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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
72/114

70・風の女神

 何処へ向かったのか、弟から聞いてはいたが門兵に幻魔の足取りの確認の為、速度を落とし止まる。



「ポーラ・エスノフだ。幻魔の二人が町を出たな。二人はどっちへ向かった?」

「西です。シューリンクに向かう西の街道を歩いていきました」

「分かった、有難う」



 町の外に出たポーラは、夜目の利かない目で星明りだけを頼りに街道を進む。五分、十分、二十分、三十分、暗い為に全速で馬を走らせていなかったとは言え、それらしい姿は見つけてはいない。



「いない……私が見落としたとも思えんが……」



 月明かりさえも無いのだ、魔法が使える幻魔なら、明かり、あるいはそれに近い魔法を使って闇を照らして移動をしているだろう、そうポーラは考えていた。

 しかし、西に進みながらも明かりが無いか、人の気配が無いか注意しながら進んでいたはずだが、それらしい存在はまるでない。

 少し速度を上げ二時間程走らせたところで馬を止めた。ここから先はシューリンク教皇国に入る為に山越えとなる。



「やはりこれは普通ではない、何かがおかしい。報告では私が侵入者と気が付いたと同時に幻魔族二人が宿屋にいた事は確かに確認されている。報告も、サジ達の話も聞く限りも『三人目』がいる可能性はおそらく無い。ならば将軍の言うとおり、城に侵入した賊は幻魔族ではなかった? 否、同時刻に逃げるように消えた幻魔、あまりにも都合が良過ぎる。魔法なのか? 私と同じく『重量操作』を自分にかけ、上空を移動した……いや、無理だな。私でも時間差の無い移動など無理だ。ましてや風向きによってはあらぬ方向に飛ばされる事もある。ただ、もしも仮に一瞬で異なる場所に移動する魔法があった場合、結界に阻まれ賊の侵入は分かったと思うが……だが城の近づくよりも、城から離れるには有効な魔法か。やはり戦闘行為の禁止ではなく魔法そのものを禁止すべき……」



 事を推理していたポーラは夜空を見上げ、そしてその動きを止め星明りが一部欠けたように見える空を睨みつけた。



「いるな、飛空型の魔物か。……翼……幻魔のふりをした悪魔、いや、さすがにそれは無いか。それだとあの人を疑う事になる」



 馬から降り、剣も鞘から抜き魔物の襲撃に備え警戒する。しかし上空で旋回し星明かりを遮るばかりで、降りて襲い掛かってくる気配は無い。



「おかしい。勘違いではなく、確実上にいるはずだが何故攻撃してこない?」



 更に一分ほど待っているが、やはり降りてこない。

 ポーラは剣を地面に突き刺し、右手を夜空に向ける。



(なんじ)右手(みぎて)(かぜ)(ゆみ)



 右手を向けた数メートル先に靄のような、緑にほんのりと光る細長い棒状のような物が出現する。

 続けて左手を夜空に向けた。



(なんじ)左手(ひだりて)虚無(きょむ)(やいば)



 先程と違い何も変化は起きない。

 ポーラは見えない弓を持ち、ゆっくりと矢をつがえる動きを見せる。



「さぁ、()()ろう、かの者枯(ものか)れるその(まえ)に。さぁ、(ゆみ)()け、汝消(なんじき)えゆくその(まえ)に。意思(いし)たる(ゆみ)()歌声(うたごえ)(かな)でる()()旋律(せんりつ)何者(なにもの)にも束縛出来(そくばくでき)自由(じゆう)(とり)よ、空海(そらのうみ)()(おど)れ」



 棒状のような物はまさしく巨大な弓となり、その弓を引く人型の者が空中に現れる。

 蝶の様な金色に輝く羽を背に持ち、おなじ金色のその髪は肩の辺りで真っ直ぐ切りそろえられていて、その身にはまるでオーロラのような、緑色に輝く裾の長いドレスを纏っている。

 美しい顔と肉体をした女性、もし彼女こそ二人の女神の一人、片割れだと説明すれば万人が納得するだろう。



(なんじ)星海(せいかい)狩人(かりゅうど)、フロンメシア!」



 放たれた矢、形も姿も無き虚無の刃は空中を縦横無尽に飛び回り、花火のように衝撃波を次々と生み出す。その衝撃波に驚いたか、上空のそれはその衝撃波から逃れるように右往左往し、すき間をついて町の方に飛んでいく。

 女神(かりゅうど)はいつの間にか消えていたが、虚無の刃は意思を持った生き物のように、逃げる飛空型の魔物を追撃し魔物の首を貫き切断した。

 墜落し大地に大きな激突音を生んだ魔物、しかしポーラは地に突き立てた剣に両手を置き、その手の上に頭を乗せ暫く大剣で身体を支えるよう、何かに耐えるよう身じろぎもせずジッと止まっていた。呼吸を整えゆっくりと顔を上げるポーラ、その顔に多少疲れは見えるものの、サージディスのように動けなくなる様な事は無いようだ。

 落ちてきた魔物の傍まで移動し、明かりの魔法の代わりに火の魔法(ウィルオウィスプ)で辺りを照らす。



「驚いた……魔物ではなく魔獣だったか」



 頭上に漂う火に照らされた魔獣は、カラフルな、まるでオウムのような鳥の魔獣だった。

 胴体だけで二メートル近い大きな鳥の魔獣。だが切り落とされたその頭はトサカのような毛を生やす爬虫類、くちばしではなくトカゲやワニのような長い顎と鋭い歯を生やしている。大きく見開いた目は紫の瞳ではなく赤い目だ。

 身体は死に絶え身動きしなかったが、魔獣石がある頭の方は顎を開け閉めさせ、鋭い牙をカチカチと打ち鳴らしている。



「まるで分からない。何故この周辺にいるだろう幻魔の方ではなく私の方に来た? まさか幻魔の二人はこちらに来ていないのか? いや、確かに魔獣の中にはマナよりも生きる事を優先させて、自分より圧倒的に強いものに対して警戒どころか逃げる事もある。だからこそこいつは私に対して警戒して降りてこなかったのだろうが……」



 そこまで独りごちた時、サージディスの言葉を思い出していた。




『悪い事は言わない、旦那に関わるのはやめておけ』




「まさかこいつは幻魔族から逃げてきたのか?」



 いつまでもカチカチと打ち鳴らす頭を放置、辺りを見回すも結局自分が出した以外の光も、それらしい気配も見つける事は出来なかった。






「凄い魔法だね。合遁と同じくらいかそれ以上だと思うけど」

「恐らく、サージディス殿が見せた炎の蛇と同等、同格の魔法だろ。一撃の威力は蛇に劣っているように感じるが、さすがにここからじゃ離れすぎて全てを見切れないか」



 ポーラのいる位置から南に遠く離れた山、その崖の上にロインは座り宙に向けて足をプラプラと揺らし、その隣に九尾に戻った(・・・・・)ココがお座りをし、ノイドはその後ろに立って見えるか見えないかほど小さな追っ手、ポーラを見ていた。



「もう少し近づいちゃ駄目なの?」

「古い記憶になってしまったが私の知る限り、この距離は十人衆の誰かが気付くか気付かないかギリギリの距離。これで気付くなら本当に私以上の存在、今後の事を考えれば今のうちに、ココの力を借りてでも消しておく必要があるだろう」



 消す、それは殺す事。ノイドの判断、行動に疑いは無いものの、ノイドとサージディスとの関係(けんか)、人買いの一件があったが為に『気付かないで欲しい』と思ってしまったのは仕方がないのかもしれない。

 そして願いが叶ったのか、ポーラは魔獣の頭だけを持って町へと戻っていった。



「先を急ごう」

「はい」



 小さな、小さな安堵の息を吐き、ロインは立ち上がった。






「でもまさかあの魔獣がココを見て逃げるなんて思わなかったなぁ」

「魔獣の本質はマナを食らう事。だがごく稀に獣の本能を失わず持ったままの魔獣が存在する、それらは強者を前に時折逃げる事を優先させる事もある。さっきのような後者の魔獣にとってココはまさに恐怖の対象でしかないのだろうな」



 スカーチアを出た後、街道を西に全力で走りぬけ、途中進路を南に草原を走りぬけ南の山に登った。

 その途中、遥か上空に千里視と千里聴の範囲外に何かがいた。目で直接見た限り鳥だった為、魔獣だろうと判断しマナを奪いにすぐ降りてくるかと思われたが、何時まで経っても降りてくる事は無かった。

 初めて猿の魔獣と戦った事を思い出したロインは、おびき寄せる為にココを元の九尾に戻したのだが、九尾のココを見た魔獣は一目散に逃げてしまっていた。

 逃げた魔獣はポーラに気付き近づくも、再び警戒して降りて攻撃しようとしなかった。結果、ポーラが見せた魔法で一撃で倒され、魔獣が見せた警戒も無意味なものとなったのだが。



 その後、移動は人の道から道無き道を進んでいた。

 テノアの町を出た後のように、再び山の中を木から木へ、枝から枝へと跳び移動していた。慣れか、ロイン自身の成長か、脚力強化を使い王都のような全力ではなかったが、的確に足場にする枝を選び安定した移動速度を見せていた。当然ノイドにとってロインの後を付いていくのはたいした事ではなかった。そんな二人のすぐ後方を九つの尾を振るココが付いてきていた。


 傭兵達には悪いが二人にとって、決められた街道を馬で走るよりも、決まっていない道を自分達の足で走る方が移動速度も速く効率が良かった。

 食事は山中で捕まえた動物の肉を。

 流れる川と大きな池にいた魚を。

 山に生えた山野草をとり食うに困る事はなかった。

 小川で体の汚れを落とし、また衣類等も洗う。

 疲れたら休憩し、眠くなれば仮眠を取る。

 今までの遅れを取り戻すように、西に、南西にと進み、本来は馬を使っても四日はかかる道のりを、三日目の夜明け前にはシャンバールの町に続く街道を発見し、その道方向に沿って山中を進めば午前中、朝方には目的の町にたどり着いていた。

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