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第24話 またひと騒動?







 ◆◇◆








「また来るわねー」

「「ありがとうございました!」」


 今日も、実に平和だ。

 午前中は冒険者さんが多いのは相変わらずでも、例の性格が荒い人達は今日も来ないでいた。

 昨日ルゥさんが言ってた通りに衛兵さんのお縄にかかってしまったのか、他にも似た感じのお客さんも来なかった。

 そうじゃない冒険者さん達は、僕よりパンを目的に買いに来る人ばかりだったので、本当に平和でした。


(……うん。これが普通だよね?)


 とは言っても、一部を除いてまだまだ男とバレちゃいけないので、今日もちゃんとスカートを履いてます。


「……シェリー来ないね?」

「ほんとに」


 いつもならクリームパンを買いに来る頃合いなのに、昨日も今日も来ていない。

 レイスさんの容態もあるから、しばらくクエストもお休みなのかも。クリームパン以外にも買ってくれるから、少ない時は結構残念がってはいたけど……メンバーの健康第一だもの。気にし過ぎちゃいけない。


「また来るかもしれないし、作業戻ろ?」

「だね……あ、カミールさん!」

「え? あ」


 エリーちゃんが見ている方を向けば、左右に小さな子供とお手手を繋ぎながら、僕らににっこりと笑いかけて来る女性がいました。


「こんにちは、スバルちゃんにエリーちゃん」

「「いらっしゃいませ」」

「こーんにちはー!」

「こ、こ……ちは」


 右の元気な声を上げた女の子は空いてる手をぶんぶん振り、左の挨拶してくれた男の子はもじもじしながらお母さんの手を握っていた。


「いらっしゃい、ジュディちゃんにユフィ君」


 お母さんはロイズさんの奥様で、子供達は双子の姉弟。ジュディちゃんの方がお姉さんらしいです。

 カミールさんは紹介されるまで、ルゥさんのような美魔女をイメージしてたんだけど、実際はルゥさんが従えてるような精霊さんみたいな人でした。

 綺麗でふんわりしてて、ロイズさんとは幼馴染みだったそうです。


「スバルおねーちゃん抱っこ!」

「いいよー」

「いつもごめんなさいね?」

「いえいえ」


 抱っこがまだまだ大好きなお年頃なのか、ジュディちゃんは来るたびに僕におねだりしてくる。

 もちろん嫌な理由はないので、彼女をしっかり抱っこしてから皆で店の中に入った。


「あたしは会計メインで動くから、ジュディちゃん達の相手してて」

「うん」

「エリーおねーちゃんもあとでー」

「はいはい。けど、おねーちゃんも働かせて?」

「はーい!」

「ぼ、僕も」

「ん、いーよ」


 ユフィ君の髪を軽く撫でてから、エリーちゃんは会計机の方に行ってくれました。


「じゃあ、ごめんなさい。すぐに選ぶから」

「いえいえ、ごゆっくり」


 子守りを担当するのは実家の頃から慣れてるので、僕があやしてる間にお母さんがパンを選ぶのはどこでも同じ。

 二人の好物は、先に言ってるのか今日は二人とも駄々をこねない。


「ジュディはねー? パパに教えてもらったの買ってもらうんだー」

「どんなの?」

「カリカリしてて甘いの!」

「ああ、ラスクね?」


 昨日までに試作した分は、付与効果以外は全部販売することになった。

 一部は試食コーナーに置いてるが、食べたお客さんは大体買ってくださっています。在庫もたっぷり用意してあるから、裏の厨房にはまだまだあるんだよね。


「ぼ、僕、しょっぱいの……」

「ラスクで?」

「た、多分……」

「ユフィはパパがたっくさん食べてたのが好きなんだって!」

「そっかー」


 けどそれじゃあ、将来ロイズさんの嗜好部分がそっくり似るかも。

 今は、ロイズさんの息子さんにしてはすっごくおとなしい感じだし、逆に元気なとこはお姉ちゃんが引き継いでる。

 だけど、大きくなれば性格も色々変わるだろうから、そこはわからないや。


「……お、おねーちゃん」


 しみじみ思っていたら、ユフィ君が僕のスカートを軽く引っ張ってきた。


「どうしたの?」

「あ、あそこ……」


 小ちゃな指で一生懸命向けてくれた窓の向こうには、ボサボサ頭の変質者みたいな人がへばりついてました。

 思わず声を上げたくなったが、その人はいきなり誰かに首根っこを掴まれてしまった。


「ちょっ、何をするんだね⁉︎」

「そりゃこっちの台詞だおっさん。馴染みの店先で何してんだぁ?」


 対処してくれた人の声に聞き覚えがあり、僕はジュディちゃんを抱えたまま表に出た。


「ジェフさん!」

「ん? よぉ、スバル。こいつしょっぴくか?」


 シェリーさんも見当たらず、一人で来たらしい。

 そして、件のボサボサ頭の男の人?を腕力だけで持ち上げられるのはすごいけど、感心してる場合じゃなかった。


「あー、ヴィーおじちゃん!」

「へ?」

「ジュ、ジュディちゃん知り合い?」

「うん、パパとママのお友達!」


 僕にとびっきりの笑顔を向けてくれるから、嘘じゃないみたい。

 ジェフさんにも伝わったのか、捕まえてたおじさんをゆっくり地面に降ろしてあげてた。


「ふぅ……首が締まるとこだったよ」

「おっさんが窓にへばりつくのが悪りぃぞ?」

「まあ、それはね。好奇心故と言うかなんと言うか……とりあえず、ジュディ。助かったよ」

「どーいたしましてー」


 しかし、このおじさん。

 かろうじて眼鏡をかけてるのはわかるけど、髪以外もボサボサ状態。まるで、引きこもりの学者さんっぽいけど、僕のお店に何の用で来たんだろうか?


「……今、ヴィーと聞こえたけど?」


 固い女性の声だけど、エリーちゃんじゃない。

 ゆっくり振り返れば、入り口に般若顔のカミールさんが仁王立ちしてました!


「か、カミール⁉︎」

「いずれ来るとは思っていたけど……なんでその格好でスバルちゃんのお店に来るの⁉︎ 身なりは整えてって昔から言ってるでしょう⁉︎」

「こ、これでも、頑張ったんだが」

「うちのユフィがいつも以上に怖がってるんだから、ダメよ?」

「……はい」


 カミールさんとは本当にお友達のようで、ヴィーっておじさんはその場で正座になりました。

 そこからはお説教タイムになっちゃったので、僕らはどうしようと思ってるとジェフさんがこっちにやってきた。


「あっちは任せていいようだが、俺の用済ませていいか?」

「今日は一人で?」

「ほとんど全員レイスの監視。あいつ、傷が開くまで動きやがってな? あとは、シェリーの……風邪引いちまったから、明日の分のクリームパンだけは買ってこいだと」

「あらら」


 風邪で来れないなら無理もない。

 だけど、知恵熱に近い症状だから一日ぐっすり寝てれば治るみたいだって。

 だったら、一ついいものがある。


「風邪薬になるようなパンも出来たんだよ。よかったら試してみて?」

「お? マジか。まだ薬買ってねぇし、それは助かる」

「じゃ、こっち。ジュディちゃん、お仕事だから降りてもらっていい?」

「うん! いい子してる!」


 ジュディちゃんはエリーちゃんの方に行って、すでに抱っこされてたユフィ君を見ることに。

 性格は真逆だけど、仲が悪いわけじゃないからね。


「新商品のラスクってパンのお菓子。このキャラメルが今のところそれだけど」





************************




【スバル特製ラスク】



《キャラメル味(食パンの耳)》

・軽い風邪なら二個、少し熱が高めなら四個で回復!

 →食べ過ぎても、風邪以外に疲労回復の効果も有り

・簡易版キャラメルだが、バターのコクがたまらない! 好みでシナモンパウダーを振るのも良し、ココアも可

 →ただし、甘いので補正追加は特になし

・保存日数は三日





************************




「こりゃいい! 一袋買わさせてくれよ」

「他のパンも選ぶでしょう? クリームパンもまだあるから」

「おぅ。じゃ、レイスやアクアの土産用に買うか」


 それからジェフさんは主にアクアさん用ってくらい、たっぷりパンを購入してくれました。


「んじゃ、またな?」

「あ、うん。ちょ、ちょっといい?」


 少し耳に顔を近づけて、ロイズさんの言伝を言うことにした。


「商業のギルマスさんが、一緒に話がしたいって。都合はそっちに合わせるらしいから」

「わーった。うちのリーダーにも話つけてからにするわ」


 また来る、と少し急ぎ足で帰って行きました。


「さて、エリーちゃん任せてごめんね?」

「大丈夫。二人もちょっと手伝ってくれたし」

「ねー?」

「う、うん」


 子供達は、お客さんの列を乱さないようにしてくれてたみたい。

 微笑ましくて、主婦のおばさん達もにこにこ笑っていました。


「いーい? 女子の多い場にあなたが来ることは珍しいけれど、身だしなみくらいはどうにかしなさい? あまり言いたくないけど、それだから独り身なのよ?」


 外では、まだカミールさんのお説教が続いてたようだ。

 ちょっと覗くと、相変わらずどこに常備してたのか不明な鉄フライパンを片手に、カミールさんはお説教されていました。


「……君に言われると辛い」

「幼馴染みとして、一友人として言ってるのよ? まったく、あなたがサファナで五指に入る錬金師とは思えないわ」

「え⁉︎」

「あら、スバルちゃん」


 最後のワードに声を上げたら、カミールさんはにっこりとフライパンを握りながらヴィーさんを指した。


「あ、すみません。覗き見してて」

「構わないわ。けど、この人……さっきも言ったけどこの国じゃ腕利きの錬金師なのよ。うちの旦那さんから聞いてない?」

「ええと……じゃあ、ヴィンクスさん?」

「……いかにも」


 こっくり頷くヴィンクスさんに、僕は思わず転けそうになった。

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