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兎狩り3-1

 何処迄(どこまで)も色鮮やかな緑が広がる広大な大草原。

 そして、春風に優しく()でられる草が揺れ、心地良い音を(ささや)く様に鳴らしている。

 見渡す限りの草の絨毯(じゅうたん)は何処迄も広がっていた。

 どんなに見渡しても生き物1匹すら見当たらない。

 色鮮やかな緑広がる大草原と所々に点在する小さく背の低い樹木、そしてポツンと鎮座(ちんざ)する(いく)つかの岩以外は何も無い。

 まさに、ド田舎と言える広大な土地だった。

 この広大な自然に在るものと言えば―――平和だ。

 此処(ここ)の大草原には魔物が出没する事は滅多に無い為、村人が村の外に出る際、護身用の武器を持たずに外出しても安全なのだ。

 魔物がこのフォラール大草原に出没しない理由は至って簡単だ。森からわざわざ出て、獲物を探す必要が無いからだ。(むし)ろ森の中の方が獲物が多く生息している為、わざわざ森から遠出する無駄かつ面倒な事をしないからである。


 そんなフォラール大草原を、大きな岩が途轍(とてつ)もない速度で動いていた。


 その動く岩の上には芝生(しばふ)に似た草が生えていた。岩肌は白色に近い灰色。岩から腕と脚の様な物が付いており、生き物の様に動いていた。更には(ドラゴン)の様な骨格の頭が付いている。そして顔に付いている人の頭ぐらい大きい目は、岩の身体に合わない様な生物の目をしていた。

 その動く岩は、実際に生きているのだった。

 そんな生きた岩石は、フォラール大草原を疾風の如くの速度で走っていた。脚の様な部分の動きは人が走る様な速さで動かしているが、進む速さが尋常のものではなく、豪風が身体を叩き付ける程の風圧が容赦無く押し寄せてくる。

 フォラール大草原を疾走している生きた岩の正体は〝恵みの使い〟とフォラール村の人達に呼ばれ、前世で白石大地と言う人間が自然災害で不運な死を遂げ、この異世界に転生し、人外の生物である岩石の魔獣に生まれ変わった存在。

 そんな心優しき魔獣が、大草原を駆け抜けていたのだ。

 そして、2つの絶叫が大草原に響き渡っていた。

 絶叫の発信源は、魔獣の大きな岩石で構成されている手の中だ。

 右手にはロノタックと言う狩人と左手にはタンタと言う元冒険者が、岩石の手に(つか)まっていた。だが、今はその手にしがみ付いているというのが正しいだろう。進む度に押し寄せて来る強烈な風圧に耐え、吹き飛ばされてしまわない様にしがみ付いているのに必死だった。

「ァァァアアアアアア止まってええぇぇぇぇ休ませてえぇぇぇぇ!!!」

「オワアアアアァァァアァァお願い止まっでええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 2人は只今(ただいま)一直線限定のジェットコースターを絶賛体験中である。

 2人の絶叫はフォラール村から出発してから今も続いていた。

(もう直ぐだからもうちょい頑張れー)

 そんな2人の絶叫交じりの哀願を聞き流しながら、岩石の魔獣は速度を落とさずに走り続けた。

 2人の絶叫は約10分程、フォラール大草原に響き続けた。


(とーちゃーく!)

 岩石の魔獣は立ち止まった。

 掴んでいる2人をゆっくりと草の(しげ)った大地に降ろして上げる。

 (ようや)く2人は絶叫マシン魔獣から解放され、安堵(あんど)感が絶叫した分だけ心の底から湧き出てくるのだった。

 脚に力が入らず(ひざ)を着き、そのまま倒れると同時に両手を大地に着き、四つん這い状態でぐったりと(うつむ)いていた。

 フォラール村からポフォナ森林に着く迄の間は絶叫し続けていた為、体力と精神が普段よりもかなり疲労してしまったのだった。特に精神面が。

 流石に無理もない。絶叫マシンが苦手な人が長々と、しかも強制的に絶叫マシンに乗せられた様なものなのだから。

「……ちょ…ちょっと………休ませて……」

「…何か……身体の…感覚………おかしい…」

 当然こうなる。

 2人は未だにぐったり状態から回復していなかった。

(ぁー…。流石にきつかったか。…回復して上げないと)

 岩石の魔獣は特殊技能(スキル)栄養素譲渡(えいようそじょうと)〉を発動し、疲労回復に適した強壮効果の有る栄養素を2人の中に注ぎ込んだ。

「うおっ?! 疲れが無くなった!」

「おお、本当に便利な特殊技能(スキル)を持ってるんだな」

 さっきまで力が入らず泥の様に重かった感覚が無くなり、疲労が一気に抜けて身体が軽くなる感覚に驚く。

 それどころか、力が湧き上がる様な感覚が後からじわりじわりと全身を血流と共に廻り伝わっていくのだった。

 特殊技能(スキル)というものは本当に便利な技能だ。こういった不便さを簡単に解消してくれるのだから。

 何より一番気に入ってる特殊技能(スキル)〈光合成〉の存在がかなり大きいと言える。日の光にさえ当たり続ければ、無限に自己回復が出来るのだ。

 たとえ危険な戦闘に()ったとしても死ぬ気が全くしない。未だ重症を負う以前に闘った事は無いが、たとえ負ったとしても直ぐに完治してしまうだろう。

 そして生き続ける意味では、決して飢え死にしない事だ。

 荒廃した世界や極寒の土地、水すら無い草1本すら生えていない荒野や砂漠のど真ん中に居ようとも、太陽の光にさえ浴び続けていれば生き続けられる驚異的な生命力を兼ね備えているという事になるのだ。

(そういえば、魔法もそうだけど特殊技能(スキル)を持ってる人も居るのかな? 特殊技能(スキル)も魔法も在る世界だから居るのは当たり前かな? …この2人も特殊技能(スキル)とか持ってるのかなぁ? まぁ、見た目からして魔法は使えなさそうだけど)

 未だこの世界の広さを知らない。

 この世界の常識、歴史、自分以外の魔獣、そして特殊技能(スキル)と魔法の知識が溢れる未知の世界を未だこの目で見ていない。

 だから冒険がしたい。

 もしその先の未知が危険なものでも、歩まなくては、進まなければ、この異世界を知る事が出来ない。

 この異世界に転生してから、未だ1日しか経っていない。

 だが、急ぐ必要は無い。

 ゆっくりでも1歩ずつ進んで行けば良い。

 時間は幾らでもある。

 この広い異世界を楽しみながら歩んで行けば良いのだ。

 魔獣に生まれ変わった白石大地は前世の頃と変わらず、楽観的な考えをしていたのだった。

 のほほんと先の事を考えている時に、岩石の魔獣の御蔭で復活したロノタックが声を掛けてきた。

「よーし。そんじゃ早速獲物を探しに森へ入るぞ」

 岩石の魔獣は頷き、了解の意を示した。

「もしイナクティブ・ウルフに不意を衝かれる時は護って欲しいんだが、頼めるか?」

 タンタが少し不安そうな表情をしながら問い掛けてきた。

 その表情の意味が岩石の魔獣には理解出来た。

 簡単に言ってしまえば〝俺達の盾になってくれ〟と言っている様なものだ。

 つまり、タンタは危ない役目を押し付ける事の罪悪感から、嫌悪(けんお)感を抱かせ友好関係に亀裂を入れてしまうのではという不安からの表情だ。

 だが、護って欲しいと頼まれる事は、強いと信じているからこその御願いでもあるのだ。

 だから答えは1つだ。

(大丈夫。任せて)

 大きな岩石の手を握りながら前に出し、親指を快晴の青空を指し「勿論」と承諾(しょうだく)の意をしました。

 彼から不安の表情が綺麗に消え、安堵の表情へと変化した。如何(どう)やら安心してくれた様だ。

 そして2人と1体は視界に広がる森を見据えた。


 ポフォナ森林。

 森林の中は至って何処にでも在る様な普通の森と変わらないが、サーカスムフェイス・ラビットが多く生息する場所であり、そのサーカスムフェイス・ラビットを稀に現れるイナクティブ・ウルフが捕食しにやって来る。少しながら危険な森と言える。

(初めての魔物と戦闘にするには丁度良い機会かも知れないな。魔法も戦闘以外でしか使ってないし、この世界に転生してから直ぐに実戦経験が出来るのはかなり幸先が良い。良い練習になると良いな)

 岩石の魔獣は、今の自分はどれだけ戦えるのか考えながら2人の後ろに付いて行く。

「待ってろよー。酒の(さかな)ー」

「おいおい」

 2人はかなりリラックスしながら冗談を交えて歩いていた。 

 そしてポフォナ森林の入り口へと足を踏み入れた。

 森には人が住んで居ないにも関わらず、その入り口の両端に生えている樹は丁度良い間隔幅で(そび)え立ち、まるで鏡合わせの様に曲がっていた。樹と樹が御辞儀でもしているかの様な、誰かの手が加えられている様な自然が「此処が入り口だ」と見せている様にさえ思えてしまう。

 そして入り口から奥まで広がる色鮮やかな緑の屋根。僅かな葉っぱの隙間を太陽の光が、ほんの少しだけ薄暗い森林の世界を照らしていた。

(よしっ! 冒険前の下準備と行くか!)

 岩石の魔獣はポフォナ森林の未知へ期待を膨らましながら、タンタとロノタックと共に歩み進んだ。

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