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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
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88・黒き竜の大暴走

 目的の人物である天使、ユーティーと呼ばれる者の声に怪物は反応し、竜人や竜王と同じ、美しい青い瞳がロインとノイドを捕らえた。



「竜族……黒い竜、もしかして黒の竜王?……な訳ないか」



 そう呟いたロインは仕方がないかもしれない、天使の闇の翼にも負けない程の黒い竜なのだから。


 高さは三メートル以上、頭から尻尾の先までは倍の六メートルを超えている。

 前に突き出た口。幸い口はしっかり閉じられており、凶悪な牙は見えない。

 全身は鋼の鎧のような、真っ黒で硬質な皮膚で覆われているが、首から胸にかけて、まるでそこが弱点だと言わばかりの灰色。

 巨体を支えるは太い四本足。足から突き出た爪は、剣や槍といった人間の武器が、おもちゃに見えるほど太く大きい。

 頭から生える二本の長いツノ。

 大きな翼は太い骨格に、薄い膜が覆っている。

 尻尾ですら巨大な金属製の鈍器のようで、以前に傭兵達が戦った、蛇の魔物の尾が可愛く見えるほどだ。


 その姿は千里視でとは言え、初めて見た竜王ヘリオドルグと違い、空想上でよく描かれる一般的な竜に非常に近い。目の前にいる黒い竜を参考に、竜の絵が描かれたのではないか、あるいは絵から抜け出したのではないか、そう思わせる、初めて見るのに見慣れた竜がそこにいた。

 ただし、ロイン達を見た竜は翼を広げ、まるで挨拶するかのように可愛くも綺麗な声で鳴いた。



「ピィッ! ピィィィ~!」

「……ギャ、ギャァーとかガオーじゃないんだ……」



 あまりにも竜らしくない、まるで小鳥、ひな鳥のような声で鳴く竜に、ロインは若干困りつつも手を挙げ挨拶を返し、ノイドはギャップの違いなど気にせず、ユーティーと黒い竜を見定めようと静かに見つめていた。


 ユーティーは、大きなデッキブラシを使って竜の体を洗っていた最中で、宙に浮いていたのも上の方には届かないからだ。来客に気が付いたユーティーは、ゆっくりと地に足を付けると闇の翼を一瞬で消し去る。

 ニーナに近寄り「有難う」と、ニーナの頭を撫でてやると、満面の笑顔を見せた。

 その笑顔に笑顔で返し、しかし、ココに視線を向けたユーティーは、驚くべき言葉を口にする。



「こんにちは、神獣さん。まさか場所じゃなく幻魔族に、誰かに憑いた神獣が他にいたなんて驚いたよ」



 ココの前にしゃがんだユーティーは、神獣と知りながら恐れる事無く、頭や首に触れていく。ココの方はまるでロインに相手してもらっているように、目を細め尻尾を振り、更にその手を舐め返すなど嬉しそうな反応を見せている。


 瞳も姿も偽ったままにもかかわらず神獣と気付き、指示もなくロインの時と同じ反応を見せるココにロインは驚きを見せたが、ノイドに至っては異なる想定外に少し困惑していた。



(まさか神の眷属同士の繋がり……まずいな、これは先手を打たれた、と言ったところか)



 実はガーレット山脈を降りる前、ノイドはロインに一つの指示を出していた。






「もしも、私が操られるような事があれば、遠慮なく殺せ、確実に殺す為にココの力を使ってもいい」

「ちょっと!? 父さんを殺せって何を言っているんだよ!」

「いいから黙って聞け」

「……」

「天使は第三者と呼ばれる黒幕を倒し、幻魔族と人間族の戦争を止めたと教えられた、それは真実かもしれない。だが私はある可能性もあるのではないかと考えている」

「可能性?」

「それは第三者さえも天使が操っていた可能性だ。戦場に、そして村を襲ったという悪魔達を操っていたのも天使なら、人間も幻魔も操ることは容易いだろう。なんらかの理由で私が操られた時、天使には忍者という駒が得られる。そうなれば暗殺に使われる可能性もある。もし人間族の王を再び暗殺しようものなら百年前の再来だ」






 何故か人間族の間には、シルケイト商会の会長であるユーティー・シルケイトの噂はあれど、戦争を終わらせた天使の噂は存在しなかった。

 もしもこれらの情報操作が目の前の天使の意図であり、天使に他者を操る力があった場合、ココに守られるロインはともかく、ノイドは操られる可能性があった。

 ただ殺されるならまだいい。それで終わりなのだから。だが操られてしまった場合、剣術に長けた暗殺者が天使の手駒になる。

 更に傭兵から聞いた、幻魔族による今は無き王国二人の王子の暗殺。犯人が本物の幻魔にしろ自分達のように神隠しに遭った忍者にしろ、操られ利用されたのなら自分の能力も悪用される事となる。

 深読みと警戒のしすぎであり、正体不明の第三者が黒幕であり、本当に目の前の存在が二つの種族を救ったかもしれないが、可能性があるならばいかなる最悪を想定すべきだとノイドは考えていた。

 だが、事態は厳しいものに変わった。神獣がロイン以外に心を開く、自分が考えていた最悪を上まってしまったのだ。

 二人が異なる命令を下した時、ココはどちらを聞くか判らないが、ココが目の前の存在側に付く可能性は考えておいた方が良いだろう、そうノイドは考えた。



(ココをあてにしていた以上、こうなるとヘタに手は出せんと言う事か)



 立ち上がったユーティーは、ロインとノイドに視線を移すと優しげな笑顔を見せた。



「はじめまして、一応、僕がこの町の賢者をやらせてもらっているユーティーと言います。二人は見た事が無い顔だけど他所の町から来られた幻魔の方だよね?」

「はい、天使様。北アティセラのテノアより参りました、ロインと父のノイドと言います。今回ドルヴァンさんから依頼を受けまして……あ、詳しくはドルヴァンさんから手紙を預かっています。これです」



 そう言ってロインは持っていた袋を降ろし、中からドルヴァンから預かった、筒状の巻手紙を取り出しユーティーに差し出した。



「ドルヴァンさんから!? それはそれはご苦労様です。それではお手紙拝見しますね」



 そう言って手紙を受け取ったユーティーは、特に封蝋されていない結んだだけの紐を解き、一枚の紙を広げ読み始めた。心配した顔、嬉しそうな顔。困ったような顔と色んな顔を見せるユーティー、その後ろから黒い竜が近づき、手紙を覗き込む、そして……。


「なるほど……大量の魔物か、大丈夫かな? でもあの町は腕の立つ傭兵が数多く出入りするし、聖騎士だって沢山いるらしいから平気かな?」

「あっ!」



 ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……。



「良かった~、新しく特注で作った仕事道具はうまく使えてるみたいだね。ちょっと心配してたんだ~」



 ガリ……ガリ……ガリガリ……ガリガリ……ガキッ。



「えええ~もう飲んじゃったの? お酒は妖精達にお願いしなきゃ、手に入らない貴重品だから飲みすぎないでって注意してたのに……手に入るかな?」



 ガリガリ……ガリガリ……ガリガリ……ガリ……ボキッ。



「はいはい、ちゃんと洗ってあげるから続きはちょっと待ってて。ん? ミスリル? ミスリルか……うん、ミスリル……どうだったかな?」

「あのー、天使様?」

「大丈夫だと良いな~……ん、はい、何かな?」

「さっきから後ろの竜が天使様の頭をかじってる(・・・・・・・)んですけど大丈夫なんですか?」

「うん大丈夫、ただの甘噛みだから。ちょっと涎の量が多くて、そこが困るんだけど平気だよ」

「いや、さっきから甘噛みとは思えないほど、もの凄い音が聞こえるんですけど……」



 手紙を読み始めたユーティーの背後に回った竜は、手紙に興味を持つも一瞬に失い、いきなりユーティーの頭にかぶりついた。

 開いた口からは無数の鋭い牙が見えたので、ロインは咄嗟に止めようとしたが、それより早くユーティーは反応し、慣れた手つきで竜の鼻の上辺りを撫でながら、平然と手紙を読んでいたので結局何も出来なかった。

 ユーティーの言うとおり、サラサラだった美しい金の髪は涎でベタベタになっていた。

 尚、この甘噛みは、いつの間にかすぐ傍にいたニーナに移っており、本当に甘噛みなのだろう、声に出さずニーナは楽しそうに笑っている。さすがに先程のような固い物が削れる、砕けるような音はしていないが、ニーナの小さな頭、短い髪は涎まみれになっていた。

 しかし、後ろから人の気配がした瞬間、先程のクレオの怒声が裏庭に響き渡ると、天使と竜を凍りつかせた。

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