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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
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62・大高原

 ロインの馬を先頭に渓谷を進んでいく。口には出さなかったが、有戦型の魔物が他にもいる可能性を考慮し、自然とロインが前に出た。千里視と千里聴の広い範囲を生かす為でもある。もちろん傭兵達はいまだ知る由も無いが。

 またラミアが人間のシャツを着ていた事から、殺された人間がいる事は間違いない。

 始めは被害者を探そうかと話になった時、アニーを無事王都まで連れて行くことが最優先だと、そしてサージディスの消失したマナの回復の重要性も含め、探索は中止となっていた。ただ、ロインとノイドの千里視によって、崖の上に装備品らしきものだけが残っている事を確認しているので、遺体は魔物の腹の中と考えれば、探すだけ無駄なので正しい選択と言える。

 移動を開始してから二十分とたっていない程の時間、一行は渓谷を抜けた時、ロイン、御者台に乗るノイドとモウガンの目にそれは飛び込んできた。



「うわぁー……すげー……」

「サラ、渓谷を抜けたが外を、まわりを見てみろ」

「え?、何々?」

「これがアニー殿が言っていた一番のお気に入りか」

「はい」



 渓谷を抜けた先にあったのは広がる大草原。いや、山の上にあるのだから大高原。とても山の上にあるとは思えないほどの、平らな大地が遠く、遠く続いていた。

 更にこの高原を染めるように、あらゆる花が咲き乱れていた。白、赤、青、緑、黄、桃、紫、また枯れているわけでもないのに、黒、茶など暗い色の花も生えていて、おそらく、ここには無い色は無いと思えるほどの色の花が咲き誇っている。

 それに良く見れば、同じ花が一箇所に生えているのではなく、色も種類も関係なくバラバラに生えていた。



「本当に凄いわね。そう言えば昔、神父様が見せてくれた本、教えてくれた本に良い事をした、正しい行いをして人生を全うしたら、その魂は風に乗って、一面花が咲き乱れる精霊界に行けるんだよ、って教えてもらった事あったけど、ここが精霊界って言われたら信じてしまいそう」



 止めた馬車から降りたサラディナは辺りを見渡しそう呟く。モウガンも一緒に聞いていたのだろう、「あぁ~、そんな事神父様言ってたな」と頷き、アニーも「本じゃないけど、その話なら私も聞いた事あります」と同意した。



「あ、精霊界か……失敗したわね」

「どうしたのサラ?」

「心配かけさせた兄さんに、罰として起こす時、私達全員死んだ事にして驚かせてやれば良かったわね」

「サラ……さっきの素敵な話が台無しよ」



 すると何故か「ごめん」とモウガンが謝った。



「なんでモウガンが謝るのよ」

「いや、俺が魔物だと気が付いていれば、ちゃんと武器も準備出来て楽に戦えたはず、あんな危険な魔法に頼らずにすんだはず」

「仕方がないわよ。兄さんも私も早く助けなきゃって我を忘れていたし、モウガンも覚えていてくれてたんでしょ?」



 どこか嬉しそうな笑顔にモウガンは小さく頷いた。

 サージディスとサラディナが孤児になった理由、モウガンも知っていたからこそ普段なら気付く気配に、二人と同じよう『早く救出しなければ』という焦りが強く出てしまい、結局魔物が姿を見せるまで気が付かなかった。

「ありがとう」とサラディナが微笑むと、モウガンは、「あ、いや、でも……うん」と困ったように下を向いた。顔は見えないが照れているのだろう。

 そんな二人をちょっと羨ましそうに見ていたアニーだが、ふと思い出したように、話の原因でもあるサージディスに視線を向けた。



「それにしてもあの二人、仲が良いのね。本当の兄と弟みたい」

「兄さんて、意外と面倒見良いから」



 三人がそんな事を言いつつ、黙って話を聞いていたノイドも、張本人であるサージディスとロインを見た。

 二人は仰向けで並んで大の字になり、先程の激闘も完全に忘れ、ほんわかな気配を漂わせ太陽の光をタップリと浴びていた。尚、ココはロインの胸に顎を乗せて眠っている。



「……気持ち良いですね……サジさん」

「……最高の癒しだな……ロイン」

「……馬車とマナ回復魔法とこっち、どれが良いですか?」

「……そりゃおめぇ……こっちだろう」

「当然ですよね、サジさん」

「当然だろう、ロイン」



『フフッフフフフッ』と、何故か同時に笑い出した二人の笑いは完全に一致した。



「本当に息が合ってるわね。まぁ半分は倒した魔物の宝石の入手出来なかった事への現実逃避でしょうけど」と、サラディナは呆れ始め『パンパン』と手を叩いた。



「はいはい、兄さんもロイン君も、どっちも気持ちは分かるけどさっさと起きて、もう少し進むわよ。アニー、高原のこの先で一泊するのよね」

「ええ、この先に昔から傭兵に使われている建物があるの。古くは狩人が使っていたものを傭兵が使っているそうなのだけど。随分古くなっているし中には何も無い建物だけど、テントなどを使うよりよっぽど風と雨露をしのげるわ」

「それじゃー行くわよ、さぁ二人とも、さっさと起きる!」



 渋る二人だったが、ノイドの「行くぞ」の一言でロインは急いで馬に乗り、サージディスはまともに動けずモウガンに運ばれた。

 高原には一番おうとつが少なく馬車が通る所、中央にわだちにも似た一本道が出来ていた。その道を進み続け陽が暮れる一歩手前、目的の建物にたどり着く。

 この地では珍しい木製の小さな小屋で、相当に古い。ただ継ぎはぎのように所々新しい木材で補修された箇所もあり、特につい最近扉が壊れたのか、他の壁と比べても扉と扉周りは非常に綺麗だ。



「へぇ~傭兵がちょくちょく使ってんだな。掃除も行き届いていて、結構小奇麗じゃねぇか」

「ああ、それに本当に何も無いから思ったより広いな。これなら無理をせずとも十人くらいは横になって眠れそうだ」



 扉を開き中に入ると、サージディスとモウガンが中を確認。確かに古くはあるが二人が言うように蜘蛛の巣があったり、ほこりが積もっている等はまるでないうえ、ベットなど家具も無い為、六人と一匹入っても十分なスペースがあるので、『一人だけ馬車で』なんてことは無さそうだ。


 夕食後、傭兵の三人は魔物のせいで相当疲れていたのか、横になった瞬間に珍しく三人とも深い眠りに付き、スヤスヤと寝息を立てていた。

 強力な魔物に出合ったせいか、さすがにアニーも眠っていいのか心配したがココがいるから大丈夫とロインは太鼓判を押した。

 虫の声も風の音も無い、その夜は六人全員の寝息だけが静寂の中、静かに流れていた。





 翌朝、空が明るみ始めた早朝に早めだが出発した。サージディスもしっかりと眠ったお陰でマナはほぼ回復、いつも通りに体が動くようなので、ロインの後ろに乗る事になった。



「大丈夫ですかサジさん?」

「ああ、平気平気。心配かけちまったな」

「大丈夫!、心配なんてしてませんから」

「いや、そこはサラみたいな事言わずしてくれよ」



 峠を下りながら、ロインの冗談に馬上で笑い声がこぼれる。笑った後、サージディスはロインの後頭部を見つめながら、昨日の事を思い出していた。



「ノイドの旦那もロインも凄いのは知ってるが、改めてロインはすげぇな」

「凄いですよ。二人の師匠、父さんから剣を、母さんからは魔法を叩き込まれましたから」

「言うじゃねーか」



 小さく笑いながら後ろからロインの頭をくしゃくしゃっとするも、ロインはそんなに嫌がっていない。



「でも何が凄いんですか?。結局俺も父さんも見てるだけだったけど」

「強化魔法の援護だよ。あれが無ければ有戦型のラミア相手にサラは厳しかった。しかし、どうしてサラに脚力強化をかけて、モウガンには腕力強化をかけたんだ?。腕輪にどの強化魔法効果があったか言ってないはずだが、一か八かの勘か?」



 傭兵の腕輪には基本的に肉体強化の魔法がかけられている。普通魔法の肉体強化では一つしか強化出来ず、二つ目の強化をかけると一つ目が消えるが、腕輪を使えば二つの強化が可能である。

 しかし、腕力と腕力、脚力と脚力と二重強化は出来ないとギルドで説明を受けている。



「一応普段の二人の役割を考えての、自分なりの推測かな?」

「おぉ~、その推測とやらを詳しく」

「そうだな、モウガンさんは二人の盾になる事が本来の役割、そう思ったから腕輪は絶対体力強化かなと思って。サラさんは剣と弓で直接と間接と使い分けた戦い方ですけど、それを一番生かせるのが動体視力強化かなっと。ただ次点で腕力強化もあったんですけどね、弓によっては引くのに力もいるって聞いた事あったので」

「ほぉ~、なるほどな。モウガンが俺達の盾って言うのも正しいし、サラも最終その二つで迷っていたからな。まっ、個人的に脚力強化も候補にはあったが」



「そうなんですか?」と、ロインが驚いているとサージディスは困ったように苦笑いを浮かべていた。



「そのなんだ……サラの蹴りは強いからな」

「そう言えば、確かに」



 ロインの思い出された記憶にはラミアに食らわした蹴りが、サージディスの記憶には自分が吹っ飛ばされる蹴りが思い出されていた。

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