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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
52/114

50・疑心を抱く者

「ウィルオウィスプ……なるほど、んでこれか」



 穴の数メートル上空にゆらゆらと赤く燃える火、サージディスが使った『ウィルオウィスプ』の火の魔法が上空に浮び辺りをほんのりと照らしていた。精霊魔法であり通常、魔法士が使う信仰系魔法の明かりの魔法と比べれば劣るがたいまつより遥かに明るい。

 モウガンから話を聴いたサージディスとギルド長は何とも言えない表情で道に出来ていたクレーターのような穴を見ていた。


 二時間ほどで調査は終了、遺体を荷車に載せたりと結局三時間以上たってから町に戻ると街中に魔物が出現したと慌てた様子で報告を受け、そして兵士傭兵全員でこの場所に来ていた。現在先に来ていたモウガンと合流し、事の顛末を聞き三人は穴を前に立ち尽くしている状況だ。

 調査隊隊長だった兵士長も受け取った宝石を手に現在副兵士長と当時現場にいた衛兵から今回の事件の当事者である幻魔の事を聞き頭を抱え倒れそうなほど困ったような顔をしている。また傭兵達は本来の仕事とはかけ離れていたが、何とか早く、短い日数で復旧したいと言う事で人手として正式に依頼されており、兵士と傭兵との共同で現在復旧作業準備が進められている。



「幻魔が人間の町に来ただけでその日のうちにこの騒ぎ、この状況……想定外すぎるだろ」



 兵士長程ではないが困ったように頭をかきながらギルド長は呻いた。



「サイクロプスか……まっ、二日間だけ一緒にいたがあの旦那ならこれが普通だって思えてくるから俺も毒されてきてるよな」

「普通?これが?」



 呆れた調子で本音が漏れたサージディスにギルド長は驚いた。



「サージディス君、出現した魔物はサイクロプスだ、国家最重要危険視第二種に指定されている魔物だぞ?幻魔が、たった二人で、戦闘の状況を誰にも目撃される事無く、短時間で倒してしまっている、そして目に見えるこの傷跡、どう考えても普通じゃないだろう?なぁ」



 少しづつ興奮していきサージディスが逃げられないように肩を掴み、そして鼻が引っ付きそうな程まで顔を近づけるギルド長から必死に逃れようと首だけ後ろに下げ絶叫した。



「待て待て近い!肩を離して落ち着けギルド長!男にキスされて俺は喜ぶ趣味はねえぞ!」



 正気に戻ったギルド長は一歩下がり「すまない」と一言謝罪し、しかし真面目な顔で二人に言う。



「しかしだなサージディス君モウガン君、君らが南のギルド出身とは言えこれら全ての基準は東西南北、大陸全土統一されている。ならば分かるだろう?、この第二種に指定されている魔物討伐には傭兵でルビークラス以上、且つ前衛が二人後衛が一人計三人、あるいはその逆の前衛一人と後衛二人が必要と計算され、もし三人全員が同じ前衛あるいは後衛だった場合はその二倍、六人は必要と言われてるんだぞ?」



 魔物の強さの基準として六段階存在する。第六種はもっとも弱くこの数値が少なくなれば少ないほど強い魔物となる。これらの基準は所詮『ある程度、最低限』と言った大まかなものだが、しかし目安として決定、利用されていた。実際これら基準を取り入れてから兵士と傭兵の魔物討伐の成功、生存する確率は大幅に向上している。

 勿論純粋な戦闘力に加え傭兵経験期間の長さでクラスは変わるし今回のように『サイクロプスは刀剣や弓のような物理攻撃より魔法攻撃が効果的』など魔物の弱点をついた攻撃もある。それに魔物自身戦闘経験を積み成長した有戦型も存在する為絶対条件ではない。今回の場合、魔法に特化した幻魔族なら出現したばかりの無戦型であるサイクロプスは相性の良い魔物のハズだがそれでもギルド長から見れば常軌を逸したこの状況が納得出来ないでいた。



「ギルド長の言いたい事は分かるさ。俺達魔法使い、魔法士はその装備上攻撃を受ける事に弱い。だからこそ前衛と同じ6人、これは攻撃を受ける前に確実に倒せるようにと決定された数だ。にもかかわらずたった二人で、反撃されることも無く倒す瞬間の目撃すらないほど一瞬と呼べるような時間でサイクロプスを倒しちまった。それはダイアモンドクラスの、いや、それすら凌駕した魔法使いだから普通じゃないと言いたいんだろ?」



 しかしギルド長は「そうだ」と肯定しながらも首を横にふった。



「だが周りに被害が出ないよう壁を作ってから攻撃、それをたった二人で出来るとは思えん。もしかすると他に仲間が……」

「何を焦っているのか知らないが落ち着いてくれギルド長」



 どこか緊迫させた雰囲気のギルド長にサージディスは呆れたように声をかけた。



「そして冷静になって思い出してくれ、魔物についてギルド長は一つ忘れている事がある」

「忘れている事?」



 それにすぐに気が付いたのかモウガンが呟く。



「なるほど、魔物が狙うのは『人間』だったな」

「!!!」

「その通り」



 ギルド長は「そうだった」と思い出した。魔獣はマナの為に同種の魔獣、魔物、そして魔法使いや幻魔族など魔法を使う者、マナを持つ者を狙うが魔物は人間を狙う。勿論他の種族が魔物に襲われないわけではない。実際他の種族で人間達ともっとも繋がりのある妖精族ドワーフが魔物に襲われた事例もあるがそれはドワーフしかいなかった為、人間族と他の種族がいた場合、全ての種族で調べられた訳ではないが間違いなく魔物は人間を狙っていると確認されている。



「此処は何処だ?俺達人間の町だろ?どれだけの人間がいると思う?なら幻魔に攻撃される前ならば魔物はたった二人の幻魔よりも多くの人間を優先的に狙っても不思議じゃない。それに初撃から強力な魔法攻撃をされて幻魔に目標を替える前、替えた後すぐに倒されたのならこの結果は普通だろ?聞けば一番最初に落雷のような馬鹿でかい音が町中に響いたそうじゃないか、でも俺達は聞いていないだろ?」

「言われてみればそうだな」



 これがごく普通の、自然界の雷ならば村からでもその音を聞く事が出来ただろう。しかし村にいた時、村への往復中そのような音は聞こえなかった。それは人為的、低い位置で起こり町壁で音が阻害された魔法によるものだと証明にもなる。サージディスの言い分に納得をしたのだろうギルド長は落ち着きを取り戻した。



「さあそれよりもギルド長、道の修繕にギルドで引き受けたのだろう?だったらこんな所で油を売っている暇なんてないだろ?」

「うぐっ、そうだった……兵士長と話しをつけてくるか」



 くるりと背を向け身体を重そうにのそりと歩き出すその背中にサージディスは『お気の毒さま』と心の中で付け加え声をかけた。



「申し訳ないが俺達は最初から言っていたように宿屋に帰って休ませてもらうよ」



 ギルド長は「ああ、色々助かったよ。有難う」と言って片手を軽く上げ兵士長のいる元へ歩き出した。











「まさかサジが演技をしてまでノイド殿とロイン君の味方をするなんて思わなかったよ」



 立ち去るギルド長の背を二人は見つめながらモウガンは念の為に小さい声で呟いた。



「この町程じゃねえが怖くて敵にまわる気はねえよ」

「この町?どういう意味だ?」



 疑問を持ったモウガンにサージディスは「何でもねえ」と手を振り、再び穴に近づきその穴の中に入り自分の身体で光が遮られて影にならないよう注意しながら辺りを調べ始めた。

 モウガンは不思議そうにしながらも一緒に穴の中に入っていく。



「どうかしたのか?どこかおかしい所でもあるのか?」

「なぁモウガン、この穴、攻撃魔法で出来たと思うか?」



 モウガンの質問にサージディスは拾い上げた石から目を離さず質問で返した。しかし何かあるのだろうと暫くモウガンは考え答える。



「……まさかノイド殿が刀の一撃でこの穴を空けたと言う気か?」

「刀、やっぱそうなのかな」



 モウガンは冗談つもりだったのだがそれに対しサージディスは本気で受け止め慌ててモウガンは自分の答えを否定した。




「いや、最初に雷のような音が響いたと言っただろう、むしろ魔法以外無いと思うが……違うのか?」

「ん~何か引っかかるんだよな、自分達を異質と言い切った旦那らしくないと言うかなんと言うか」



 確かに他の幻魔とは違うと言っていたし今までの戦闘も多少投げナイフ、正確にはクナイなど投擲武器も使っていたが、幻魔に適した魔法を使った離れた位置からの攻撃ではなく自ら接近した白兵戦、幻魔らしかぬ前衛のような戦い方だった。魔法は他の幻魔族と比べれば得意ではなかったとしても、しかし敵に応じて戦闘方法を変えることは当たり前の行為であり不思議ではない。



「魔法が本当に苦手だったとしても今回は魔法に弱い魔物だったのだから弱点を攻めるのは基本、常識だ。それでもおかしいと?。俺に言わせればたった二人の剣でサイクロプスを倒せる事がむしろ異常と思えるが?」

「ん~それは間違ってないんだがな~ん~」



 それらしい答えにしかしサージディスは未だ納得できないと、ずーっと唸っていた。仕方無しにモウガンも暫く考え、クレーターのような穴を見てある事を思い出した。



「……もしかして火薬か?」

「火薬?」



 頷いたモウガンは幻魔との接触する前カザカルスで聞いた事、そして村での事を話した。



「そうだ、カザカルスのギルドで言っていただろう?火薬を売りに来たが傭兵登録をしていなかったから売れなかった。そしてあの村でロイン君が教会の扉を破壊したが、ノイド殿がその前に小さな袋を渡していただろう?」

「あれか!」



 思い出したサージディスは声を上げた。その声に兵士傭兵達は二人に視線を向け、しかしモウガンがサージディスの腕を引っ張りその場から離れ始めた。



「静かに、それよりギルド長に帰ると言ったんだ、何時までも此処にいないで歩きながら話そう。

 それに雲行きも怪しい、今夜は一雨来るかもしれない。早く帰ろう、サラも宿で待っている」



「ああ、すまん。そうだな」と謝罪しつつ腕をつかまれたまま穴から這い出した。

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