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第8話 初めての揚げ物メンチカツサンド

あとがきは、パンじゃなくメンチカツの由来を貼りますノ


「ちょっと多めに作った食パンをちぎって、このおろし金ですってもらっていい?」

「せっかく作ったパンを?」

「うん、重要なんだ」


 前に商業ギルドで買ってきた陶器のおろし金と食パンを、エリーちゃんに渡した。

 このおろし金、金属製だと怪我しちゃうことが多いからロイズさん達が頑張って開発したんだって。野菜に使うのもいいけど、生パン粉にはこれが一番。

 フードプロセッサーとかないから。


「……って、これ全部?」

「お願い、揚げ物にはたっぷり使うからっ」

「ん、りょーかい」


 半斤くらいの量をお願いしてから、僕はメンチカツのお肉の方を準備。

 玉ねぎをみじん切り。

 合挽肉をボウルに入れたら、玉ねぎと調味料を全部入れて粘り気が出るまでよく混ぜる。

 均等になるようにタネを分けてから、ハンバーグのように空気を抜きながら形を整えた。


「エリーちゃんどーう?」

「まだ三分の一くらいだよ」

「あ、じゃあそれ持ってきてくれる?」

「止めていいの?」

「うん、揚げたて食べてもらいたいし」


 揚げ油も中華鍋っぽい鉄鍋で先にスタンバイしてたから、あとは衣をつけるだけ。

 コンロの横の調理台に、タネを乗せたバット以外に小麦粉、溶き卵とエリーちゃんが作ってくれた生パン粉用のも置く。

 生パン粉は綺麗に出来上がってたので、それを少しバットの上でならしてからタネを一つ持った。


「ハンバーグにも見えるけど?」


 ハンバーグは、既にミニハンバーガーなんかで提供しています。補正効果は多いのだと自然治癒。

 味付けはデミグラスソースとかじゃなくて、和風のテリヤキソース。醤油も普通に売ってるから驚いたけど、和食文化の国からの輸出品らしい。


「違うよ。これに、小麦粉を軽くまぶして溶き卵にくぐらせて……エリーちゃんの作ってくれたパン粉をしっかりつけたら、油に入れる!」

「へぇ……?」


 わざと低温にさせてた油の中に入れれば、少しだけ油のはねる音がした。

 一つだけじゃなく、あと三つほど衣をつけて同じように入れてから手を洗って菜箸をスタンバイ。

 箸文化も、醤油がある国の文化としてアシュレインにも伝わっている。


「一気に高温の油で揚げても、中のお肉が生焼けになってることもあるからまずは低温でじっくり」

「肉の場合?」

「そうだね。お魚とかはすぐに火が通っちゃうから」


 家庭に寄るけど、僕の家ではおじいちゃんの作り方。

 衣の泡立ちがおさまってきたら、一旦全部取り出す。

 コンロのつまみを強にして、油をしっかり熱する。

 パン粉をちょっとだけ落としてすぐに跳ねたら、取り出したカツ達を再び入れてキツネ色になるまで揚げていく。


「よーし、メンチカツ完成!」

「こんな揚げ物、初めて見るけど……」


 この世界の揚げ物文化って、フリットみたいな天ぷら以外じゃドーナツくらいしかないので無理はない。

 揚げたての一つを、火傷しないようにまな板の上で半分に切る。それぞれを油吸い取り紙に包んで、さあ試食。


「うわ、肉汁たっぷり……」

「まずは何もつけない方がいいよっ」

「うん。じゃあ、いただきます」

「いっただきまーす」


 火傷しないようにかぶりつく。

 乾燥のもいいけど、生パン粉を使ったから油を吸ったさっくさくの衣が歯に心地いい。

 玉ねぎも甘く、お肉は柔らかくて味付けはしっかりしてるからソースをつけなくても十分に美味しい。

 うちのメンチカツのコツは、胡椒多めに生パン粉を使うことかな?


「お、美味しい! パンを削ったのまぶしただけなのにサクサクしてて、中の肉は柔らかいしハンバーグとは別もんだよ⁉︎」

「あ、まだ全部食べちゃわないで。もう一味加わるから」

「ってことは、なんかかけるの?」

「そうそう」


 いつかこの日のためにと準備しておいた、熟成香味ソース。

 実家のパン屋ではおじいちゃんが戦後からずっと作ってたのを継ぎ足しで作ってたけど、ここでは違う。

 まさに1代目だけど、気にしちゃダメ。

 冷蔵庫の奥の奥にしまっておいた瓶を取り出し、ミニスプーンで中身をすくってから食べかけのカツにかける。

 エリーちゃんには醤油と似たように見えるからか、少し不思議がっていた。


「あ、匂いが醤油じゃない?」


 そして、ちょびっとだけ口に入れたら……嬉しいくらいにほっぺが赤くなっていった。


「なにこのソース! 酸味あるけど、それが肉にちょうど良くて口の中がさっぱりになる!」

「熟成させておいた香味ソース。中濃ソースとも言うかな?」

「たしかに濃いけど、くどくない!」


 僕も食べたら、おじいちゃんには負けるけど悪くない味でした。


「じゃあ、メンチカツはこんなところ。仕上げにいくよ」


 ご飯のおかずじゃなくて、店で出すパンのための試作だからね?

 だけど、作るのは決めていた。

 この店の看板商品の一つ、ロールパンサンド。

 あれは絶対に美味しいはずだから。


「材料は、半分に切ったメンチカツ。野菜は千切りのキャベツと添え物程度にパセリ。調味料はソース以外にバターと少しマヨネーズ」


 あとはいつも通りに挟んでいくだけ。

 マヨネーズは千切りキャベツの上に少々。

 ソースはカツにたっぷり染み込ませます。


「カツは断面を上にしても下にしてもどっちでもいいかな?」


 とここで、頭の中にあの音声が響いてくる。



『錬金完了〜♪』



 もう慣れたけど、相変わらずのゲーム音声だ。

 そして、出来上がったメンチカツサンドの上に画面が表示される。





************************





【スバル特製ロールパンサンド】



《特製メンチカツ》

・食べれば、攻撃力(魔法は除外)を65%まで引き上げてくれる

・製作者が一から手作りしたメンチカツは、揚げたてもだが冷めても美味しい一品! 同じく手作り熟成ソースがたっぷり染み込ませてあるからやみつき間違いなし!





************************






「魔法以外の攻撃力が、65%も……?」

「それ初めてじゃない?」


 補正は色々出してきたが、ドーピングになるようなのはほとんど治癒効果だった。

 防御力もまだ出たことがないのに、これは驚くしかない。

 他の詳細も画面が見えないエリーちゃんに伝えれば、ますます首をひねらせてしまった。


「……試食も兼ねて、ロイズさんかうちのギルマスのとこに行った方がいいよ」

「だよね」


 けど、この時間ならそろそろ……。





 カララン、コロロン





 表側のドアが開く音が聞こえてきた。


「あらぁ? 今奥かしらー?」


 のんびりした口調の女性の声。

 間違いがないので、僕らはメンチカツサンドの皿を持ってから向かった。


「いらっしゃいませ、ルゥさん!」

「いらっしゃいませ、ギルマス」

「あらあら、急がなくても大丈夫よぉ?」


 冒険者ギルドのマスターであるラシャールゥさんは、今でもお得意様の一人。

 お忙しいにも関わらず、わざわざ出向いてくださるんだよね。一応距離の近い商業ギルドにも卸してるのに、色んなパンが食べたいからって。


「あらぁ、なんかパンとは違う香ばしい匂い……?」

「新作なんです。パン粉を使った揚げ物なんですが」

「まあそうなの!」


 僕とエリーちゃんが持ってるお皿のパンを見ると、ただでさえお綺麗なお顔が笑顔で輝き出す。

 ハーフエルフだから、エリーちゃん曰く美麗集団らしいけど僕はルゥさん以外まだ見たことがない。

 とにかく、まぶし過ぎる!


「あ、あの、お昼ご飯まだでしたら、これ試食していただいていいですか?」

「いいのかしらー?」

「ギルマスかロイズさんのとこに持っていこうとしてたんで」

「じゃ、遠慮なくぅ」


 ほんとに遠慮なくメンチカツサンドを持ち上げ、勢いよくぱくりと。

 綺麗なお顔をしてても気持ちよく食べてくださるんだよね、ルゥさん。


「うん、美味しい!」


 そして二口目を頬張ると、空いてる腕を思いっ切り振る。


「これ、お肉なのね⁉︎ けど、ハンバーグとはまた違う肉汁の甘味に衣はサックサク! 黒いソースは醤油じゃなくて、深い味わいの酸味があるソース……けど、油っこいこの衣にはぴったりだわぁ! パンとも相性抜群よぉ!」

「お粗末さまです」


 どうやら今回も気に入っていただけたようだ。

 だけど、問題はここから。


「補正効果はこれなんだったのぉ?」

「……実は、その」

「スバルが見た表示じゃ、魔法以外の攻撃力を付与するものでした」

「……それ本当?」


 二個目に伸ばした手を引っ込めて、ルゥさんは自分の鑑定眼を使ってメンチカツサンドを見詰めた。


「……たしかに。パンはエリーちゃんのも混じってるから確率は相変わらずでも、スバルちゃんが全部手がけたらわからないわぁ」

「まず、補正効果が必ずしも同じ値とは限らないですしね」


 僕の作るポーションのようなパン達は、効果の具合がまちまち。

 まだ錬金師としては新米だからとロイズさん達は様子見してくれるが、最近はその数値も安定してきている。

 効果が8割も回復するものに関しては、この店舗だと取り合いの地獄で済まないから、ロイズさん達がギルドで管理と販売を担当してくれてます。


「そぉねぇ? これはまずまずだけど、ロイズのとこにも行く予定あるから全部預からせてもらえる?」

「ええ、構いませんよ」

「ギルマス、もしまたこう言うのが出てきた場合は?」

「逐一報告いいかしら? 伝書蝶はバンバン使っていいからー」


 伝書蝶と言うのは、特殊な魔法を組み込んだ紙を使ったこの世界でのメール便。

 テレパシーもなくはないけど、証拠としても残るからこっちの方が重宝されています。

 とりあえず、メンチカツサンドを全部包装して袋に入れてからルゥさんに渡しました。


「これって、他の惣菜パンと同じくらいかしらぁ?」

「ええ、最低一日は保ちます」


 無添加、安心安全の食品だけど賞味と消費の期限はどうしようもない。

 今回のメンチカツサンドじゃ、冷蔵に不向きな作り方だったからだ。

 ルゥさんは他にいくつかおやつ用に甘いパンを購入してから、店を去っていった。

【メンチカツの由来】



今回は皆大好きメンチカツの由来。


メンチカツの呼び名は日本だと関東や関西で違います。作者の家は両親が関西だったので『ミンチカツ』と時々読んでいました。


説は色々ありますが、関西由来の方を紹介します。


近畿地方を中心とする西日本では、元々挽き肉をミンチ肉あるいはミンチと呼ぶことが東日本よりも多いらしく、ミンチで作るカツからそのまま「ミンチカツ」と呼ばれる方が多いと言う説です。


そして、サンドイッチやコッペパンじゃなくロールパンにするのは、大学近くのパン屋さんでよく売ってたもので登場させてみました。

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