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第10話 商業ギルドにて



 ★・ロイズ視点・★





「───────……なんだかんだで、三ヶ月か」


 今日の書類もひと段落したところで、自分で淹れたコーヒーを飲みながら窓の外を見ていた。

 スバルのパン屋は当然見えないが、今日も元気だろうかと思わずにはいられない。

 見つけた時は思わなかったが、あいつの店は今やアシュレインじゃ名物だからな?


「来たわよぉー、ロイズぅ!」

「おぅ」


 突風巻き起こしながらルゥが入ってくるのは、いつものことだから気にしないでおく。

 先にスバルのパン屋に行って来たのか、うちのギルドが制作してるロゴ入りの紙袋を持っていた。


「また寄ってたのか?」

「だって美味しいんだもぉん。そ・れ・と、新作を預かってきたのよぉ」

「ほぉ?」


 二週にいっぺんはスバルも新作を出すようにしてたが、もうそんな具合か?

 それらしい包みを投げて寄越すと、俺はすぐに鑑定したが内容にはいつも以上に驚いた。


「攻撃が、付与⁉︎」

「今までなかったでしょぉ?」

「中身は……って、おい⁉︎」


 いきなり殺気を向けてきただけでなく、渾身の拳まで寄越しやがったから空いてる手で慌てて受け止めた。


(なんだ……この力⁉︎)


 先に新作を食ったのか、ハーフエルフの腕力は女でも大したことがないのに、成人仕立ての男くらいあった。


「こーんな感じね?」

「いつ食ったんだよ……」

「スバルちゃんが試食してって言ったから。その時は効果がここまであるとは知らなかったけどぉ」


 スバルは純粋に味の感想が欲しかっただろうが、効果は絶大。6割ちょいでこれって、あいつの作るパンは相変わらず予想の斜め上をいく。

 ルゥは俺から離れると、袋から別のパンを出して食べ始めた。


「うーん、チョコチップメロンパン美味しー! けど美味しかったわぁ、さっきのメンチカツサンドも」

「……見た目は、茶色いな?」


 包み紙を半分取れば、黒いソースがかかった肉とキャベツが目立つ。

 食ってみたいが、もう少し詳細に鑑定してみた。

 メンチカツとやらは香辛料を混ぜ込んだ挽肉を、パンの粉なんかの衣にまぶして油で揚げたやつか。

 ソースは熟成させた野菜をふんだんに使ったのにもか関わらず、匂いだけかげば食欲をそそった。


「だが、こりゃ簡単にはあそこで売れねぇな」

「そうよねぇ……」


 おおっぴらにはしてないが、スバルのパンは補正の値が低くても質がいい。むしろ、良過ぎる。

 エリーに食べさせた時の具合じゃ最初よくわからなかったが、あとでルゥに聞けば相当落ち込んでたのにあの回復には驚いたと言ってたくらい。


「いくら日持ちしにくくても、うちで管理させるのが妥当か?」

「売り子の子達には、よぉくお願いしなきゃねー?」


 補正の確率が高めなパンだけは、うちの商業ギルド内で販売させている。

 ただでさえ美味いパンに補正がつくとなれば騒ぎは当然。その中でも高ランク保持の奴らにとっても宝に等しいからだ。


あの子達(・・・・)にもぉ、よーくお願いしなきゃねぇ?」


 他にも、エリーだけじゃスバルを護りきれない箇所も出てくるので、あいつには秘密でベテランの隠密者(アサシン)を何人かつけている。

 スバルの性別は当然知らせたが、未だに信じきれてない奴もいた。


「となると、気分は乗らねぇが親衛隊(・・・)にも言うか?」

「基本的には紳士的な子達だしぃ、いいんじゃない?」


 スバルには男色の気がある連中から強姦(ごうかん)されにくいように、とあえて女の生活を強いているが予想以上に街のアイドルになってしまった。

 その結果の一つが、『スバル親衛隊』。

 主に冒険者達で構成されてるが、意外にもバカな集団じゃない。会報の内容は、スバルのパンの補正の詳細、味の評価を細かく書いてるから街の住民にとって密かな楽しみにされている。

 だが、未だに男とバレてないスバルを何故か女神のように崇め、表向きはスマートに対応してても裏では萌えるだの何だの気持ち悪い集団。

 出来れば積極的に関わりたくないが、スバルのことを思うと今回の新作については知らせた方がいい。


「この街以外の連中どころか、下手したら貴族まで買い求めるようになってるしな。管理体制は厳重にした上で、こっちのギルドでどの確率のモノでも販売させるか」

「防御力や魔力付与もいずれ出てくるでしょうしぃ? エリーちゃんには蝶ですぐ知らせてねってお願いしてきたわぁ」

「ないと言い切れんな?」


 普通のポーションですら、そう言った付与させるのもかなり高価だ。


「それもだけどぉ、食べてみてよん。一個くらいはあなたにもって預かったのよぉ?」

「お、そうか?」


 実は昼飯もそこそこだったから腹が減ってたんだよな?


「うっめ⁉︎」


 何度食っても、スバルのロールパンは絶品だがそれだけじゃない。


(肉は挽肉なのに柔らけぇし、衣はカリカリ。ソースは予想以上に酸味があっても美味い!)


 添え物のパセリに細切りのキャベツとの相性は抜群。

 これは、今までにない味と食感でやみつき間違いなしだ!


「時の渡航者の知識、恐るべしよねぇ?」

「まったくだ」


 スバルからしたら魔法や魔術があること自体驚きだと言ってたが、俺らからしたらスバルの持つ知識も同じ。

 ない技術を補うのに生まれた、新たな知識。

 そこから派生する文化。

 スバルの作るパンは、その集合体と言っていい。

 うちのカミさんも、スバルのパンのファンで毎朝食パンは欠かさないくらいだ。


「このパン、いつもの方法でも一日が限界だってぇ」

「んじゃ、試験的に一個金貨3枚で売り出すか?」

「あ、何個かは労いついでにあの子達にも渡したらぁ?」

「そんぐらいはいいな?」


 俺も後で確かめるが、現役の冒険者にどう力を与えてくれるか。

 ルゥであれくらいだったから結果が楽しみでしょうがない。









 ◆◇◆








「───────……マジですげぇな」


 試験的に金貨3枚にしてもそれでも安過ぎたのか、例のメンチカツサンドは10個ともすべて完売した。


「付与の説明したら、すぐでしたよぉ〜……」


 売り子を頼んでるケイシーが疲れた調子で言う。

 なんでも、いつも常連で買いに来る連中がメンチカツサンドを出した途端彼女に説明を求め、全部買い占めるのを阻止するのが大変だったとか。

 その騒ぎを聞きつけた他の連中も、攻撃力が付与されるパンは初めてだから商業でもギルド内が乱闘になりかけたらしい。

 そこを、これもたまたま来てた親衛隊のトップが諌め、あみだくじを作って選別させたそうだ。


「あの人が来てくれなければ、ギルマスを呼ぶところでしたよ」

「今はなぁ?」


 祭りが近いせいで、請求書の処理が夕方になるにつれ増えてくる。

 彼女もそこを知ってたから、俺を簡単に呼べなかったのだろう。


(試してはみたかったが……)


 メンチカツサンドを食べて、攻撃力はまだ付与されたままだった。

 家の近くの鍛錬場で試すつもりでいたが、せっかくの機会を逃すと肩透かしをくらった気分になる。

 けど、ルゥであれだけに効果だった。

 休職してても鍛錬は欠かしてない男の俺じゃ、相手を怪我させるどころか壁を壊しかねない。

 やめておいて正解だったと心に留めた。


「けど、あの確率でもこれじゃもっと値段上げた方がいいな?」


 何せ、瞬殺に近い完売だった。

 副ギルマスもだが、一度スバルとも話し合った方がいいかと蝶を飛ばすことにした。




【ロールパンの由来 その2】



ロールパンなどの小型のパンは、『テーブルロール』の部類に入るようです。

前のロールパンの由来で、日本のロールパンはアメリカが発祥とも言われているのは覚えてますか?


アメリカのパンを使った食べ物は、主にハンバーガーやホットドッグ。これらのバンズと呼ばれるのも、テーブルロールが元になってるそうです。


また、アメリカでは重さでパンの呼び名が違い、半ポンド以下をロール、それ以上をブレッドと分けているんだとか。

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