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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
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48・命がけの帰還

「うんいってらっしゃい、お土産を忘れないでよ。さてと、何か話が聴けると良いんだけど」



 時間は遡る、村に向かうノイドに向けて声を返した後ロインは屋根屋上の上を、ある程度移動をしては暫く立ち止まり聞耳を立て、また移動をしては立ち止まり聞耳を立ててと同じ行動を繰り返していた。

 ノイドに言われ千里聴で広い町の中で幻魔の話題をする者を探していたが、町の一般人は勿論、街中や壁の上で警備をしている兵士達の会話にも注意をしていたがカザカルスとは違い誰一人として語る者はいなかった。



「なんでだろ?残った傭兵達ですらビャクオン討伐の事やあの村がどんな村だったか昔話はするのに俺達の事、幻魔の事は一言も口に出さない」



 町の人達は幻魔に対して恐怖の感情らしきものを抱いている、ならば気が強く魔獣や魔物と戦い慣れ、そしてかつてお金の為に幻魔と殺しあう事も望んだ傭兵達ならと町の中央付近にギルドがあることを利用し、可能なかぎり長く千里聴の範囲に入るようにその周りを移動していたがロイン達が町に来た事など無かった、来ている事など知らなかったかのように一切話題にも出ることは無かった。



「どうしよう?かれこれ一時間かけて町中動き回って誰も話題に出さない。一般人は駄目、衛兵も駄目、傭兵も駄目、どうしよう?いっそうの事この独り言千里聴で聞いた渡り鳥さん出てくれないかな……調査ってどれくらい掛かるんだろ?いつ父さんから合図が来てもいいように準備をしておいた方が良い……よね?」



 腕を組んで悩むロインは一度だけ町の東にある山の頂上辺りを見た後町の中央より西側に向かった。











 獣道すらない密集した木々、この山に住む動物ですら危険視し近寄らない毒素を含んだ草花、翼の生えぬ生物以外山を登る事を拒絶する岩肌の絶壁、それらの障害をものともせず頂上へ向けノイドは登っていった。とは言え珍しくやや疲労の顔色を見せ息が乱れているのは山の障害より閃風刃雷によるマナ消費による影響が大きい。

 ただ十五分足らずの時間でその山の頂上ではないが一番見晴らしの良い高い場所に、疾風迅雷があるとはいえたどり着いたのはもはや人外の化け物と言っていいだろう。



 すぅ~、はぁ~……



 止まったノイドは大きく息を吸い吐いた。

 此処は高い場所、多少強い風が吹いているかと思っていたがそれ程でもなく緩やかな、しかし冷たい風が少し汗ばむ火照った身体を徐々に冷やしていった。夜空を見上げると雨雲らしき雲がかかっており今夜あたり一雨降るのかもしれない。

 山からレティーフルの町まで距離4キロ以上、此処からの高さの分も含めれば5キロ以上。

 登ってきた山の上、大きく突き出た崖の上から遥か先に小さく見える町を見下ろしてから目を閉じて暫く乱れた息を深呼吸で整えた。

 一分ほどその場に静かに佇んだだろうか、懐から小さな包みを取り出しそれを地面において包みを広げると中から2本の小さな棒、閉じた口から紐が飛び出た小さな袋、畳んだ布を取り出す。

 方膝をつき右足の甲に袋を乗せて二本の棒を左右の手に持ちその二つを強くぶつけると激しく火花が飛び散り、すると袋から飛び出ていた紐が「ジジジ……」と音をたてながら燃え始めた。

 ノイドはスッと立ち上がり右足を蹴り上げると甲に乗せていた袋は十数メートル上空で「ドーン」と小さな爆発を起こした。微かな爆風をその身に受けながらじっと鉄の棒を見つめた。



「火打石、いやこの大陸では火付けづちと言ったか。油ランプに灯を付ける為の備品を宿屋から拝借してきたがまさかたった一回で火が付くほどの火花が出る、高性能なんてな。宿の主人に聞いてあの町に売っているなら買うか」



 一体何処に心惹かれるものがその棒にあったのか、満足そうに広げた包みの上に置き今度は畳んだ布をバサッと広げる。

 布は長方形でベッドに使われた掛け布を丈夫になるよう何枚か縫い合わせた物だった。布の両端を両足の裾に括りつけた後補強の為に掛け布の裂いた切れ端を紐代わりに括りつけた上から更に縛る。

 準備が整ったのか広げた包みを閉じ再び懐にしまいそして再び町を見下ろした。まだ『約束の瞬間』まで時間があるのか町から目をそらさずに思案している事を口に出して呟く。



「ここから五十、六十秒と言ったところか。滑空制御は元々得意ではないうえ残されたマナだけでは加速だけに注ぎ込み制動には使う余裕は無い。完全にロイン任せになってしまうがあの子の技量なら問題なかろう。ただ問題があるとすれば……もし失敗した際ロインに与える影響か」



 爆発からおよそ四分後、まるで覚悟を決めたかのように一歩前に足を出す。



「命がけの帰還……参る。風遁、疾風迅雷」



 裾に縛っていない掛け布の反対側を両手でしっかりと握り崖からその身を投げムササビのように両手両足を広げると疾風迅雷の力により初速にして四百キロに近い速度で町に向かって滑空しはじめた。

 身に纏う風の結界により顔にぶつかる風圧で呼吸が出来ない、あるいはし辛いと言う事は無い。ただ真っ直ぐ町を睨み進みたい方向に、約束の瞬間に通過したい場所に通れるよう、可能なかぎり滑空速度と進むべき方向を、失いつつあるマナで気を失わないよう意識を保つよう十分に注意し冷静に制御していた。


 十秒……二十秒……三十秒……。


 滑空速度は速すぎても遅すぎてもいけない、速過ぎればロインは失敗する可能性が高くなる。遅すぎれば失速し思い通りの滑空は出来ず街まで届かない、ならばただこの先にいる息子を信じ前へ前へ落ちていく。ノイドの視界に入る町並みはどんどん大きくなっていった。


 四十秒……五十秒……そして町を囲う壁の上空数十メートルを一瞬通過した。

 これに気が付く衛兵はいない、仮に偶然空を見上げた者がいたとしても星も隠れた闇が味方し目視で認識できる人はいないだろう。

 そして町の中央付近にあるギルドの上空も越え町の西側に消えた。










「二百……残り百秒、そろそろ約束の時間、大丈夫だ落ち着け俺」



 町の中央付近より西側の建物の一番高い屋上を陣取り東の山を見据えた。

 山の頂上辺りに咲いた花火、ではなくただの爆発を確認して二百秒が経っていた。ノイドが火薬を爆発させてからきっかり五分後に町の中央上空を通過すると約束したのだ、父ノイドは間違いなく約束を守る、ならば自分も父に言われた事をしっかり守り実行すれば良いだけだ。


 二百十……二百二十……。


 再確認も兼ねて信仰系魔法である動体視力強化、また今回の作戦にどこまで効果があるか分からないがチェーンメイルに物理攻撃耐性、装束に魔法攻撃耐性、精霊魔法強化、そして最後に自動治癒魔法を掛けていく。

 精霊魔法強化と自動治癒魔法は村での戦いの後気が付いたら習得していた信仰系魔法だ。

 その効果だが精霊魔法強化は忍術や魔法の威力、射程、範囲など強化する魔法で他の信仰系と違い自分だけにしか掛ける事が出来ないがその効果は高く今回の作戦成功に大きく左右する魔法でありノイドが今回の作戦を実行させた要因の一つの魔法でもある。

 もう一つの自動治癒魔法は通常の治癒魔法と比べれば治癒力も治癒速度も遅いが一分から五分間だけ常に回復し続ける状態に出来る。回復量のわりにマナの消費は多く治癒時間が長ければ長いほどマナの消費もそれに比例して一気に増える欠点もあるが今回は攻撃耐性と同じ保険のような形で掛けた。


 二百四十……二百五十……。


「風遁、疾風迅雷。風遁、千里視。風遁、千里聴。水遁、霧雨(きりさめ)


 水遁の霧雨は霧を発生させるのだが視覚を奪う効果だけはなく高い粘度により霧に入った敵の動きを鈍らせる効果がある。ただ霧である為千里視と千里聴で吹き飛ぶ、ゆえに上空に少しだけ霧を発生させるに留めた。そこを通過しなければ意味は無い焼け石に水のようなものだがたとえ一パーセントでも成功確率が上がるなら出来る事はしておきたい、ロインの必死の作戦だ。


 二百八十……二百九十……三百。


 そして動体視力強化の魔法で強化されたその目に町壁を越えて滑空してきた父ノイドの姿が写る。刹那振り返り西側に向かって走りだしそして背後から急激に接近するノイドに合わせ上空に跳躍、空中で器用に身体をひねりそして二人がぶつかる直前に動体視力強化から体力強化に切り替え、更にぶつかる寸前ノイドにも体力強化を掛けロインはノイドをその身体を使って受け止めた。




 ズガァァァァァァン!!!




 ノイドの進もうとする力、ロインの止めようとする力、反する風の結界同士がぶつかり、まるで落雷のような大きな衝撃音の後、ゴゴゴと大気を震わす振動する音がレティーフルの町上空で長く長く鳴り響き、それだけに留まらずまるで地震でも起きたかのように町の大地も一瞬激しく揺らした。その衝撃を生み出した張本人たちは落下し、屋上で重なり仰向けで倒れていた。

 ロインは自分の手足がちゃんとある事に安堵しながらもその腕の中にいる無事な父の姿を確認した後、大きく息を吐いて一気に張り詰めていた緊張を解いた。

 しかしノイドにいたっては軽く「ただいま」とどれ程危険な事をしたのか分かっていないと思わせるほどロインに身体を預けて驚くほどくつろいでいた。



「父さん、マナを使い切った状態で無茶しすぎ。今回のこれはさすがに失敗するかと思った」



 倒れたまま信仰系魔法の『魔量譲渡(まりょうじょうと)』で自分のマナと引き換えに失ったノイドのマナを回復させつつ、未だ鳴り響く夜空を見上げながらちょっと怒ったような声でロインが呟くとノイドは何故か嬉しそうに返事をした。



「そうか?お前なら出来ると信じているし息子に自分の命を預けるのは父親冥利に尽きるってものだ」

「そこまで言ってくれるのは嬉しいけどひとつ間違えたら死ぬのは父さんの方なんだよ?父さんが良くても俺が嫌なの!それよりホラ!町の人達が動き出したよ、さぁ早くお土産出して!」



 半分の嬉しさと半分の照れを隠す為、町のざわめきを理由に早口でまくし立て、ノイドが上に乗っている為少しだけ上半身を起こすとそれに釣られノイドも身を起こした。



「分かった分かった落ち着け、ホラ、土産だ」



 そう言って懐から山に登る前手に入れたサイクロプスの宝石をロインに手渡した。



「サイクロプス?、これ結構強いって母さん達が言ってたけど良いの?」

「『幻魔の二人がサイクロプスには有効な魔法で倒した』んだ、問題ない。それとマナはもう十分だ。それより急ぐんじゃなかったのか?、流石に衛兵の動きも早い、それと町の人達も思ったより建物から出てきたぞ」

「あっ」



 ノイドは足の裾に括りつけた掛け布を解きながら指摘するとロインはハッとした顔をして気が付く。

 町の上空にある雲が雨雲ではなく雷雲であり少しづつ雷鳴が轟いていれば『近くに落ちたかな?』程度で誤魔化す事も出来たかもしれないが残念ながらそれは叶わなかった。

 魔量譲渡を停止させスッと立ち上がり千里視である程度道が広く、且つ人の目がまだ無い場所を探す。



「あの辺りならちょうどいいかな。大丈夫なら行くよ父さん」

「分かった、先に行け」



 頷いて飛び出すロイン、外した掛け布を畳んで再び懐にしまってからノイドはロインの後ろをついていった。

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