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第32話 入れ替わり立ち代わり


『……まあ、信じろといきなり言われて、はいそうですかともなりませんから』


 口調が丁寧な方の人が右手を上げると、上からもフードとマントで体を隠した集団が降りてきた⁉︎

 だけど、僕達は素通りしてのびてる例のお兄さん達をちゃっちゃかと運び出してく。


「ちょっと、どうするつもり⁉︎」

『心配する必要はない。我々は、衛兵部隊との繋がりがある』

『抜け出されたのを、秘密裏にひっ捕らえようとしてたのですよ。それをあなた方が肩代わりしてくださった……せめて、通達と運搬だけはさせてください』


 丁寧口調のお兄さんが説明してる間に、ボロボロのお兄さん達は全員マントの人達に連れて行かれちゃった。

 完全にその人達がいなくなれば、二人だけ残ったお兄さん達が深くお辞儀をしてくる。


『こちらの不始末を担っていただき申し訳ない。あの者達はそちらの赤毛の女性がおっしゃってたように、冒険者資格は既に剥奪。サファナ以外にも金聖やレクウェルで罪を犯してたようなので、追放命令が出ました』

『この情報は、貴殿らが彼奴等を成敗してくれたから申したまで。だが、あまり吹聴はしないでくれ』


 本当に信用していいかわからないが、これだけの誠意を見せてくれるなら大丈夫だろうか?

 エリーちゃん達も構えを解いたが、武器は下げていない。


「……つかさ」

「ジェフ?」

「いや、あんたらまさかスバルの親衛隊じゃねぇかと思ってな?」

「『っ⁉︎』」


 ジェフの発言に、まだお辞儀したお兄さん達の肩が跳ね上がった。

 だけどそれは本当に一瞬で、すぐに姿勢を正すと僕らに背を向けた。


『その追求に関しては、黙秘させていただきます。では』

『失礼する』


 わかりやすいくらいの逃げ方で、少し跳んでから壁を蹴って建物の上に行ってしまった。

 残された僕達の間には、微妙な空気が流れた。

 が、どうしようもないかとエリーちゃんとジェフは武装を解除することに。


「親衛隊だから、スバルには本性見られたくなかったかもな?」

「衛兵とも繋がりがあるなら、この街の人間ってとこね」


 初対面ではあるけど、丁寧口調の人はどこか会った気がする。

 少し思い当たる人が浮かんだけど、まさかねって考えるのをやめにした。


(お客さんのプライバシー侵害になるからね)


 行動の自由はあると言っても、単純に深く突っ込みたくないだけの小心者です。

 とりあえず、ジェフに荷物を返そうとしたら、彼の後ろから鋭い何かが飛んできた。


「ジェフ、後ろ⁉︎」

「っ、と!」


 彼も気づいてたみたいで、振り返ったらそのなにかを籠手でいなした。

 それは地面に突き刺さったので見てみれば、忍者が使うクナイのような黒い武器だった。


「これ、クナイ?」

「ジェフ、前⁉︎」


 武器に注目してたら、エリーちゃんが声を上げた。

 籠手をしっかり装着し直したジェフは、両手で前から飛んできた人影の攻撃を受け止める。


「って、レイス⁉︎」

「「え⁉︎」」


 嘘でしょ、って前を見たら、完全とは言い難いが冒険者の服装をしたレイスさんがジェフと対峙していた。

 両手には地面に刺さったのと同じ形状のクナイを。

 ジェフは籠手で防御してるが、レイスさんは本気でジェフを攻撃するのに押していた。


「ちょっと、あんた何してんの⁉︎」

「エリーの嬢ちゃんには関係ない。これは、俺とジェフの問題や」

「俺?」


 とりあえず、ジェフは押し返したら、レイスさんはバック宙をして距離を置く。

 傷口とかが心配になったけど、彼の目からまだ怒りのようなのは消えていない。

 殺しはしないだろうけど、完全にジェフを標的にしてる!


「なんのつもりだよ、レイス?」

「こっちの台詞や! 緊急事態だったとは言え、パーティー以外の子に聖槍預けるとか今までなかったやろが!」


 怒ってる内容は、どうもジェフの行動だったらしい?

 けど、今も抱えてるジェフの槍がなかったら僕誘拐されてただろうし……何か言わなきゃと思ったがまた乱闘が始まってしまった。


「しょーがねぇだろ? スバルは自衛出来ねぇんだから」

「その呼び方もムカつく! おまけにお前も呼び捨てしてもろってたし!」

「ダチだからいいだろ?」

「クラウスと同じくらいモテとるお前が言うな⁉︎」


 怪我が完治してないだろうに、結構本気の殴り込みをしている。ジェフも籠手で切っ先が体に当たらないようにしてるが、大丈夫かな?

 エリーちゃんに振り向くと、彼女は二人を見ながら肩を落としていた。


「本気でやりあってないから大丈夫。傷の具合もだけど、こんな裏路地でランクC前後の冒険者達が戦い合えば被害は多少出る。レイスも、そこはわかってて加減してるしね」

「そ、そうなんだ?」

「あと、街の外や訓練場以外で本気で戦えば……さっき襲ってきたバカよりは軽くても、カルマって刑罰対象になるからさ」

「へー」


 だけど、このまま長引いたらまだまだ完治してないはずのレイスさんの傷にも障っちゃう。

 なんとかしなきゃって思ってたら、二人の話題が変わっていた。


「中途半端に、シェリーに優しくするな!」

「っ、なんのことだ?」


 一瞬、ジェフの動きが鈍ったけど、飛んできたクナイはきちんと弾き飛ばした。

 その対応にもムカついたのか、レイスさんは軽く息を切らしながらジェフをキツく睨みつけた。


「知っとらんと思ってたか? お前のシェリーへの態度に」

「……本音はそっちか」

「「シェリー(さん)に?」」

「口揃えんなよ⁉︎……まあ、否定はしない」

「やっぱそうやん!」


 なるほど、ジェフはシェリーさんが好き。

 仲間内での恋愛事情はなくないかなぁと思ったが、二人が並んでる姿を思い浮かべれば、とってもお似合いだと納得。


「そんなお前が、必要以上に女の子と関わらんやろ⁉︎ なのに、なんで美少女二人と一緒なん!」

「あんた、それ嫉妬?」

「し、しし、嫉妬……ちゃうけど」

「「「どっち?」」」

「声揃えんで⁉︎」


 戦う気は失せてきたのか、クナイを持つ手が少しずつ下りていく。


「俺は商業のギルマスに呼ばれて、こいつらと話し合いに行くって言ってただろ?」

「せやけど、納得いかん!」


 何に、って突っ込もうとしたらまたレイスさんが構え出したので、僕は荷物と槍をエリーちゃんに預けた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「おい、スバル。危ねぇぞ!」

「退いてや、スバルちゃん!」


 二人の間に立ったけど、思ったよりは怖くない。

 なので、ジェフに振り返って口パクで『大丈夫』と伝えた。

 策がなくて、こんな行動に出たわけじゃないからね。


「これ以上騒ぎが大きくなったら、お二人のカルマが増えちゃうんでしょう? だ・か・ら」


 少しずつレイスさんに近づいていけば、彼は少し怯みながらも構えを解かない。

 女の子大好きでも、今はそれどころじゃないからか。

 だから僕は、出来るだけいたずらっ子を意識した笑顔で彼の前に立つ。


「レイスさん」

「な、何や?」

『……僕がお願いしても、止めてくれないの?』

「っ、そ、その声⁉︎」


 ロイズさん以来使わなかった、『小悪魔ボイス』。

 それを至近距離で使えば、レイスさんは腰が砕けたのかへなへなと地面に座り込んでしまった。


「すすすす、スバル、ちゃ……ん?」

『何ですか?』

「その声やめて⁉︎ ま、まさか、あんた……お、男⁉︎」

「そうですよー」


 今日決めた打ち合わせをすっ飛ばしてバラしちゃったが、仕方がない。

 声も低いのから元に戻せば、レイスさんはクナイを落としてひっくり返ってしまった。


「う、嘘やぁああああああああああああ⁉︎」


叫んだところで、事実は事実と僕以外の二人も頷いてた。


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