招かれざる暗殺者22-1
小鬼の王と小鬼の群れを討滅後、エルガルム達と堅実の踏破一党は目的の最下層部へ向かう為、元の経路へと戻り中層部へと向かい進む。
決して急がず、進行と休息を幾度か繰り返す。
体力と精神を一定に保ちつつ、突発な戦闘に対処出来るように消耗と回復の均衡を保つ。
未だ地下ダンジョン上層とはいえ、ちょっとした油断を衝かれ死んでしまう事例がある。駆け出し冒険者に限らず、中堅級の冒険者にも起こり得る珍しい事では無い。
過度な疲労で動作の乱れ、武技の精度低下、注意力散漫による判断の遅れ等の要因が挙げられる。そこに寝込みや死角からの不意打ち、圧倒的な数の暴力で奇襲強襲を仕掛けられれば死の確立は大幅に上がる。
そして、小鬼の王といった異常の出現。
其々の階層に巣くう魔物の平均危険度から大幅に逸脱した存在との望まぬ遭遇で、勝利の可能性が低い闘いを強いられる事態も在る。
そういった不測の事態を、常に念頭に置かなければならない。
それをダムク達は習慣の様に行い、これまでダンジョンを堅実に攻略していたのだ。
但し、命に関わる緊急事態が起こった場合は一時的に破棄し、安全の確保、危険地帯からの完全離脱が完了するまで全力を尽くし続ける。そして完全に逃げ場が無く、確実と言える死に追い込まれた際の最終手段では帰還の巻物を使用し、ダンジョン外へと脱出する。
上層部を暫く進む過程で新たな魔物に遭遇した。豚鬼や怪鼠人、野蛮な赤蛇に大岩蜥蜴、そして粗暴な焦茶熊、それ等を確実に倒して素材を剥ぎ取る。
戦闘はシャラナを中心とし、エルガルム達やダムク達は彼女の補助を徹底して時折援護を行う。
豚鬼は軀体が大きいがそれなりに鈍重な為、数匹程度はシャラナの敵では無った。
艶やかな赤い肌の野蛮な赤蛇はガイアの知る前世の世界の蛇よりも大きく、此方を視界に入れた途端に襲い掛かって来たが、それに対しシャラナは即座に〈魔力の刀剣〉で頭を断ち斬る。
四肢や背中、頭部に岩石の皮膚を持った物理的防御力が高い大岩蜥蜴は、低等級の冒険者にとって苦戦する相手だが、シャラナは苦戦する事無く最小限の魔力消費で倒す。
全体的に灰大鼠と同じ位の大きさで二足歩行で歩く奇怪な骨格をした怪鼠人は、小鬼よりも俊敏であり、その速さを活かし大きく裂けた口から剥き出した牙と奇怪な手に生えた爪で襲い来る亜人型の魔物である。背丈は小鬼より少し高い位だ。
だがシャラナは、その俊敏さに翻弄される事無く、12匹の怪鼠人を倒す。
魔物との遭遇戦も、実に順調である。
偶にガイアも単独で遭遇した魔物を倒したりもするが、まるで御決まりかの様に1発殴って即終わってしまう。
原因は言う迄も無く、ガイアが規格外に強い所為である。
途中で1匹現れた粗暴な焦茶熊に両手を大きく広げ威嚇された際に、ガイアもそれを真似て御ふざけ半分で威嚇仕返し、された側の粗暴な焦茶熊は動揺し困惑してしまうという可笑しな展開が起こった。
粗暴な焦茶熊は困惑しながらも強力な腕力を以て太い腕を振り、ガイアの横顔を熊手で殴り付けたのだが、損傷を受ける所か全く微動だしなかったガイアに対し、目を丸くし口をあんぐりと大きく開けてしまう。
その様子は実に面白く、中々見れないものだった。
そんな粗暴な焦茶熊にガイアは御返しのビンタを1発喰らわせ、勢い良く殴り飛ばし壁面に叩き付けた。
そのビンタも余りにも強過ぎる威力だった為、喰らわせた際の衝撃で頸骨は容易に折れ、当然の如く即死である。
そんな一部始終を観ていたエルガルム達とダムク達は、僅かばかりか粗暴な焦茶熊に対し気の毒に思うのだった。
そして粗暴な焦茶熊の毛皮を剥ぎ、魔石を取り出し、あらゆる部位の肉を解体してから更に先へと進む。
因みにダムク達曰く、熊肉は臭みが強いのでそのまま焼くだけだと食し辛いらしい。如何しても食べる場合は様々な香辛料を使用したり、臭みを抜く調理法をするべきだとか。
なので熊肉は基本的に素材売却として冒険者組合に出し、其処から肉屋に卸す流れとなるそうだ。
暫く進んで、上層部内での比較的安全な場所で休息する際、ガイアは擬態宝箱の中身を確認した。
最初は中身の物を取られるのを嫌がって頑なに口を閉ざすが、粗暴な焦茶熊の肉を与えると仕方なさそうに口を開けてくれた。
やはり生き物である以上は、生命維持での栄養補給は必要なのだろう。
そして擬態宝箱の口の中を探り、横取りするが如く喰われた王冠と特大戦斧を取り出した。
しかし、取り出して見ると――――その2つは変化していたのだ。
小鬼の王が被っていた黄金の王冠に在る髑髏の浮上彫の形状が変化しており、髑髏の形が小鬼の骨格意匠に成っていた。更に特大戦斧も、刀身には無かった筈の浮上彫――――小鬼の王の邪悪な横顔の意匠が施されており、何方も少しばかり禍々しいながらの芸術性が付加されていた。
ガイアは首を傾げ、自分の目を疑った。
それを見ていたベレトリクスが、黄金の王冠を手に取り鑑識する。
ベレトリクス曰く、呑み込まれた王冠を基に再構築したのだという見解だ。
王冠の浮上彫と全体の造形を確認したベレトリクスは特大戦斧も鑑識し、何方も小鬼の王の魔石を混ぜた事により作り変えたのだと結論を告げた。
その事実に対し、エルガルムを除き全員が驚きの声を漏らした。
そしてベレトリクスはエルガルムに鑑定を頼み、エルガルムは了承し特殊技能〈鑑定の魔眼〉で黄金の王冠と特大戦斧を鑑定する。
鑑定の結果、王冠の名称は〝小鬼王の金冠〟、特大戦斧の名称は〝小鬼王の蛮勇戦斧〟と判明した。
2つ共に、只の装飾品と武器から魔道具と化したのだ。
小鬼王の金冠――――その効力は小鬼種限定の召喚と支配であり、最大召喚数は20匹であり、召喚以外の小鬼種の支配可能な数は30匹。両方の効力を活用した場合での最大使役数は50匹となる。
小鬼王の蛮勇戦斧――――装備者の膂力を一時大幅強化と、中位級の物理と魔法の防御突破が戦斧自体に備わっており、威力は〈烈風波斬〉水準の斬撃を飛ばす力を宿している。
特大戦斧は小鬼の王の武技と特殊技能がそのまま宿った感じであり、効力は単純ながら強力、戦士職にとっては中々性能の良い武器である。
ヴォルベスとダムクの個人的評価は、物理と魔法の防御突破性能が一押しだと言う。
その理由は小鬼王の蛮勇戦斧の性能は近接戦闘に於いて優秀な武器であるが故に、B等級辺りの戦士職冒険者なら欲しがる者が多く居ても可笑しく無いとの事だ。特に膂力特化の力押し戦士にとっては重宝したくなる代物と言える。
一方、小鬼王の金冠は、実力が中堅以上の者から見れば微妙な部類の魔道具である。
召喚や支配が出来ても小鬼種限定である為、使役する小鬼と同程度の相手にしか通用しないのは不便と言える。最大数20匹を召喚して肉壁にしても小鬼は弱い為、時間稼ぎにも成らず、殆どの場合は簡単に殺られてしまう。
しかし、どんな微妙な効力であっても、時と場所、敵対する相手によるといった特定の状況によっては、小さな力が大きな力へと化ける事も在る。
要するに使い方次第という事だ。
そんな可能性を秘めた小鬼王の金冠をベレトリクスは手に取り、にやけた顔を浮かべながら鑑賞する。
微妙な魔道具ではあるが、ベレトリクスはそういった中々御目に掛かれない希少物をも好み欲する。
それは彼女が希少収集者であると同時に、魔道具の開発と研究をする者であるからだ。
話を戻すが、擬態宝箱は本当に奇妙な魔物だ。
喰らった生物の魂――――若しくは魔石――――だけでなく、武器や装飾品とも掛け合わせて魔道具を作り出すその生体は実に謎である。
目についてもそうだ。何度も全体を探しても目は無く、いったい如何やって物や生物の存在を認知しているのやら。
そして、いったい擬態宝箱の中は如何なってるのやらと、その場に居る殆どの者が疑問を抱く。
そんな疑問から、ミュフィがぽつりとある事を口にした。
………鉱石とか原石も食べさせたら、もっと色々な何かが作れそう、と。
そんな内容にガイアはピクリと反応し、気になった。
そしてガイアはある事を思い付き、それを試してみようとベレトリクスから金冠を勝手に取り、それと特大戦斧を持って擬態宝箱の下へと近寄った。
何の断りも無く金冠を勝手に取られたベレトリクスは困惑気味と為るが、ガイアは御構い無しに特大戦斧と共に擬態宝箱の口の中へと突っ込んだ。
何故返す? と擬態宝箱は困惑し、かつ疑問に思いつつも突っ込まれた物を呑み込む。
呑み込ませた後、ガイアは背に宿る鉱石と原石を無造作に引っこ抜き出した。
鉱石類は鉄、銅、銀、金、白金、真の銀に神秘の銅。
原石類は紅玉、蒼玉、翠玉、黄玉、紫水晶、そして金剛石。
ガイアは最初に高純度な鉄鉱石を擬態宝箱の前に差し出す。
それを目の前にした擬態宝箱は無い目を輝かせ、ガイアが手に持つ大きな鉄鉱石に飛び付きあっという間に丸呑みするのだった。
更には「もっとくれ!」と言わんばかりに口を幾度も開閉しまくり出す。
肉を与えた時とは比べ物に成らない程、上機嫌と為った。
如何やら擬態宝箱は、特別な武具や装身具といった魔道具に限らず、鉱石や原石、精錬された金属や宝石等、主に金銭的価値が高い物を好んで収集し、それ等を貯め込む生き物としての性質を持っているらしい。
その様子を観たガイアは次々と幾種の鉱石と原石を与え、それを擬態宝箱は貪るが如く次々と呑み込む。
ホント如何やって見てるんだ? 此奴。
一通り喰わせてから少し時間を置いた後、再び擬態宝箱の口に手を突っ込んで中に在る物全てを取り出してみた。
無論、中の物全て取り出された擬態宝箱は不機嫌に為る。
ガイアの思い付きによる試しの結果――――予想通りであり、予想以上であった。
鉱石は1個単位で数十キログラムの鋳塊が種類ごとに10個と、原石は加工された造形を成して美しい色彩と光沢を放つ宝石が種類ごとに7つ出来上がった。
予想していたとはいえ、精製や加工の過程を素っ飛ばし、こうも簡単に鋳塊や宝石へと作り変えるだけでも驚かされてしまう。
だが、それよりも驚く予想以上の結果がこの場に居る全員の目に映っている。
それはさっき入れ戻した金冠と特大戦斧が、更に変化していたという結果である。
小鬼王の金冠は幾種もの宝石が嵌め込まれて豪華と成り、見た目と共に名称も〝小鬼王の征服王冠〟へと変化していた。
小鬼王の蛮勇戦斧も金の装飾が施され、刀身に浮上彫が彫られた横顔の小鬼の王の眼窩部分に大粒の紅玉が嵌め込まれ、力強さと荒々しさが色濃く形と成って変化したその戦斧は〝小鬼王の暴君戦斧〟という名称へと変わっていた。
そして当然、宿っている効力もより強力なものへと成っていた。
特大戦斧は装備者の膂力の一時大幅強化が一時超強化へ、物理と魔法の防御突破力は上位級へ、飛ぶ斬撃は武技〈真空波斬〉水準の威力へと昇華した。
王冠は小鬼種の召喚可能数が最大20から100、支配可能の数も最大30から150へと増加し、召喚された小鬼種とそうでない支配した小鬼種の能力値を常時強化させる効力が追加されたのだ。
この結果にはベレトリクスは大喜びであった。
更には小鬼王の悪鬼鎧、悪祭の欲金杖、邪教の祭服、子悪鬼の魔黒杖、子悪鬼の魔導衣、子悪鬼の湾刀、子悪鬼の短弓等々、小鬼を基にした様々な各部位ごとの武具なども擬態宝箱の中から出て来た。
エルガルムやベレトリクス、S等級冒険者であるダムク達にとっては強力な武具では無いが、金銭的価値はそれなりに高い代物である。
但し、悪祭の欲金杖と邪教の祭服は呪いの魔道具だった為、その2つは擬態宝箱の腹の中行きと為った。
結論――――此奴、お宝製造機だ。
その後、不機嫌な擬態宝箱に御詫びといった形で幾種の鉱石と原石を大量に与えて上げ、擬態宝箱の機嫌を直した。
擬態宝箱の機嫌は、腹の中に収集品が貯まると良くなる様だ。貯まれば貯まる程に上機嫌と為り、中身の物を取り出してしまえばしまう程に不機嫌と為る。
擬態宝箱は実に奇妙で面白い。
今度は別の魔物を魔石ごと食べさせてみようとガイアは考えるのだった。
決めた休息時間を取った後、進行を再開し上層内を歩き出す。
空洞が続く経路を進んで行く内、岩石しか無い風景に土や草が徐々に加わり、殺風景さが薄まっていく。
そんな変化に伴い、岩蠕虫、好戦的な山羊、鋼鉄鎧鼠に人喰い大鬼と、遭遇する魔物の種類も増え、遭遇率も高く為る。
硬い岩盤を喰い破るが如く、突如現れた岩蠕虫は感知系特殊技能で接近を感知し把握出来る為、奇襲による捕食は容易く回避出来る。そして硬い地中に潜られる前に、シャラナが魔法による疾風の刃で斬り裂き倒す。
坂の上から複数の鋼鉄鎧鼠が身体を丸めて突撃して来た際は、〈岩石の手〉で簡単に掴めし止められるが、硬く閉じた貝の様に丸まった儘の状態から戻らなかった。腕力が有る者なら無理矢理抉じ開ける事は出来るが、流石にシャラナの腕力では不可能である。
「そういう時は熱しちゃえば良いのよ」とベレトリクスから助言に、シャラナは炎系統の低位級魔法〈加熱〉を行使して鋼鉄鎧鼠を熱してみた。
鉄のフライパンで焼かれるかの様な高熱に堪らず丸めた身体を元に戻し、慌てて逃げ出す鋼鉄鎧鼠を引っ繰り返して弱点である柔らかい腹部を攻撃し、あっさり倒す。
人喰い大鬼とは、小鬼の王との一騎打ちに似た様な戦闘であった。強さは倒した小鬼の王と比べて余り脅威では無いが、高い膂力から繰り出される攻撃は油断ならないものだった。
好戦的な山羊は敏捷にして活発、攻撃方法は主に頭に生えた2本の角を使った突進だ。しかし攻撃方法が愚直である為、良く観察すれば躱せてしまう。膂力に自身が有る者なら受け止める事が可能だし、魔導師なら突進の軌道上に合わせて魔法を放てば簡単に対処が出来る。
因みに、このダンジョン上層で良く狩られているのは好戦的な山羊らしい。毛皮や角はそれなりの値段として売れる素材であるが、一番売れるは山羊肉である。
食糧としても食材としても有用であり、言う迄も無く――――美味しいからだ。
故に等級が低い冒険者は自分の生計を安定させようと、良く好戦的な山羊を狩るらしい。
そろそろ上層の中間辺りだろうか。
エルガルムの地図で確認すれば一目瞭然だろうが、ダンジョン内だと現在どの辺りに居るのかが判らない。
時間感覚に関しても、朝なのか、昼なのか、夜なのかも体感的に判断が付き難い。
地図だけでなく、時計も必要だろう。
進み続けて数十分か、1時間――――いや、数時間が経過したかもしれない。
エルガルム達とダムク達は、あるダンジョン内の空間へと踏み入れる。
視界全体に映ったその空間は数え切れない木々が生え、地面を緑で彩る草が茂っていた。
右も左も、見渡す限りの草木。そして見上げても天井は無数の木の葉で殆どが覆われており、この空間の全体がどれ程迄に高く広いのかが判断が出来ない。
しかし、光量は変わらず、ある程度は光が遮られた森林内でも視界は通る薄暗さである。
地下であるのに視界が通せる程の光量が在るというのは、本当にダンジョンは可笑しな場所だ。
「着いたぜ。此処が上層の代表領域―――――〝地下原生林〟だ」
ダムクは紹介でもするかの様に、地下原生林と呼ばれる領域をシャラナに見せる。
「今度は今迄通って来た洞窟と違って、此処の森はかなり広い。草木を遮蔽物に潜んだり、木々の高所から奇襲して来る魔物が多く生息してる。その中には感知系の魔法や特殊技能に引っ掛かり難い奴も居るから、特殊技能や魔法のみに頼らす、常に感覚を研ぎ澄ませて警戒するようにな」
「あの、自身の感知力を上げれば、魔力や気配を隠蔽している存在をはっきり捉える事が出来るという事ですよね」
「お? もしかして感知力を強化する魔法使えるのか?」
「はい。完全な隠蔽では無いのでしたら、感知力を強化して相手の隠蔽力を上回れば感知する事が出来ます」
感知力を一時的に増幅させる強化魔法――――〈感知力増幅〉。その効力は施した対象に備わっている感知能力を鋭く向上させ、更には感知系の魔法と特殊技能の力を増幅させる事が出来る魔法である。
それによって感知能力を強化すれば、生命や魔力の気配を薄らせ隠蔽している存在を捉える事が可能に成るのだ。
但し、自身の感知力が相手の隠蔽力を上回ればの話だ。
「なるほど。なら不可視の存在を看破出来る魔法は使えるか?」
「はい、使えます」
「良し。それなら上層は大丈夫だな」
シャラナ出来うる感知の術を確認したダムクは、視線を前方へと向ける。
「ミュフィとライファさんは引き続き斥候を。但し、俺達との距離を短めにして、緊急時の際に直ぐ戻れるように」
「了解」
「畏まりました」
「ミリスティ、森全体の把握は任せるぞ」
「はぁーい」
「ヴォルベスは近距離から中距離範囲、特に後方の警戒を引き続き頼む」
「承知した」
「ふむ…。ではシャラナよ、森に入る前に強化魔法を」
「はい、先生」
エルガルムの指示に従い、シャラナは魔法を発動させた。
「〈中位感知力増幅〉〈不可視看破〉」
自身を含むこの場に居る全員に感知能力の向上と、肉眼では見る事が出来ない存在を視認する事が出来る特殊な視覚能力を一時的に得た。
感知能力を持たない純粋な戦士職にとっては戦闘の際、不可視の存在を視認出来るようにする〈不可視看破〉は非常に有り難い強化補助である。
そんな魔法の恩恵を受けたダムクは、こういった魔法をミリスティに覚えて欲しいものだと思う。何せダムクの一党内には、他者を強化させる術を誰も持ち合わせていない。
その代わりとして、強化や補助を齎してくれる魔法薬を常備し、良く服用している。
しかし、金銭的な面では費用が掛かるのが難点で、毎度毎度と必要な魔法薬を買って必ず消費する事に成る為、必ず使う費用以上稼がなければならない。魔法薬も高い効能によっては値段が高いので、出費は余計に多く成る。
これは大半以上の冒険者が抱えている悩みの1つである。
「ほぉー、これが感知力の強化か。何か不思議な感じだなぁ」
感知力が乏しい方である純粋な戦士職であるダムクにとっては、実に新鮮な強化感覚である。しかし、乏しいからといって、周囲の空気や何かしらの気配に対しての感知は鈍くは無い。ダムクは戦士職としては純粋な感知力が優れている方である。
「ミリスティ、ミュフィ、現在の感知力はどんな感じだ?」
「うん、すっごく良い。普段よりも気配がはっきり感じ取れるし、感知範囲もかなり広く為ったよ」
「良好以上。これなら索敵し易い」
「ヴォルベスは如何だ?」
「うむ、全身の神経が普段以上に冴え渡っている。これなら不意打ちを無意識に即対応が可能だ」
感知系特殊技能を有している仲間3人は、感知力が高い故に強化魔法の効力をはっきりと実感する。
「もし未だ何か必要が在りましたら言って下さい。修得している魔法の範囲内で補助致しますので」
「助かるぜ。特に純粋な戦士職の俺にとっては有り難い」
ダムクはニカッと笑みを浮かべシャラナに礼を言う。
「そんじゃ、進むとしようか」
そしてダムク達とエルガルム達は、次なる上層内の領域―――地下原生林へと進入した。




