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第29話 蝶からの言伝







 ◆◇◆






 開店間際に、知らせはやってきた。


「エリーちゃん、蝶が来たから中いいかな?」

「りょーかい」


 窓の外にちらついた小さな青い影に、僕はエリーちゃんにちゃんと伝えてから表に出る。

 青い蝶々は、看板の上辺りをひらひら飛んでいた。

 僕は迷わずに手を伸ばせば、蝶はすぐにやって来て指に止まってくれる。


【ロイズ=マッグワイヤー殿より通達。開封しますか】

『受け取ります』


 蝶から、ちょっとかっこいい男の人の音声が聞こえたが、僕は差出人の相手を確認してから受け取る。

 青い蝶々は少し羽ばたいたが、すぐに体を震わせてどんどん形を変えていく。

 だいたいハガキくらいのサイズの紙になれば、青い光もなくなった。




 *・*・*




 スバルへ



 ジェフには先に蝶で伝えたが、昼過ぎに来てくれ

 悪いが、店の方は午前営業だ

 詫びに昼飯は家で食わせてやっから


 ミントの方は早めに向かわせる




 ロイズ




 *・*・*




 簡単な文章だけど、伝書蝶は魔術と魔法を組み合わせた一種のメール便だから無理もない。

 多くて、200字が限度だったかな?

 とりあえず、手紙を畳んでから中へ戻った。


「やっぱりロイズさんからだったよ。昼過ぎに来てって。あと、お店は午前営業だけにしておくように」

「ん、りょーかい。ミントへの受け渡しとかも?」

「うん、早めに来てくれるらしいよ」

「おっけー」

「僕貼り紙作るよー」


 やる事が決まってから、僕らはテキパキと動き出す。

 四ヶ月目になったけど、二人で頑張ってきたお陰で開店準備はスムーズ。ロイズさんからの呼び出しでお店が休業になるのもちょくちょくあるから、お客さん達にはわかってもらえています。

 だけど、貼り紙を見てから入ってきた冒険者さん達はいつも以上に急いで選び出した。


「これ全部お願い!」


 と、お会計に来るたびに、乗り切るかどうかって皆さんトレーに持ってきてくれます。

 売り上げ貢献には嬉しい事ですが、日持ちしにくいのが多いのに大丈夫だろうか?

 一度年上っぽいお兄さんに聞くと『新商品もいいけど、いつものがないとやる気がね』、なんて嬉しいことを言ってくださったので良しとすることに。


「すまない。こちらをすべてお願い出来るだろうか?」

「いつもありがとうございます、レクサスさん」


 かなりの巨体な冒険者さんが最後。

 なんと、AAランクって高位ランク保持者の人なんだけど、ロイズさんよりも年下。

 開店時からのお得意様で、僕を見ても可愛い妹みたいな扱いをするからかアピールはない。エリーちゃんは彼が先輩で有名人でも恐怖症対象者だから、今も隣で少しビクビクしている。

 いい人なんだけど、威圧感がすごいからね。


「午前営業は仕方ないが、君達の都合もあるからね」

「セールはしたかったんですけど、する必要なかったですね」

「何、客のためとは言え不慣れなことをすべきではないぞ? 新作もかなり増えてるし、俺達も嬉しい限りだ」

「ありがとうございます、ではどうぞ」


 大量に購入されたパンの袋を渡し、レクサスさんは軽く会釈してから扉を慎重にくぐっていく。

 二メートル近い巨体だから、180cm弱の扉じゃ頭をぶつけちゃうからだ。


「ちょうど、キリがいいかな?」

「ううううう、うううんん」

「……行くまでに落ち着けそう?」

「たたたた、たた多分っっ!」


 レクサスさんと対応した後は、いつも以上に震えや言動がおかしくなるみたいで、エリーちゃんは足をガクガクさせながら裏に入っていった。


「無理ない、って言うか怖くはないんだけど」


 男の僕でも最初は怖い印象を受けたが、話せば結構穏やかだったから今は違う。

 兄弟はいないけど、歳上の従兄弟のお兄さんみたいな感じに近い。実際年齢は、ちゃんと聞いたことないけど。


「布被せた、生物に近いのは全部売れたし……あ、クリームパン残っちゃったからジェフさんに持って行ってもらおうかな?」


 昨日も買ってくれたけど、シェリーさんの快気祝いも兼ねてならいいだろう。

 精算や他の閉店作業も終わってから厨房に入れば、裏口の方から話し声が聞こえてきた。


「はい、すべて受け取りました!」

「じゃ、明日もまたお願い」

「はーい」


 ギルド職員のミントさんが来たみたい。

 エリーちゃんが対応してるみたいだけど、僕も挨拶しようと顔を出した。


「お疲れ様です、ミントさん」

「あ、おはようございますスバルさん。今日も予約殺到ですよー」


 名前の通り、ミントグリーンのくるくるした髪が特徴の商業ギルド職員さん。

 メンチカツサンド以外の配達も彼女一人で来るけど、少し脇のところにスレイプニルって幻獣モンスターが引く馬車を待たせてあるから大丈夫なんだって。


「いつもありがとうございます。あ、もうお店は閉めたんですけどいいモノあげますよ」

「え、え、大丈夫ですが」

「いえ、私達じゃ食べきれないので」


 スカートだけどダッシュで表に戻り、少し賞味期限が近い袋を選んでからまた彼女の前に。


「新作のラスクってお菓子です。ちょっと期限近いんですが皆さんで召し上がってください」

「うわぁ、うわぁ! 新作ですか⁉︎ い、いいんですか?」

「売れ行きが悪い訳じゃないんですが、冒険者さん達にはあんまりなんで」

「じゃ、遠慮なく!」


 台車の上に大事そうに置いてから、ガラガラと押しながら行ってしまった。


「……スバル」

「何?」

「君、女にもたらし要素があるんじゃ?」

「ないないないない! 僕女の子にモテたことない!」


 なんてことを⁉︎、ってすぐに抗議するとエリーちゃんはそれでも肩を落とした。


「ま、いいけど。それより、片付けして早いこと行こ」

「……はーい」


 微妙に納得がいかないけど、急ぐのは本当なので準備することに。

 戸締まりとセキュリティを厳重にかけてから、お土産の袋をしっかりと抱える。


「ロイズさんのお家って最初の頃以来かなぁ?」

「店も忙しくなったし、そうだね」


 今日は荷物が多いので手は繋げないが、街中を歩いても絡んでくる人達がいないので安心。

 まったくアピールしてこない人もいなくはないが、あのお兄さん達みたいなあからさまな態度の人はいません。

 すれ違う人達も、大抵は穏やかな笑顔で挨拶をしてくれます。衛兵隊さん達様様だったが、それで思い出した。


「イレインさん、今日も来るよね……」

「貼り紙あるし、帰るんじゃない?」

「まあ、そうだけど」


 定休日以外の楽しみを奪った気持ちになるから申し訳ない。

 とは言え、お得意様一人一人を気にかけてたらキリがないので、なんとか割り切ることに。

 人混みに注意しながら住宅街に繋がる通路を歩いていく。

 久しぶりに訪れるロイズさんのお家に着けば、門前にジェフさんが腕組みしながら立っていた。


「ジェフさんこんにちは! なんでそこに?」

「いや、ロイズさんがスバルと入って来いってよ。エリーも、よっ!」

「……ども」


 なるほど、と思い、三人で門をくぐった。

 レイシーさんのとこより少し小さいけど、僕とエリーちゃんのとこより断然大きなお宅。

 呼び鈴を鳴らせば、何故かすぐにドアが開いた。


「おにーちゃん、おねーちゃんいらっしゃい!」

「こんにちは、ジュディちゃん。お出迎えありがと」

「おにーちゃんがすぐに来るって聞いたからね!……え、別のおにーちゃん?」


 ジェフさんにやっと気づいたのか、僕をお兄ちゃんと呼んでしまったことに白い肌が少し青くなっていく。

 そんなジュディちゃんの様子に、ジェフさんは軽く頭をかいてから槍を手で持って彼女の前に屈んだ。


「にーちゃんはスバルのこと知ってっから、別に隠さなくていいぞ?」

「ほ、ほんと……?」

「おう。な?」

「う、うん。ジュディちゃん大丈夫だよ?」

「…………そうなんだ!」


 わーい、って笑顔に戻ったジュディちゃんは、嬉しそうに僕の足に抱きついてきた。


「あらあら、仲がいいこと。皆さんいらっしゃい」

「こ、こ……にちは」


 カミールさんがユフィ君と手を繋ぎながらやってきた。

 ユフィ君はジェフさんくらい背の高い人と会うことが少ないのか、お母さんと僕らの前に立つとカチコチになっちゃった。

 上を向き過ぎてひっくり返っちゃいそうだったけど、ジェフさんが先に気づいてまた屈んだ。


「ロイズさんの坊っちゃんか?」

「え、あ、あ、は……い」

「ジュディとねー、双子なのー」

「ほぉ? ってことは、お嬢ちゃんが姉貴か?」

「そうだよ!」


 ジュディちゃんは誇らしいのか、いつのまにかエリーちゃんに抱っこされながら胸を張っていた。

 ユフィ君はまだ驚いてるのか、少し視線を泳がせている。カミールさんに、『少し人見知りなの』と言われたらお母さんのスカートにしがみついちゃった。


「お父さんより大きい人には慣れてないの。ごめんなさいね?」

「いや、いーっすよ。……坊っちゃん、高いとことか平気ですか?」

「ええ、嫌いじゃないけれど?」

「んじゃ、兄ちゃんが肩車してやっから来ないか?」

「い……い、いいの?」


 ユフィ君は肩車が大好きだけど、どこで知ったんだろう?

 もしくは、子供だと大体好きだからかな?

 もじもじしながらユフィ君が前に出て来ると、ジェフさんは僕に槍を渡してきた。


「そんな重くねーから、ちぃっと頼む」

「いいよー」


 ちゃんと柄を握って持ったけど、たしかに軽い。

 冒険者用の武器って、ちゃんと持つのは初めてだけどこんな軽いものなんだ?

 観察してると、ジェフさんはもうユフィ君を肩車していた。


「た、高い! 高いよ!」

「だろ?」

「お父さんよりずっと高い!」


 ユフィ君が珍しく大興奮。

 そんな様子にカミールさんは少し驚き、ジュディちゃんはあたしもーっておねだりし出した。

 ほのぼのでいいなと思ったけど、僕らの目的は遊びに来たんじゃない。


「カミールさん、こっちはラスクですが」

「あらまあ、ありがとう。そっちの袋は?」

「あ、ジェフさんにと思って」

「お、来たか」


 お土産を渡していたら、ロイズさんがやって来ました。


【おつまみラスクの作り方(チーズバター編)】




塩っぱいモノ系でラスクと言えば、すぐに思いつくのはガーリックバターですね


今回は、ガーリックバターよりもお手軽に出来るチーズバターをご紹介させていただきますノ


材料は、バゲット、有塩バター、粉チーズだけです



①パンを8㎜幅にスライスします。

切る時のコツは、底を上にして、包丁の刃が引いた時もパンの外側に出るように小刻みに前後に動かすこと。あまり力入れないようにノ


②120度で予熱したオーブンで15分程焼きます

裏面は約2分焼いてから冷まします

*ただし、ラスクはパンの種類や厚みによって焼ける時間は変わります。好みの固さ、もしくはしっかり乾燥させるのに時間調整をしてください


③バターを湯せんで溶かし、粉チーズを混ぜ合わします

*レンチンで溶かしバターを作ってもいいですが、すぐに固まりやすいので注意を


④冷めたパンに③を塗り、もう一度120度に予熱したオーブンで約15分焼きます



ラスクは起源が甘いものが多いので、甘いものが苦手な方にはガーリックバターや今回のチーズバターがオススメですノ

作中に載せたバジルチーズもいいかもです


日本でも、おつまみ感覚のラスクの種類が増えて来ましたので、検索してお取り寄せしてみてくださいノ


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