
「――――〝信仰〟。〝道徳〟。そして最後は〝聖人〟」
最後の層内の文字を解き、魔法陣は一瞬眩い光を放った後に無数の粒子と成って霧散した。
そしてミュフィは最後のピンシリンダーを押し込み、鍵穴の中を回した。
完全に解錠された瞬間、不思議な金属音が空間全体に短く響いた。
それはとても耳に心地良く、打楽器の鉄琴を思わせる高い音色だった。
「…開いた」
ミュフィは振り向き、僅かに浮かべた笑みを向けて短く口にする。
そんな彼女の短くも明瞭な言葉に、全員は喜びの色を浮かべるのだった。
ミュフィは視線を宝箱へと戻し、両手を宝箱の蓋に触れる。
中身はいったいどんなのだろうかと、その場に居る全員の視線は宝箱へと集中する。
そして宝箱は開かれ、全員の目に宝箱の中に収められた物が映り込む。
宝箱の中に収められていたのは柄が付いた小型の鐘――――振鈴である。
全体は白銀色の金属で作られており、鈴には天使の上浮彫、握り柄には十字架の上浮彫が施されている。そして振り子の先端には蒼玉が嵌め込まれており、それが自重でも取れない様にかつ青い煌めきが隠れて見えなく為らない様に白銀の金属が包み込んでいた。
「これって……聖鈴」
「知ってるのか?」
シャラナが口にした言葉に反応したダムクは訊ねた。
「はい。振鈴は聖職者が神聖魔法発動の触媒として用いる魔道具の一種で、鈴や鐘の音は祈りや信仰を宿し、天に捧ぐ聖歌の1つと言われています」
「ほう、鈴や鐘の音にはその様な神聖な意味を持っていたのか」
その説明を聴いたヴォルベスは、振鈴を含む鈴や鐘の音の神秘的な意味に関心を抱く。
(へぇ、鈴や鐘の音ってそんな意味を表してるのかぁ)
ガイアもヴォルベス同様に関心を抱き、前世の世界でも鈴や鐘の音にそういった意味が有るのだろうかと思うのだった。
「じゃあ、これって聖職者の職業を修めた人じゃなきゃ使えなかったりするのかな?」
「そうよ。神聖な魔道具は聖職者じゃないと使用出来ない物が殆どよ」
ミリスティの疑問に対し、ベレトリクスは肯定する。
「それと、物によっては聖職者の職業等級が一定以上じゃないと使えない代物も在るわ。そういうのを聖遺物具と呼ばれてるのよ」
(レリックアイテム……。それって僕が居た世界でいう聖遺物の事かな?)
聖遺物具。
それは神聖な魔力を宿す魔道具類の中でも特別で、奇跡的な力を宿した神聖物である。
ある物は古き聖人が使用していた遺物。
ある物は上位の聖職者の信仰心が力と成って宿った神聖物。
そしてある物は――――神々から賜った具現せし奇跡だ。
「じゃ、鑑定宜しくぅ」
「ホッホッホッ、任せなさい」
エルガルムは宝箱に収められた白銀の振鈴を手に取り、特殊技能〈鑑定の魔眼〉で秘められた力を鑑識する。
「ふむ、名称は召喚の聖鈴。所持者に死霊属性・邪悪属性・精神汚染・恐怖・呪詛耐性を付与及び上昇と、〈天使召喚〉で呼び出された天使の全能力常時大幅強化、そして召喚可能な天使位階の最大を2つ上昇させる。素晴らしい…聖遺物具じゃ」
その鑑定結果を聴いたダムク達とシャラナとライファは感嘆の声を上げ、ガイアは心の中で感嘆の声を上げた。
「大当たりね」
ベレトリクスは嬉々の表情を浮かべる。
「それで、肝心の職業制限は如何なの?」
「ああ、この聖鈴を使用出来るのは聖職者職業で神官・女神官、若しくは神聖騎士・神聖女騎士以上を修めた者じゃ」
「む! という事は、この中でそれを使用出来るのは賢者殿と御令嬢殿の2人だけか」
召喚の聖鈴は聖職者――――神官・女神官、そして神聖騎士・神聖女騎士以上の職業を修めた者でなければ扱えない神聖物だ。修めた職業の関係上、ダムク達が所有しても宝の持ち腐れと成ってしまう。
となれば、候補は司教を収めたエルガルムと女神官を収めたシャラナの2人に絞られる。
「所有権は如何します? 俺達は聖職者の職業持って無いんで譲りますけど」
ダムクは召喚の聖鈴の所有権をエルガルムに尋ねる。
「これはシャラナに遣る」
「え!? 私にですか!?」
エルガルムの即答にシャラナは驚く。
「でも、これ、聖遺物具ですよ。私には身に余ります物です」
聖遺物具は魔道具の中で特別な代物だ。その様な代物は相応の力量を有した者が持つべきであり、自分が所有するには余りにも勿体無い。そう思うシャラナは戸惑いの色を浮かべのだった。
「大丈夫じゃよ、御主にはそれを持つ資格は有る。何せシャラナは儂の弟子なのじゃからな」
そんなシャラナに対し、エルガルムはニコッと浮かべた笑みを向ける。
「遠慮せず貰っちゃいなさいよ。エルガルムは他の聖遺物具幾つか持ってるんだし」
ベレトリクスはそう言いながらエルガルムから召喚の聖鈴を取り、それをシャラナに半ば強引に手渡した。
「御嬢様、エルガルム様とベレトリクス様の御言葉に甘えても宜しいかと。それにダンジョンで初めて手に入れた魔道具です。レウディン様と奥様への土産話の1つに成りますよ」
「でもライファ、手に入れたとはいえ私は何もしていないですよ」
「それでも良いのですよ、御嬢様。結果に繋がる迄の過程を御話する方が、見栄で作り飾った自慢話よりずっと良いですから」
ライファにそう言われた後、シャラナは無意識にか視線をガイアへと向ける。
「ンンンンン」(貰っちゃいなよ)
視線を向けられたガイアは目を細め、貰うべきだと声を発し促す。
「……分かりました。御言葉に甘えて頂きます」
シャラナは召喚の聖鈴を受け取る事を承諾し、それを自分の魔法の小袋に仕舞い込んだ。
「さて、素敵なお宝が手に入った事だし、今度こそ先へ進むぞ」
ダムクの言葉に全員は通って来た穴へと向かい、地表へと戻り出す。
しかしガイアは地表への穴に入ろうとする前、宝箱の存在に気付き逆戻りする。
その宝箱には特別な効力は無い只の箱だが、芸術的な美麗さが有る為このまま放っておくのは如何も勿体無いとガイアは一目見た時から思っていた。
(この箱は僕がもーらおっと)
折角だから初のダンジョン探索の記念品として持ち帰ろうと手に取り、発動した〈収納空間〉の中へと仕舞い込んだ。
「ガイアー! 早く御出でー!」
「ンーン!」(はーい!)
先へと進んでいたシャラナに呼ばれたガイアは慌てて皆の下へと追い掛け、共に猛暑の如き砂の地表へと戻った。
そしてそんな一部始終の様子をずっと観ていた虹色の天道虫は、彼等の後をこっそりと付いて行くのだった。




