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第52話 恋みくじイベント


「おみくじと言っても、この人数の中一人ずつ引いていただくのとは違います!」


 お兄さんがそう言うと、ポケットから拳大のなにかを取り出した。


「まずくじの景品は、こちらのハート型に加工した薔薇水晶(ローズ・クォーツ)になります!」


 見えたのは、可愛らしく立体的なハート型に加工されたピンクの石。

 あんまりパワーストーンには詳しくないけど、日本にもあったピンクの水晶と同じ名前だったから理解は出来た。


(たしか、あれが恋の御守り?)


 幼馴染みの彼女さんとか、専門学校の時の同級生だった女の子とかはチャームとかでつけていた気がする。

 どの世界も、縁結び?の行事には盛り上がっちゃうんだね。


「……そーゆーのって苦手だったけど」

「スバル?」

「え、あ、なんでもない!」


 エリーちゃんに聞かれてたかと思いきや、首を傾げただけだったからほっと出来た。

 口に出した通り、僕と縁結びっていい意味なのは少なかったから。

 とりあえず、その考えは隅に置いて説明を聞くことにした。


「この石を何組かこちらで用意しました。それを今から、ステージにおられます魔法師の皆さんにご協力いただき……ある状態にして隠します。それを会場全体に散らばせて、お客様に触れていただきます。では」


 お兄さんが手にしてた石以外に、スタッフらしき人達が魔法使いさんもとい魔法師さん達に一個ずつ手渡していく。

 二個くらいは何故か水色の石が見えた気がしたけど、すぐにそれは白い膜のようなのにコーティングされて見えなくなった。


「え?」

「あの年代で無詠唱は普通っスよ?」

「そ、そうなんだ……」


 魔法を見る機会が少なかったから、小説とかにあった詠唱破棄なのも見るのは初めて。

 さっきの演舞やいつものセキュリティ魔術で慣れてたつもりでも、魔法ってちゃんと見てなかった。適性の時にロイズさんに教わったのは、本当に子供向きだったからね。

 とにかく、石が白いもので覆わると魔法師さん達はそれをまた無詠唱で全部空中に浮かせた。


分裂(ディビジョン)


 メンバーの中だと若めの銀縁眼鏡をかけた、『仕事が出来ます!』って感じのお姉さんが良く通る声で呪文のようなのを口にした。

 その後に、一瞬で宙に浮いてた白い球達がたくさん出現しました!


「あれなに⁉︎」

「分裂魔法だって。けど、この数はすごいな……」


 エリーちゃんも関心するくらい、眼鏡のお姉さんのお陰で白い球が会場の上空を埋め尽くす程の量だったから!


「ここ数年はこんなもんっスよ! けど、その分当たる確率ちょー低いっス」


 毎年参加者のお言葉をいただきました。

 落ちてくるのは危ないと思ってたら、アナウンスのお兄さんが拡声器で再び説明を始めた。


「上空に浮かべた球の正体は、雪の結晶と同じようなものです。落ちていく早さも、雪より少しだけ早いので怪我の心配はありません。ただし、触れると溶けてしまうので、冷たさだけはご了承ください!」


 とのことです。

 やっぱりお祭りだから、安全性重視なのでほっと出来ました。


「石は合計6組、つまり12個です! 当選した方にはきっと恋の縁が導かれるはずですよ! それでは、お願いします!」


 なかなかにシビアな数字だ。

 けど、当たってもなぁって思う気持ちが強いから、とりあえず参加でいこう。

 お兄さんのアナウンスで、周りの人達が手を上に向け出したから僕達も手を伸ばした。


「「「「『落下(フォール)』」」」」


 ステージの魔法師さん達全員が声を上げると、たしかに雪が降るより少し早い速度で球達が降りて来た!


「やっぱ冷たっ⁉︎」

「あーん、ハズレ⁉︎ 次よ次!」

「こっちも無理かぁ」


 万単位からたった12個なんて無謀だけど、皆それぞれ楽しんでた。

 今日は少し日差しが強いから、涼むのにはちょうどいい。

 僕も一個目を掴めば、ハズレだけど気持ちがいい冷たさだった。


「うっわ、冷たい!」

「まあ、霜の結晶よりはぬるいけど……あ、ハズレ」

「自分もハズレっス⁉︎」


 だけど、まだまだあるからどんどん手を伸ばす。

 髪にも落ちたら濡れると思ったけど、魔法のお陰なのか手に触れない限りは溶けなかった。溶けてもすぐに水蒸気になって手も濡れないからありがたい。


(……ん?)


 なんか、今頭に乗ったのに重みを感じた。

 まさかと思いながらも握れば、雪の部分は溶けていき、冷たいけど固い何かが(・・・)手のひらに当たった!


「あ、スバル⁉︎」

「エリーちゃんも!」


 どうやら、二人で石を引き当てちゃったみたい。

 エリーちゃんの手にもピンク色の石が握られていた。


「二人ともすごいっス!」


 引き当ててないキャロナちゃんはまだぴょんぴょん跳ねて球に手を伸ばしてたけど、その声に僕らへの注目が集まってしまった!


「スバルって聞こえた?」

「エリーってランクBの『蒼炎のエリー』?」

「スーちゃんが当たった⁉︎」

「うっそ、マジで⁉︎」


 などなど、エリーちゃんの異名まで知ることは出来たけど……なんだか囲まれちゃいそうです!

 前列に近いから、ステージ上の魔法師さん達まで僕らを見てきた。


「あのパン屋の……?」

「たしか出身者ではないが、いきなりは珍しい」

「そうね」

「これはなんてことでしょう⁉︎ 当選された中に、北区で話題のパン屋を営んでる店主さんがいらっしゃったようです!」


 アナウンスのお兄さんのせいで、会場全体に知れ渡っちゃった!

 更に注目を浴びて囲まれてしまったが、なんだか僕に向けられる目がおかしい。

 なんだか、不思議なものを見るような感じでした。


「え、なんで?」

「女の子なのにあの石……?」

「魔法師達の手違いじゃ?」


 言ってる意味がよくわからないので、上にあげたままの手を降ろそうとしたら後ろからアナウンスが響いてきた。


「どう言う事でしょう⁉︎ 女性のはずが男性用のローズクォーツを手にされています! これは魔法師方のミスか⁉︎」


 なんかとんでもないワードが聞こえてきた⁉︎

 慌てて石を見れば、ピンクじゃなくて水色のハートの石。エリーちゃんの方をもう一度見ても、そっちはピンク。

 てことは、これって色んな意味でピンチ?


(……どうしよう!)


 こんな大観衆の前で、性別がバレちゃったかも⁉︎

 慌てそうになったが、エリーちゃんに腕を強く引かれた。


「……エリーちゃん?」

「堂々としてて。手違いだって見せつけてやればいい」

「え?」


 いいから、と背を軽く叩かれたので、僕は軽く深呼吸をした。

 それとエリーちゃんの言葉を信じて、アナウンスのお兄さんに振り返る。


「すみませーん、間違えて掴んじゃったかもしれないです。これ、お返しすればいいですか?」


 出来るだけ笑顔!

 女顔を活かして、最上級の笑顔を意識してみれば……ステージ上の人達、お姉さんも含めて皆さんぽぉーっとしちゃいました。


「そ、そそそ、そうですか! 手違いかもしれないですね!」

「そ、そうだなっ」

「あんなにも美しいお嬢さんがそんな」

「我々のミスだ!」

「……とは言っても、縁は縁。恋繋ぎには変わらないわ」

「はい?」


 メガネのお姉さんの言うことに、僕は首を傾げるしかなかった。

 その説明は、頷いたアナウンスのお兄さんが引き継いでくれました。


「たしかに、前例は非常に少ないですが……青い石を掴んだ女性でも返却は認められません。このイベントは、恋みくじ。魔法で創ったくじを引いた方へ、恋の縁が導かれる仕組みです」

「……けど、これ男性用ですよね?」


 本当は男だけど、今は嘘ついてるからちゃんと言わなくちゃ!

 でも、お兄さんや魔法師さん達は一斉に首を横に振っただけ。


「その前例の場合、逆に男性を導いてくれる可能性があるとの記録もあります。つまり」


 お兄さんはわざと溜めこむように言葉を止めると、僕の方に空いてる手を向けてきた。


「お嬢さんに縁のある方が、少なくともこの会場内にいらっしゃるかもしれません!」

『うわぁあああああ!』


 わざとらしく言い放ってくれた発言に、周囲がうるさ過ぎるくらいに声を上げました。


(そんなのあってたまるか⁉︎)


 過去のストーカー被害の二の舞になんてなりたくない!

 押し寄せそうな観衆さん達は、エリーちゃんとキャロナちゃんがガードしてくれたけど、果たしていつまで持つか!


「仕方ない。キャロナ、結界!」

「あいさーっス! 『防げ』!」


 観衆さん達に負けないくらいの大声でキャロナちゃんが叫ぶと、急に静かになった。

 ゆっくり顔を上げれば、水色っぽい壁に阻まれて色んな男の人がすし詰めのように押されてはへばりついてた。

 正直、ちょっと怖い!


「今の内に、エリーさんの転移魔法っス!」

「当然!」


 エリーちゃんはまた僕の腕を掴んだと思ったら、柔らかい胸が背中に当たるくらい抱き込んできた!


(ちょ、ちょー柔らかい!)


 色んな意味でドキドキしちゃうけど、今は緊急事態だからじっとすることにした。

 エリーちゃんは僕が動かなくなったら、呪文を口ずさみました。


『巡る風、土の鼓動、狭間の調べ。我らを繋げ、彼の元へ!──円方転陣(テレポート)!』

「またパン屋でー」


 詠唱が終わる手前でキャロナちゃんの声が聞こえた気がしたけど、すぐに目の前が真っ暗になったんでそれどころじゃなかった。


「っし、なんとか飛べたか?」


 エリーちゃんが安全を確認して着いた場所は、どこかの路地裏でした。


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