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第45話 確認する想い





 ★・ジェフ視点・★






 だいたいこの辺りでいいかと、裏通りでも比較的治安が良さ気な場所で足を止めた。


「ジェフ。な、なんでここで止まるの?」

「説明するにしたって、秘密を広める危険性があんだろ? 俺だけのならまだしも、スバルについてだし」

「あ、そっか」


 たわいのないのだったらカフェとかで休ませてやりたかったが、例の隠密(アサシン)のどっちかが追ってきてる可能性もある。

 聞かせるにしても、この辺りが無難だ。


「俺も全部は聞いてねぇが、どっから聞きたい?」


 まあ、最初に聞かれるのはだいたい予想は出来てるが。

 繋いだままの手と俺を交互に見ながらおろおろしてたが、質問を決めたのかシェリーは少し気を引き締めて俺を見た。


「え、えと……いつから、スバルさんが男の人ってとこかな?」

「結構すぐだな? 俺達に自己紹介してくれた後くれぇだ」

「あ、あれだけで?」

「俺の前の職業(ジョブ)、覚えてるか?」

「……たしか、格闘家(グラップラー)?」


 自分の黒歴史も含めて、ちゃんと話すしかないか。

 俺は空いてる手で一度顔を隠して深呼吸をし、覚悟を決めてからシェリーをしっかり見た。


「一生涯、格闘家(グラップラー)になるつもりでいたからな? ま、転職(チェンジ)した理由は知ってる通り。けど、相変わらず男と女の歩法なんかの違いとか癖とかは見抜きやすいんだ。あと、俺の実家が女だらけって前にも話しただろ?」

「ああ⁉︎」


 ようやく合点がいったらしく、納得したような表情になった。


「ま、他にもあるんだけどよ……」

「? なーに?」

「あんま言いふらすなよ?……姉貴とかに女装されまくってたのもあっから」

「え゛⁉︎」


 引いたか?と横目で見たが、何故か顔を赤くして震えてるだけだった。


「シェリー?」

「い、いいい、今はない、よね?」

「この体格でどーやりゃ出来んだよ⁉︎」


 そっちを想像してたのか⁉︎

 が、多少引いても違う方に興味が移ってくれたのは助かった。

 根掘り葉掘り聞かれたら、惚れてる女にどう言えばいいか複雑どころですまない。


(つか、男のあれ(・・)に気づくまで自分が女だと思ってたとか、絶対言えねぇ!)


 悪いのは、お袋や姉貴達もだったが今はどーでもいい。


「そっか、良かったぁ……」

「へ?」

「ケインとかなら出来なくないけど、ジェフにそう言う趣味があったらちょっと」

「だからねぇって⁉︎」


 今の俺に似合うわけないだろ⁉︎と続けようとしたが、シェリーがうつむいたのに言葉を飲み込んだ。


「……けど、ほっとしちゃった」

「シェリー……?」

「あ、ごめんね? びっくりはしたんだけど……レイスみたいに、ジェフまでスバルさんのことをって考えてたから」

「……お前」


 その言葉に、らしくないくらい心臓が跳ね上がった。

 うつむいてるせいで俺の顔は見えないから、シェリーはまだ言葉を続けた。


「スバルさん、あんなに可愛いし綺麗だし……女の私から見ても、すっごい魅力的な人だってわかってるから。だから……だから、自分で……勝手に、落ち込んじゃって」

「……シェリー」

「今日まで、ずっと……不安だったの。あの人には敵わないんじゃないかって」

「シェリー!」

「っ、ジェ……フ?」


 泣いてる声に、もう我慢がならなかった。

 繋いだままの手を引き寄せて、無理に腕の中に閉じ込めた。


(クラウスの言ってた意味がやっとわかった……っ!)


 シェリーがあの日、落ち込んで帰った意味も。

 クエスト中に、レイスが庇うまでぼーっとしてた意味も。

 全部が、俺に対しての感情を諦めかけてたってことに!


(馬鹿は俺だ‼︎)


 レイスがこの前突っかかってきたのは当然だ。

 好きな女を哀しませて、何してんだってキレて普通。

 あいつはとっくに振られてても、仲間以上にシェリーを大事に思ってるのは変わりない。

 それを、自分の我儘だけで突き通す意味は、もうなかった。


「ジジジジ、ジェ、ジェフ⁉︎ きゅ、急にどうしたの⁉︎」


 それと、確信を得てるこの機会を、逃すつもりはない。

 少しキツめに抱きしめてから、シェリーの耳元に口を寄せた。


「…………ほんとは、お前の昇級試験の後に言うつもりだった」

「な、ななな、何を⁉︎」

「この状況でわかれよ鈍チン」


 そこが可愛くてたまらないが、直球で言うしかない。

 少し抱きしめるのを緩めて顔を見たが、予想以上に真っ赤になってておかしかった。


「じぇ、ジェフ……?」

「好きなんだよ、シェリーが」

「え゛⁉︎」

「……なんでそんな驚くんだよ」


 ウミウシフロッグ潰したような声だと思ったのは、怒らせるからすぐに飲み込んだ。


「いいい、いいい、つから……?」

「んー? いつ、か」


 正直キッカケと聞かれても思い出しにくい。

 ただ、目が離せないとか、妹みたいで可愛いとか、そう言うのが積み重なった結果かもしれないな。

 レイスはどうだったか知らねぇが、もし同時期だったとしても譲るつもりはなかった。

 そう言ったのを思い出しながら話せば、シェリーの目にまた涙がたまってく。


「最初……パーティーに入るの、は、反対されてたから。……に、苦手にされてるかと思ってた」

「……悪かったが、事実だしな」

「け、けど、話すようになって……笑ってくれるようになってから、わ、私」

「ん?」


 指で拭ってやりながら言葉を待った。

 俺も言ったし、彼女にも言って欲しかったからだ。


「……私、も好き。ジェフが大好き!」


 そう言いながら胸に飛び込んできたんで、少し足を踏ん張った。力は大したことないのに、告白の破壊力で危うく力が抜けそうになったんで。

 だが、遠慮する必要がなくなったんで抱きしめてから髪に軽くキスした。

 口には、今ここでしたら歯止めがきかないだろうから、こいつの昇級試験後までお預けだ。


「俺も、好きだぜシェリー」

「えへへ……」


 シェリーの涙が落ち着くまで抱き合い、そこから喉が渇いたんでカフェに行くことにした。

 手は、当然恋人繋ぎで。


「クラウスには、しっかり報告しねぇとなぁ」

「アクアやケインにもだよね。……レイスも、知ってるし」

「ってこたぁ、俺達だけ気づいてなかったのかよ」


 あと多分、スバルもエリーもシェリーの気持ちには気づいてたはず。

 どれだけバレてんだか、とたまらずに息を吐いたがシェリーも何故か同じことをしてた。


「レイス、が寝込んでるのって……もしかして、スバルさんの事知ったの?」

「……ああ」


 簡単に説明をすると、シェリーはスバルがとった行動に少し吹き出した。


「そんな方法でだったんだ!」

「俺も驚いたが、それしか効き目なかったしな?」

「冒険者じゃないのに、勇気ある人なんだねー」

「だな?」


 でなきゃ、性別を偽って数ヶ月も生活出来るわけがない。

 俺達はいずれアシュレインを去るから胸に秘めておけばいいが、これからはどーなるかわからない。

 エリーもだが、例の隠密(アサシン)達にロイズさん達もいる。味方は多いが、絶対がないとは言い切れないから。


「スバルさんで思い出したけど、クラウスがエリーさんを気にしてるのってどうするのかなぁ?」

「あー……」


 その問題もすっかり忘れてた。

 俺もレイスが脱走した後に聞いたが、結局はうやむやになったまま。

 全員の前で話すとは言ったのに、昨日も話さずじまいでレイスの監視にあたってた。


「ジェフは知らないの?」

「お前より前に加入したけど、ケインもレイスも多分知らねぇ……。アクアが言い出すまで、マジで知らんかった」

「意外」

「クラウスに恩義があるのはたしかだか、なんでもかんでも共有してねぇよ」


 一応、親友枠ではあるっぽいが、それはケインには劣る。

 あのムードメーカーとムードクラッシャーを持ってる奴の方がクラウスとずっと付き合いが長い。何故大食らいのアクアと付き合えてるかは未だに謎だが、結構性格が似てるせいもあるだろう。

 それはいいとして、エリーとクラウスのことだ。


「想像以上の因縁があるかもしれねぇのは聞いた。あいつから言い出すまで待っててやろうぜ?」

「そ、そうなんだ? てっきり、クラウスの初恋の人がエリーさんかと思ったんだけど」

「……わかんねぇな」


 実にシェリーらしい心配の内容だが、俺もマジでわかっていない。が、そんなレイスみたいな可愛らしい悩みじゃないのは知ってる。

 けど、そのくらいであってほしいとも思った。


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