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第62話 大食い選手権

 会場に行く前に、どこからかチラシをもらってきたアクアちゃんが僕達に見せてくれました。


「ご飯食べ放題!」


 ちょっと違うだろうが、巨漢並みの胃袋を持つらしいアクアちゃんにはそう思えるかもしれない。

 無表情はどこに行ったのか、シェリーちゃんのように感情豊かになってしまってキラッキラの笑顔全開。

 あれだけ買い食いしたのに、まだまだ食べれるなんてすごいや。


「とりあえず、チラシ見せてくれ」


 クラウス君はアクアちゃんから借りると、僕やエリーちゃんにも見やすいようにしてくれました。







************************



【第4回 パスタ大食い選手権開催】



 創立祭最終日に開催するようになった当企画も、今年で4回目!


 ルールは至って簡単。




 ・ミートソース

 ・カルボナーラ

 ・海鮮バジリコ




 この三種類、出来立ての品をそれぞれ一キロ、制限時間45分以内に完食する早さを競います!




 優勝者には、賞金銀貨50枚を進呈!




*食べ切れずとも、罰金とかは特にありません




『主催 カフェ・アマダンテ』




************************





 大食い対象は、パスタだそうです。

 お昼にパスタは、そう言えばリリアちゃんのいるカフェにこの間行ったきりだ。大食いじゃなきゃカルボナーラを堪能したいけど、一キロも食べれないし他の種類もあるから無理だ。


「パスタ大盛り、しかも三種類!」


 僕のことよりも、早く参加したい一心で腕を強く振りまくるアクアちゃんを少し落ち着かせよう。彼氏のケイン君がすぐに頭をぽんぽん叩いても効果なし。

 賞金とかは日本円じゃ10万くらいな金額だけど、アクアちゃんの意識は金額より大量の食事に向いていました。

 そんな彼女に、リーダーのクラウス君は苦笑いしながらもため息を吐いた。


「まあいい。祭りの企画なのと作り立てならゼストが気にかけてた問題はないだろう。お前なら、優勝も狙えるだろうが」

「は! そのお金で、豪勢な夕飯を食べに行くのも!」

「いや、せめて貯金してくれ……さっきゼストに言ったのは嘘じゃないがお前は食べ物に使い過ぎだ」

「む。けど、エントリーまでに時間がない。ケイン、行くよ」

「ほいさー」


 ケイン君まで参加するのか、二人でダッシュしながら行ってしまった。


「ケイン君もなの?」

「だいたい付き合ってやってんなぁ? 飯屋の息子だったし、俺よりは食うぞ」

「それでも、三キロは食えないだろうからリタイアはするな?」

「へー」


 ジェフの方が食べそうなのに意外です。

 すると、ジェフが口笛を吹き出した。


「……俺もやってみっか?」


 と言いながら、ちらっとシェリーちゃんの方を見る。

 これはまさか、射的屋さんや他でも彼氏アピールしてたのに、さらに頑張るつもりか。


「……かっこつけよってっ」


 気づいたのは僕だけじゃなく、レイス君もイライラし出した。

 対するシェリーちゃんは、一瞬顔が赤くなったけど何故かすぐに心配そうな表情に変わった。


「む、無理してない? ケインはまだしも、アクアには追いついたことないのに……」

「ま、リタイアは確実だろうがやるだけやってみるわ」

「……俺もやるわ!」

「は? ちょ、おま、レイス⁉︎」


 せっかくの二人の雰囲気に割り込んだレイス君によって、ジェフは無理に引きずられてエントリーの受付に行ってしまった。

 残された男は僕とクラウス君だったけど、お互い露店のご飯でお腹も膨れてるから辞退。エリーちゃんもシェリーちゃんも同じでした。


(あと、これ以上目立ちたくないからね……)


 さっきの店仕舞いする事態にもなるくらいだから、遊ぶ方に徹します!


「あ、この企画リリアんとこだよ?」

「へ?」


 いつのまにかチラシを持ってたエリーちゃんが、とんとんと僕の肩を突いて教えてくれた。

 慌ててよく見ると、たしかにリリアちゃんが働いてるカフェの名前が載ってた。


「知り合いがいるのか?」

「時々お邪魔するカフェの看板娘さんがいるんだー。元気で可愛いし、よく話してるよ」

「けど、男と知られてないから女同士の友達ってところか?」

「事実だけど、色々失礼だよクラウス君」

「ははっ、すまない」

「もぉ〜……けど、変装中だから居ても話しかけられないなぁ」

「まず、今のゼストが同一人物だとは思われないって。とにかく、あたしらは見やすい位置に行こ」

「ですねっ」


 とりあえずは、観客席らしいスペースを探すことにしました。








 ◆◇◆









「さあ、お待たせしました! カフェ・アマダンテ主催のパスタ大食い選手権第4回。今年は街の住民だけでなく、観光客も多数参加となりましたよ!」

『わぁあああああああ‼︎‼︎』


 おみくじの司会さんが使ってたのと同じような、マイク型の拡声器で会場内に響かせていた。

 こちらは女性で、なんとさっきエリーちゃんと話してたリリアちゃんご本人。服装は、いつものカフェで着てるのと同じウェイトレスの夏服verでした。


「そして、今回唯一の女性挑戦者は可愛くて超小柄⁉︎ 失礼ですが、大丈夫ですか?」

「ん、問題ない」


 マイクを向けられても、アクアちゃんは堂々と答えた。

 本心は早く食べたい気持ちでいっぱいなんだろう。少し席が離れてる他の皆は、そんなアクアちゃんを見て苦笑いしてるだけだった。


「早く食べたいだけだろうね……」

「ほぼタダ飯同然なら、余計にやる気が出てるな?」


 こっちにいる残りの二人まで、同じ気持ちでした。

 リリアちゃんは少しの間きょとんとした顔になったが、アクアちゃんが少し鼻息を荒くしながら待ってるのを見てすぐに進行の続きを始めてくれた。


「では、出場者の方も観客の皆様もご存知でしょうが改めて競技内容の説明を。


 1.出てくるパスタすべてを45分以内に完食が目標

 2.無理のないよう、脱落挙手はすばやく

 3.優勝者には銀貨50枚を進呈、残したりリタイアしても罰金は設けません


 以上を踏まえて、これより競技を始めさせていただきます。司会進行は、アマダンテのウェイトレスであるリリアが進めさせていただきますね!」


 それから、とリリアちゃんは自分の後ろにあるテントの前からずれた。


「こちらで、競技に使用するパスタを今作っています! パスタの茹で、調理等は最初以外は選手の食べる速さに合わせて作ります! なので、この暑い中さらに熱いものを食べると言う状況も大変です。絶対無理のないように」


 説明が進む間も、一番左端にいるアクアちゃんは我慢出来ないのかほっぺを膨らまして不機嫌になっている。隣のお兄さんは少し首を傾げてたが、リリアちゃんの進行がもうすぐ終わりそうなので前を向き直した。


「通常メニューはこのお皿ですが、競技用は専用の銀皿に乗せますが熱くはないので触っても大丈夫です。それでは、カウントの準備をさせていただきます!」


 テントから見覚えのあるウェイターさんが登場してきて、アクアちゃんの右隣に立つと上に手を掲げ出した。


『カウンター!』


 って叫べば、すぐにウェイターさんの頭の上がポンと弾け出した。登場したのは、錬成画面で見るようなウィンドウに、ストップウォッチのような数字と点の文字盤。

 色は文字が白で画面は濃いピンク。

 遠くからでも見やすく目立つ色の組み合わせでした。

 ウェイターさんが軽く手を振れば、数字の数が変わって『45分』の状態に。

 あれが、ロイズさんが最初に教えてくれた『カウント魔法』なんだろう。


「では、パスタの準備も出来たので卓に置かせていただきますね!」


 リリアちゃんの指示で、すぐに出来上がったバジリコスパゲッティの大盛りのお皿が、力持ちのお兄さん二人がかりで挑戦者達の元に運ばれていく。

 前列に近いところにいるけど、バジルと海鮮のいい匂いが漂ってきて飯テロに遭ってしまいました!

 近いうちに、アマダンテでエリーちゃんとパスタ食べに行こうって思っちゃうくらいに!


「いい匂いだが……ケインやジェフは多少いけれるがレイスは無理だな」

「そうなの?」

「まあ、見てろ。すぐにわかるから」

「準備も出来ましたので、始めます!」

『うわああああああああああ‼︎‼︎』


 リリアちゃんが腕を振り下ろすと同時に歓声と、カウンター表示の文字盤が動き出した。

 チャレンジャーの皆も、すぐにフォークを持ってパスタに挑みましたよ!






 ずぞぉおおおおおおおおお

 ずるる、ずるるるるっ






 この世界だとスプーンも使ってパスタを食べる方法がないのか、おそばかラーメンを食べるのと同じ吸い込むように食べていく。

 唯一アクアちゃんだけは巻いて食べてたけど……その速度が凄かった。


「もぐもぐ。ん、これは絶品」


 巻いて口に運んで、よく噛んで飲み込むのは別に普通。

 ただ、その動作が吸い込むように食べている皆が口に頬張るのと同じくらいに早い。

 ひょいぱくひょいぱくって口に入れていくのも、パスタや具が消えていくのも半分の量がすぐに見えてしまってた!


「な、なんと⁉︎ 開始からわずか五分で半分以下にしてしまったのは……私が最初お声がけした女性です!」


 リリアちゃんの声に、参加してたパーティーのメンバー以外注目が集まっていく。

 観客席ももちろん騒ぎ出した。


「み、見てたよな?」

「は、早いし、ペース落ちてねぇ……」

「しかも、美味そうに食ってるし」


 この間に、アクアちゃんはもう三分の一を残すまで食べてしまってた。


「え、え、も、もう……はや⁉︎」


 リリアちゃんが素に戻っちゃうくらい、アクアちゃんはバジリコのパスタを完食してしまった!

 口元のバジルを、用意されてたおしぼりで拭くとリリアちゃんの方に顔を向けた。


「次、まだ?」


 この一言だけで、お口をあんぐりさせてしまったのはどれだけいるんだろう。

 とりあえず、リリアちゃんが急いで調理スタッフさん達にスピードアップを頼んで、アクアちゃんには待ってもらう事に。一応急いでたみたいだけど、アクアちゃんのスピードに追いつけなかったようだ。


「くっそ! あんなちっこい子に負けるか!」

「けど、あっち⁉︎」


 焦る選手の大半がスピードを上げようにも、パスタが熱すぎて逆に苦戦を強いられた。

 僕は彼らよりも、ジェフの二つ左隣に座ってたレイス君がもうギブアップしてたのにびっくりしてました。


「二人前くらいだよね?」

「レイスって、うちの中だと一番の少食なんです。あれでも頑張ってる方ですね」

「意地張ったアホだね」


 エリーちゃんが呆れるのは無理ないけど、お腹壊さないといいな。脱落者はテントで待機らしいのですぐに戻って来ないみたいです。



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