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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
62/114

60・炎の蛇

 カン、カン……カンと、サージディスは何かリズムを取るように杖と足元にある石を使って音を出し、静かに、しかし力強く声を出す。



(われ)(かな)でる、生命(いのち)()みし(おう)()(ため)に」



 サラディナは途中で歩みの向きを変え、左から回り込むようにラミアの左後方にゆっくりと進む。

 ラミアは自分に近づくサラディナへの視線を、まるで興味が無いと言わんばかりに再びココに向けた。

 そんなラミアに斜め後ろからサラディナが近づくと、ラミアの後ろに目でもあると言わんばかりに尾を鞭のように、後方にいるサラディナに向けて真横に振りぬかれた。その攻撃の速さは素のロインの目から見てもかなり早い。しかし当たったと思った一撃に手ごたえはなくラミアが後方に視線を移すと、サラディナはまるでトカゲやヤモリのように地面に伏せていた。

 本当に人間のようにラミアが「チッ」と舌打ちすると本気を出したのか、完全にサラディナに敵意を向けこれもまた人間の女性のような、「うおぉぉぉ!」と声を上げながら連続で尾を叩きつけ始めた。

 横に、縦に、斜めに尾を振りぬくが、サラディナはラミアの攻撃にあわせ、上に、横に、後ろに跳んだりと身軽に回避していく。

 と、サラディナの回避直後に、その移動した場所に向けてラミアは不意打ちの毒の爪を叩きつけるように振り落とした。しかしその場所にいるはずのサラディナはいない。その代わりに爪攻撃をする為に上半身を下げたラミアの顔に、サラディナのとび膝蹴りが突き刺さる。

 のた打ち回るラミア、鼻血が噴き出し顔を抑えた指のすき間から人間と同じ、赤い血がボタボタと落ちていく。

 サラディナは自分に右手を向けて『脚力強化』の魔法をくれたロインに向けてウィンクした後、美しい顔を醜く歪めサラディナを睨むラミアに向けて駆け出した。







 カンカンと音を出しつつ、今度は不器用ながら両手で杖をくるりとまわし、指揮者が指揮棒を振るうような動きで、ゆっくりと杖を動かす。



(われ)(おど)る、(ほし)(はぐく)(せい)(はぐく)星霊(せいれい)感謝(かんしゃ)()めて」




 モウガンが近づくと、ナーガは高い位置からモウガンの頭に向けて腕を振り下ろす。ナーガは爪というより鉤爪のような指で、兜ごと頭を切り裂こうとしたがモウガンの盾に簡単に防がれる。

 直後に長い尾を生かし、またサラディナを真似た皮肉か、大きく回り込ませ後ろから尾の先でモウガンを突き刺そうとするが、魔物の行動も考えも全て分かっているかのように、モウガンは身体を小さく横にずらし回避するとくるりと回転、ナーガは『刃のように鋭い尾先』で自分が傷つかないよう動きを止めてしまったが、モウガンはその尾を武器を持たない右手で抱え込み、その尾をまるで先のとがった丸太、巨大な槍に見立て力ずくで引っ張りながらナーガの腹、人型と蛇型の間に突き刺した。

 それは悲鳴なのか、口を大きく開けて『キィィィ』と声というより、金属が擦れるような音を出しモウガンから離れる為に、のけぞりながら大きく後ろに下がった。傷を押さえた鉤爪のすき間から血だろうか、ラミアと違い真っ黒な液体が溢れる。

 モウガンは後ろに下がったナーガを無視して、やはり心配なのだろう、一度だけサラディナを見たが今までに見たことも無い動きを見て、自分と同じように肉体強化の魔法をかけてもらっている事に安心した。

『腕力強化』をくれたロインに感謝するように頷き、再びナーガに向けて歩き出した。





「そして(ねが)う、(ふる)きものを(かて)に、(あたら)しき(かて)誕生(たんじょう)に、なればこそ(うた)う、今日(きょう)世界(せかい)(かて)明日(あす)世界(せかい)(つむ)ぐ」




 ナーガの攻撃はモウガンの左腕の盾に確実に防がれ、ロインの腕力強化による時折繰り出される右腕の一撃は、普段の槍斧のような一撃必殺のような威力こそ無いが、打撃によるダメージを蓄積させた。


 怒り狂ったラミアの冷静さを欠いた激しいだけの攻撃は、ロインの脚力強化でまるで舞い踊るようにひらり、ひらりとかわしていく。


 サージディスは地面に杖の頭側を向け、二度ほど軽く地面を叩く。

 するとまだ『発動はしていない』が魔法は『完成』した。杖で叩いた地面から真っ赤に燃える高温の溶岩が湧き出る。

 ただそれに合わせマナが消失しているのか、サージディスの顔に脂汗が浮び一気に顔色が悪くなる。

 体がぐらつき、一瞬目の前の溶岩に倒れこみそうになるが何とか耐えると、完成した魔法を発動させる為の言霊を搾り出す。



「……()(もの)(かて)とし()らい()くせ、()()くせ、星海(せいかい)からの使者(ししゃ)、プロネメシア!」



 サージディスの声とともに、地面から湧き出た溶岩から白く輝く炎の蛇が空に向けて飛び出した。

 ナーガよりも大きく長い蛇は真っ直ぐに上空高く飛び上がるも、弧を描きサージディスと魔物の中間ほどの地に激突し、地面の中にその巨大な姿を消した。

 それを見たロインとノイドとアニーは一瞬失敗したと思ったが、千里聴が使える幻魔の二人だけはすぐに炎の蛇はまだ存在し、地中で泳いでいる事を知る。



「この下空洞でもあるの?、まさか火山があるなんて言わないよね。地底湖……な訳もっと無いだろうし」



 ロインの空洞、火山、地底湖説にノイドは「いや」と首を横に振る。



「おそらく地中が溶けているんだろう」

「地中が溶ける?」

「そうだ。信じられないほどの高温、あの大蛇が触れる物を一瞬で液体化させるほどの高温で石や土を溶かし、その溶岩の中を泳いでいる、と言ったところか。あの大蛇にとって障害物など無意味、触れる物、全てが炎の蛇の領域」



 いまだマナが奪われていく感覚に必死に耐えながら、サージディスは大きく息を吸い込み、そして大きく叫ぶ。



「サラ!モウガン!下がれ!」



 そして杖をラミアに向け真上に振り上げる。



「食らい!」



 地中からラミアを飲み込んで、巨大な火柱が空高く上がった。

 火柱、炎の蛇が空にその姿を全て晒した時、そこにいたはずのラミアの姿は無い。

 サージディスは振り上げた杖で離れた場所にいるナーガを殴る仕草をするように一気に振り下ろした。



「焼き尽くせ!」



 炎の蛇は重力に逆らい真下ではなく、ナーガに向け滑るよう滑空した。

 それに気が付いたナーガは、口から先程の黒い煙で迎撃しようと考えたのか、しかしまだ完全に使えないのか、微量の黒い煙が口から吐かれるも炎の蛇に直撃した煙は炎に飲み込まれるようかき消された。

 必死に避けようとナーガが動いたが、簡単に軌道を変えた炎の蛇に飲み込まれた。炎の蛇は最初と同様に地面と激突後、地面を一瞬で液体化させ地中下に消えていく。

 この時、炎の蛇の口の中に入りきらなかったナーガの尾は、抵抗するよう一瞬大きくくねらせ暴れたが、すぐに地中に引き込まれるように消えた。

 地上には水溜りならぬ、溶岩溜りを三つと静寂だけを残した。地中で魔物が抵抗する事も、炎の蛇が暴れている形跡もない。

 数秒後、溶岩溜りが一瞬で冷めそこに黒い溶岩石を残すと、サージディスは力尽きたか、ゆっくりと仰向けに倒れた。

 ノイド以外が走って駆け寄る中、サージディスは倒れたまま左手を空に突き上げ叫ぶ。



「はん!、蛇に食われる気持ちが分かっただろう、この蛇野郎!。……ざまぁみやがれってんだ」



 若干焦り気味で駆け寄っていたサラディナとモウガンだが、その言葉を聞き安心したのか、走る速度を落とし安堵の顔でサジの傍までやってくると、サラディナは半分だけ怒った顔を含ませモウガンと一緒に説教を始めた。



「もう!、兄さん何を考えているのよ。そりゃ助かったのは確かだけど無茶しすぎよ」

「そうだぞサジ。あの魔法で以前倒れこんだ事忘れたのか。あの時二週間以上も意識が戻らなかったんだぞ」



「覚えているさ」と上げていた左手を下ろし、完全な大の字になった。しかし、顔は右に向けその視線は右手にある杖に注がれている。



「だけど、悔しいがあの野郎、いや、あのクソ姉貴が俺達の為に作ってくれた杖だ、今回はきっと大丈夫だと思っただけさ」



 モウガンとサラディナは驚いた顔でお互い目を合わせたが、揃って嬉しそうな笑顔になり「そうだな」「そうね」と頷く。



「ただ問題があるとすれば一つ、体がまるで動かねぇ。……どうしようかこれ」



 サラディナとモウガンは再び目を合わすと、二人は大きくため息をつきガックリと肩を落とした











 魔物との戦闘の後、ロインの魔法で多少のマナを回復させたサージディスだが、馬の方ではなく馬車に乗りこみ、現在背もたれにその身を任せていた。

 自慢のミスリル製の杖により威力は強化され、自分より格上の魔物二体を倒すほどの魔法を使用することが出来、またマナ消費の減少効果もあるようで、話に聞く気を失うほどのマナの消費を抑えることも出来た。

 魔法によりマナの回復を受けたが、一番効果的な回復は眠る事。しかし馬上では眠れない為、今は馬車に移りサラディナの隣で眠っている。

 サラディナの向かいに座るアニーは、そんな兄妹を見ているとふと、サラディナが眠るサージディスの手を握っている事に気が付く。



「二人は仲が良いのね。私一人っ子だからちょっと羨ましいな」



「あ、これ?」と、兄の左手を握る右手を軽く上げて、苦笑いを浮かべた。



「他の家庭の兄弟と比べて仲が良いのか良くないのか分からないけど、これは子供の頃、兄さんがしてくれた同じ事を私も返しているだけよ」

「サージディスさんがしてくれた事?」

「ええ」



 どこか懐かしむように、少し微笑みサージディスの寝顔を見つめながらサラディナは子供の頃の事を話す。



「私達三人が孤児、私と兄さんの両親が幼少の頃に亡くなったって事は教えたでしょ?」

「確か、二人は四歳、五歳の頃に教会に引き取られたのよね」

「そう。そんな歳だから父さん達の顔も、母さん達の顔も忘れてしまったけど、それでも皆が大好きって事は今でも覚えてる。そんな皆が一斉にいなくなってしまったものだから、私はずっと泣いていたの。聞けば眠っている時でさえ涙を流して泣いていたらしいわ。そんな私がもう泣かなくなるように、早く笑えるようにって兄さんはずっと私の手を握っていてくれてたの。そんな私にもモウガンや神父様と新しい家族が出来て、少しづつ泣かなくなって、いつの間にか笑うようになって、その時の事を神父様が教えてくれたんだけど、今度は兄さんが泣いてしまったの」

「サージディスさんが?」

「うん、私が笑うようになってからその日の夜、兄さんは神父様の部屋に行って、神父様に抱きついて堰を切ったように泣いたんだって。神父様が言うには私が泣いている間、自分が泣きたいのをずっと我慢していたんじゃないかって、大人になった私に教えてくれたわ。でもそうよね。一歳しか変わらない、四歳も五歳もたいして変わらない、兄さんだってまだまだ小さな子供、悲しいはずなのに、泣きたいはずなのに、誰かに甘えたいはずなのに、私が元気になるまで、私の為に、私の手を握ってじっと耐えていたの」



「素敵なお兄さんね」と、アニーは優しい視線を眠るサージディスに向ける。が、何故かサラディナは困ったように「う~ん」と唸った。



「素敵と言われればさすがに正直疑問だけど……でもまぁ、良い兄なのは確かね」



 握りなおした右手、子供の頃とまるで変わらない温もりを感じつつ、自慢の兄を褒めてくれるアニーの言葉に、サラディナは嬉しくて仕方がなかった。

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