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第28話 祭りの謂れ

「そんな特別な土地がどうして都市でないかは、二代前の国王陛下の宣旨に関係があります」

「あ、アルフロントの俺でも聞いた事あるっスよ? たしか、景観維持や魔術師達が過ごしやすいようにさせるためって」

「でも、アシュレインの名前知らなかったんだ?」

「名前よか『魔術師の地』って聞かされまくってたしな」


 なるほど、インプットされた単語がそれなら無理もないか。


「アルフロントは、この国でもかなり北方ですからねぇ。ここは随分と暖かいでしょう?」

「正直、暑いっス」


 沖縄くらいの温暖気候じゃないけど、結構あったかい。

 季節は四季があり、暦もほとんど日本と同じ。

 ただ月の呼び名は違って、今は6月にあたる『水神月(アクアリーゼ)』。明後日でちょうど半月くらいになるけど、梅雨については今年は酷くないから、当日はからっ晴れが予測されています。


「滞在される期間は存じ上げてないですが。祭り当日は活気がいつも以上にあふれかえりますから、注意してくださいね」

「王都ほどじゃなくても、この街も祭りに目がないさね」

「レイシーさんの言う通りです。さて、祭りについてですが前夜祭と後夜祭を含めて三日間開催されます。前夜祭は明後日ですので、ロイズの事は本人が言ってたように心配しなくていいですよ」


 それは良かったので、少しほっと出来ました。

 だけど、次の言葉で僕とジェフさんはお茶を吹きそうになった。


「少し話を戻しますが、この地が魔術師の地と呼ばれるようになってから代々の国王陛下の来訪も増えてきましてね? 二日目の本祭には現国王がいらっしゃるんですよ」

「「こ、この街に⁉︎」」

「と言っても、挨拶以外は変装されて結構自由に歩き回ってるよ? スバルちゃんの店にもきっと来るだろうねぇ?」

「え、なんで王様が?」

「僕が関係しますね」


 またひと口お茶を飲むと、ヨゼフさんは少し照れくさそうに笑い出した。


「いやぁ、運が良かったと言いますか。先代の時は見習い、今代の陛下の直属教師だったもので僕達とはお付き合いが長いんですよ」

「ちょ、ヨゼフさん! スバルの事は⁉︎」

「いえいえ、エリーちゃん。そこまでしてませんよ? ただ、珍しいパン屋の噂は王都まで届いてるようなので……ありますよとだけは」

「だもんで、当日来られるかもしれないってことさ」

「…………えぇえええええ⁉︎」


 貴族さんも来てるらしいとは聞いてたけど、いきなり王様⁉︎

 お忍びの恰好にしたって、絶対わかる。オーラとかなんかで絶対!

 あたふた慌てる僕だったけど、隣に座ってたエリーちゃんに何故か額を軽く弾かれた。


「落ち着きなって。あたしもお会いしたことはないけど、気さくな方らしいから」

「エリー、男苦手なのにスバルは平気なんだな?」

「……やっぱ、あんたにはバレてたか」

「俺地獄耳だもんで、スバルに耳打ちしてたの聞こえたんだよ」


 なるほど、あの時だったのかって、エリーちゃんと納得出来ました。


「その割には、俺とかクラウスには普通だっただろ?」

「素は、スバルやロイズさん達以外の男の前では、極力出したくないからね」


 自分の秘密をバラすのは恥ずかしいのもあるが、エリーちゃんのは事情が事情。

 ある意味僕の秘密以上に繊細な問題だから、今は言いにくい。ヨゼフさん達もお茶の残りを飲みながら、二人の会話に口を挟まなかった。


「まあ、事情持ちならしゃぁねぇか。祭りは俺達好きだし、シェリーもラスクのお陰でだいぶ回復したから気晴らし兼ねて参加するわ」

「色々なお店が露店を出すから、余所から来たあんたでもきっと面白いと思うよ」

「マジっすか」


 男の子だから食べ物に興味津々みたいで、レイシーさんの言葉にジェフさんは少年のように笑顔を見せてくれた。

 結構お兄ちゃんとか兄貴っぽい感じだけど、やっぱり男の子は男の子だなと同性ながら思う。


「とりあえずこんなところでしょうか? スバル君達のお夕飯の時間もありますし、僕達はお暇しなくては」

「あ、俺もそろそろ帰らねぇと」

「じゃあ、ジェフさんにはいい物渡すよ」

「お?」


 ちょっとだけ待っててもらい、厨房からラスクの袋だけを取ってくる。

 それを渡せば、また少年のような笑顔を見せてくれました。


「いいのか?」

「売れ残りで申し訳ないけど」

「歩きながら少し食うわ。って、どっちから帰りゃいい?」

「裏口がいいだろうね。ロイズさん達もすみませんが」

「いえいえ」

「遅くまでごめんよ」


 そうしてゆっくり案内してから皆さんを見送れば、厨房の方からエリーちゃんの声が上がった。


「ど、どうしたの?」

「ジェフに渡したラスク、昨日作ったバジルとチーズのが混じってる!」

「へ、ど、どっちの?」

「脚力付与」

「お、おおお、追いかける?」

「急いで帰ってったし、あたしでも無理だよ」

「おう……」


 悪用しないと思うけど、補正に気づかないように祈るしかない。






 ★・ジェフ視点・★





「うっめ!」


 スバルが持たせてくれた、バジルの風味とチーズがやみつきになりそうでやべぇ。

 菓子っつっても、塩気があるのもいい。こりゃつまみにいいなと全部は食べないでおいた。


「さて、ここいらでいいか? 出て来いよ」


 わざと路地裏に入って立ち止まれば、俺が言い終わるよりも早く黒い影が二つ降りてきた。


「やーっぱ、気づかれてたのかよ」

「若いのに、気配に聡いな?」

「あんたらがわかりやすくしてくれたからだろ?」


 髪が長い方が言うように、気配に機敏であるがこいつらが本気出しゃ暗殺とかお手の物だろう。

 だが、俺に気づかせるあたり、それが目的じゃなさそうだ。


「ま、それもそーだけどぉ? 俺達の意図にもなんとなく気づいてんだろ『閃光のジェフ』」

「全部じゃねぇが、多分スバルのことだろ?」


 あのロイズさんもだいぶ俺を警戒してたが、魔術以外に店の警護をエリーだけに任すにしちゃ甘いと思ってた。

 外に出てからわざと視線に気づかせてたが、やっぱり隠密(アサシン)を何人かつかせてたってわけか。


「概ね正解だ。彼の事について深追いするようなら……と思ったが、今日一日の行動を見させてもらった中ではなかった。この間言ってたように、ただ語り合いたいだけか?」

「ダチ作るのが悪いことか?」

「おっ前、ちょいと調べてたけど今のメンバー以外の女には冷たくあしらってただろ? エリーはともかく、スバルちゃんは見た目がああだ。普通なら、お前の許容範囲外じゃね?」

「まあ、普通はな?」


 俺が大半の女を嫌うのは、その女どもに裏切られまくってたからだ。

 さすがに辟易して女断ちしてた時に、シェリーがまだ入る前のパーティーと出会ったが、アクアはすでにケインとくっついててもあの性格だ。

 シェリーを勧誘した時は、少し俺は反対したが裏表ない性格に納得出来て受け入れれた。おまけに、今は片恋なんてあり得ない状況。

 そのおかげもあって、最初スバルにも嫌悪感は抱かなかったがな。


「噂は塗り替えられてたと言うことか。まあいい。しかし、下手に吹聴する気は起こさないでくれ。俺達がついてる意味がわかるのなら、彼の価値はお前が考えてる以上だ」

「そいつが、ロイズさんからの頼み事か?」

「へ? あの人そんなこと言った?」

「いいや?」


 どうやら、店内の声までは魔術の弱結界のせいでこいつらにも届いてなかったらしい。

 それについては、明日の楽しみに取っておくかと思うことにした。


「ま、ロイズさんが信用しかけてんなら、俺達の杞憂ってこと……ジェフ、走れ」

「へ?」

「俺達が対処するから、適当に走って宿舎に迎え!」


 なんのことか聞く前に、短髪の方に背を押されたので荷を落とさないように走り出した。

 あいつらが危惧してた事はわからねぇが、別の気になることが出来ちまった。


(……俺、こんな脚早かったか?)


 跳躍は場所柄出来ねぇが、戦闘以上にスムーズに走れる。おまけに、本気のレイス並みに早い気がした。

 思い当たることと言えば、あの隠密(アサシン)達と会う少し前のやつだ。


(スバルのことだから間違えただろうが、こりゃいいな?)


 ツマミに置いとくのはやめて、万が一のストックにしておけばいい。

 シェリーが食べたのもだが、ラスクは日持ちが結構長かったしな。とりあえず、振り返らずに宿舎を目指して走った。






 ★・ネクター視点・★





 ジェフが異常に速く去ってから、針で牽制してた俺とエリオは前方に声をかけた。


「でーてきていいぜー? 衛兵隊長(・・・・)さん達」

「おや、正体までバレていましたか」


 闇の中でも目立つ髪色の隊長さんと、もう一人この前会った隠密(アサシン)も一緒に角から出て来やがった。


「隊長さんはともかく、隠密(アサシン)さんの方まで急に視線飛ばしてきたしぃ? どっから聴いてたんだよ?」

「割と最後の方ですよ? スバル嬢の価値がどうとか」


 こいつら親衛隊(・・・)に、スバルちゃんの性別がバレたかと背中に冷や汗が流れたが……意外にも落ち着いてやがる。

 エリオの声が聴こえなかったか、あるいは動揺を隠しているか。

 どっちにしても変態集団には変わりねーけど。


彼女(・・)の価値は、そちらが思っている以上だ。詮索をするのなら、我々とて容赦しない」


 エリオが針を向けるように、俺も構えた。

 戦闘経験は向こうが上でも、俺達だってプロはプロ。

 スバルちゃんのことは、護衛として守るのは当然だ。

 だが、隊長さんの方はなんでかくすくす笑い出した。


「価値が高いのも当然です。パンの腕前もですが、あの美貌は女神も同然! 我々とてこの間の荒くれ者を処罰するように対処はしますよ」


 あ、こいつ多分気づいてない。

 んで、仕事以外じゃバカだ。


「それに、何者(・・)であろうとも親衛隊として影からお護りするのみですよ。それだけです」

「……マジで?」

「大マジですよ」


 隣の隠密(アサシン)も頷くが、時の渡航者を知らずとも崇拝する対象としてか、まさか男でも同じ対象としてか聞きにくい。

 エリオも同じなのか黙ってた。


「その取り決めをされたのが、我らが隊長(・・)ですしね」

「その通り」


 衛兵隊長の背後から出てきた巨体。

 その見覚えがあり過ぎる図体に、俺もだがエリオも思わず針を落としそうになった。


「なにしてんだよ、兄貴(・・)⁉︎」

「俺が隊長だから」

「やめてくれよ⁉︎」


 身内が変態化してたなんて信じたくなかった!

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