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第20話 解毒の治療


「あんたらもだけど、どうしたんだよそいつ⁉︎」


 男の人を怖がってる場合じゃないからか、エリーちゃんもジェフさんに背負われてる人を見て驚いていた。


「れ、レイスがぁ……パラライトリザードの爪に、や、やられてぇっ」


 シェリーさんは泣きながら説明してくれるが、これは緊急事態だと僕とエリーちゃんは頷き合って皆さんを自宅に通した。

 部屋はこの際選んでいられないと僕の部屋にして、レイスさんを寝かせることに。

 意識は一応あるようだが、呼吸は荒く、傷が痛むにしては症状が変だ。

 まるで、何か毒にでも侵されたような……?


(あ、シェリーさんがモンスターにやられたって)


 けど僕は、元々この世界の人間じゃないし、冒険者でもないから個体名を聞いてもさっぱりだ。


「……パラライトってことは、麻痺毒か。魔法医者は?」


 エリーちゃんはレイスさんの容態を少し見てから、シェリーさんじゃなくジェフさんに声をかけた。

 ジェフさんは少し目を丸くしたが、説明するのにすぐに目を細めながら首を振った。


「この時間だと立て込んでてな。……定休日で悪かったが、ここしか思いつかなかった」

「それはいい。他のメンバーは?」

「買えるかわからんが、ポーション屋を駆け回ってる。完治タイプのポーションを売ってる店が少なかったんで、全員バラバラだ」


 それでクラウスさん達がいなかったんだ。


「そう。んじゃ、うちに来て正解だね。麻痺毒はスバルのパンでなんとかなるはずだよ。それ以外の処置はあたし達でやろう」

「え、おい。出来んのか?」

「今はスバルの護衛兼店員だけど、あたしはランクBだ。ソロで活動してた時期とか先輩らに色々教わったんだよ。えっと……あんたは?」

「……ジェフだ」


 エリーちゃんはジェフさんの名前を確認すると、シャツを腕まくりした。


「ジェフ、悪いけどこいつの上着を脱がして。麻痺毒を除去しても、傷口もちゃんと処置しなきゃ皮膚も元どおりにならない。あたしは出来るだけ清潔なタオルと包帯取ってくる」

「エリーちゃん、どのパンがいい⁉︎」

「たしか……ロールパンのベーコンと卵?」

「わかった!」

「わ、私は、どうすれば⁉︎」

「シェリーはスバルについてって、消毒用の湯を沸かしてきて!」


 分担が決まれば、僕は大急ぎでシェリーさんとキッチンに向かう。

 調理経験はあるようなんで、お湯の方は大丈夫。

 僕は主食用に置いてあるはずのロールパンを探してたけど……。


「一個もない?」


 昨日も定休日だったから焼いてはないんで、一昨日の営業日に余ったのは自宅に回したはず。

 あちこち探したが、本当に一個もない!


「え、パンがないんですか?」

「どーしよう⁉︎ ロールパン以外で麻痺とか毒を回復させるのって……っ」


 慌ててしまってるから、すぐに思い出せない。

 店にしか一覧のメモがないから、もう取りに行くしか。


「あ、たしか……普通のサンドイッチも、ありましたよ!」

「え?」

「えと……この間みんなで買わせていただいた中のですが。クラウスがトマトとツナマヨのサンドイッチを食べてからメモを見てたんです。それで覚えてました!」

「それなら!」


 食パンはたっぷりあるから大丈夫。

 保管用の箱を見たら、紙に包まれた食パンが一斤見つかった。


「シェリーさんは、お湯が沸いたら気をつけて持って行ってください!」

「は、はい!」


 食パンをスライスしてから、急いで具材作りに取り掛かる。

 トマトはスライスして、塩とオリーブオイルに漬けてマリネに。ツナマヨは、ツナの油をよく切ってみじん切りにした玉ねぎ、粒胡椒とマヨネーズにほんのちょっとの塩を入れて混ぜる。

 パンには、常温のバターを塗って一個目はトマト。二個目はツナマヨを挟んで、まな板を二つ使って押す。


「これで、少し待つ」


 シェリーさんはもう行ってしまったが、僕は焦っちゃいけない。

 パンを錬成するのには、いつも通りにしないと効果が落ちてしまうんだ。

 特に普通のサンドイッチの場合、一個だけじゃ効果が半減するようなので慎重に。

 感覚的に5分くらい経ってから、重石がわりのまな板を外してカットする。



『錬金完了〜♪』





************************





【スバル特製サンドイッチ】



《トマトとツナマヨ》

・状態異常(麻痺、毒)回復を85%近くまで促してくれる

 →片方だけでは、数値半減

・トマトはマリネしてるのにフルーティー、ツナマヨは玉ねぎがシャキシャキで辛くない!






************************





 いつもと効果の度合いが違う。

 85%もだなんて本当はギルド販売用になるけど、出し惜しみしてる場合じゃない!

 皿に切ったサンドイッチを全部乗せてから、片付けを後回しにして急いで部屋に戻った。


「お待たせ!」


 部屋に入れば、少し血の匂いがしたけどエリーちゃんは頑張ってシェリーさんとレイスさんの傷を手当てしてるところだった。

 エリーちゃんは僕の声に気がつくと、すぐに振り返ってくれた。


「ロールパンのことは聞いたよ。補正は?」

「85%だったよ! いけそう?」

「充分。ジェフ、レイスに食べさせてやって」

「わーった」


 上半身が包帯でぐるぐる状態のレイスさんを起こしてから、ジェフさんは僕が差し出したサンドイッチを一つ取った。


「あ、一種類だと効果半減らしいので」

「んじゃ、もう一個食わせなきゃなんねーか。おい、レイス。辛いのわかるが食え」

「………っ、………!」

「治すために食えっての!」

「んご⁉︎」


 何か呟いたレイスさんの口に、ジェフさんがトマトのサンドイッチを無理矢理押し込む。詰まらせちゃうかなと少し不安になったが、レイスさんは少しずつ口を動かしながら食べてくれました。


「……うまっ。痺れ……なんやとれてくっ」

「もう一個あるらしいが、食えるか?」

「ああ」


 ツナマヨの方は、自分で手にとってゆっくりと噛んで食べてくれた。

 最後のひと口を飲み込むと、ジェフさんに預けてた体を起こして腕を回した。


「治った⁉︎ あんなけしんどかったんが、ほとんど取れた!」

「おい、傷は塞がってねぇんだからじっとしてろ!」


 ジェフさんがレイスさんのポニーテールの部分を引っ張ると、レイスさんも自覚したのかすぐにベッドにうつ伏せになっちゃった。


「……そやったわ。あいつの爪、結構鋭かったかんなぁ」

「け、けどぉ、治って良かったよぉ!」


 シェリーさんは我慢してた涙腺を決壊させながら床にへたり込んでしまった。


「わ、私が倒しきれてなかったからぁ」

「ちょぉ、落ち着けって! 俺が自分の判断で動いたんやから。な?」

「な、じゃないよ! 無茶するんだからぁ」

「はいはい、事情は聞くから落ち着きなよ」


 二人の押し問答が始まっちゃったが、すぐにエリーちゃんが手を叩いてやめさせた。


「で? こっちの予想だけど……攻撃が甘かったせいで、瀕死のパラライトリザードがシェリーに襲いかかったのをレイスがかばった?」

「せーかい。間に合わなくて、レイスは爪で麻痺毒受けちまったが。俺とクラウスがリザードにはとどめ刺した」

「……飛び道具出すのも、忘れててん」


 僕にアプローチしまくるくらい手は早くても、仲間をかばうくらいシェリーさんのことを大事にしている。

 ちょっとだけ、レイスさんの評価が変わってきた。


「ってことは、今回は全体的に不注意があったってわけね?」

「あんたが言うとーり、誰もが悪いわけじゃねぇ」

「け、けど、私がちゃんと倒せ」

「シェリーはかまへんって。俺が勝手に動いて毒受けただけや、ぐへ⁉︎」

「言い合いに戻るから、話し合いはクラウス達と合流してからだ」


 またループしそうになったんで、ジェフさんはレイスさんに軽くげんこつして場を抑えた。

 仲が良いなぁと思っていると、エリーちゃんは汚れたタオル達を抱えて立ち上がる。


「まだゆっくりしていきなよ。なんなら、蝶を飛ばして残りのメンバーも呼んで構わないから」

「あ、それ良いね」

「スバルはここにいて。あたしはタオル洗濯してくるから」


 多分、今は普通にしゃべれてても、ジェフさんとレイスさんは恐怖症の対象だからもう限界が近いのだろう。

 それを悟られないように、わざと雑用を言い出したのかもしれない。

 だけど、それを止める声が部屋中に響き渡る。


「ちょぉっと、待ってや!」


 レイスさんの声に、エリーちゃんもさすがに止まった。

 呼び止めたレイスさんは、何故か少しもじもじしながら口を開く。


「お、おおきに。俺の手当てしてくれて……」

「……次からは、ちゃんと仕留めるんだね」

「おん。って、店員さんも冒険者?」

「ランクBだとよ。若いのに俺らより先輩」

「おひょー!」

「じゃ、洗わないと次使えなくなるから」


 頑張って会話してくれたエリーちゃんは、少し早足で出て行った。

 今日ほんとはエリーちゃんが食事当番なんだけど、ご褒美も兼ねて僕が代わろう。それと、好きなご飯作ってあげようっと。


「す、スバルさんも、ありがとうございます!」

「た、大した事出来てないですよ!」


 シェリーさんが深く腰を折ってきたので、僕は首を強く振った。

 エリーちゃんやシェリーさんのアドバイスがなかったら、僕何にも役に立ってなかったもの。


「けど、傷の手当て以外は店長さんのお陰だぜ?」

「せやなぁ、前飲んだことあるポーションよか美味いし効き目抜群やで!」

「そうですよ!」


 三人とも強く頷くんで、僕は少し気恥ずかしくなっちゃった。


「あ、ありがとうございます……けど、傷の方は今すぐには作れないんでそのままになっちゃいますが」

「かまへんかまへん! 手当てしてもろたし、ちょいと大人しゅうしてれば治る。あ、ジェフ。俺の財布取ってくれへん?」

「あ、パンと治療費か?」

「え、パンだけで良いですよ!」

「そうはいかんて」


 荷物から出してもらった財布から、レイスさんは大銀貨一枚を抜いて僕の手に握らせた。


「治療費込みやから、受け取ってぇな。あの店員さんにもそう言って?」

「お、多過ぎますけど……」


 大銀貨って、一万近い価値があるのに。

 でも、レイスさんは頑として揺るがないみたいだから、僕が折れてしまうしかなかった。

【サンドイッチの作り方のコツ その2】




今回も、具材のコツについて。

作中のツナマヨの作り方は大雑把にしてしまいましたが、こちらで説明をします。



まず、一度は聞く『汁気をよく切る』ことが大事です。

サンドイッチのこれまでの豆知識でもお伝えした通り、サンドイッチに汁気は大敵。ツナマヨの油だったり、水分はしっかり切ること。


この他に、フライパンで炒めて汁気を飛ばす方法もあります。この場合は、ツナが冷めてからマヨネーズを混ぜるようにしましょう。みじん切りした玉ねぎを混ぜる時も、キッチンペーパーでしっかりと水気を絞ってから混ぜるようにします。


裏技に、味付けした後のツナマヨに『パン粉』を適量混ぜる方法もあります。汁気を吸ってくれるので、パンの水分が染み込むのを防ぐことが出来るようです。


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