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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
69/114

67・気付く者、気付かぬ者

 ―コンコン―



 ロインとノイドが宿泊し、二人が借りた部屋の戸を叩く者がいた。

 部屋の前に立つのはこの宿の若い女性従業員。その正体はこの町に来る可能性があるとし幻魔を監視する為に、偶然最初からここに配置され従業員に扮装する監視者に選ばれた兵士。

 多少緊張をしているが兵士らしく鋭い目で扉を睨む。しかし部屋からは返事は無く、もう一度ノックしようと手を上げるとガチャリと鍵を解錠する音が静かな廊下に響く。

 慌てて手を下ろし目を閉じ深呼吸、次の瞬間には少し気の弱そうな女性従業員が演じられていた。

 扉を開きそこに立っていたのは、まだ若い少年の方ではなく、年配の男の方だ。ただ目が合った瞬間、雷に打たれたかのように心臓が強く激しく脈打ったのは、長身で整った顔立ちに心奪われたか。

 それとも笑顔を見せながらも、彼女が映るその瞳の奥にあるのは氷のように冷たく、まるで化け物を前にしているような恐怖が彼女の心を襲ったからか。

 咄嗟に声は出せなかったがそこは訓練された兵士、すぐに我に帰り早鐘のように打つ鼓動を押さえつつ、練習で頭の中で何度も繰り返された言葉を何とか吐き出した。



「や、夜分申し訳ありません、おきゃ!?」



 何度も繰り返された練習は、ノイドの右手の人差し指によって従業員の唇を優しく押さえられ止められていた。

 驚きながら従業員がノイドを見れば、優しげな笑顔で左手人差し指で自分の唇を押さえ、無言ながらも『静かに』と言っている事が分かる。少なくとも先程感じた冷たさは今は微塵も感じられない。折角落ち着いた鼓動は再び早くなり、顔から火が噴出しているんじゃないかと錯覚するほど熱くなっていくのは、嬉しさと恥ずかしさで、監視者から乙女になってしまったからか。

 仕事も忘れ夢現状態でノイドを見つめていると唇に触れていた指が離れる。

 ちょっとだけ残念がっていると、ノイドは後方、部屋の中にあるベッドを一つ指差す。そのふくらみからもう一人は既に眠っていると言いたいのだろう、ノイドは再び指を立て静かにと、ジェスチャーをした。

 それを理解した兵士は乙女から監視者に、監視者から従業員に戻った女性は一度大きく頷き、慌てて足元に置いたランプを手に取り小声で目的を実行した。



「も、申し訳ありません。実はこの部屋に点検、掃除されていないランプを設置されてしまいました。もしご使用に問題があるようでしたら、代わりこちらの新しいランプをお使いください」



 女性は消え入りそうな声でそう伝え、魔法で発光するランプをノイドに差し出した。ノイドは何か考えているのか一瞬だけ動きを止め、だがすぐにランプを受け取ると声には出さなかったが、女性を笑顔で見つめ感謝するように小さく頷いた。



「あっ、あの……それではごゆっくり、失礼します」



 再び嬉し恥ずかしさに支配された女性は、それを隠す為逃げるようにその場を離れ、通路奥の部屋に入っていった。

 ノイドは扉を閉じ鍵をかけると、ランプを最初から灯っているろうそくランプの横に置き、開いた小さな窓を前に立つと外を見つめた。その顔には感情は無く、ノイドは身を乗り出し何かを探るように窓から出した顔を右左右と大通りを見る。その動きは非常にゆっくりで、近くで見ていればその動きはどこか作り物、人形めいた動きに見えたかもしれない。ノイドは出した頭を部屋に戻すと窓を静かにゆっくりと閉めた。



 逃げるように部屋に入った女監視者は扉を閉めると、腰が抜けたようにその場に座り込んでしまった。



「何、何よ、なんなのよあれは!」



 出来るだけ小さい声で叫びつつ、先程の幻魔の行動を思い返す。その顔はどんどん紅く、熱くなりその熱を冷ますように両手で頬を挟み、恥ずかしをごまかすように、かけられた魔法をかき消すようにほっぺたをこねこねとマッサージした。



「くっ、さすが魔法に長けた幻魔族。あんな一瞬で人の心を魅了する魔法まで使うなんてとんでもない奴ね。ふっ……おかげでランプの回収を理由に、部屋の中も確認するつもりだったけどつい逃げてしまったわ、まぁその前に向こうから見せてもらったから良かったけど。でも残念ね、訓練を受けた私にはそんな魔法効かないわよ……でも子持ちか~いやいや、幻魔だしな~……」



 残念ながら物凄く効いていた。

 仕事も忘れ恋する乙女な監視者だが、そこをなんとか魔法のせいにして精神を保つ。今度こそ落ち着いた女性は立ち上がり、部屋にあったランプを手に取ると窓際に立ち窓をゆっくり開けた。

 女性は明かりをつけると、宿屋の近くにある五階建ての建物にランプを向けて、そこにいるだろう別の監視者に合図を送った。


 女監視者から信号による報告を受けた別の監視者は、足元に置いたランプを手に取り明かりをつけると、北の方角、城にランプを向けて光の合図を送った。幻魔族の現在地や現状を報告する為に。






(これは……魔法結界……町と城周りの壁には全く防御系の魔法がかけられていなかったが、城にはちゃんとかけられている。いや、これは魔法使い、魔法士不足により壁にまで手が回らなかったと考えてよいか)



 城壁の上から千里視と千里聴でなんとか情報を得ようとしたが、城にかけられている防御系の魔法に守られ、風遁の風を城の中に送り込む事が出来なかった。

 幸い千里視と千里聴は攻撃魔法では無い為に、対攻撃魔法用の魔法結界は反応していない。

 だがこの魔法結界のせいで城の中に無理矢理に風を飛ばすことが出来ず、城の見取り図がどうなっているのか、人がどれだけ、何処にいるのか結局調べる事も出来ずにいた。


 潜入に難航していると、目の前の二人が何かに気付き、ゆっくりとした歩きになる。後ろにいるノイドに気付いた訳ではなく、被った兜の向きは町の方角に向けられていた。

 その方向を確認したノイドの目に、第三(スカーチア)、どうやら自分達が宿泊する宿の周辺から点滅する光が飛び込んできた。



(屋上にいた連中か。確かに平地では出来ないが、山の上からなら壁を無視してあの光を直接見る事は可能か)



 と、突然ノイドはくるりと反転。音も無く見張りから離れた位置まで走ると、城壁から町に向かってその身を投げる。下で待機していたロインは、慌ててノイドの着地地点に向かいつつ「どうしたの?」と確認した時、民家屋上に着地後、ノイドの口から信じられない返答を聞く事になる。



「見つかった。計画は失敗、王は諦める。町を出るぞ」

「え? 嘘……」



 傍まで近づくとノイドから『身を隠せ』と合図を受け、慌ててロインは建物の影に身を伏せた。

 同時に千里視でもう一度城壁の上を確認をしてみたが、衛兵達はいまだ気が付いていない、騒ぎだてる者も誰一人いない。

 隠密は得意ではないとは言っていたが、ロインから見る限り申し分の無い隠密能力である。一体誰に見つかったのか、聞こうとした次の瞬間、城壁に誰かが静かに舞い降りた。



(この人いま何処から現れた!? まさか飛んで来た?)



 先程まで確かにいなかった人物がそこにいた。

 千里視で分かったのはその体つきから女性。裸でこそではなかったが下着姿なのか、薄着で上にガウンのようなものを羽織っている。しかし、ロインの目を引いたは肩に担いだ巨大な剣。鉄製の武器なのかどうかは不明だが、魔法などで軽くされた武器でなければ女性どころか怪力自慢の男性でも、これほど巨大な大剣を使いこなすのは難しいだろう。

 その女性に気が付いた兵士達は驚くものの、魔物でも魔獣でも賊でもないのか、倒そうとも捕まえようとする者はいない。

 女性は隠れたロインとノイドを探しているのか、身を乗り出して町を見下ろしている。そんな行動にさすがに不審がる兵士、騎士が集まってきた。



「エスノフ様、どうされたのです、このような夜分に」

「……何かいるな……先程までここにいた者は何処に消えた?」



 騎士の一人が女性、ポーラに質問をしたが帰ってきた言葉が独り言にも聞こえる質問に、二人の騎士は互いの顔を見合わせ首を傾げた



「いや、すまん。それよりも侵入者だ。逃げた以上魔獣や魔物の類ではない。今すぐ将軍に、上に報告しろ。それと私は賊を追いかける。馬を借りたい、用意してくれ」

「侵入者!? お待ちくださいエスノフ様! それは一体どう言う……」



 自分達の警備は万全である自信がある。にもかかわらず賊がこの城に侵入し、逃げ去り、あまつさえ誰一人それに気が付かなかった、なんの冗談だと確認しようとした騎士を遮り、ポーラは城側に向かって歩きながら声を上げる。



「問題が生じた場合、全ての責任はこのポーラ・エスノフが取る! 急げ!」

「!!!……ハッ!」



 有無を言わせぬ迫力に、騎士達は了承し慌ただしく動き始める。ポーラは鋸壁の高い方に手を付き、数十メートルの高さから城内の庭に向かって飛び降りた。

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