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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
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56・雪積もる白い山

 正式に依頼を受けたロインとノイドは、レティーフルの町を出てこのサーファン王国の王都『スカーチア』に向かう街道をアニーと三人の傭兵達とともに西に向かっていた。

 アニーの話によれば、此処からスカーチアまでは起伏の大きい地形らしく山、峠を越える必要があった。

 ロインが『一度カザカルスに戻り、そこからスカーチアに行くのが良いんじゃ?』と提案したが、もともとアティセラ大陸は起伏、標高差がある土地が多く、幻魔の町が北アティセラの最東端にありながら海に面せず山に囲まれているのもその一つ。カザカルスからレティーフルが特別平坦なだけで、カザカルスからもスカーチアに行こうとするとこっちも峠を越える必要があるらしく、合計日数を考えれば直接スカーチアに向かうのが正解との事だった。

 ただ、峠は舗装されていないのだが道を利用するこの国の魔法士達のおかげで徒歩は勿論、馬、馬車などの移動でも快適に使えるように魔法で均されている。

 そして今回の移動は馬と馬車を使用、一日目に山を越えず麓の村で一泊。二日かけて山を越え、計三日で王都に着く予定である。

 直接馬にはロインとその後ろにサージディス。馬車には御者台にノイドとモウガンが座り、馬車内にはサラディナとアニーと村から町へ向かう組み合わせと極自然になっていた。アニーの父の遺体は簡素な棺に入れられており、その棺も馬車の後ろに繋げている荷車に、全員の荷物と一緒に載せられていた。



「そうですか、やはり火薬はシルケイト商会でも一般的には取り扱われてはいないのですね」



 外と車内の四人が会話できるよう御者台の背もたれ面にある小窓は開かれており、手綱を握るノイドは特に残念がらず、仕方なしと受け入れていた。出発して暫くして分かった事だがアニーの店は、カザカルスの傭兵ギルドで火薬を買い取ってもらえる可能性があると聞いていた、シルケイト商会の傘下に入っていたお店だった。聞くところによるとシルケイト商会は一般の生活用品から武器や防具、魔法の道具まで扱っており、南アティセラにおいてほぼ全ての商店がシルケイト商会の傘下に入っているなど、市場独占状態にある南の怪物商会。十六年前の終戦後、アニーの店が経営難に陥ってた時に魔獣石のおかげで持ち直したが、その裏では、シルケイト商会の協力もあって幻魔族との取引が簡単に成功したとの事だった。当時の商会は南だけではなく東西、そして北に広げたいと野望を持っていたらしく、その北アティセラ第一号店がアニーの父が経営するお店である。



「はい、残念ながら。シルケイト商会の傘下とは言え扱われる商品はほぼ統一されていますので、うちで扱っていない物は南アティセラのシルケイト商会の本店に行ったとしても売買は取り扱っていないと思います。お役に立てなくてごめんなさい」



 小窓を開いてるとは言え、ノイドは御者台に座って前を見ているので馬車の中は見えない。しかしアニーは律儀に頭を下げ謝罪した。それを見たサラディナが「頭を下げても見えないよ」と指摘すると「確かにそうよね」と二人は楽しそうに笑う。



「別に構いませんよ。気にしないでください。ところでモウガン殿は先程から何を見ておられるのですか?」



 二人の笑いが収まってから伝えると、モウガンが別の何かに気をとられている事に気付き、視線を一瞬だけモウガンに向けた。



「いや、あの雪山をね、改めて見ると雪とは本当に真っ白で美しいんだな。南アティセラには雪は降らないから本当に冷たいのか、本当に綿毛のようにふわふわしているのか一度あそこに行って見て触れてみたいものだ」

「うわぁ本当!。宝石みたいに凄く綺麗!。それにあの辺りの空はもう晴れているのね、太陽の光を受けて光が反射して真っ白すぎて眩しいくらいだわ」



 御者台の右側に座っていたモウガンが右手側に連なる山、ラプヴァル山。雪に覆われた真っ白な山を見ていた。そのモウガンの言葉に釣られたサラディナも、窓の外に目を向けるど驚きの声を上げてしまっていた。珍しく子供のように、はしゃぐサラディナ。しかし、それに対してアニーは先程までの明るい声ではなく暗く、冷たい声が彼女の口から流れた。



「サラはともかく、モウガンさんはラプヴァル山に行くのは絶対に止めておいた方が良いですよ」

「あら、どうしてモウガンは行っちゃ駄目なの?」



 アニーもサラディナと同じ窓から見えるラプヴァル山を見つめながら、「あの山はね……」と恐ろしい雰囲気を作ろうとしているのか、少しおどろおどろしくなるようゆっくりと低い震える声でサラディナの質問に答えた。



「あのラプヴァル山はね、別名『氷と死と女の楽園』と恐ろしい名で呼ばれているのよ……うふふふふっ」

「アニー……山より今のあなたの方がちょっと怖いわよ」

「あれ?、だめ?」



 サラディナ達を楽しませようと雰囲気作りに頑張るアニー。元気になって何よりなのだが、そんなお茶目なアニーにサラディナは若干困り、話はまだ終わっていないのだろうと、モウガンも何故自分が行ってはいけないのか、聞耳を立ていた。



「と、ともかく、あれは男子禁制の山なの。氷の乙女達と闇の神獣様が住まう山で、女が行っても大丈夫だけど、男が行くと必ず殺されるの」

「闇の神獣様!?……あの山に神獣がいるの?」



 神獣があの山にいると聞いてサラディナもモウガンも驚いた。神獣は『誰にも殺される事なく生き抜いた魔獣』がなれる奇跡の存在。そしてこのサーファン王国には黒い狼の神獣が存在確認されており、この国の紋章にもなっている。ノイドは一応、幻魔の人々から幻魔の町の北西、一年間決して溶ける事のない雪の山に、神獣が住んでいると聞いていた為、そこまでの驚きはなく、むしろ本当に実在するのだと再確認できた。



「闇の神獣……あぁそうか、この国の紋章にもなっている黒い狼の神獣、それがあの山にいるのか」

「ええ、そうです」



 モウガンは気付くとアニーは頷いた。ノイドも村の調査隊が結成された昨夜、盾や魔法士のローブに黒い狼が描かれていた事を「なるほど、あれか」と思い出していた。











「……神獣」



 千里聴で何気に前を進む馬車に、聞耳を立てていたロインは本当に神獣がいると聞いてラプヴァル山に目を向けた。そして横に並んで歩く、何かが包まれた風呂敷を首に巻いたココを見た。

 もしも、神獣であるココがあの山に行けばどうなるだろうか?。仲良く友達になるだろうか?。それとも喧嘩をするのだろうか?。もしも、男の自分が行けばあの山の神獣に攻撃され、守ろうとするココと戦闘になるだろうか?。戦えばどっちが勝つだろうか?。と、そんな事を考えていた。



「どうしたロイン」

「あーうん、雪の噂は父さんから聞いていたけど本当に真っ白で綺麗だなって思って」

「雪は俺も生まれて初めて見たけど本当に白一色だな。そもそも雪って氷みたいなもんなんだろ?、あれが全部氷って思うととんでもねえな」



 全部氷。山に雪が積もってるだけで『雪だけ出来た山』ではないのだが……。「あのさ」と声を出し、しかし本当にあの山全部が雪、氷だと思っていたなどと答えが返ってくる事を恐れ、確認の質問は詰まってしまっていた。



「ん?、言いにくい事、もしかして聞きにくい事があるのか?。だったら遠慮なんてせず聞いてくれ」



「そんな恐ろしい事、聞けません」などと言えず、どうしようかと悩んでいると、ふと気になっていた事を思い出した。



「き、気になっていたんですけど、一つ目に何でアニーさんは俺と父さんを護衛に雇いたいって思ったのかなぁなんて?」

「あ~、そりゃ信仰系魔法、特に治癒魔法が使えるって事が大きいだろうな。幻魔族は全員が精霊と信仰系魔法が使えるんだろう?、幻魔族からみれば普通に持っている力なんだろうが、俺達人間からみれば凄い事だ。後は魔獣石を取引していたって事や恩人って事で身近で信頼できるって思っていたからじゃないか?」



 アニーが何故ロイン達を雇いたいと考えたのか、答えは簡単だった。

 ノイドは二度の信仰魔法の契約をしたものの成功はしなかった。ロイン自身も肉体強化など信仰魔法に救われているのでそのありがたみが良く分かっていた。それにサージディスは幻魔族は普通に持っていると言うが幻魔族自身も精霊召喚以上に、契約できる事の重要性は十分に分かっている。例えば町の壁。人間族の町にある壁となんら遜色のない壁を、人間族のような体力、力がない幻魔族では作る事など出来ない。しかし信仰系深淵を契約した者の中には『重量操作』と呼ばれる魔法を使う者がいて、大きな岩を羽根のように軽く、あるいは羽根を大きな岩のように重くする事が出来る魔法で、この重量操作のお陰で幻魔族だけで二つの幻魔の町に壁を作る事が出来た。


「確かに精霊系魔法より信仰系は、攻撃、守り、治癒、能力の強化や弱体化など色んな条件で使えますもんね」

「だろ?。それで一つ目って事はまだあるんだな?」

「はい、奴隷商人はおおよそ解るんですけど人買いって何ですか?。それとも奴隷商人の別の呼称ですか?」



 人買い、この言葉にサージディスは眉を寄せ顔をしかめると言いにくい事なのか黙った。ロインもしばらく黙って待っていると、サージディスも覚悟を決めゆっくり語り始めた。



「ある意味……人間の恥、と言うべきものだから正直ロインが知らないなら知らないままの方が良いんだが……。奴隷商人は仕事をさせる為に人をさらうが、人買いは殺す為だけに人をさらってくる連中の事さ」

「殺す為だけ?」

「そう。人間の中にはクソみたいな連中がいてな、そのクソ共の中には殺す事が好きで、殺害のついでに拷問で楽しんでから殺す、そんなどうしようもない悪趣味、悪癖を持ったクズがいる。そんなゴミ相手に人身販売するのが人買いだ。そう言う意味じゃ生かされてるだけ奴隷にされた奴は幸せかもしれんし、もしかするとさっさと殺されて羨ましいと思う奴隷もいるかもしれん。この地獄はさらわれた本人しか解らない答えだろうな」

「そうなんだ……」



 暗い話に沈黙が続くかと思われたが、まだ質問があったらしく話は続く。

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