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第11話 衛兵が好む餡クリームクロワッサン

後半ご注意www









◆◇◆








「はー、ちょっと疲れたぁ」

「昨日の今日だし、まあ早いこと決めれたんだから良かったんじゃない?」

「だね?」


 今日はお店をお昼前に休業させ、商業ギルドに出かけていました。

 内容は、昨日作ったメンチカツサンドについて。

 ついちゃった補正もだけど、他の揚げ物関連の新作でも似た補正が出たら、確率が低くても商業ギルドで売ることが決定した。


「メンチカツは美味しかったけど、店の中で暴れんのはあれ以上ごめんだね。ほこりが立ってパンがダメになるし」

「そうそう」


 昨日ルゥさんに預けたメンチカツだけでも乱闘騒ぎになっちゃったんで、店で売ると常連さんにも迷惑をかけるだけで済まないからと。

 他にも色々あったが、出かけてからもうおやつ前くらいまで座りっぱなしだったんで肩が凝りました。


「親衛隊ってのも、噂には聞くけど役には立つんだね?」

「あたしは関わりたくない!」

「僕も遠慮したいよっ」


 だって、要はファンクラブでしょ? 男の僕が男からだよ?

 でも、表向きは女の子になってるからアイドルと思われてるんだろうけど。


「考えるのやめやめ! この時間に来る常連も多いから、さっさと戻ろ」

「揚げ物の許可もらえたし、おやつ用にも試したいのあるなぁ。今日も試作しよっか?」

「お、いいね!……っと、この感じ」


 もう店に着くのに、なにかを感じたのかエリーちゃんが角の手前で止まった。

 男の人の気配を察知すると、恐怖症持ちのエリーちゃんはこんな風に調べるのが癖なんです。


「今日は誰?」

「……衛兵隊長」

「イレインさんね」


 あのキラキラなイケメンさんか。

 常連さんでも比較的穏やかな人だから大丈夫か、と安心しながら僕が先に出た。


「こんにちは、イレインさん」

「おや、スバル嬢にエリザベス嬢。お帰りなさい」


 どれくらい待ってたのかわからないが、衛兵隊の服をしっかり着込んだ美形男子のイレインさんは看板前に立っていた。


「お待たせしちゃってすみません。すぐに開けますから」

「いえ、つい先ほど来たばかりですから」


 そんな爽やかスマイルで言ってても、絶対30分くらい待ってただろうに。

 だけど、このやり取りもいつもの事だから、さっさと店のセキュリティを解除させるのに鍵穴へ手をかざした。


『マスターコード承認。我、スバルの紋章を読み取れ』


 思いっきり恥ずかしい呪文でも、店にかけてもらってるセキュリティを外すのに大事な手順だ。

 ロイズさんとルゥさんのご厚意で、このパン屋と居住スペースには厳重な魔法と魔術を合わせたセキュリティシステムを組み込んでもらっている。

 解除方法は、僕とエリーちゃん。あとはロイズさんに管理者さんが出来るようにしてあります。


【────承認。マスター、ならびにエリザベス=バートレインも確認。全結界解除、あわせて弱結界展開】


 僕が錬成する時よりはしっかりした女の人の声が聞こえ、お店が一瞬青く光れば扉がひとりでに開いた。


「じゃ、あたし先入るから」

「あ、うん」


 イレインさんとは出来るだけお話ししたくないのもあって、エリーちゃんはそそくさと中へ入ってしまった。


「……やはり、エリザベス嬢には苦手に思われてるのでしょうか」

「だ、大丈夫ですよ!」


 さっきまで輝いてた笑顔を消して、緑の瞳を細めてしょんぼりしちゃったけど、イレインさんは悪くない。

 悪いのはエリーちゃんを酷い目に合わせた男の人達だけど、その男も僕とロイズさんを除けばほとんどが苦手の対象だ。

 いくら薄金の髪に王子様みたいなイケメンさんでも、男の人は男の人。その訳は話せないので、彼の背中を軽く押しながら中に入ってもらいました。


「今日も、いつものでしょうか?」

「はい。数もいつもと同じでお願いしますね」

「かしこまりました」


 注文を受けてから作るのも、パンによってはあるんです。

 理由はそれぞれあるが、まずは注文いただいたものを作るべく、トレーにクロワッサンをたくさん乗せていく。


「では、少しお待ちください」

「はい。パン達もしっかり見張っていますから」

「お願いしますね?」


 作ってる間、イレインさん達にパンの万引き防止をしてもらうのもいつもの事。

 開店してからしばらく、パンを強盗しようとした柄の悪いおじさん達から守ってくれたことがきっかけで、巡回を兼ねてほぼ毎日来てくださるんです。

 わざわざ隊長さんがと思うけど、アシュレインの名物になりつつあるパン屋だからと、にっこり笑顔で承諾させられちゃいました。


「餡クリームクロワッサン注文入りました!」

「アンコと生クリーム用意しといたよ」

「さっすが!」


 イレインさんが買うのは、クロワッサンに餡子と生クリームを挟んだ甘い甘い菓子パン。

 あらかじめ作っておいた餡子と生クリームを、切り込みを入れたクロワッサンに適量挟むだけのシンプルなものだ。

 エリーちゃんと一緒に切り込みを入れ、僕が具を挟んでいく。



『錬金完了〜♪』





************************





【スバル特製クロワッサン】


《餡子クリームサンド》

・食べれば、疲労回復が70%まで跳ね上がる

・白鳳国特産の小豆を使用した優しい甘さの餡子に生クリームは驚異のコラボ! バターのコクでただでさえやみつきになるクロワッサンの進化形! 太りやすいのがオチ





************************





 イレインさんがこれを買う理由は、補正が疲労回復だから。

 ただでさえ体力勝負の衛兵さん達。

 そして、甘いものもしょっぱいものも欲しい時に嬉しいのが、この餡クリームクロワッサン。

 最初に食べたのはイレインさんで、思った以上の回復量に部下さん達にも買いたいと言ってくださってから、ほぼ毎日このパンだ。

 もう三ヶ月くらい経つのに、ちっとも飽きないからって定休日以外ずっと買いに来てくれる定番になっています。


「お待たせしました!」

「こちらも、特に問題はないですよ」


 店頭に戻れば、他にお客さんはいるものののんびりした光景。

 イレインさんにはクロワッサン達の袋を渡せば、代金の硬貨を財布から出してくれました。


「ひぃ、ふう、みぃ。はい、銀貨10枚と銅貨20枚間違いなく」

「では、今日も頑張ってくださいね?」

「イレインさん達も」


 お互いにこにこになりながら挨拶をかわせば、彼は紙袋を落とさないようにしながら店を去っていった。


「今日もかっこいいわねぇ、衛兵隊長さん」


 会計に来た商店のおばちゃんが、若い女の子のようにほっぺを赤くしていた。

 たしかに、同じ男の僕とは真逆ぐらいの美形さんだ。

 羨ましく思っても、無い物ねだりしても意味がないから思っておくだけだ。


「そうですね」

「スバルちゃんとお似合いなのに、あんまり好みじゃないのかい?」

「あ、あはは……ちょ、ちょっと」


 その前に自分が男だから対象外です!








 ★・イレイン視点・★






 角をいくつか曲がり、身を潜める。

 気配が特にないことを確認してから、私は先程購入したパンの袋を掲げた。


「今日も、今日もスバル嬢のクロワッサンを!」


 神聖なものを崇めると言い過ぎかもしれないが、実際にこのパンやあの店の店主は私、いや、私を含める『スバル親衛隊』にとって神に等しい。


「あ〜、今日も無事に手にいれれた〜」


 気色悪く見られても、他に誰もいないのでパンの袋に頬ずりする。

 まだほんのり彼女の温もりを感じる気がした。

 あの女神のような微笑みを今日も見られるだけで、衛兵隊の隊長をしてて良かったと痛感出来る。

 最も、このパンも大変美味なので楽しみにしてるのは本当だ。


「───────……こう言う場所で本性をさらけ出すのは、相変わらずだな」

「失礼だね、君も」


 やはりいたかと声をかければ、屋根の上から黒い影のようなものが私の前に降りてきた。


「『輝きの衛兵隊』の隊長が、ただの変態バカとつくづく呆れる」

「君の分あげないけど、いいのかい?」

「それは後生だ!」


 今土下座してる黒尽くめの男は、我が衛兵隊が誇る隠密(アサシン)で私の同期だ。

 冒険者ギルドの隠密(アサシン)達とは別で、あのパン屋の警護を頼んでいるが……しょっちゅう本人が買いに行くわけにいかないので、代わりに私が買って来るのだ。

 その頼み方は、やはり親衛隊のナンバー2らしい性格の表れと言うか。


「はいはい。ラウルが一番働いてくれてるんだから」

「……悪い」


 紙袋から一つ取ったのを渡せば、わずかに見えるとび色の目が輝いたように感じた。


「それはそうと、会報に昨日出た新作については?」

「抜かりない。それと、彼女達が出かけていた理由もその新作やこれから出す予定のパンについてだそうだ」

「まだまだ出てくるのか……」


 三ヶ月と少し前、突如アシュレインに現れた微笑みの女神。

 出自もどこかわからず謎は多いものの、我ら親衛隊にとってそれは些末なことだ。


「新作も驚異的な物だったからね。いつも以上に頼むよ?」

「承知」


 ラウルは大事そうにクロワッサンの包みを懐に閉まってから、私の前から去った。


「……さて、私も急ぐか」


 腕に抱えたパンを待ってる部下達の声がうるさいのが予想出来る。


(だが、あれらも皆親衛隊だから多少は目をつむってくれるだろう)


 会員は多いが、その大多数が冒険者と衛兵だと言うのをスバル嬢達は未だ気づいていない。

 と言うよりも、親衛隊の存在はバレていても、極度の男性恐怖症であるエリザベス嬢にも危害を加えぬように、代表して私が来るようにしている。

 表面上我らは紳士でも、大半が男臭いからだ。


「……早く食べたいものだが」


 先に食べるほど疲労も感じないし、部下達が目の前で食べられるのも酷だ。もう少し急ぎ足で帰ることにした。

 そして歩きながら、今日も食べられるあの甘さと塩っぱさが織りなす魅惑の味を思い出した。

【クロワッサンの形状】



由来は、クロワッサンをフランスへ持ち込んだ国の説が色々あるので今回は省きます。


今回お教えさせていただくのは、クロワッサンの形の意味です。


コンビニでもスーパーでも手軽に買えるようになったクロワッサンですが、三日月型とまっすぐなので呼び名と材料が違うことをご存知でしょうか?


日本のパン屋ではお店によりますが、大体はミニも含めてまっすぐ。クロワッサン・オ・ブール、これはバターを使用したクロワッサンを言います。


対する、三日月型はクロワッサン・オルディネールと言い、日常、普通のと言う意味からマーガリンを使用するそうです。


なので、今回の餡子クリームクロワッサンはバター使用なのでオ・ブールになります。


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