表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/70

第38話 幼馴染み同士の集い

昨日以上に長いですノ




 ★・ロイズ視点・★






 創立祭本祭。天気は予測通りに超からっ晴れ。

 会場の大広場は噴水がある以外だだっ広いいつものが、大舞台やテント設営などがされて装いが変わりまくっている。

 その舞台では今、親父の友人で現町長が開会前の演説をとり行っていた。


「……ロイズさん。苛立つのは分からなくもないですが、顔怖いですよ?」

「……しょーがねぇだろっ」


 副ギルマスに注意されても、苛立ちは収まらねぇ……。

 その標的は町長じゃなく、この後に出て来る奴にだが。そいつは今、舞台脇に並んでる来賓席でもひときわ豪華な椅子に、笑顔を絶やさずに綺麗な姿勢で座ってた。


「では、私からの話はこれまでに。ここで、開会宣言をラティスト陛下より賜わりましょう」


 町長の言葉に、俺以外の会場の連中から拍手がわき起こった。

 だが、来賓席から立ち上がった『陛下』が軽く手を上げたことでうるさかった会場が一気に静まり返る。

 靴音だけがやけに大きく響き、壇上の前に立つと軽く咳払いしてから奴は爽やかな微笑みを観衆らに見せた。


「皆の者、歓迎の気持ち有り難く受け取ろう。さて、長々と挨拶しては私も含め、露店を楽しみにしてる者達には時間がない。簡単に済ませてしまおうか」


 お前(・・)が一番楽しみにしてんだろうが!

 同じ妻子持ちでも、自由奔放な性格は年食ってもあんま変わっていない。構わずに睨むと、奴は視線に気づいても得意の笑みを返してくるだけだった。


「このアシュレインの創立祭も300年を過ぎて少し。日に日に活気が芽吹いているであろう、皆大いに騒ぎ楽しもうではないか!」


 元冒険者らしく、威勢の良い態度で腕を上げれば、その開会宣言に黙っていた観衆達も負けないくらいに声を上げる。

 毎年のことだが、ラティストが国王になってからの創立祭はいつもこんな感じだ。

 宣言が終われば、町長が式の閉幕を伝えてから客達は露店に行くなり、この後舞台で行われる大道芸を観るのに残ってく。

 俺は、いつもなら運営テントで常駐してなきゃなんねぇが、ラティストに呼ばれてるんである建物に向かった。


(まったく、何の用だか……)


 とは言っても、大体の予想はつく。

 それに、俺の苛立ちはまだまだ収まってねぇ!


「何の用だ、ラティスト⁉︎」


 元王室教師の子息、そして幼馴染みとして顔は昔っから知られてるんで、護衛方もすんなり中に通してくれた。

 そして、現側近で古馴染みでもあるデュクスが扉を開けてくれてから、開口一番に俺はラティストに突っかかった。


「何って、私なりの謝罪をするためだよ?」


 呑気に茶を飲んでても、口と行動が一致してねぇ。

 迷わず近づけば、奴はカップを置いてから立ち上がった。


「そんなに目くじら立てなくて、もっ」

「昨日の手紙が気にくわねぇんだよ‼︎」


 王の胸ぐらを掴むなど、本来なら不敬どころで済まない事態だが今はプライベート。王と民衆の一人じゃなく、ただの幼馴染みの間柄だ。

 現に、側近のデュクスも苦笑いするだけで止めないし、肝心のラティストもため息を吐くだけだった。


「だってさぁ? ヨゼフ先生が、手紙でものすっごく楽しそうにあのパン屋のことを教えてくれたんだよ? ずるいと思わないかい⁉︎」

「全力で拗ねるなっ⁉︎」


 俺と同じ35の癖して、子供っぽいところは相変わらずだ。これが元Sランク冒険者で国王とは思えない。

 だが、現実は現実なのと言いたい事をぶちまけることにした。


「執務が終わったからって、事後報告みてぇに蝶飛ばすやつがあるか⁉︎ ルゥにも店に行けねぇように幻影魔法までぶつけやがって、何してぇんだよ!」

「ルゥまで来たら、のんびりあの子と話せなかったじゃないか?」

「……やっぱ、会いに行ったか」


 予想してなかったのは嘘になるが、マジで単独行動した上で会いに行くとは。エリーからも報告はなかったが、口止めされたか畏れ多い気持ちになって出来なかったんだろう。


「賢い良い子だったよ? 君が抱えてる秘密も、予想してるようだがすべて把握済みだ。『時の渡航者』について、私にも伝えずに保護してた事は本来咎められることだが……まあ、あの子なら大丈夫だろうね」

「私も確認しに行ったが、陛下がおっしゃるように大丈夫そうではあったよ」

「ゔ、ヴィー……だよな?」


 いつのまにかいたらしいもう一人の幼馴染みの声に振り返ったが、身なりや服装に度肝を抜かれそうになった。


「失礼だね、陛下の側近方にいじられただけだよ」


 口でふてくされてても、常日頃と違い過ぎて目が飛び出そうになるのも無理がない。

 不潔感漂う緑の髪は丁寧に手入れされて、女が羨むくらいさらさらとした質感に。使えるかどうかくらいぼろぼろだった眼鏡は、ラティストが贈ったのか銀縁の新品を。肌ツヤも俺達と同い年のはずなのに白く綺麗にさせられ、デュクスに似た正装によく似合ってた。

 いじるだけでこうも違うのか、と感心するしか出来ない。


「ヴィー、ここにはデュクスしか置いてない。護衛達も君とは顔馴染みの者ばかりだ。いつも通りで構わないよ?」

「……まあ、ロイズも同じだからね。そうさせてもらおう」


 そのため息の仕草だけでも、憂いを帯びた美貌を引き立たせるだけだ。

 ラティストと並べば、デュクスにも負けないほどの目の保養対象。

 ずっと見てきた幼馴染みのはずなのに、何故一番付き合いが浅いラティストの方が落ち着いてるんだ⁉︎


「しかし、久しぶりに見るけど……化けるねぇ? それなら独り身どころか嫁取り先が引く手数多だろうに」

「どうでもいい。それより、私も呼んだ用件について話し合うべきだろう」


 俺はただ話がしたいと呼ばれただけだったが、どうやら違うみてぇだ。

 ラティストを見ても、奴は余裕そうな笑みを浮かべながらデュクスに指示して俺達の紅茶を準備させてただけ。


「少し長くなる。旧友との語らいくらいゆっくりしようじゃないか?」

「……お前と違って、俺は仕事あるんけどよぉ?」

「昔と違って、年にこの期間くらいしか会えないんだからいいだろう? 人員はうちのところから貸し出しておいたから、数時間は空けられるよ」


 わざわざヴィーを呼ぶ意味はわからねぇが、とりあえず用意された席に座ることにした。だが、ヴィーは別の意味でふてくされてるのか、なかなか座ろうとしない。


「私とて、納品を済ませても仕事はまだまだあるんだが?」

「君の場合は、どうしようもないからなんとも言えないねぇ? 王室御用達の、高級茶菓子詰め合わせセットでは?」

「いいだろう」


 相変わらず、食べ物にはラティストよりも貪欲で執念深い。

 スバルの店にもそれ目的で行ったんじゃないかと思ったが、すぐに尻尾をまいて帰ったと言うから不思議だった。

 それはさて置き、ラティストとの交渉が成立してからヴィンクスもようやく座って、出された紅茶を静かに飲んだ。


「まあ、話す事と言っても話題は決めてある。さっきも話してたスバルの事だ」

「ヴィーもいるのにか?」

「来た時言っていたじゃないか。ヴィーから見ても、スバルは問題ないと」

「あ」


 割り込んできたのと、見た目の激変でうっかり抜け落ちてた。

 ヴィーを見れば、デュクスが用意したらしい高級茶菓子をひょいぱくひょいぱくと食べている。見た目は変わっても相変わらずだと微妙にほっと出来た。


「……ロイズからいくつか聞いてたが、ラティスからの報告もあってね。この前行ったのは、()の確認と生活状態を見たいのが目的だった」

「あいつが男だって気づいてたのか?」

「ラティスの調査報告を渡されたからさ。と言うか、なんで『男の娘』をさせるんだね? 余計に変な虫がつくだろうに」

「「男の娘??」」

「っ、い、いわゆる女装する成人前後の男の事だ」


 よくわからない単語を混ぜてきたが、スバルが男だと認識してるのなら下手につくろう必要がなくなった。

 詳しい事はあとで聞くにして、俺とラティストが紅茶を少し飲んでから本題に戻ることに。


「時の渡航者の知識は、ある意味諸刃の剣。本来なら、我が王家で管理するはず。それをロイズが報告しなかったのは……一応聞いておこうか?」

「……お前ならしないと思っても、籠の鳥になんかさせたくなかった」


 スバルは、見習いでも職人だ。

 王家に保護されれば不自由のない生活を送れるだろうが、その分窮屈さと鬱憤が溜まってくはず。

 俺も商業に関わるまで考えられなかったが、休職中の冒険者の経験を踏まえても、自由に動けずにのんびり過ごす毎日は退屈だ。

 その事を思い浮かべたせいで、ラティストにも他の王宮の連中にも報せずにした。

 実際、スバルは恰好と性別を偽る以外、毎日楽しそうに過ごしている。その結果に、俺は後悔してない。

 二人にも、今だからこそ包み隠さずに話した。


「錬金師の職業(ジョブ)以外にも職人気質があるため、か。たしかに、王宮で保護すれば自由と不自由の両極端な生活を送らせて追い詰めかねない。君の判断は、一個人としては賢明だと言っておくよ」

「……いい、のか?」


 友人として言われるとは思わなかったが。

 ヴィーが来る前も大丈夫とは言ってたが、スバルと直接会って何か変化でも出来たってとこか?


「あれだけ生き生きしてるんだから、取り上げてしまえばこちらが悪役になるだろう? 私がわざと女装しても、敬遠されがちな口調で近づいても嫌な顔一つしなかった。あれは若いながらも一流の職人だね。ヨゼフ先生の教えを受けた私にもわかったよ」

「やっぱ女装してたのかよ⁉︎」


 感心しかけたとこに、嫌な単語を挟んできやがった!

 また胸ぐらを掴んでも、奴は生き生きした笑顔を見せつけてきただけ。


「だってこう言う時しか出来ないだろう! 年はとっても、私もまだまだいけたね!」

「自慢することか⁉︎」

「君の女装は悪くないが、時たまオネエになるのはやめてもらえないか? それで彼らにも近づいてしまっては、正体を明かす証拠品を渡しても意味ないだろうに」

「公私混同しないと信じてるしね!」

「威張るとこかよ⁉︎」


 このふざけ合いも久々だが、端で控えてるデュクスはにこにこのまま見守ってるだけで口を挟まない。

 あいつが小姓の時からこのやり取りが続いてるんで、特に不思議に思われないからだ。

 そして、ふざけてる張本人がなおも続けてきた。


「しかし、スバルの女装はほぼ完璧だったね! いい逸材じゃないか、仕草については伝授してあげたいところだが」

「しなくていいし、変態に仕込むな⁉︎ 護衛に就かせてるエリーのためにもあの恰好に意味があるんだ!」

「エリー? ああ、件の男性恐怖症持ちになってしまった少女か」


 また菓子を貪ってたヴィーが思い出すように口にした。

 あの件以降、運搬の依頼以外ほとんど関わらせてなかったが覚えてたのか。ヴィーは一通り食べ終えてから、デュクスが新しく淹れた紅茶を飲み始めた。


「荒療治とは言え、恐怖症を打ち消したいがため。まあ、顔も体型もあれだけのタイプじゃリハビリにはもってこいというところか?」


 それと、とヴィーはティースプーンを俺に向ける。


「他のきっかけがあったからだろう? でなければ、君やごく一部以外は恐怖症対象のはずなのに、護衛の任務に就けさせる矛盾点があるね」


 さすが、と言うか幼馴染み一切れ者の一面を出してきた。

 ラティストは王としての教育を受けてきたから当然だが、ヴィーは俺と同じ教育を受けてきたはずなのに、この違い。表情はいつも通り読みにくいが、正直に言うことにした。


「……そのエリーが、普通なら気付くのに笑顔全開で接したからだよ」

「そう言えば、今は知っていても……スバルには結構頼っていたね?」

「一応、あいつの方が歳上だしな」


 見た目は逆に見られるが実年齢は違う。

 兄貴がいないエリーにとっちゃ、そう言う対象として接してるかもしれない。が、時々見る限り立場は逆に思えてしまうがな。


「それなら、本能で『特別』と感じ取ったかもしれない。まあ、私は苦手意識を持たれてるから、ほとんど関わってないがね」

「だったら、普段からせめてそんくらい整えろよ……」

「私は私だ。ラティスの前だから、と無理矢理いじられたんだぞ? 今もかきむしりたくて仕方がない!」

「帰る時には構わないよ?」

「そうさせてくれ!」


 元に戻すのは自由だが、清潔感だけは意識してほしいのは俺達のワガママだ。そこは置いとくにして、ヴィーを呼んだ理由を聞くことにした。


「だが、これだけなら俺を呼ぶだけで済んだはずだろ? なんでヴィーまで呼んだ?」

「至極単純な話さ。錬金師としてなら、スバルはひよこ以上に卵に等しい。なら、師をつける必要があるだろう?」

「待ってくれ、ラティス。その件については初耳だが?」

「今言ったからねぇ?」


 これはヴィーも怒って当然だが、俺としちゃ悪い話とは思わなかった。

 師については元々考えてやろうとしてたし、幼馴染みでなおかつ五指に入る腕利き錬金師がスバルに教えてやれれば、原因不明の部分も解決出来そうだから。

 だが、そのこともまだ話してないうちにラティストが言い出したんで、俺は言い合いになる前に紅茶を飲み干した。


「弟子を取る必要は毛頭ないと、受勲を仕方なく(・・・・)した時も言ったが?」

「だが、君程の逸材。かつ、似た境遇持ち(・・・・・・)同士交流してもいいじゃないか?」

「『その件』を今出さないでほしいかな! ロイズにもまだ言えてないことを」

「おいおい、一応親友の俺に隠し事だと?」


 聞き捨てならない単語に、割り込む気が起きた。


「い、いいい、今のは忘れてくれ!」

「ばっちり聞こえたんだ。聞かせてくれるよなぁ?」

「っ、だ、だが、弟子にする件は一旦保留にさせてもらう! ラティス、菓子は祭り明けには届けてくれるな⁉︎」

「あ、ああ、出来るけど?」

「で、では、失礼する!」

「おい、ヴィー⁉︎」


 デュクスも止める暇がないうちに、トンズラしやがった!

 追いかけように、すぐ扉から顔を出してもどっちに行ったかわからない。相変わらずの逃げ足の速さだ。


「仕方ないねぇ。その件については、悪いけどそちら側で話し合ってくれないか?」

「けどいいのか? 受勲はさせたが、Sランク超えの錬金師に無理矢理弟子つかせるのって」

「ヴィーにだから、スバルを預けようと思ったんだ」

「さっき言ってた似た境遇?」

「悪いけど、ヴィーに口止めされてるからねぇ。本人に聞いてくれ。あーあ、今日はスバルの店に行けないから辛い」

「なんでだ?」


 護衛つかせてもなくても、先代同様に自由行動が好きなこいつには珍しい発言だ。

 すると、ラティストは小さく頬をかき出した。


「……実は、うちの倅達が先に行ってしまってねぇ?」

「止めろよアホが⁉︎」

「私や陛下がおっしゃっても無理だったんですよ……」


 ずっと話しかけて来なかったデュクスが割り込むくらい、無理だったってことか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ