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第12話 目覚めスッキリ揚げ小倉トーストサンド

今回も少し長めですノ


豆知識もお楽しみにノ









 ◆◇◆







「こ、こんにちは!」

「あ、シェリーさん。いらっしゃいませ」


 彼女がこの街にパーティーの人達と常駐してから一週間。

 定休日以外はほぼ毎日、例のクリームパンを買いに来るようになりました。


「今日もクリームパンありますよ?」


 彼女のために多めに焼いてることは、ちょっと内緒。

 僕が声をかければ、シェリーさんは何故かもじもじし出した。


「あ、あの、今日は……ほ、他のみんなも連れてきたんです!」

「他……パーティーの方達も?」

「は、はい! そ、その……大人数なんですけど」

「大丈夫ですよ。ご存知かもしれませんが、うちの店には冒険者さん達も結構来ますから。窓の外にいらっしゃる方達ですか?」

「え? あ⁉︎」


 ディスプレイ側の窓の向こうには、中のパン達を覗く男女数名がいました。

 実はさっきから気づいてたんだけど、シェリーさんが必死だったんで黙ってたのだ。

 彼女は僕に何度もぺこぺこしてから彼らに来いと手招きをした。


「珍しいからって、お行儀悪いよ!」

「いやー、つい美味そうだったもんで」


 一番最初に入ってきた、大きな槍を背負った黄色の髪のお兄さんは、シェリーさんが突っかからないように彼女の頭を抑えていた。

 その後ろからも大柄な栗色の髪のお兄さんに、軽装のお兄さんとお姉さん。もう一人のフードを被ったお兄さん?は眠いのかぼーっとしてる。

 全員物珍しそうに店内を見回しながら入ってきたら、結構ぎゅーぎゅー。

 だけど、いつも昼前は冒険者さん達でいっぱいだからこれくらいは大丈夫。


「いらっしゃいませ。シェリーさんにいつもご贔屓にいただいてます。当店の店主、スバルと言います」

『ど、ども……』


 普通に接客しただけなのに、この見た目と格好だから可愛い女の子に見えたようだ。

 フードのお兄さん以外、顔がポーっとしちゃっています。何故か、シェリーさんまで。


「あ、あの……ひゃっ⁉︎」


 何か声をかけようと思ったら、目の前に風が吹いてきた。


「お嬢さん、俺とデートせぇへん⁉︎」


 なんだと前を見たら、関西弁口調で軽装のお兄さんの方が床にひざまずいてた。

 そして、さりげなく僕の手をつかもうとしたが……すぐに見覚えのある木の棒みたいなのが彼の手を弾いた。


「い゛って⁉︎」

「うちの店長口説きに来たのか、パン買いに来たのかどっちだ⁉︎」


 初対面の人でも遠慮ないエリーちゃんの牽制でした。


「何すんねん⁉︎ お嬢さんも美人なのにキッツいなぁ!」

「お世辞は結構。シェリーのパーティーだから目ぇつむってやろうと思ってたが、スバルに手出ししたら承知しないよ!」

「お嬢さんかて店員やのに! う゛っ⁉︎」

「レイス、いい加減にしろ! 悪い、うちの盗賊(シーフ)は手が早いんだ」


 言い合いしてたお兄さんの後ろから、栗色の髪のお兄さんがレイスってお兄さんの襟を掴んで黙らせた。

 彼の謝罪に、エリーちゃんは震え上がるのを堪えてスケッパーを担ぎながらそっぽ向く。


「……シェリーに免じてなら、いい」

「ほんとすまない。ほら、お前も謝れ」

「そな、いゆ、ても、クラ……ウス、いだ……っ!」

「クラウス、加減しててもお前戦士(ファイター)なんだからレイスより腕力あるだろ? 早く離さんと首折れるぞ」

「あ」


 クラウスってお兄さんがレイスさんの頭を離せば、重力に逆らわずレイスさんは床にお顔をごっちんこ。


「し、死ぬかと思ったぁ……」

「おっ前の自業自得。それよか、先に選んでるアクア止めた方がいいぞ?」


 槍のお兄さんがくいっと親指を向けた方向には、軽装のお姉さんがトングを使ってトレーにパンを山ほど積み上げていた。


「ち、ちょっとアクア⁉︎ あなたそれ全部食べるつもり⁉︎」

「ん。ここのパン、美味しいから」

「安くても日持ちしにくいって言ったじゃない!」

「大丈夫、全部食べる」

「俺かて手伝えんで!」

「アクア、適度にしろって来る前にも言っただろ?」


 見た目によらず大食いさんなのかな?

 買う買わないの問答が繰り広げられている中、ふっと影が出来たので上を見ればクラウスさんがもう一度謝るのにお辞儀をしてくれた。


「騒がしくてすまないな」

「いいえ、大丈夫ですよ?」

「いつもシェリーが買って来てくれるから……今日は、全員で買いに来たんだ。まさか、聞いてた以上に美人の店長さんとは思わなかったよ」

「あ、あはは……」


 本当はあなたと同じ男ですと非常に言いにくい。


「ところで、そっちの店員さんに聞きたいんだが」

「……あたし?」

「失礼だが、どこかで会ったような気がするんだ」

「……いや」

「……そうか」


 知り合いかと思ったらそうじゃなかったみたい。

 エリーちゃんはすぐに首を振って裏に行こうとした時、扉が開く音が聞こえた。


「外から見えてましたが、混んでますね」

「いらっしゃいませ、イレインさん」


 もうそんな時間かと思うと、まだ騒いでるシェリーさん達を見てからイレインさんはこっちに来ました。


「こんにちは、いつものを頼めますか?」

「あ、はい。えーと」

「あたしが取って来る。数はいつもので?」

「はい。お願いしますね」


 エリーちゃんはスケッパーを僕に預けると、勇ましい雰囲気を装いながらシェリーさん達を黙らせ、見事クロワッサンを取ってきてくれた。

 やっぱり、エリーちゃんかっこいい。


「じゃあ、表は少しお願いしますね? クラウスさん達もゆっくり選んでてください」

「あ、ああ。あんた、その格好ってこの街の衛兵?」

「ええ、一応隊長を務めてますが」

「隊長⁉︎」


 少し仲良くなれそうかな?を片隅に思いながら裏の厨房に向かえば、奥の揚げ物鍋の横に画面が浮かび上がってた。


「あ、出来てるみたい!」


 音が聞こえなかったけど、シェリーさん達が騒ぎ出した時に気づかなかっただけかも。






************************





【スバル特製揚げ小倉トーストサンド】



・睡眠不足を70%まで解消

・白鳳国特産の小豆を使用した餡子は甘さ控えめ。食パンに挟んで揚げただけなのに、外側のカリカリと内側のふわふわが病みつき間違いなし!

 →お好みで砂糖をつけるとより一層美味しい!(今回は無し)





************************





 揚げ物でも、攻撃力の補正じゃなかったので少しほっと出来た。


「どうだった?」


 切り込みの作業が終わったのか、エリーちゃんがこっちを覗いてきた。


「あ、うん。睡眠不足を70%解消させるってくらいかな?」

「揚げ物だけど、攻撃防御じゃないってことはそれが法則じゃなかった?」

「まだ他を作ってないしね? あ、これ今いる皆さんに試食してもらってもいいかな?」


 僕ら二人じゃ食べきれないし、ギルドからの配達員さんも今日の分はお願いしちゃった。

 ルゥさんも、最近忙しいから来ないんだよね。


「……そうだね。効果が効果だし、いいんじゃない?」

「じゃ、クロワッサン作ってから仕上げよう!」


 急ぐけど丁寧に餡クリームを挟み込んで包装してから、餡サンドの方に砂糖をまぶした。

 注釈にもあった、より一層美味しくなる方法を試したかったんで。

 砂糖を軽くはたいてから、サンドイッチと同じように斜めで半分に切り、包み紙を軽く被せて出来上がり。

 僕がクロワッサン、エリーちゃんが餡サンドのトレーを持って表に。


「魔猪は一定の方向へと突撃してくるので、慣れればかわしやすいですよ。ただ、スピードは要注意です」

『おお』


 イレインさんを囲んで何故か講義?のようなものが開かれていた。


「次は……っと、お帰りなさいスバル嬢」

「お待たせしました。皆さんもお会計お待ちでしたらすみません」


 イレインさんに袋を渡してから謝ると、フードのお兄さん以外横に首を振った。


「あ、アクア以外まだ決めてないので。だ、大丈夫ですよ!」

「急がなくていいですからね?」

「ん、そっちの店員さんのは、棚にないやつ?」

「ええ。新作なんですが、よろしければ皆さん試食していただけませんか?」

『いいの(んですか)⁉︎』

「ギルドに行く予定がないので、残すと廃棄になっちゃうんです」

『じゃ、じゃあ……』


 食欲に素直なのは大変よろしい。

 エリーちゃんが持ってるトレーの中身を順番に手渡し、まだぼーっとしてるフードのお兄さんにはジェフって槍のお兄さんがなんとか持たせていました。


「では、どうぞ」

『いただきます!』


 僕とエリーちゃんは仕事中だからあとで。

 男の人は大きな口で半分くらい、女性は小さくひと口とばらばらだったがすぐに女性二人が軽く飛び跳ねた。


「揚げてあるんだ! サックサク!」

「中のこれは、豆? けど、甘さ控えめ!」

「ほんとうめ!」

「ほんまうまい! お、ケイン起きたん?」


 レイスさんがフードのお兄さんを見ると注目が集まった。

 ケインってお兄さんは、半分くらい食べた餡サンドを見つめていたけど、すぐに口に放り込んだ。


「むっちゃうま!」


 全部飲み込んでからフードを取ると、好奇心に輝いた碧い瞳とかち合った。


「これ作ったの誰⁉︎ お礼言いたい!」

「あの黒い髪のお嬢ちゃん」

「ほんと⁉︎ ありがとう、君のおかげで眠気吹っ飛んだよ!」


 ケインさんが僕のところに来ると、エリーちゃんが止める間も無く僕の手を掴んでぶんぶん振った。


「この街はいいんだけどさ? 宿舎の枕合わなくて寝不足がずっと続いてたんだよ! 君のパンのお陰でもう気分爽快!」

「おーい、ケイン。店長さん困ってるみてぇだから離せよ」

「あ、ごっめーん!」


 ジェフさんが軽くケインさんを小突けば、彼はすぐに僕の手を離してくれた。


「つい嬉しくって。もうあのパンってない?」

「え、えっと……新作ですが、まだ販売段階にはならないんでちょっと」

「そっかぁ。無理言ってごめん。他のパンにさっきみたいな補正付きってない?」

「今のところないな。あとは疲労回復程度だよ」

「あ、そうなんだ?」


 彼の無邪気さに圧倒されそうになってたら、エリーちゃんがすかさずフォローしてくれた。

 この人でも怖いだろうに、無理させてごめんなさい。


「元気になられて良かったですね。先に私のお会計を済ませてもよろしいでしょうか?」

「あ、すみません!」

「いえいえ。あ、そうでした。冒険者ギルドに少し用があった時にもらったんですが、親衛隊の会報が出てましたよ」


 と言いながら懐から取り出したのは、見覚えのある薄ピンクの紙。

 見えないけど、エリーちゃんの顔も引きつったはずだ。


『親衛隊?』

「えっと……私、の、ファンクラブさん?」

『あー……』

「なんで納得しちゃうんですか⁉︎」

「あんたは自覚なくていいから。で、それに最近の新作が?」

「そうですね。メンチカツサンドについての詳細などが。あとで確認してください。私はそろそろ時間なので」

「ん」


 エリーちゃんが会報を受け取ると、イレインさんは僕にいつもの代金を渡してから店を出た。


「さて、あんた達はどーすんの。長居し過ぎるとシェリーの特訓に付き合ってあげられないんじゃ?」

「え、俺寝ぼけてたから選んでない!」

「あ、アクアが大量に買おうとしてるから折半したら?」

「ん、構わない」


 などなど話し合いながら、だいたい10分くらい時間をかけて選んで皆さんお会計に来てくれました。

 最後に、レイスさんがさりげなくもう一度アピールしてきたんで、今度はクラウスさんに容赦のないゲンコツをお見舞いされた。

 最後に補正効果のメモをクラウスさんに預ければ、引きずられるレイスさん以外にこやかな笑顔で帰られました。


「……お疲れ様、エリーちゃん」

「うぅう……無邪気でも、やっぱりダメぇ」


 やっぱり無理して会話してたからか、扉が閉まると床にへたり込んじゃった。

 だけど、すぐに僕の顔を見てきた。


「さっき、だけど……少し、嘘ついた」

「どれ?」

「あの、クラウスって男。いつかは覚えてないけど……なんか、見た気がする」

「……そうなんだ」


 無理には聞かない。

 トラウマに繋がるかもしれないし、違うかもしれない。

 だけど、いい傾向であって欲しかった。

【小倉トーストの由来】



出身がバレそうですが、作者は愛知でも三河なので、小倉トーストが定番とも違いました。


さて、小倉トーストの由来ですが。

なろう作家であり、名古屋めしにお詳しいSwind先生よりお伺いして来ました。


ネットならブログでも由来は記載されてますが、簡単に。

今は亡き、「満つ葉」さんと言う喫茶店が発祥だそうです。大正初期には甘味のお店として開いていたのをコーヒーなどの舶来品も取り入れたらしく、パンも扱うように。


ある日、常連の学生さんからの『和の甘味とうまく合わせられないか』とのリクエストに応えて考案したのが、トーストにあんこを乗せる小倉トーストだったのです。


Swind先生や別のブログさんでは、『その学生がぜんざいにパンを浸したのをヒントに考案』ともありました。


作者は名古屋にいた時期もありましたが、実際喫茶店で小倉トーストは食べたことがあまりなく、高校の購買で食べてた『揚げた小倉サンド』が多かったです。


女子生徒も思わず購入しちゃうくらい、パンのカリカリと餡子の甘さが絶妙な一品でした。

メーカーは有名どころでしたが、今販売されてるかはわかりません。

ちなみに、作中と同じようにバターは入っていませんでした。

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