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第5話 試食人エリー


「んんんぅううう、美味しいわぁ!」


 ひと口頬張ってから、ルゥさんはぱぁっと顔を輝かせてくれた。


「まだほんのりあったかいけどぉ、これは冷め切っても十分に美味しいわぁ。卵はふわトロでケチャップの相性抜群! ベーコンも肉厚でちょうどいいしぃ」

「お、お粗末様です」

「これのどこがお粗末なのぉ?」

「あ、僕がいた国の言葉です! そう言っていただいた後に返す挨拶みたいなもので」

「へぇ、面白いわぁ」


 手に持ってた残りもパクパクと食べ切ってくださり、他のには手をつけなかった。

 聞いてみると、もうすぐ食べさせる予定の人が来るから待ってるんだって。


「男じゃねぇよなぁ?」

「ちゃぁんと女の子よぉ。あ、来たわ」


 ルゥさんが扉を見れば、ほぼ同時にさっき消えた精霊のお姉さんがすり抜けて入ってきた。

 お姉さんはルゥさんが指を鳴らせばあっという間に消えてしまい、その後に扉が開いた。


「あ」

「?」


 中に入ってきたのは、さっき軽くぶつかった赤髪の女の子だった。

 女の子はどこか落ち込んでるように見えたけど、僕が声を上げても首を傾げるだけでした。


「エリーじゃねぇか? しけた面してどーした?」

「……ご無沙汰してます、ロイズさん」


 エリーって女の子は、ロイズさんにきちんと挨拶してから扉を閉めた。


「……ギルマス、あたしを呼んだ理由はなんですか?」

「そぉんなカリカリしなぁいの。簡単なことよん、ここにあるパンを食べてもらいたいのよぉ」

「毒味、ですか?」

「違げぇよ。こっちのスバルってんだが、錬金師でな? パン職人見習いでもあるんで試しに錬成したら……出来たんだよ、補正効果付きのもんが」

「パンに、補正⁉︎」


 エリーさんの沈んでた顔が一気に吹き飛んだ。

 濃い紫の瞳を丸くしながら、僕とルゥさんの机にあるパンを交互に見て、そして大きく首を横に振った。


「ほ、ほほほ、報酬もなしにそんな高価なアイテムを試食だなんて⁉︎」

「試しだって言っただろ? 売るもんじゃねぇし、一個食ってみろよ。その効果が本当か確かめんのにルゥがお前を呼んだんだぜ?」

「ローイズ、あたしの台詞全部言ったわねぇ?」

「お前さんがさっさと言わねぇからだろ」


 ロイズさんが軽くルゥさんを小突くと、彼女は茶目っ気たっぷりに舌を出した。


「エリーちゃんに食べてもらいたいのわぁ、これねー」


 ルゥさんは卵とコールスローのを取るかと思ったら、エリーさんに渡したのはボイルソーセージの方だった。

 彼女が少し落ち込み気味だから、それを渡したのかな?

 あと本人も気になってたようで、大事そうに両手で持ってくれました。


「い、いただき、ますっ」


 ゆっくりゆっくり口に近づけてから、ぱくっと口に入れた。

 ソーセージをかむ時に聞こえるパリッとした音が響き、音が終わった時に彼女の顔を見たらほっぺに赤みがさしていた。


「お、美味しい!」


 二口目は遠慮なく大口で頬張ってくれました。


「肉と野菜の相性がいいのはもちろんだけど、ちょっと辛いのが病みつきになりそう! パンも甘くてふわふわ!」


 マスタードの辛味は大丈夫だったみたい。

 少しほっとしてたら、胸に置いてた手をぐいっと引っ張られた。


「こんな美味いパンもだけど、あれだけ落ち込んでた気分が軽くなったよ! あんたの、錬金師の作ったもんだから?」

「ど、どもっ」


 本当に効いたみたいで、沈んでた表情がどこにもない。

 ほっぺは興奮してるのか、化粧をしたように真っ赤で笑顔全開。

 美少女の笑顔には耐性がないからドキドキだ!

 あと、女の子の柔らかい手が自分の右手を包んでブンブン振るって経験もほとんどないから!


「このパンなんの補正があんの?」

「え、えっと……たしか精神疲労を45%くらい回復?だったかな」

「あ、だからギルマス選んでくれたんだ!」

「そぉよー? それにしても、その子男の子なのにエリーちゃん珍しいわねぇ?」

「え⁉︎」


 あ、やっぱり女の子って思われてたんだ……。

 ちょっとショックだけど、エリーさんは僕の手を放してから何故かじーっと僕を見つめてきた。


「お、おおおおお、男……?」

「声もこんなだけど、僕男なんです」

「俺とルゥの鑑定ではっきりしてる。残念だが、スバルは男だ」

「こ、こんな、可愛いのに……?」


 目から鱗が落ちたってくらいお目々を丸くさせちゃった。


「全然気付かれないのはある意味才能ねぇ? それに、エリーちゃんが普段あるような拒絶反応がないんならぁ……ロイズ、この二人組ませてみなぁい?」

「俺もちょうど思ってたとこだ」

「はい?」


 打ち合わせもなく息ぴったりの発言に、僕もエリーさんも首を傾げちゃう。

 だけど、僕はすぐに馬車の中であった会話を思い出した。


「ロイズさん、パン屋の護衛を彼女に?」

「さっすが、スバルちゃんせいかーい!」


 大正解、みたいにルゥさんが激しく手を叩いてくれた。

 これには、エリーさんとうとうお口ぽっかーん。


「けど、エリーさんは男が苦手だから……僕は対象外じゃないでしょうか?」

「だぁいじょうぶよぉ。いっつもなら、もっと壁にへばりつくとかするものぉ。ロイズは、昔お世話になったから平気なだけよん」

「ギ、ギルマス⁉︎」

「何落ち込んでるか知らねぇが。スバルで大丈夫そうなら、試しに護衛任務受けてくんねぇか?」

「……ろ、ロイズさんが、言うなら」


 なるほど、それでロイズさんには普通だったのかと納得。

 とりあえず、お試しで護衛してもらうことになり、打ち合わせとかは会議室を貸すからとルゥさんには部屋を追い出された。

 ちゃっかり、ロールパンサンドもいくつか箱から持ち出して。

 残ったパンは箱にひとまとめしてからロイズさんが持ってくれたので、場所を会議室に移ることになりました。


「えと……改めまして、スバル=カミジョーと言います」

「あたしは……エリザベス=バートレイン。ロイズさん達のようにエリーで構わないよ」

「あ、はい」

「敬語もいいって、あたしより歳下でも護衛対象から敬語ってのはむずがゆいんだ」

「スバル、背ぇちっさいがエリーより三つ上だぞ?」

「え?」

「鑑定した時にですか?」

「おう」


 ロイズさんが断言すれば、エリーさんはちょっと肩が変な角度に落ちた。


「こ、これで、年上?」


 何度も指摘されるけど、美少女にグサグサ言われるのって結構キツイ。


「まあ、自己紹介すんだなら本題に行くぞ? エリーは護衛っても、店員紛いなこともしてもらう。っつーのも、食ってもらってわかっただろうがスバルのパンは美味い。補正抜きにしたって、店開いたら押し寄せてくるはずだ」

「……おまけにこれだけ顔がいいと男とは信じてもらえず、言い寄る馬鹿が後を絶たないからですか?」


 実家のパン屋でもあった、過度なストーカーさんとかが警察沙汰になるのを防ぐためかな?

 あれは、ほんとトラウマになったよ……。


「察しがいいな? 表向きのエリーの態度なら、そう言う馬鹿は追っ払えるだろ? それと一人で作り続けるのにも限界がある。錬成の確率は落ちても、さっきのがいい例だ。生地こねたりとかは手伝ってやってほしい」

「あ、それは助かります!」


 出来てた生地を使ってもさっきの結果だったから、ニーズに合わせたパンを作ればいいはずだ。


「……わかりました。スバ……ルさん一人じゃ、きっと大変ですまないでしょうから」

「よ、呼び捨てでいいよ? 敬語もいいから!」

「……いいの?」

「うん、お願いっ」


 こくこく頷けば、エリーさんは目をちょっと丸くした後に苦笑いしてれた。


「じゃ、よろしく。スバル」

「うん、エリーちゃん!」


 晴れてコンビ決定だ!


「あ。決まったから言うが、こいつ時の渡航者でもあんぞ?」

「……嘘だよね?」

「この世界に来てから、まだ数時間も経ってないよ……」


 ちゃんと言えば、今度はエリーちゃんずっこけてしまいました。

では、次は金曜日に〜〜ノシノシ

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