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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
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94・妖精の集落、妖精と暮らす幻魔

「あれ?」

「どうしたロイン」



 目をパチクリさせて不思議そうにしているロインの顔をノイドは覗き込んだ。「大丈夫か?」と声をかけると「うん、ごめん。大丈夫だよ父さん」と返事を返した。

 目的の場所に移動したのだろうが周りの景色にほとんど変化はない。せいぜい違うのは果蜜が生っていた木がない代わりに、エルフ達が剣や弓の訓練をしていた姿が見えるくらいか。



「大丈夫、でも何かを見てたような気がするんだけど」

「何かとは? 本当に大丈夫なのか?」

「精霊がここまで運んでくれた時に私達は精霊界を通っている。おそらくこいつは精霊界を通った時に世界や色々な時代を見たのだろう」

「世界や時代?」



 ノイドが心配そうにロインの肩に手を掛けた時、近づいてきた最長老がロインの顔近くでそう呟いた。


 精霊界。それは肉体や物体、重力に支配、束縛されているこの世界と違い精神だけの世界、肉体を持っていない精霊達だけが住む世界だ。精霊界はこの世界と重なるように存在する世界で決して見ることも触れる事も出来ないが、コインやカードの裏表のように存在する。

 自然界に存在するマナこそ精霊が発するマナや精霊自身であり、竜の地やこの森のようにマナの密度が高ければ高いほど多くの精霊達が存在していると言われている。



「今更だが良い事を教えてやろう。精霊界では肉体、物体が存在しない為に一度私達の肉体は完全に破壊され無になるのだぞ」



 少し意地悪そうに最長老はさらりと恐ろしい事を口にしていた。

 ユーティーは知っていたのか困ったような顔をしていたが、流石にロインとノイドは慌てて自分の身体を確認している。



「大丈夫だ、問題などない。忘れたか? 世界を作ったのは神だが生物を作ったのは精霊だぞ。この世の全ての生命を生み出した精霊達、そんな偉大な精霊達が一度破壊した肉体を再構築するなどたやすい事だ。そんな事よりも肉体から開放された精神だけの世界は時間の概念がない。その為見たこともない場所、生まれてもいない古い時代やまだ来てもいない未来が見れる事もあると言う。

 お前が見たのはそう言った知らぬ場所や時間を見ただけだ、心配はない。それで? お前は何を見たのか少しは覚えているのか?」

「いえ、何かを見たのは確かなんですけど内容までは」

「そうか」



(……とは言え、肉体が消えた状態では何かを見たと言う記憶自体が普通残らないのだが……)



 なんとなく、この名も知らぬ少年に興味を持ち始めた最長老だったが、すぐに本来の目的を思い出すとユーティーの前まで移動すると両手を大きく横に振った。



「さぁユーティー様! 神獣様はあちらにおられます!」

「あ! ほんとだ。ありがとう、最長老」

「やっほーい♪」



 最長老が言う方向に目を向ければ確かにココがいた。

 ユーティーのお礼の言葉が、役に立てた事が嬉しかったのか最長老は歓喜の奇声を上げながらまるでハエのようにブンブンと飛び回っている。そんな最長老は放置しロイン達三人はココに近づく。

 ココは一見小さな家のような、古びた小屋の扉の前に座っていた。少なくとも築百年以上は経っている木製の建物。コケと蔓に覆われ状態保持の魔法はかけられていない為、かなり古びてはいたが元はしっかりと強固に作られたのかどこも壊れた箇所は見られない。

「ココ、この家に何かあるの?」そう尋ねたロインは何もはめ込まれていない、窓枠だけの窓から中を覗き込む。中はそれ程広くない。どうやら妖精族の武器庫として使用されているらしく、エルフ達の武器や防具を中心に保管されていた。

 神獣の気を引く何かがあるのかココは閉まっている扉の前にお座り状態で、まるで扉が開くのを待っているかのように見上げまま動きを止めている。

 ノイドはココの行動も気になるが、近づいてくる数人の妖精族と自分に向けられる強い視線に気が付き振り向く。

 姿を見せたのはスプライト一人と先程と違い皮製の防具と細身の剣と弓を持った男女二人組みのエルフ。

 そしてもう一人、エルフと似た武具を身に着けてはいるが明らかに妖精族ではない女がどこか期待に満ちた表情でノイドを見つめていた。

 見た目は四十前後、黒髪を短く切り一見軽装備の戦士にも見えるが剣の代わりに弓と魔法の杖を持っているところを見るとれっきとした魔法使いのようだ。

 あれがドルヴァン殿の言っていた幻魔の少女か、そう気が付いたもののそんな彼女におかしな点も見つけられる。



(妙だ。彼女が本人なら六十も満たないはず。だがあの容姿、幻魔族として見れば百五十歳前後の幻魔ではないか。それに確かに黒髪だが白髪が混じるなど六十未満の幻魔族ではまずありえない。ドルヴァン殿の話を聞いている時に少し気になってはいたがまさか彼女は……)



 最長老と妖精達は一言二言挨拶を交わしユーティーの前までやってくる。やはりスプライトがこの集落の長老らしく、これまた桃色と見たこともない色、本人より長い髪をしていた。そのスプライトも同じように、桃色の花びらで作られたドレスの裾を優雅に持ち上げる。



「ようこそ、そしておめでとうございますユーティー様。探しモノが見つかりになられて良かったですわ」

「有難うございます、長老」

「それにしても懐かしいですわね」

「懐かしい?」

「はい。斯様な変わった犬に、しかも神獣にまた出会えるなんて思ってもいませんでしたわ」



 どこか色気を漂わせた仕草と喋り方、もっともちっちゃくて可愛いスプライトには無駄な色気ではあったが。そんな長老は昔を懐かしむようにココを見ていた。



「いや、長老、この子は犬ではなく狐と言う動物ですよ」

「犬ではない? まぁ、そうだったのですか? 無知で恥ずかしいですわ~」

「仕方がないですよ、この南アティセラに狐はいませんからね」



 両手で赤くなった頬を挟みくねくねと悶える姿は見る人によっては可愛くも気持ち悪くも見える。

 そんな長老の事は気にせず会話に割り込んできたのはノイドだった。



「その話、詳しく聞かせてもらえませんか? それと彼女の事も」

「あら貴方、まさかとは思っていたけど……」



 長老は最長老を見ると頷くのが見えた。








 案内されたのは太く短い巨木、妖精達が住居としている木の中。

 こちらの集落にもったった一つだけ鉄製の扉があり、その中に案内されていた。

 木の中は中身だけ綺麗に掘りぬかれているが、葉が生えるなど植物として枯れる事無く生きているようだ。

 室内は最低限の家具しか無いがあまり広くない。 エルフを除く六人が円形のテーブルを囲み、スプライトは椅子に座らずテーブルの上に座っている。元々小さなスプライトと小柄なエルフが住む家だ、二人のスプライト、二人のエルフ、三人の幻魔、天使が一人、ロインの傍に神獣が一匹だとかなり窮屈に感じられた。

 そしてユーティーとココの前だけに妖精の酒と果物だろう、色々と供え物が置かれており歓迎と警戒の差が見て取れた。



「改めてこちらも自己紹介しよう。私はインベリス、この森全域の最長老をやっている。こやつは……」

「アプサスです。この集落の長老をやっています。はい、終わりましたわ、最長老」

「有難う、長老。それとこやつがマリオン」

「マリオンよ、よろしく」



 未だ赤黒く血の染まっていた最長老、アプサスに拭いて貰いすっかり綺麗な顔と髪と羽を見せていた。真っ白な花のドレスに着替えそこに佇むのはまさに白い花の妖精。そして妖精達と暮らす双子の片割れである、妹のマリオンがロイン達に会釈をした。



「まぁ大体の事は分かった。それにしても幻魔二人で北アティセラから渡ってくるか。しかも神獣様が憑いていたのはロインの方とはな。さて、お主も色々聞きたい事があるのだろ? マリオン」

「ええ。単刀直入に聞くわね。ノイド、貴方はタダナリのご子息で良いのかしら?」



 鎧は既に脱いではいたが,、彼女の発している雰囲気は弱弱しい幻魔と言うより戦士のように力強く感じられる。そしてマリオンの口から出た『タダナリ』と言う名、これで彼女こそが探していたかつての少女だと証明にもなった。

 ただそれらの理由を抜きに、不思議な事にノイドはこの女性にだけは本当の事を伝えて大丈夫、何故かそんな確信があった。しかしユーティーと妖精たちの前にノイドは小さく首を左右に振りながらも真実が語られる事はなかった。

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