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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
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81・竜の人形

「刀なのに白の竜王? 竜本人? どこが?」と、ロインの集中力は一瞬で途切れた。ノイドも同じで眉間を指で押さえ顔をしかめている。

 今の言葉で白の竜王の名がフストディークと呼ばれる名だと分かったが、肝心の竜王本人は五十年近く前に討伐されている。



「そんな顔をするな。ワシは至って真面目、真実じゃ。まずは魔法の事から言わんとな」

「魔法?」

「そう、この世界には二種類の魔法があるのは知っとるな」

「精霊の力を借りた精霊系魔法と、女神の力を借りた信仰系魔法だよね」

「正解じゃ。だが実は三種類目に属する魔法が存在する。それこそがワシら竜族だけが使える魔法、二種の魔法を真似るなら『竜系魔法』と言ったところか」

「竜系魔法……」

「その魔法の中にの……これは説明で聞くより実際見た方が早いじゃろ」



 そう言うとヘリオドルグは視線を地面に移す。

 ほのかな光を発する不思議な土、二人も視線に釣られ静かに見つめていると土の下に何かがいるかのように蠢き始めた。土はゆっくりと盛り上がってゆき山のように高く積みあがってゆく。二メートル近い高さの山になった時形を変えていき、それは長い二本の腕と胴体、二本の短い足、頭のようなふくらみはあるが顔と首は無く、胴長短足の不恰好で光る人型の土人形が立っていた。



「こいつは一応ワシらが『竜の人形』とゆっておる、魔法から生まれた魔法生物での、創造主であるワシの命令であれば何でも聞く奴じゃ。まっ、知性は無いに等しいから単純な命令しか聞かんがの。両手を上に上げた後下げろ。下げたら今度は上げろ、同じ行動を繰り返せ」



 そう最後に命令すると土人形はその場で両手を上げたり、下げたりを繰り返しはじめた。

 驚きと好奇の目で土人形を見ていたロインは、「試しに何か命令してみ」とヘリオドルグの言葉に「片足で立て」とか「踊ってみろ」とか「ヘリオドルグさんを持ち上げてみて」など、色々口にしてみるが両手を上げ下げ繰り返すだけで土人形はロインの声に耳を傾ける事は無く、ヘリオドルグが「止まれ」と言うとオブジェのように一切動く事はなかった。



「使いどころを選ぶ奴じゃが、この通り忠実でヘタな魔獣や魔物より強い奴じゃぞ。ところでノイド、おぬしならこいつがなんなのか、聞いた事くらいはあるんじゃないか? ん?」

「人形……ゴーレム、か」



「正解じゃ」と、ヘリオドルグは満足げに頷いた。

 ロインは「ごーれむ?」と、初めて聞く単語に首をかしげ必死に思い出そうとしている。ノイドが知っているなら自分が覚えていないだけでノイドから聞いた可能性もあったと思ったからだ。だが聞いた事が無い、それが正解だった。



「ロインは知らなくて当然。私自身ですら昔に読んだ異国の伝説や伝承に関する書物で一度見た事があるだけ。確か魔術、魔法で作られたゴーレムと呼ばれる人形は主人の命令で動く人形だが、ヘリオドルグ殿の言うとおり単純な命令しか聞かない。しかし戦闘において倒されにくいと言う特性があり、侵入者の排除や大切な場所や物を守らせる兵として配置させる事があったそうだ。それもあって父上や四代目と里を守らせる泥人形を配置できないか冗談を言った事もあった。だが結局神話や御伽噺に出てくる程度のモノ、それこそ以前に言った竜や妖精と同じ、な」

「俺が読んだ父さんの書物の中にはそのごーれむって人形の事は書いてなかったけど……」

「私が持っていた書物は禅蔵様より預かった僅か一部だ、整理されていなかった物も含めればその数は千を超える。預かった物の中にゴーレムの事が書かれていなくても仕方無き事。だからこそ何故ヘリオドルグ殿はそれを知っている? 私自身ですら忘れていた事を何故あなたは知っている?」



 ヘリオドルグを見るノイドの表情は彼には珍しく驚きと、その目にロインと似た好奇心の光があった。

 その視線を受けた彼女は胡坐を解き両足を石柱の外に出すと姿勢を正した。



「それなんじゃが……ノイド、客人のおぬしに申し訳ないのじゃがちょいとこの竜の人形と戦ってみてくれんか? なに、この人形、ゴーレムがどれ程の強さかちょっとその目で確認してくれりゃ良い、所詮土くれじゃ、腕の一本切り落としてくれても構わんよ。人形、お前への攻撃に対して反撃せい」



 申し訳なさそうな喋り方ではあったが有無を言わせない迫力があった。

 その迫力に恐れがあったわけではなく、どちらかと言えばゴーレムが戦士としてどれ程の実力があるのか興味があった。



「私もドルヴァン殿の事をどうこう言えんな」



 自分を再確認しながらノイドはゴーレムの正面に立つと、疾風迅雷と千里視千里聴をかけ直し、腰の脇差を抜き風遁刃をかけながらゆっくり歩いていく。

 下忍が調べたゴーレムの伝説や情報が正しければ、そして彼女の命令をゴーレムが忠実に守れば、ノイドが攻撃しない限り目の前にいる人形が攻撃してくる事もない。

 ノイドはゴーレムとの距離がある程度縮むと一気に走り出し、刀は使わずその勢いのまま左足でゴーレムの頭を蹴り上げた。ゴーレムは鋭いその蹴りを頭に受けるも微動だにしない。ただ命令に従いノイドを殴ろうと腕を真横に振るったが一瞬で間合いの外、はるか後方に下がったノイドに当たる事は無かった。

 回避後しばらく間合いの外から見つめていたが、ゴーレムはそれ以上動く気配は無い。



「なるほど、攻撃をすればそれに対し反撃をするが自分からは攻撃はしない。それがたとえ敵対行動をこちらがとっても起こす行動は反撃のみ、本当に命令どおりに動くか」



 小さく呼吸を整え、再びゆっくりとゴーレムに向かって歩き出す。

 人形に目は無い為、視覚があるのか無いのか不明だが近づくノイドに反応しない。

 懐からクナイを取り出し上方に投げた。クナイは弧を描きゴーレムの頭に落ちる。コツンと固いもの同士がぶつかる音がし、そしてゴーレムの頭が少しだけ欠けクナイと欠けた土がゴーレムの足元に落ちた。だがどうした事か、ゴーレムは反応せず動く事はなかった。



「あの程度を攻撃と認識しなかったのか、それとも目が見えないから私が攻撃したと認識していないのか。あるいは殺気や戦意を感じ取る能力があるのか……ならこれはどうだ?」



 再びクナイを取り出し今度はゴーレムに向けて真っ直ぐ投げるが、顔の辺りに当たるも刺さる事無く崩れた破片と一緒に足元に落ちる。これは攻撃されたとみなしたのか、ドスドスと大きな足音を立てながらノイドに向かって走り出した。



「僅かな戦意で反応するか」、そう呟いた時にはゴーレムは既に目の前にいて握り合わせた両手を上げてノイドの頭に振り下ろす。大きな衝撃音と共にキラキラと光る土埃が舞うが、強い強風でも受けたかのように一瞬で土埃は吹き飛ぶ。

 そこには僅か後方に下がって回避したノイドが、大地に両腕を振り下ろした手と頭をゆっくり上げるゴーレムを見ていた。



「追撃は無し、一歩前に出るだけで攻撃が当たるはずだが……やはり反撃の意思はあっても敵を倒そうとする意思は無しか」



 代わりに一歩前に出たノイドは、ゆっくりと上がっていくゴーレムの腕に向けて脇差を振るう。

 切り落とされた右腕が地面に落ちた時には、再び間合いをとり脇差を鞘に納めているノイドの姿があった。

 一呼吸分遅れて反撃と走り出したゴーレムだったが、「止まれ!」とヘリオドルグの一声でピタリと動きを止め、再び微動だにしない土の人形が立っていた。



「見事じゃな。まさか本当にこうもあっさり腕一本持っていくとは思わなんだが。それでどうじゃ? 竜の人形の実力は」

「悪くない。再生力があり見た目と違い身軽で素早い攻撃をする。確かに魔獣や下位の魔物よりはるかに強い、命令の内容次第では厄介な敵に化ける」



(……それにこちらの手の内は竜王にはバレているようだ。出るはずの無い埃で視界を奪ったのは私に風を使わせる為……やられたな)



 石柱から降りたヘリオドルグはゴーレムに近づきながら質問し、ノイドはゴーレムが殴った箇所、しかしまるで変化の無い地面を睨みながらそれに正直に答えた。

「そうじゃろ、当然」と満足げに頷きながらゴーレムの前まで来た時には、欠けた頭や顔に加え切り落とされたはずの右腕も生え完全に再生していた。



「それで妖刀とこの竜の人形の魔法と、どんな関係があるんですか?」



 再生した人形に驚きつつロインの質問にヘリオドルグは「まぁ待て、ワシの見せたい魔法はここからじゃ」と、ゴーレムに手を伸ばしそっと触れる。時間にして僅か二~三秒で手を下ろし、振り返ってロインに少し意地悪そうな笑顔を向けた。

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