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第18話 面倒な事





 ★・ラウル視点・★





 一つ、面倒な事が出来た。

 スバル親衛隊、よりむしろ本職の方である衛兵側として、面倒な仕事だ。


(昼間、スバル嬢達と接触したあの冒険者……)


 ここ二週間くらいアシュレインに滞在しているソロの剣士(ソードファイター)だが、見た目通りに性格が荒い。

 そこは別におかしくないが、我ら親衛隊がお守りするスバル嬢を、付け狙うようにしつこく店に通っている。

 普通にアプローチをかけても、エリザベス嬢にコテンパンにやられ、スバル嬢からも敬遠されてるのでことごとく断られていた。

 だが、その程度で諦める輩ではなかったので、彼女達の休日にも出待ちするのは今日も同じだった。

 違ったのは、商業のギルマスの母君に諌められ退散したことだが。

 しかし、それが奴の本性を現すきっかけとなってしまった。



『あの嬢ちゃん、いっそ攫うか?』



 冒険者にあるまじき発言。

 親衛隊に所属している部下が、奴が昼間から酒場で浴びるように酒を飲んでいた合間に漏らした、と俺に報せてくれたのだ。

 余所者でも冒険者でも、街の住民の安全を護るのが我ら衛兵。

 犯罪は、起きる前に防がなくてはならない。

 俺が行動に起こしたのは夕方だが、奴はまだ酒場にいるそうだ。

 その店にとっても迷惑だろうから、ひっ捕らえるにはちょうどいい。

 俺は装いを黒装束ではなく、衛兵隊用の軽装に着替えてから、他の冒険者と酒を飲んでる奴の前に立った。


「あ、なんだぁ?」


 酒には弱いのか、奴には俺が影のようにしか見えてないのだろう。

 他の冒険者達は警戒し出したのに、のんきな奴だ。


「衛兵だ。この店から通報があってな、すぐに出て行かぬのなら……冒険者であればわかってるだろう?」

「はぁ⁉︎ 俺は金払って飲んでんだぞ⁉︎」

「これを見ろ。ああ、酔っていて見えんか?」


 通報があったのは本当なので、捕縛許可状を奴に一応見せた。

 だが、予想通り奴は焦点が合っていないので読めないらしい。

 次の行動も予想しやすかったから、俺はすぐさま右手を下ろした。


「これが効かぬのなら来てもらおうか!」


 勢いよく下ろすと、客に扮してた俺の部下達が他の冒険者達を捕らえに行く。


「ちょ、はぁ⁉︎」

「な、なんで俺達まで⁉︎」

「婦女暴行の計画までしてたらしいからな、当然だ!」


 部下の一人がそう叫べば、どこで聞いてやがったなどと自分でバラす馬鹿な連中を次々と捕縛していった。

 俺は、手を下ろしたと同時に首謀の位置にいた奴へ仕込み鉢を飛ばし、こちらも捕縛が完了。

 ただの麻痺毒だが、耐性がないのですぐに泡を吹いて気絶。あっさり過ぎて実につまらないが、仕事が完了したので良しとしておく。


「ご苦労。撤収するぞ!」

『はっ!』


 運ぶのは部下達に任せ、俺は物陰で黒装束に着替えてからスバル嬢の店に向かったが。


(留守、か?)


 自宅側にも気配がない。

 エリザベス嬢とまた出かけたのかと探すことにした……が、すぐのところで二人の若者に阻まれた。


「おっと、警戒しなくていいよん。そちらさんは知ってるだろぉ?」

「直接対面するのは、初めてだな。衛兵隊の隠密(アサシン)殿」

「…………ギルド直属の、隠密(アサシン)か」


 手練れだとは聞いていたが、俺より若いとは。

 だが、警護対象のスバル嬢達の側ではなく、何故俺の前に?

 すると、長髪の方が俺に紙束を投げてきた。


「先程、そちらが捕縛してくださったならず者についてだ。聴取の時にでも使ってくれと我らがギルマスからの言伝もある」

「……なら何故、そちらで処罰を下さなかった?」

「登録が他所だったしねー? あとは、様子見。あいつ、計画はしててもバカで未遂で終わるとか多かったんだって。それにも書いてあっから」


 短髪で口調が軽い方が補足してくれたが、まだ腑に落ちない。

 だが、俺の気配だけで察したのか、二人とも肩を落とした。


「今回動いたのは、対象者がスバルちゃんだからさ。俺達はギルマスに命じられて護衛してんだけど、ギルマスに報せたら『もう我慢ならないわねぇ?』ってカンッカンになったもんでね? 先にそちらさんが動いてくれたから、俺達は楽しちゃったけどぉ」

「彼女達の方には、今別の者を近くに置いているので案ずるな。俺達もすぐに向かう」


 では、と長髪の方が腰を折ってから二人とも跳躍して闇に消えてしまった。


(……まだ納得いかない部分は多いが。本来の護衛は彼らだ)


 俺の場合、半分以上が親衛隊として動いてるから業務外に等しい。

 スバル嬢の素性は知れずとも、今はこの街の住民であるから護る対象なのは当然。

 しかし、衛兵としての職務を疎かにしていてはいかん。

 追いかけたいのは山々だが、この書類を部下達に渡さなくてはいけなくなった。

 仕方がないので、方向を詰所に変えることにした。






 ★・エリオ視点・★





「追いかけてこねーな?」

「そうだな」


 親衛隊でも、あの隠密(アサシン)は有能ではあるから職務を疎かにはしないだろう。

 とりあえず用事はこれで済んだので、ネクターとスバル()達の方へ向かうのに屋根を飛び越えていた。


「あーあ、エリーはいいけどぉ……スバルちゃんが男だってまーだ信じられねぇ!」

「声を上げるなっ」

「いって⁉︎」


 その事実は、特に親衛隊にバラしてはいけない。

 本気で殴っていないが、ネクターは少し体勢を崩したのか屋根で軽く足を滑らせた。


「だーってよぉ、エリオも思わね? あーんな美少女なのに、とか!」

「思うが……行動を見てたら男だとはわかるだろ?」

「そーだけどぉ」


 接客態度は丁寧でも、よく観察すれば『男』だとはすぐに納得出来た。

 出来たが……ネクターが悔やむようにあの風貌で男だとは俺もまだ信じ切れてはいない。

 おまけに、世に何人いるかわからない異世界からの『時の渡航者』ときた。だからこそ、性別を偽る以上に警護対象にしなくてはいけない。

 ギルマス、副ギルマス達以外じゃ、冒険者だと知っているのは俺達だけだろう。


「でも得出来んのは、あの子の新作を俺らもタダで食えるとこだよなぁ?」


 次の屋根を飛び越えるのに、ネクターはわざわざ一回転した。

 落ちないのが毎回すごいとは思う。


「たしかに、この間のメンチカツと言い美味かったな」

「護衛特権だーよな!」


 唯一の楽しみと言っていいのか、スバル君が作る商品の新作を、俺達はロイズ氏から報酬の一部として受け取れる。

 この間話題にも上がったメンチカツサンドもその一つだ。


「昨日も新作が出ていたようだが、商業には持って行ってなかったな?」

「たーしか、ぼけっとしてた奴がいきなり目ぇ覚ましたっけ?」

「眠気覚まし……か?」

「おっもしれ! けど、この前のはやばいな」


 真剣な口調になったネクターに俺も頷く。

 会報にも上がった、メンチカツサンドだけは異常だ。

 調理法を変えただけで、高価なポーションでも数少ない『力の付与』を簡単に可能にしてしまった『パン』。

 俺達には、ロイズ氏に効果を試せと渡されたので実際にネクターと修練場で試したが……たった一撃で練習用の人形が壁際まで吹っ飛んだ。

 補正は6割と少しだと言うのに、ネクターの方も結果は似た感じに。


「会報にはすべて書かれていないが、あれからメンチカツサンドの売れ行きだけが異常だそうだ」

「今んとこ、回復以外でレアなのあれだけだし? 祭りも出るってんなら、外からの連中も押し寄せてくる。……想像以上に警護固めなきゃ、やべぇか」

「同意だ」


 男だろうがなんだろうが、ギルマスからの依頼は遂行するもの。

 だが、一個人としては弟のように優しい少年を守るのに全力を尽くそうと思っている。

 ネクターはどう思っているかわからないが、少なくともスバル君には好印象を持っているようだ。

 でなければ、報酬目的以外でこの男が動くまい。


「あーとは、エリーの方か?」

「……スバル君は例外でも、あの調子ではな」


 退散させる度に恐怖症が出てしまっては、克服は出来にくい。

 冒険者でも一部しか知らないこの事実も、スバル君の秘密同様に隠さなくてはいけないが。


「まっ、本人が克服したいんなら影ながらフォローしますかね?」

「それしかあるまい」


 とりあえず、他の隠密(アサシン)達に頼んだ警護を交代するのに急ぐことにした。

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