令嬢の独行奮闘21-3
視線の先、この領域の奥、石造りの玉座に居る小鬼の王が立ち上がった姿をシャラナは目に映す。
そして列を成し、武器を構え、王の意志によってバラバラな全が統率されし一と成った小鬼の群れを視界全体に映す。
空間全体に満ちた静寂を破るのは――――小鬼の王である。
「我ガ意志ノ下、蹂躙ヲ始メルゾ!!!」
小鬼の王の覇気に満ちた雄叫びが重く響き渡った時、全ての小鬼達は身体の奥底から力が漲り出し、それが高揚の要因となり一斉に雄叫びを上げた。
その雄叫びは小鬼とは思えない、勇猛果敢な戦士のものである。
小鬼の王が叫び放つその行為は、只の士気向上では無い。
それは〈小鬼王の号令〉と呼ばれる、小鬼の王だけが持つ特殊技能による雄叫びである。
その効力は同族の小鬼種にのみ発揮され、小鬼の王の士気向上の雄叫びを聴き浴びた小鬼種は身体能力が向上し、恐怖への耐性が強化されるという支援強化系の特殊技能である。
この特殊技能効果は魔法によるものでは無い為、そこに強化効力が同じ強化魔法を重ね掛けして、更に強化する事が可能である。支援強化魔法が扱える魔導師と組まれれば、これまた厄介に成る。
「弓兵、構エ!!!」
小鬼の王の指示の下、小鬼の弓手達は一斉に矢を番え出す。矢筒から矢を取り出し弓弦に番える迄の一連動作は殆どばらつかず、まさに弓兵と言うに相応しいものだった。
矢を放つ命令を下す前に、小鬼の王は小鬼の魔導師達と小鬼の邪教徒に短く目配せをした。
それに対し小鬼の魔導師達と小鬼の邪教徒は、王が何を目で訴えたかを理解したと頷き、各々は杖を前に掲げ魔法を発動させる頃合いを見計らう。
小鬼の王は伝えたい意図が伝わった事を目端で確認した後、空いた片手を上に上げた。
そして、上げた手を勢い良く前に突き出すと同時に射撃命令を発した。
「放テ――――」
だがその瞬間、小鬼の王の命令が完了する前、シャラナは短杖を抜き出すと同時に目を閉じ、先手の魔法を瞬時に発動させた。
「〈魔法大閃光〉!」
強烈な閃光が発生し、空間全体が眩い光に覆われる。
強過ぎる光を直視した小鬼達は、思わず目を閉ざす。
小鬼の王は羽織っている外套で、己の目を隠す様に閃光を防いだ。
しかし、これではあの人間の小娘が視認出来ない。
だがそれは、あの人間の小娘も同じ事だ。
ならば彼方が此方を視認出来ない内に、仕掛けさせて貰うまで。
そう思考した小鬼の王は命令を下した。
「矢ヲ放テー!!!」
小鬼の王の命令を耳にした小鬼の弓手達は弓弦を引き絞り、眩い光の中に居る標的であるシャラナに向けて矢を放った。視認が出来ない為、完全に当てずっぽうである。
だが偶然でも構わない。当てられる確率が低くとも何もしないよりかはマシだ。
「〈矢逸らしの護り風〉!」
それに対しシャラナは初手に続き、矢撃を逸らし流す魔法の風をその身に纏い、偶然シャラナへと飛来した幾本かの矢の軌道を逸らし防いだ。
「〈疾風の矢〉!」
強烈な閃光の効力が続く中、シャラナは目を閉じた儘〈魔力感知〉で小鬼の王、小鬼の魔導師、小鬼の邪教徒の居る方向へと速度が速い〈疾風の矢〉を7発同時に放つ。
「防壁ヲ張レ!!」
小鬼の王は嫌な予感を瞬時に感じ取り、急ぎ小鬼の魔導師達と小鬼の邪教徒に指示を下した。
王の命令に従い、小鬼の魔導師達と小鬼の邪教徒は〈魔力大障壁〉を発動させようとするが、発動が遅れた小鬼の魔導師3匹は眉間を貫かれ即死する。
小鬼の王は羽織っている特別な外套で〈疾風の矢〉を防ぎ、残りの小鬼の魔導師2匹と小鬼の邪教徒1匹はギリギリに発動が間に合い己自身を護る事が出来た。
「〈中位敏捷力強化〉!」
狙った標的を全て仕留め切れなかった事を〈魔力感知〉で把握したシャラナは、閃光の効力が続いている間に自身を強化する。
(〈魔法大閃光〉の効力が切れたら一気に数を減らす!)
シャラナは魔力を一気に込め、即座に広範囲魔法を発動出来るよう備えた。
閃光の光量が急激に減少し、眩い光が消失する。
殆どの小鬼達は目を閉じる前に、強烈な光を目にしてしまった所為で視界は直ぐに元通りに成らず、行動が出来ない状態である。
そんな小鬼の群れに対し、シャラナは発動準備が完了した魔法を行使する。
「〈竜巻〉!!」
魔法によって発生した渦巻く大気は地面の砂を巻き上げ黒く染まり、周囲の小鬼達を容赦無く吸い寄せ、弄ぶかの様に巻き上げる。
竜巻はシャラナの意思的操作によって移動し、次々と小鬼達を呑み込み巻き上げて行く。
「奴ヲ止メロ!! コレ以上何モサセルナ!!」
このままでは兵力が一気に減らされてしまう事を危惧した小鬼の王は、動ける配下に命令を下す。
王の命令を聴き、最初に動いたのは鎖付き鉄球を持った大柄な小鬼である。常人では持つ事の出来ない重く大きな鉄球を鎖で振り回し出し、遠心力が充分に付いた鉄球をシャラナに目掛けて打ん投げた。
飛んで来た鉄球を視界に映したシャラナは、その場から飛び退き回避する。
「魔法ヲ放テ!!!」
シャラナが回避する瞬間を目にした小鬼の王は小鬼の魔導師と小鬼の邪教徒に追撃命令を下した。
王の追撃命令に従い2匹の小鬼の魔導師は其々〈豪炎球〉と〈巨石の牙〉、小鬼の邪教徒は〈闇の投槍〉を発動させる。
シャラナが飛び退いた先の地面から突如と先端が尖った巨石が突き出し、彼女の背を貫こうとする。
「〈石質中脆化〉!」
シャラナは〈魔力感知〉で発動される魔法と魔法発生座標を感知し、猛獣の牙の如く尖った巨石が地面か突き出す直前に短杖を差し向け、貫こうと迫る巨石に向かって魔法を即座に行使した。
突き出す巨石の表面が急激にボロボロと粉末状と化したが、勢いは止まらず、標的に向かって尖端を突き出す。
シャラナは空いた片腕を前に出し、革手袋に宿っている〈魔力の盾〉を展開してそれを受け止める。
急激に脆弱化した巨石は〈魔力の盾〉に衝突した瞬間に容易く砕け、砂と砕けた脆い石屑が舞い散るのだった。
シャラナは防ぎ砕いた直後に、視線を敵が居る方へと向け直す。
今度は大きな炎の球が、シャラナに目掛けて飛来する。
「〈大水柱〉!」
小鬼の魔導師が放った〈豪炎球〉の現在位置の真下から、圧力が掛かった多量の水を噴射させ、貫く様に炎の球体を壊し消火する。
「〈神聖なる防壁〉!」
そして最後に放たれた邪悪な闇の魔力で構成された投槍を、神聖な光の防壁で確実に防いだ。
その素早い対処の一連に小鬼の魔導師と小鬼の邪教徒は驚愕の表情を浮かべ、小鬼の王は瞠目した。
「魔法ヲ撃チ続ケロ!! オ前達ハ回リ込メ!!」
小鬼の王は小鬼の魔導師と小鬼の邪教徒に魔法攻撃の継続を指示し、大柄な小鬼達には竜巻を迂回し接近するよう命令を下した。
王の命令に従い、2匹の小鬼の魔導師は〈火の弾丸〉と〈鉄鎖の束縛〉を、小鬼の邪教徒は〈恐慌誘発〉を行使しようとする。
(この感じ、精神干渉の魔法!)
シャラナは〈魔力感知〉で、小鬼の邪教徒が発動させようとしている魔法が精神に悪影響を来すものだと感じ取り、走り回り出しながらそれに対する魔法を即座に発動させる。
「〈清純なる精神〉!」
神聖系統中位級の防御系魔法を行使した事により、シャラナ自身の精神は強化され、神聖な力によって邪悪な力からの精神干渉を防ぐ護りが施された。
その直後に精神に干渉する不快にして邪悪な魔法がその身に降り掛かるが、〈清純なる精神〉の精神強化のと護符首飾りの効力の御蔭で、難無く抵抗し切れた。
続いてシャラナの周囲から幾本もの鉄の鎖が現れ、対象に巻き付き動きを封じようと急速に伸ばす。
〈鉄鎖の束縛〉程度なら自分を中心に全方位に範囲型魔法で吹っ飛ばしても良いが、一々魔法で対処し魔力を下手に消耗させるのは宜しくない。
そう考えたシャラナは〈鉄鎖の束縛〉に対し魔法は使わず、これまで培って来た己の感覚と俊敏性を強化した己の身体能力を信じ、迫り来る鉄の鎖を避けながら逃げ回る。
そんな彼女に対し、〈火の弾丸〉を発動させた小鬼の魔導師は、その場から軽快に逃げ回る標的目掛けて連続で放つ。
炎熱を凝縮した魔法が勢い良く飛んで来るのを即座に感知したシャラナは、革手袋に宿る〈魔力の盾〉を再び展開させ、それを防いだ。
それを目にした小鬼の魔導師は、続け様に同じ魔法を放つ。
〈火の弾丸〉は炎系統魔法の中で威力が低い低位級魔法に部類するが、それ故に魔力消費量は低く、連射と弾速の性能はそこそこある。その性能は術者の力量と短杖や杖の媒体物によって、よりも威力と速度が増す使い勝手の良い攻撃魔法だ。
だが連射と弾速が速くとも、当然威力が低ければ容易に防がれてしまう。何故に小鬼の魔導師はそれを連発し続けるか。
それは損傷を与える為では無く、シャラナの動きを制限させ、あわよくば動きを止める為のものである。損傷を与えるのは二の次である。
そんな思惑がそれなりに通り、シャラナは避けられる攻撃は避け、防ぐべき魔法は革手袋に宿る〈魔力の盾〉で防続ける。
其処に鎖付き鉄球がシャラナ目掛けて飛んで行く。
流石に膂力で鉄球は受け止められないので、シャラナは飛来し続ける火の魔弾を掻い潜りながら鉄球を避ける。
(大柄な小鬼達が回り込んで来た。接近される前に小鬼の魔導師と小鬼の邪教徒を!)
視界の端で、大柄な小鬼達が今も渦巻く大きな竜巻を迂回し接近して来るのを目にしたシャラナは、短杖を小鬼の魔導師と小鬼の邪教徒が居る方へ差し向ける。
「! 其処カラ今直グ離レロ!!」
此方に短杖を差し向けられた事に悪い予感を感じた小鬼の王は、小鬼の魔導師と小鬼の邪教徒にその場から離れるよう慌てて指示を出す。
「〈空圧大爆風〉!」
シャラナは標的複数の背後を魔法座標を固定し、魔法による急激な突風を炸裂させるが如く発生させた。
2匹の小鬼の魔導師は不意の突風による風圧で背後から吹き飛ばされ、竜巻の中へと放り込まれるが如く吸い込まれてしまった。
小鬼の邪教徒だけはギリギリに避難した御蔭で、竜巻に呑まれ行動が殆ど不可能状態を回避する事が出来たが、魔導師を更に2匹も失った事に小鬼の王は生じた憤りを吐き散らす。
「今度は此方の番です!〈大放火〉!!」
シャラナは多量の炎を発生させた竜巻に向けて、勢い良く噴射した。炎を吸い上げる竜巻は赤熱の色に染まり、爛々と燃え盛る炎の渦へと変化させ、吞み込んだ小鬼達を一気に焼き殺す。
これは模擬試合という茶番劇でガイアが相手の〈大放火〉を利用し、発生させた〈竜巻〉を〈火炎竜巻〉に変化させるという戦術的な応用術である。
炎渦巻く竜巻が消失し、空中へと巻き上げられていた小鬼達の焼死体が次々と落ちていく。
それを目にした小鬼の王は驚愕の表情を浮かべ、その後滲み出た焦燥の顔へと歪ませた。
「奴ヲ押サエロ!! 俊敏性ノ強化ヲ施セ!!」
小鬼の王は小鬼の邪教徒に強化魔法の命令を下す。
小鬼の邪教徒は中位級の俊敏性強化魔法を、大柄な小鬼達に向けて掛けた。
大柄な体格が故に俊敏性が通常種より低い大柄な小鬼達の動作が速く為り、シャラナとの距離を一気に縮め、一斉に襲い掛かる。
振り抜かれた特大剣はごうっと空を鳴らしながら、振り下ろされた特大棍棒は地面を叩き付けると同時にけたたましく鳴り響かせ、何方も風圧という強い余波を発生させる。
「〈疾風の―――――」
シャラナは攻撃後の隙を見計らい、魔法を発動させようとした。
「!」
しかし、特大棍棒を振り下ろした大柄な小鬼は空いた拳で殴りに掛かり、シャラナは反撃を中断しその場から退避した。
それを見計らっていた鎖付き鉄球を持つ大柄な小鬼が、シャラナに目掛けて再び鉄球を打ん投げる。
「わっ…!」
勢い良く飛んで来た鉄球を視界に映したシャラナは慌てて回避する。
大柄な小鬼達は雄叫びを上げながら、特大剣を振り、特大棍棒を振り、鉄球を投げ付け、拳を振り、シャラナを追い詰めようとし続ける。
「〈疾風の刃〉!!」
僅かな隙の間に、シャラナは鋭利な風の刃を1匹の大柄な小鬼に向けて即座に放つ。
その瞬間を目にしていた大柄な小鬼は身体を素早く横へ逸らし、放たれた〈疾風の刃〉を回避し、特大剣による反撃を仕掛ける。
大柄な小鬼達の猛襲の中、シャラナはひたすら動き回りながら〈疾風の刃〉を発動し放つ。
攻防の時間が経過につれ、大柄な小鬼達は僅かな疲労で動きが少し鈍り出し、避けれた風の刃が当たり深い斬り傷を負い出す。
「回復サセロ!」
それを観ていた小鬼の王は小鬼の邪教徒に命令を下し、小鬼の邪教徒は杖を掲げ〈中位邪法の治癒〉を負傷した大柄な小鬼に掛ける。
治癒が掛けられた大柄な小鬼の傷から、急にボコボコと汚泥の様な肉が噴き出し、それは歪に肥大し出す。
邪悪属性の治癒魔法は悪しき者、邪な存在のみに効力を発揮する魔法であり、逆に正しき者、善なる存在に対しては余り治癒効力が発揮されない魔法である。そして邪悪な魔力によるものである為、善の者や中立の者が幾度も掛け続けられると心が徐々に悪へと傾いてしまう副作用がある。
謂わば精神を歪ませる邪法の治癒だ。
しかし、小鬼種は生来邪悪な性質を持つ故、邪法による治癒魔法は何ら問題は無い。
そして肉が噴き出す様な奇怪な現象が起こるのは、邪悪な治癒である故である。
歪に肥大した肉が急に収縮し、深い斬り傷が治癒された大柄な小鬼達はほぼ万全の状態と成り、動作の調子が良く為った大柄な小鬼達はシャラナに猛襲を続ける。
1対複数による劣勢な状況の中、シャラナは脳裏にある過去の光景がふと浮かぶ。
ガイアと初めて訓練試合をした時の様だ。
襲い掛かって来る大柄な小鬼達は、まるでガイアが創り出した動像が襲い掛かって来る様な光景に類似している。俊敏性が強化されている事もだ。
こうやって猛攻から逃げて避けて、隙を見て魔法を放って攻撃する。
(あの時は必死で応戦してたけど、今はここまで動ける様に成ったんだ)
身に付けている特別な防具類の恩恵もあるが、一々思考せず、無意識かつ反射的に、まるで身体が勝手に動いてくれてるかの様だ。
戦闘前は緊張で心臓の鼓動がそれなりに速く為っていたが、大柄な小鬼達からの猛襲を焦る事無く対処する事が出来る。
見える。
見切れる。
視野全体を自然と見れ、反応する事が容易く出来る。
ガイアの動像なんかより―――――ずっと容易く相手取れる。
シャラナは闘いの中で自身の成長を実感し、胸中でその喜びを抱く。
「奴ノ動キヲ封ジロ!!」
息を切らす事無く軽快に動き回るシャラナを観察していた小鬼の王は、小鬼の邪教徒に動きを封じる魔法を放つよう命令する。
あんな華奢な身体で何故ああも長く動き続けられ、今も息を切らさずにいられるのかと小鬼の王は違和感を感じていた。
魔導師は身体能力面に於いては基本的に低い。強化魔法で俊敏性や移動速度を高めて機動力を強化したり持久力を底上げすれば、その欠点を補う事は出来る。
だが、人間の小娘が自身に使用した機動力に関する強化魔法は〈中位敏捷力強化〉のみ、移動速度と持久力に関する強化魔法は使っていない。
にも関わらず、あそこまで動き回れる。
その要因、その答えは小鬼の王の頭の中ではっきりと浮かんだ。
――――魔道具による恩恵だ。
この地下ダンジョンに潜って来る冒険者という存在は、大抵何かしらの魔道具を身に付けている。
あの人間の小娘の場合、身に纏っている殆どが特別な防具の可能性は非常に高い。特に脛当てが付いている革製の長靴は移動速度を上昇させる代物である事が容易に予想が付く。
では、持久力を強化させる物は何か。
着ている魔導衣か、胴体を防護する革鎧か、魔力で構成された盾を出現させる革手袋か、羽織っている外套か、それともあの護符首飾りか。
何にしろ、それ等の中で少なくとも1つが着用者の持久力を強化させる特別な防具であるのは間違い無いだろう。
そう予想した小鬼の王は持久戦に持ち込むのは余り得策では無いと判断し、魔法による行動妨害の指示を小鬼の邪教徒に下したのだ。
小鬼の邪教徒は状態異常を起こす魔法〈中度麻痺〉を発動させ、動き回るシャラナに掛けようとし出す。
「〈中位全抵抗力強化〉!」
当然それをシャラナは感知し、行使される前に状態異常に対する抵抗力強化の魔法を即座に発動させ、降り掛かる麻痺の効力を抵抗し防いだ。
それを目にした小鬼の王は僅かに顰めながら、通常の状態異常による妨害は無理だと悟る。
「状態異常ガ駄目ナラ束縛シロ!!」
次なる指示に小鬼の邪教徒は束縛系の邪悪系統魔法〈悪魔の呪縛〉をシャラナに向けて発動させた。
中空や地面から複数の黒い魔法陣が構成され、其処から悪魔の力が宿る呪いで構成された魔力の鎖が出現し、シャラナの全方位から拘束しようと急速に伸ばす。
(この感じ、邪悪系統魔法! それなら――――)
「〈神聖力の炸裂〉!!」
邪悪という呪いの気配を鋭敏に感じ取ったシャラナは神聖系統の広範囲魔法を発動させ、自身を中心に協力な神聖魔力の衝撃波を炸裂させ、周囲の大柄な小鬼達と束縛しに迫る呪いが宿る悪魔の鎖を一遍に吹き飛ばす。
神聖属性の力によって悪魔の力が宿る呪いの鎖は粉砕され、吹き飛ばされた大柄な小鬼達は地面を転がり負傷する。
「直グニ立テ!!! 殺ラレルゾ!!!」
小鬼の王は焦り、吹き飛ばされ地面に転がり付す大柄な小鬼達に早く立ち上がるよう命令し促す。
「今度こそ!〈疾風の刃〉!」
シャラナは透かさず鋭利な風の刃を8発放ち、慌てて立ち上がろうとした大柄な小鬼8匹全ての首を刎ね飛ばした。
その連発速度に小鬼の王と小鬼の邪教徒は目を見開き、顔を苦渋の思いで歪ませる。
何という事だ……!
時間を掛けて集めた我が兵力が殆ど殺られてしまった…!
未だ未だ増やす筈の我が兵力がたった1人の人間に倒されてしまった…!
数多の兵を掻き集め、このダンジョンから地上へ繰り出し、村、町、都市、そして国を蹂躙し、人間を初めあらゆる種族を屈服させ支配する野望が遥か彼方へと遠退いてしまった。
通常種の下っ端だけなら未だ良かった。
大柄な小鬼と魔導師を失ったのはかなりの痛手だ。
唯一残っているのは我を除き、小鬼の邪教徒1匹だけ。
小鬼の王は内に秘めたどす黒い執念の炎を強くし、殺意という熱を全身に巡らせた。
負けていない。
未だ負けていない。
我は野望を諦めるつもりは決して無い。
我さえ生きていれば遣り直せる。
我さえ生き残れば立て直せる。
時間を掛けても構わない。また掻き集めれば良い。
もう一度、我が繁栄を築き上げる。
だがその前に――――あの人間の小娘を殺してからだ。
己が内に秘めた殺意を剥き出しにした小鬼の王は、特大の戦斧を強く握り締める。
「我ガ出ル。強化ヲ寄越セ」
小鬼の邪教徒は指示に従い、小鬼の王に有りっ丈の強化魔法を施し出す。
「させない!〈疾風の投槍〉!!」
その行動を遠くから目にしたシャラナは、それを妨害すると同時に一撃で倒そうと、風の魔力で構成された投槍を創り出し、小鬼の邪教徒に向けて即座に放つ。
「フン!!」
急速に飛んで来た風の投槍を特大戦斧一振りで弾き防ぎ、狙われた小鬼の邪教徒を護った。
「急ゲ!」
小鬼の王にそう促された小鬼の邪教徒は急ぎ複数の強化魔法を発動させた。
〈中位敏捷力強化〉で俊敏性を強化、〈中位硬質化〉で物理防御力を強化、〈中位魔法防護〉で魔法防御力を強化、〈冒涜の祝福〉で更に物理と魔法への防御力を強化、〈上位神聖からの護り〉で神聖属性魔法への耐性を向上、〈邪悪なる精神〉で恐怖耐性強化と精神干渉への防護を施し、〈狂人の大力〉によって膂力を狂戦士の如く恐ろしい怪力へと強化させ、最後に〈中位武器不浄化〉で特大戦斧に穢れし闇の魔力を付与する。
「良シ。オ前ハ自身ヲ護リナガラ援護ヲシロ」
小鬼の王はそう言い前に出て、小鬼の邪教徒は指示通りにシャラナの視線から隠れる様に小鬼の王の後ろへと下がる。
数歩前へ出た小鬼の王は全身に気の力を一気に巡らせ、己が有する特殊技能を発動させた。
〈強靭豪腕〉と〈強靭豪脚〉による肉体強化をし、戦闘準備を整い終えた小鬼の王は視界の中心に映るシャラナを睨み澄ます。
そして片手で特大戦斧を振り抜く構えを取る。
王にして屈強な戦士たるその姿と視線越しに放たれる殺意という圧に、シャラナは背筋に悪寒が奔った。
精神を魔法によって強化し保護していなければ、きっと心が揺さ振られ恐怖していたかもしれない。
そうシャラナは思い、近接戦闘を前提に身構え直す。
遂に小鬼の王との直接対決の時が訪れ、決着への最終戦闘が始まろうとするのだった。




