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招かれざる暗殺者22-4

 静寂に満ち暗闇広がる地下原生林の中、全身黒尽くめの3人組が音を立てずに歩く。

 先頭を歩くは成人男性より少し背が低い男で、その後ろは成人男性よりも少し背が高い男、そして最後尾は一番背が高い大柄な男である。

 顔は黒布で頭全体を巻く様に(おお)い隠し、胸、肩、前腕に黒革製の防具を黒い衣服の上から(まと)い、同じく黒革製の半長靴(ハーフブーツ)()いている。黒革製の物は全て艶消(つやけ)しが(ほどこ)されており、暗闇の中に隠れ潜むのに重点を置いた(よそお)いである。

 そんな彼等(かれら)其々(それぞれ)、手脚を縛り拘束した冒険者を(かつ)いでいた。

 背が低めの男は小柄な兎人族(バニーピープル)の男性を、背が高めの男は羊人族(パーン)の少女を、そして大柄な男は細身長身の狐人族(ワーフォックス)の男性と成人女性より背丈が高い虎人族(ウェアタイガー)の女性である。

 担がれている冒険者4人は彼等黒尽くめの3人組に奇襲され、気を失わされた挙句(あげく)、武具などの所持品全てを剥ぎ取られている。更には致死性は無い麻痺毒薬を打ち込まれており、たとえ直ぐ気絶から目覚めても指一本すら動かせない状態である。

「本当に間違い()ぇんだな?」

 黒尽くめ3人組が進む中、背が高めの男――――ベグダット・ヘイマーは自分の前を歩く男に(たず)ねる。

「間違えるもんか。(むし)如何(どう)見たら見間違えるんだって話だよ、ベグダット」

 尋ねられた背が低めの男――――エゲン・ボンドルは少々浮かれ気味な口調で答える。

「この先にあのS等級(ランク)冒険者一党(パーティー)――――堅実の踏破ステディー・プログラスが野営してるんだぜ」

「偵察する際に距離はちゃんと取ったよな? あの一党(パーティー)には〝戦舞(せんぶ)弓乙女(ゆみおとめ)〟が居るんだ。とんでもねぇ感知特殊技能(スキル)の精度と範囲なのは知ってるだろ」

「勿論だよベグダット、ちゃんと感知範囲外から此奴(こいつ)()たって」

 エゲンは腰に付けた革製の小袋(ポーチ)から魔道具(マジックアイテム)――――視線秘匿の望遠鏡アイズ・コンシールド・テレスコープを取り出し見せ付ける。

「なら良い。だが近付く以上、気配は限界にまで抑えろよ。戦舞の弓乙女だけなら()だしも、〝刹那(せつな)黒猫(くろねこ)〟に感付かれたら逃げられねぇ。最速かつ反射的に(きびす)を返せても、気付けば首を()ねられてるのは目に見えてる」

 ベグダットは冷静かつ真剣に話す。

「だったらよ、()ずはその2人から()っちまおう」

 2人の直ぐ後ろを歩く大柄な男――――ボルゴ・ヌッタが口を開く。

「そうすりゃ最悪戦闘に為っても数が減りゃ、俺でも残りを相手出来るだろう」

「今回ばかりは駄目だ、ボルゴ。戦闘面での力量(レベル)じゃ相手が悪過ぎる」

 ボルゴの意見に対し、ベグダットは強く(いさ)める。

堅実の踏破ステディー・プログラス代表(リーダー)――――〝鉄壁(てっぺき)剛堅剣士(ごうけんけんし)〟は膂力(パワー)の有るお前でも膂力(ちから)負けする。一見、全身鎧に大剣に大型盾を装備してるからそれなりに鈍間(のろま)だと思っちまうが、攻撃も機動力もお前より上だ。それに一番厄介なのは〝武傑(ぶけつ)覇狼(はろう)〟だ。俺達が3人掛かりでも真っ向での戦闘じゃ絶対に勝てねぇ。確実に()るには暗殺しか方法はねぇ」

 そう言われたボルゴは納得しながらも、黒布で隠した顔に少し残念そうな表情を浮かべる。

 そんな彼の心境にエゲンは察し、落ち込んだ精神を元気付ける。

「そう気を落とすなよ、ボルゴ。でも今回はS等級(ランク)冒険者が相手だ。成功すりゃあ其奴等(そいつら)特別な武具や魔道具(マジックアイテム)が手に入るんだぜ。それにそれ等を幾つか換金するだけでも相当な大金が手に入るぞ」

 大金と聞いて、ボルゴはぐふふっと嬉しそうな声を漏らした。

「しかし、本当に驚いた。まさかあの賢者と魔女も一緒に居るとはな。それを聴いた時はお前の頭を(うたが)っちまったぞ」

(ひど)っ! まぁ俺も自分の目を疑っちまったけどな」

 ベグダットの言葉に、エゲンはわざとらしい反応をする。

「エゲン、後1人居る女魔導師と俺達みたいな黒尽くめな格好をした奴は見た事無いって言ってたな。どんな感じなんだ、その2人は?」

「女魔導師の方は一言で言えば美少女だな。あの容姿に(たたず)まい、何処(どこ)ぞの貴族令嬢の可能性大だぜ」

 貴族である可能性大と聴き、ベグダットは頭の中でその少女の利用価値が非常に高いと思考する。

「もしそうなら、此奴はかなりの幸運だ。保険として生かした此奴等(こいつら)より、その女の方が人質の価値がかなり高い。それでもう一方は?」

「もう一方の奴は明らかに俺達と同じ暗殺者って感じだよ。見た感じじゃ、俺達より上等な装備品を付けてたぜ。ただ性別が判んなかったんだけど……多分、女な気がする」

「刹那の黒猫に加えて暗殺者(アサシン)職業(クラス)持ちがもう1人か。厄介だな…」

 もう1人暗殺者(アサシン)職業(クラス)を持つ者が居る事に対し、ベグダットは黒布の下の顔をほんの僅かばかり(しか)める。

「でさ、その女魔導師とっ捕まえたら如何するよ? 親御(おやご)さんに身代金とか要求しちゃう?」

「それはかなり魅力的だが止めとけ。足が付いちまう危険性(リスク)は何が何でも避けた方が良い。じゃねぇとこの稼業が()(にく)くなる」

 エゲンの意見は確かに魅力的である。

 貴族や大商人といった所の子息や令嬢なら人質としての価値は高い為、高い身代金を要求する事が出来る。特に貴族の場合は階級が高ければ高い程、人質としての価値は高く、交渉では人質を取った側がより有利と成る。

 しかし、無事に身代金を得て逃げ切れたとしても、その後は当然行方を捜索される。

 数十年贅沢出来るのと莫大な目先の利益と引き換えに、捜索され続け、何時(いつ)か捕まってしまうという不安をずっと抱え続ける生活なぞ(たま)ったものではない。

 ベグダットはそういった事態に成るのを徹底して避ける。

 そんな考えの御蔭(おかげ)で足が付く事無く、彼等は数年この悪行を続けられているのだ。

「デケぇ利益を得る際に(ともな)って良い危険(リスク)()られる事だけだ。死ねば何もかも終わるがそれ以上の事は()ぇ。ただ(ゼロ)に成るだけ。後は何も()ぇからな。俺達にとっての本当の危険(リスク)ってのは素性を知られてしまう事だ。素性に繋がるほんの僅かな痕跡が一度でも()れた時、人生は最悪な方へと傾き出す。そう成っちまったら堂々と表に居られなくなるどころか、追われ続けられる身に成る。自由が限られるのは嫌だろ?」

「そりゃあ()だよ。休業(オフ)の日での掘り出し物探しが出来ないのは」

「俺も(いや)だな。酒場で羽根伸ばせないのはストレス溜まる」

 ベグダットからの問いに対し、2人は当然だと其々口にする。

「そうだろ。だがな、一番最悪なのは捕まって寿命が終わるまで生かされる事だ。金も()ぇ、酒も()ぇ、女も娯楽も、在るのは苦しい思いだけだ。つまりはマイナスだ。(ゼロ)なら未だ挽回の余地が在るが、一度マイナスに引き()り込まれたら其処で人生は終わりだ。誰かに引き上げて貰わねぇ限りは泥沼から抜け出せねぇ。そんなのを延々と味わうくれぇなら死んだ方がマシだ」

 ベグダットが語った事はあくまで個人的な見解だ。しかし、その内容を聴いていた2人にとっては、まるでちょっとした哲学の講義であった。

 そんな話をしている内に、3人の視界に闇夜の森の奥で灯っている小さな明かりが大きく映る。

「さて、お(しゃべ)りは此処までだ。そろそろ感知範囲に入る、気配を限界まで隠せ」

「あいよ」

「おう」

 3人は特殊技能(スキル)〈気配隠蔽〉を最大限発揮させ、己の気配を限りなく薄め隠す。

「後は此奴等の気配も隠蔽だ。エゲン、前に俺が補給を頼んだ(ブツ)

「あれだな。ちょい待ってろ」

 エゲンは腰の小袋(ポーチ)に片手を突っ込み、8つの巻物(スクロール)を取り出す。

「これ結構高かったんだよな~。人質如きに使うの何か勿体無いな~」

「気持ちは解るが今回は使わざるを得ない。気配を隠す外套(マント)みたいな布の魔道具(マジックアイテム)が有りゃ済むが、それを手に入れるまでは巻物(スクロール)でするしか隠す手は()ぇ。だが今回は大物だ、成功すりゃあ必要経費すらちっぽけと言える上等な代物が手に入る。こういう貴重な(モン)はこういう時の為に使わなきゃ意味が()ぇ、我慢しろ」

「ん~、まぁそうだな。大物相手に下手は絶対打てないもんな」

 ベグダットにそう言われ、エゲンは取り出した魔法の巻物(マジックスクロール)を人質4人に向けて起動する。

 使用する魔法の巻物(マジックスクロール)は2種類――――〈上位生命隠蔽グレーター・コンシール・ライフ〉と〈上位魔力隠蔽グレーター・コンシール・マナ〉の魔法が封じ込まれた巻物(スクロール)である。

 開かれた巻物(スクロール)の中に描かれた白銀の魔法陣が光り出し、封じ込められた魔法効力が対象の全身を覆う。そして直後に役目を終えた魔法の巻物(マジックスクロール)は青白い炎を発火させ、灰も残らずあっという間に消滅した。

「良し、俺達は〈上位魔力隠蔽グレーター・コンシール・マナ〉の巻物(スクロール)だ」

 そう言いベグダットは自分の小袋(ポーチ)から〈上位魔力隠蔽グレーター・コンシール・マナ〉の巻物(スクロール)を取り出し、自分を含む仲間全員に使用した。

「最後は臭いだ。彼方(あっち)には鼻が利く獣人族(ワービースト)が2人も居るからな」

「あいよ」

 最後にエゲンは小袋(ポーチ)から(てのひら)に収まる噴霧器(ふんむき)付き小瓶――――消臭香水デオドラント・パフュームを取り出し、自分達と人質4人に吹き掛ける。

「これで可能な限り隠した。エゲン、準備は良いな?」

「勿論だ、ベグダット」

 エゲンは顔全体を隠す黒布の下で欲が(にじ)み出た笑みを浮かべ返答する。

「ボルゴ、万が一俺達が見付かった際は直ぐに人質を全員連れて来い。そして奴等が何かをしようと僅かにでも動作したと思ったら即座に一人殺せ。既に此方(こっち)が主導権を握っている事を知らしめるんだ」

「おう。出来れば万が一が起こんねぇよう祈ってる」

 ボルゴも黒布の下に隠した顔に欲が滲み出た笑みを浮かべ、内心は大金を得て酒を酔い潰れる程飲める未来を期待するのだった。

 そうして3人は標的が居る場所へと近付き、途中で人質4人とその見張りとしてボルゴは待機し、ベグダットとエゲンの2人は更に近付く。

「……エゲン、不可視看破の大型眼鏡インビジブル・パーシーブ・ゴーグルを掛けろ」

 ベグダットにそう密かに言われたエゲンは黙って言う通りに大型眼鏡(ゴーグル)小袋(ポーチ)から取り出し掛けた。

「……マジかぁ」

 大型眼鏡(ゴーグル)越しの視界に映った光景に、エゲンは気の抜けた(つぶや)きを()く。

「やはりな、当然張ってあるか」

 ベグダットも大型眼鏡(ゴーグル)を掛けて、視界の先に映る光景を確認した。

 2人の目に映るのは幾重にも張り巡らされた糸の結界である。

「これって(ただ)の糸じゃないよな」

 エゲンは張り巡らされた糸についてベグダットに尋ねる。

「ああ、これはあの刹那の黒猫が持ってる特別な防具(マジックアイテム)――――魔糸紡ぎマジックスレッド・スピの籠手(ニング・ガントレット)によって作られた魔力の糸だ。御丁寧(ごていねい)に不可視化を施してる」

「良いな、見えない糸も作れるのか。俺それ欲しいな」

「いや、あれは不可視の糸までは作れねぇ筈だ。恐らく賢者か魔女の何方(どちら)かが糸に不可視化の魔法を施したんだろう。見ろ、鳴子(なるこ)も不可視化されている。もしかすると不可視化以外に他の隠蔽魔法、触れた瞬間に発動する(トラップ)式の魔法が仕込まれている可能性が在ると考えた方が良いな」

「うわ~、それは有り得るな~。いったいどんな魔法が仕込まれてるのか想像が付かないよ」

 ベグダットとエゲンの2人は魔導師ではないが、魔法に関する知識は持っている。しかし、有ってもある程度はという水準(レベル)で、誰もが良く知る低位(クラス)と中位(クラス)の魔法をざっと30個くらい知っている程度である。

 (ゆえ)に賢者と魔女が扱える上位(クラス)魔法はどの様なものが有るのか、有している魔法の数すら想像が付かない。

 こればっかりは如何しようもない。

「ああいうのは触れないのが一番だ。それより、糸の警戒網に近付く前に誰が夜間の見張りをしているか確認だ」

「なら場所を変えさせてくれ。此処じゃ望遠鏡で視れないし」

「解った」

 2人は見通せる場所へと移動した後、身体を最小限に隠しながら明かりが灯る遠方の様子を視線秘匿の望遠鏡アイズ・コンシールド・テレスコープ(のぞ)いた。

「如何だ? 誰が見張ってる?」

 ベグダットは望遠鏡を覗くエゲンに尋ねる。

「居た、鉄壁の野郎だ」

「他の奴は?」

「他の奴は見当たらないな。きっとあの天幕(テント)で寝てる」

「見張りが鉄壁1人だけ。――――此奴は付いてる」

 ベグダットは黒布の下の冷静な顔をニヤリと薄っすら浮かべる。

「見張り役が弓乙女を前提に覚悟してたが、まさか今見張ってるのが彼奴(あいつ)だったとはな」

 見張り役をしている相手で厄介なのは感知系特殊技能(スキル)を持った者――――戦舞の弓乙女と刹那の黒猫だ。しかし、現在(いま)居るのは鉄壁の剛堅剣士だ。奴は純粋な戦士職である為、感知系特殊技能(スキル)は持っていない。

 奴がたった1人なら――――確実に()れる。

 だが、ベグダットは即座に接近して暗殺しようとする早計を抑え込む。

 ()だだ。未だ行動を起こすには危険だ。

 確認出来たのは奴1人だけ。他の奴等が現在如何しているのかを確認出来ていない。

 ベグダットは慎重に、冷静に、情報収集という下準備を続行する。

「もう少し近付くぞ。その後に〈気配感知〉で天幕(テント)内を調べる」

「了解」

 2人は魔法の大型眼鏡(ゴーグル)越しに映る張り巡らされた糸の結界へと更に近付いた。

「この匂い……魔物避(まものよ)けの御香(おこう)だな」

「ああ。そこそこ上位の冒険者なら大抵常備してて当然だ。この糸の結界範囲から見て、四方に4つ設置してるだろうな」

「先に御香を潰しとくか?」

 エゲンはベグダットに提案を言う。

「いや、必要無い。逆に残した方が油断し易い」

 エゲンの提案を却下したベグダットは特殊技能(スキル)〈気配感知〉を使用し、2つの天幕(テント)内に気配が在るか否かを探り出す。

「数は3と5、外の見張りと合わせて9人。実に上々だ」

 暗殺するのに恵まれた状況(シチュエーション)にベグダットはニヤリとほくそ笑む。

「良し、此処からは二手に別れるぞ。奴の視界に入らない後ろから侵入する。天幕(テント)の方はお前に任せる。俺は彼奴(あいつ)()る」

「良し来た。それで何処から入る?」

「上からだ。糸が巻き付いた樹には触れるな、結界外の樹を登れ。上にも糸は張られてるが側面と違って入れる隙間が在る。しくじるなよ」

「お前もな」

 其処から互いは二手に別れ、高く(そび)える樹を跳躍(ちょうやく)するが如く迅速に駆け登る。

 充分な高所へと登ったベグダットとエゲンは其々自分が担当する標的へと視線を向ける。そして地形をざっと見渡す。

 開けた其処はとても見晴らしが良く、身を隠せそうな遮蔽物も無い。此方(こちら)にとって非常に隠密し難い場所である。

 しかし、見張りは篝火(かがりび)の前で腰を下ろした(まま)、後ろを向く気配は無い。

 本当に運が良い。

 2人は内心でそう思いながら、地形と上空に張られた糸の結界の隙間を入念に確認し見渡す。

(ん!? 何だあれ…!?)

(え!? 何だありゃ!?)

 そんな時、2人は視界に映った妙な物に目が留まった。

 それは大自然の世界になら何処にでも在る岩石である。しかし、只の岩石とは言えない有様だった。

 岩石から小さいながらも立派な樹木が生えており、無数の緑鮮やかな()()を宿している。それだけではない、更には幾種もの(きら)びやかな鉱石や原石が宿っていたのだ。

 これには2人は驚愕(きょうがく)し、ベグダットは目を見開き、エゲンは目を欲望で輝かせた。

(おいおい嘘だろ…! 何でこんな上層部に希少(レア)な鉱石が在るんだ!? しかも原石まで!?)

 これ程の幸運が訪れるものなのかと、ベグダットは己の目を疑う。

 あれを全て採掘して換金すれば、少なくとも金貨6000か7000枚になるのではないだろうか。

(こりゃあ……何としても成功させねぇとな)

 そんな暗殺後の成功追加報酬に、ベグダットはやる気を(たぎ)らせた。

(………欲を掻いて優先順位を間違えるなよ、エゲン)

 そしてエゲンに対する不安を少し抱きながら、糸の結界の内側へと侵入する。

(マジかよ! ヤベっ、お宝発見じゃん!)

 一方のエゲンはベグダットの不安通り、欲を掻き掛かっていた。

(ああ~運が良いのか悪いのか、此処に彼奴等が居なかったら直ぐにでも全部採掘したいのに~! クソ~!)

 欲望と自制が葛藤(かっとう)し、エゲンは内心で(もだ)える。

(けど落ち着けっ! 落ち着け俺ーっ。……今は暗殺が優先だ。あのお宝は逃げはしないんだ。遣る事全部終わったらゆっくり掘り出せば良いだけだ)

 湧き上がる目先の欲を少々無理矢理抑え込み、何とか落ち着きを取り戻す。

(さあ! 人生最高にデカい仕事だ! 本気(マジ)以上で行くぞ!)

 エゲンは意気込みを入れ、糸の結界内へと飛び降りた。

 樹の高所から飛び降りた2人は幾重に張られた糸の隙間を擦り抜ける。そして重力に逆らわない様に足が地面に着いた瞬間両膝を曲げ、同時に両手も着く瞬間に肘を曲げ、(カエル)の様な体勢で音を一切立てずに着地する。

 侵入は成功した。

 着地後直ぐ、ベグダットは暗殺標的(ターゲット)の真後ろへ、エゲンは天幕(テント)へと素早く移動する。


 2つの天幕(テント)へと近付いたエゲンはもう一度〈気配感知〉を使用し、中に居るであろう存在とその数を確認する。

 居る。間違いない。

 そして現在は深夜の時間帯――――深い眠りに就いている筈だ。

 そう確信したエゲンは腰に付けた大型短剣(サクス)(さや)から引き抜く。

 その短剣は〈無音化(サイレンス)〉の魔法が付与され作られた魔法の武器であり、刃には身体の自由を一時的に奪う麻痺毒薬が塗ってある。塗られいる麻痺毒薬は持続は短いが、麻痺の効力は非常に強力な物である。

 当然、ベグダットもそれを持っている。

 これなら万が一、一撃で仕留め損なったとしても掠めただけで強力な麻痺が標的の行動を封じる事が出来る。そうする事で麻痺で動けない標的を確実に仕留められる。

 暗殺に()いての二段構えである。

(先ずは3人居るこの天幕(テント)からだ)

 エゲンは最初の天幕(テント)へと素早く侵入し、寝首を()こうとし出した―――――。



 ベグダットは腰を低くした体勢で標的の真後ろへと移動し、一度止まる。

 自身と標的との距離を目測し、もう一度周囲を確認する。

 特殊技能(スキル)〈気配感知〉で感知出来るのは視界の先の標的と2つの天幕(テント)内の存在だけ。〈気配隠蔽〉の特殊技能(スキル)によって気配を隠しているエゲンは除く。

(さて。とっとと()らねぇとな)

 ベグダットは腰に有る大型短剣(サクス)を鞘かスッと引き抜く。

 狙うは首――――喉元を掻っ斬る。そして側頭に切っ先を突き刺し確実に殺す。

 どんなに強靭な者だろうと、頭、首、心臓が()られれば必ず死ぬ。

 苦労を掛けてまで戦闘をする必要は無い。

 殺せば勝者、殺されれば敗者。

 重要なのは過程ではなく―――――結果だ。

 他者を殺し全てを奪い取るという結果が全てである。

 ベグダットは一気に駆け出し接近し出す。

 特殊技能(スキル)〈無音走駆法〉によってベグダットは足音が立たない疾走を実現させる。


 足音は完全に消した。

 己の臭いも消した。

 気配も限りなく薄め隠した。


 ―――――()れる。


 ベグダットはそう確信を抱き、疾走する。

 だがその瞬間、ベグダットは嫌な予感という直感が働き、無意識に低空跳躍をした。

 跳躍直後、高速で飛来した何かが脚の下を通り過ぎた。

(何…?!)

 ベグダットは驚愕を抱きながらも、飛来した物が何なのか(とら)える事が出来た。

 飛来した物――――それは矢だ。

 2本の矢がベグダットに目掛けて飛んで来たのだ。

(如何いう事だ!? 弓乙女は天幕(テント)に居るんじゃ――――)

 そう困惑しているベグダットの眼前に、視界を塗り潰す壁の様な物が勢い良く激突して来た。

「グハ…!!」

 標的からの強烈な打撃、硬質な金属製の大型盾(ラージシールド)による一撃を喰らってしまったベグダットは意識が不安定状態に(おちい)る。

(不味い…! 追撃が飛んで来る……!)

 ベグダットは意識が不安定状態ながらも無理矢理身体を動かし、(きびす)を返した直後に低空跳躍してその場から退避した。

(危ねぇ…、回避が間に合わなかったが何とか攻撃の軌道に合わせて損傷(ダメージ)軽減は出来た…。とはいえ、軽減出来ても此処まで重いとは…!)

 ベグダットは回避に遅れたが、相手が繰り出した盾による打撃の軌道は捉えていた。そして喰らう瞬間に身体を打撃の進行方向へと動かし、喰らう衝撃を軽減させた。

 しかし相手はS等級(ランク)冒険者、桁違いな膂力(パワー)から繰り出される攻撃は思うように軽減し切れなかった。

(くそ)! こうなっちまった以上は仕方()ぇ。例の女魔導師を人質に…!)

 ベグダットは標的(ターゲット)暗殺を失敗した場合の計画(プラン)に移そうと、天幕(テント)へと急ぎ向かう。

「ギャアアアアアアアアア!!!」

 向かっていた天幕(テント)からエゲンの悲鳴が上り、ベグダットは思わず脚を止めてしまう。

「いったい何だ…!?」

 ベグダットはまた困惑する。

 視界に映る天幕(テント)からエゲンが慌てながら勢い良く飛び出す。

 そして彼に続き飛び出した存在に、ベグダットは目を()いた。

擬態宝箱(ミミック)だと!!?」

 流石にこの予想外の存在と予想すら出来ない展開には、ベグダットは吃驚仰天(びっくりぎょうてん)してしまう。

「気配は在ったのに何で誰も居ないんだ!? ていうか何であれが中に居るんだよ!?」

「アギギャガガガガガ!」

 エゲンは疑問を叫びながら、必死に幾度も跳躍して追い掛けて来る擬態宝箱(ミミック)から逃げ距離を取る。

(居ないだと!? 馬鹿な、侵入した後にも〈気配感知〉で何度も確認した筈――――)

「良い反射神経してるな」

「くっ、速ぇ…!」

 鉄壁の剛堅剣士が急速接近から大型の盾(ラージシールド)で殴り掛かられ、ベグダットはそれを慌ててギリギリ回避し、即座に後ろへ跳び距離を取る。

「失敗だ! 逃げるぞ!」

「異議無し!」

 ベグダットはそう即断し、エゲンは迷う事無く彼の判断に従った。

 迅速に駆け出す瞬間、戦舞の弓乙女であろう矢撃が飛来する。

 それをベグダットは低空跳躍し、狙われた脚を護る。

(流石は弓乙女…、何処に居るか判らねぇが良い精度してやが――――)

 しかしその直後、逃走方向である正面の少し先の地面から人間の約倍の大きさ(サイズ)にして上半身だけの岩石の動像(ストーンゴーレム)がいきなり出現した。

動像(ゴーレム)!?」

 創造された岩石の動像(ストーンゴーレム)は拳を振り抜き、驚愕するベグダットを殴り飛ばす。

「ゴヘェ!!」

 鉄壁の剛堅剣士の大型盾(ラージシールド)による一撃よりかは威力は劣るものだが、回避が出来ない空中で岩石の拳を真面(まとも)に喰らった軽装のベグダットには充分強烈だ。

 殴り飛ばされたベグダットは地面を3度跳ね、転がり()す。

(やべぇ…、意識が……!)

 辛うじて意識は保てているが、生じた激痛で身体を動かす事が出来ない状態に為ってしまった。

「ベグダット!!」

 それを見たエゲンは戦闘不能状態にされたベグダットを回収しようと急ぎ向かう。

「悪党とはいえ、仲間を助けるその心意気や良し」

「は!?」

 背後を取られた事に気付いたエゲンは思わず振り向く。

 そして視界に狼の顔を僅かに映した直後、頭を片手で鷲掴(わしづか)みにされ、そのまま地面へと叩き付けられる。

「ぐげぇ!!」

 強烈な叩き付けにエゲンは頭を地面に()り込まされ、気絶してしまった。

(エゲン…! 糞…、いったい何処から現れたん――――)

 その時、突如眼前に老魔導師――――賢者エルガルムが出現した。

「ちと眠って貰うぞ、招かれざる者よ」

 賢者がそう言った後、掌を向けられる。

「ちょ、待――――」

「――――〈電撃失神エレクトリック・スタン〉」

 直後、ベグダットは強烈な電撃衝撃を全身に浴びせられた。

 そして(かろ)うじて保てていた意識は吹っ飛ばされ、ベグダットは失神し倒れ伏しまうのだった。

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