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第51話 大道演舞・炎


『ただいまより、午前の部ラストの大道演舞を始めます!』


 ステージに近づくにつれ、アナウンスが聞こえてくる。

 メガフォンのような拡声器ってあるんだと思ってたら、エリーちゃんが魔石を使った魔法で響かせてると教えてくれました。

 用途は、マイクとほぼ同じらしいです。


『午前の部ラスト、魔法と魔術のコラボレーションによる炎の演舞です!』


 前から五列目くらいにまで到着すると、やっとアナウンスのお兄さんが見えた。

 ちょっとお祭りを意識したような個性的な服だったけど、ファンタジーなこの世界だから違和感がない。魔石らしき拡声器は、小ちゃな魔法ステッキのように見えちゃった。

 お兄さんがアナウンスを終えると、入れ替わりに赤や紺色が目立つ服を着た男女が登場。


「お待たせしました! 炎蜥蜴の峠(サラマンダー・ラッジ)、本日最後の演舞を披露させていただきます!」

『うぉおおおおおおお‼︎』


 代表者らしい、スタイリッシュな紺色の服を着たかっこいいお兄さんが代表して挨拶していた。

 歳は、ぱっと見僕と同じくらいかな?


「ラッキー! あの集団のは見応えあるんだよ!」

「そうなんだ?」

「司会が言ってた通り、炎の魔法と魔術を活かした演舞を見せてくれるんだ。この位置なら熱くないし」


 やっぱり火を使うから?

 と思ってたら、前の方から『やっぱあっつ⁉︎』とかの声が上がってきた。

 もう始まったのかと前を見れば、ステージにいつの間にか炎で出来た○ロップが登場。その背には、さっきのお兄さんが熱さを気にせずに悠々とまたがっていた。


「飛べ!」


 ジャンプじゃなく、本当に宙へ飛んでしまった!

 手綱もなく、命令だけで炎の馬を操って会場を大きく旋回。ステージの方も、馬以外の幻獣なんかを模った炎を生み出して背に乗っていた。

 そっちのお兄さんお姉さんも、準備が出来たら順に宙に飛んで馬を追いかけていく。

 少し熱気がかすめたけど、思ったよりは平気。

 エリーちゃんも口笛を吹くほどだった。


「また腕上げてんじゃん!」

「すっごいよ!」

「これは魔法だけど、魔術の方は……え、キャロナ?」

「え?」


 ステージを一緒に見たら、舞台中央に見覚えのある水色の癖っ毛が目立つ女の子が立ってた。

 帽子はいつものじゃなくて紅い炎をイメージしたの。服はドレスでお姫様みたいな感じ。

 僕らに気づくと、一瞬手を振ってから大きく深呼吸をした。


『♫拡がれ、舞え』


 歌に似た魔術の呪文。

 歓声とかが一気に静まり返り、キャロナちゃんの透き通った声に炎の勢いが増す音だけが会場に響き渡る。


『♫繋げ、すべての集いに』


 次の呪文でキャロナちゃんの体が淡い水色の光を帯び、蜘蛛の巣のように伸びて糸の光が炎の幻獣達に繋がっていった。


(何が起こるんだろう……っ!)


 知り合いが出演してるのには驚いたけど、演目への期待が高まってしまう。

 僕やエリーちゃんが関わる魔術師さん達の中でも、一番親しくて技術が高い女の子だから。


『♫繋がり拡がり、舞えや舞え』

「いっくぞー!」

『おぅ!』


 その呪文が合図だったのか、炎の幻獣達の背に乗ってた皆さんが声を上げた。

 糸に繋がったまま、最初はさっきのようにメリーゴーランドみたいに廻っていく。そして段々と速度を上げ、キャロナちゃんが軸になった状態で縦横上下バラバラに観客すれすまで近づくとか、かなり上まで飛んだ。

 それだけだとさっきと同じだったが、キャロナちゃんが糸をひとつずつ爪弾くと青い炎からグラデーションに色が変わるから面白い!


「何あれ、すっげ⁉︎」

「去年とえらい違いだ!」

「綺麗っ‼︎」


 当然歓声が上がり、拍手もあちこちから湧き上がった。


「んじゃ、姫も楽しませましょう!」


 代表のお兄さんの声がすれば、キャロナちゃんは指を振って糸を解除し、お兄さんが馬で近づけば颯爽と腕の中に!

 口調が男の子っぽくなきゃ、キャロナちゃんは結構可愛い女の子。会場にいる男の人達があちこちから『姫ー!』って呼ぶ声がうるさいくらいだ。

 キャロナちゃん達は少しの間バラバラに飛んでたけど、また代表のお兄さんが手で合図して舞台中央に整列。


(今度は……?)


 雰囲気的にフィナーレかなと思って見てれば、キャロナちゃんが少し歌声を響かせると全員炎の幻獣から降りちゃった!

 落ちるんじゃ、って僕はヒヤヒヤしたが、それはやっぱり杞憂で全員宙に浮きました。


「今からフィナーレです!」


 全員が右手を上げると、幻獣達はただの炎の塊に変化し、色は赤一色に。

 塊はひとまとめになるようにキャロナちゃんとお兄さんの上に集まっていく。


『♫鳳凰(フェニックス)


 呪文が英語とほぼ同じだから、ほんとわかりやすい。

 キャロナちゃんが口にした通り、塊は炎の巨大な鳥へと変化して会場内を飛び回った。

 あとは消えるだけかな?って思ってたら、舞台真上で静止したフェニックスがいきなり弾けた。

 火種が落ちてくると頭を守ろうとしたが、誰も慌てていない。

 エリーちゃんにも上を見ろと肩を叩かれたら、炎なんてどこもなくてキラキラした光が落ちてくるだけだった。


(イルミネーションみたい!)


 異世界用語なので口には出さなかったけど、本当にそう思うくらい綺麗だった。

 完全に消える頃には、キャロナちゃん達もステージ上に戻ってて、全員で手を繋いで一斉に挨拶をしてました。


「キャロナちゃん、気づいてたけど来るかなぁ?」

「一応待つか?」


 着替えてからかなと思ってたら、会場の人がまだまだ残ってるのにそのままの恰好でやってきました。


「二人とも、来てくれたんスね!」


 せっかく綺麗な衣装なのに、裾を大胆にたくし上げて下に履いてるスパッツを隠しもしていない。

 黙ってれば可愛いのに、男気ある行動力が全てを台無しに!


「あんたせっかく綺麗にしてんだから、もちっとらしいマナーしなよ?」

「面倒いんっス! 演舞だけの衣装っスから、もういいんっスよ!」


 いやいやお嬢さん。

 周囲ドン引きしてるからね? 君の素顔とさっきまでのギャップに。


「うっわ、男前……」

「せっかく可愛いのに……」


 まあ僕とエリーちゃんは全否定するつもりはないので、彼女の方に近づくことに。


「仕事じゃなかったの?」

魔術技工師(エンチャント・ジニア)の方は昨日だけっスね? 演舞は今日一回だけてしたんで……けど、今日はどうしたんスか?」

「ロイズさんからお休みしなって言われてね? 私がこの街は初めてだから、色々回れって」

「そうっスか! だったら、今からやるイベントは目玉っスよ!」

「へ?」

「あ、言うの忘れてた」

「これで最後じゃないの?」


 アナウンスにも午前の部ラストって言ってたから、てっきり。

 すると、キャロナちゃんがちちちと言いながら指を振った。


「演舞って言うより、くじ引きっスよ!」


 ほら、とステージを指すので見れば、ロイズさんより少し年上くらいの男女数人がステージに立っていました。

 脇には、アナウンスのお兄さんも。


「お待たせ致しましたっ! 毎年恒例のイベントは今年ももちろんありますよ! 初めての方もいらっしゃいますでしょうから、簡単にご説明させていただきます」


 そして間を置くと、お兄さんの目がキラリと光った気がした。


「魔法師の成せる技を織り込んだ、恒例の恋みくじを始めさせていただきます!」

『わぁあああああああ‼︎‼︎‼︎』

「───────……………はい?」


 歓声とは別に、僕は首を傾げるしかなかった。

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