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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
49/114

47・閃風刃雷/せんぷうじんらい

「有難い、カザカルスの町に行くまでまるで出会わなかったゆえ人間の町周辺とは言えそうそう出現しないだろうと期待などしていなかったが思ったより早く出てくれたか」



 ある程度近づくとその正体が判明した。

 魔物であるサイクロプス、一つ目の巨人。体長は四メートルを超え、まるで水死体のように全身水気を含み真っ白なぶよぶよとした体。赤黒い毛皮の腰巻とベストのような上着を身に付け、右手には二メートルを超える上腕骨や脛骨に良く似た骨を所持している。単眼だが顔の半分以上が巨大な目で占めており、おでこにあたる部分に武器にもなりえる五十センチ近い巨大なツノが前方に生えている。ノイドから見ると人型とツノのお陰でまるで地獄の鬼、しいて言うなら白鬼のようだと思わせる魔物サイクロプスはドシンドシンとゆっくり、しかしその大きさゆえかなりの速さでノイドに近づき武器にしている骨を真上に振り上げた。



「サイクロプスか。どうでも良いがあれの持っている骨、実際に存在する生物の骨ならサイクロプスの三倍以上と言ったところか?」



 ノイドが知る魔物であった為か余裕を持ち本当にどうでもいい感想を呟きながら速度を落とさずクナイを一本取り出す。



「おっといかん、魔物には有戦型と呼ばれる強化型がいたんだったな」



 サージディスの言葉を思い出し確実に一撃で殺す為、調査隊が町に戻る前にすべき事をする為にノイドは自身がもつ最高速まで加速し、クナイに『二種の風遁術、刃と疾風迅雷』を掛ける。



「合遁、閃風刃雷(せんぷうじんらい)



 その声と同時に投げたクナイは千里聴で心臓の音が聞こえる腹、人で言えばちょうどおへそ辺りに吸い込まれ消えた。




 魔物は倒せば魔物の形をした宝石に変わるが倒す前は普通の生物のように心臓を持ちその肉体には血が流れている。死霊のように『動く死者』の動かぬ心臓を破壊しても無意味だが『生きた生物』であるならば例え魔物であっても心臓の破壊は有効である。

 しかし人型であっても必ずしも人間のように胸に心臓があるとは限らない。

 そして人型であっても必ずしも心臓を守る肋骨、胸骨が人間と同じとは限らない。

 ぶよぶよとした身体が隠れ蓑としているのかその白い肉の内側に甲殻生物のような骨の鎧に包まれている事をノイドは知っている。その鎧のお陰で刀剣で切る戦い方よりも魔法で討つ方が有効なのだが魔法は使えず忍術に制限のあるノイドは直接弱点になる心臓を狙う方法を選ぶ。



 閃風刃雷によりクナイは動体視力強化されたロインもノイド自身も見切ることの出来ない速度で放たれた。クナイはサイクロプスの腹の肉と骨の鎧を貫きそして心臓と背骨腰椎を破壊した。この時には刃の効果は切れサイクロプスの背中側にある骨の鎧に届かず体内でクナイは停止、四メートルを超えるその巨体はゆっくりと後方に倒れていった。



「相も変わらず心臓を破壊され死して尚動く事の出来る生命力と生きようとするその生存本能は大したものだ」



 走るのを止めゆっくりと歩きながら仰向けに倒れ、まるでひっくり返った亀の様に手足をジタバタさせて立ち上がろうとするも起き上がれないサイクロプスに近づいていく。十数秒後ノイドの手が届く距離まで近付く頃には動きを完全に止め灰になった。その灰の中にはサイクロプスの形をした宝石とその近くにクナイが落ちていてノイドはその二つを手に取った。

 握り拳ほどの大きさの為多少邪魔になるものの満足そうに宝石を懐に入れて、クナイを片手で器用にくるりと回しながら状態を確認し安心したように大きくゆっくり息を吐き、しかしほぼ全てのマナを使い切ってしまい眩暈でも起こしたかのように一瞬顔を歪めふらつき膝をついて座り込んでしまった。

 レネやアイル曰く、ノイドは魔法や忍術を習得する為の才能が無いだけで魔法を使う為のマナの絶対量は少ないわけではない。いや、人間族である種から見ればノイドのマナはむしろ多いほうである。それでも閃風刃雷を使用した際失われるマナは少なくなかった。



「ふぅ~……特に目に見える損傷は無し、閃風刃雷の操作はうまくいったが可能なら何処かで手入れはしておきたい。それにしても異国の大陸で新しい忍術を習得し実戦で緊張する羽目になるなんてな。ははっ、まさか三十四にもなって玩具を手に入れた子供のような気分が味わえる、人生分からぬものだ」



 合遁閃風刃雷……風遁術の刃と疾風迅雷の二つを武器に掛ける、忍びの里で生まれた忍術ではなくつい最近旅に出るより前にロインが忍術が得意ではない、父ノイドの為に唯一使える忍術を組み合わせ作った新しい忍術だった。

 風遁刃は武器の切れ味や殺傷能力を高め刃こぼれ等損傷を防ぐ効果なのは変わらない。しかし疾風迅雷は本来、自ら肉体に掛け身体能力の強化と言うより自分の動こうとする方向や止まろうとする力の強化、機動力や瞬発力の補助と言える忍術だがロインはあえて投擲武器にも使うクナイに掛けるようにしたのだった。

 疾風迅雷を掛けられた投擲武器、通常自分に掛けた場合肉体が強化されたわけではない為過ぎた力は肉体の損傷に繋がるのに対し武器は生物ではない。その効果は時速千キロ近くまで加速されこれを回避する事はまず不可能だった。ただしこれには二つの問題があった。

 一つはその速度で投擲武器が目標に命中すれば間違いなく破損、壊れてしまう事だ。一見風遁刃があるのだから問題ないように思われるが刃の効果は一度だけで消えるので目標物を貫いた後、投擲武器は疾風迅雷の効果でそのまま後方に飛び続け後方にある別の何かに当たりその両方が破壊されてしまう結果となった。

 ならば疾風迅雷を操作し止めてやれば良いのだが二つ目として肉体と違い手元を離れた物は操作できなくなってしまう、言わば壊れるまで止まらない暴走状態と言えよう。


 この結果にロインはがっかりしたがノイドはあえて習得を試みた。

 方法は掛けた忍術は二種だが実際は三つ、クナイには刃と制動になる疾風迅雷の二つを掛けた後もう一つ、クナイ本体ではなく風遁刃の方に推進力となる三つ目の術となる疾風迅雷を合遁術のように組み合わせ掛けたのだ、これにより疾風迅雷一つだけの速度より遅くなってしまったが目標物に当たり刃の術が消えた瞬間推進力も消失し制動だけが残る。

 しかし言うは易し行うは難し、クナイを投げて手から離れた瞬間にこれら三つの効果を同時に付加させなければならない。何しろ手を離れた瞬間に制動となる疾風迅雷をかけた瞬間重力に負けて落下するのだ、その際投げたハズのクナイが真っ直ぐに敵側に向いてるとは限らない。的とは違う方向にクナイが向いていれば狙った方向に真っ直ぐ飛ばないし運よく的に飛んでも刺さらない可能性がある、当然その時点で全ては無意味となる。だからこそ投げた時の推進力が維持された状態で本当の推進力となるもう一つの疾風迅雷を掛けなければいけなかった。


 しかももっとも問題となったのは忍術と魔法が同じものだったと言う事だ。

 幻魔族によれば精霊魔法とは精霊から力の一部を借りて使用したものではなく精霊に力の一部を行使してもらっている状態だと言う事、つまりは精霊に出来ない事はいかなる者も使用不可能だった。

 この世界に来たばかりのノイドはその意味がまるで分からなかったのだがレネがある例えを使ってその意味を伝えた。


 精霊は鍛冶師。精霊自身のマナは武具を作る為の材料。そして魔法の使い手はお客でありマナはお金であると。客である魔法使いは鍛冶師である精霊に魔法と言う名の武具を作成してもらう。その時どのような威力や効果、範囲の魔法を作ってもらうのか、それは詠唱と言う形での説明、依頼内容である。忍術で言えば『合遁、閃風刃雷』などが詠唱に当たるのだが……。


 余談だがレネが言うには本物の詠唱はもっと長い。しかし幻魔族はあえてこれを簡略化した。理由は身体的な弱さが原因である。戦いになった時人間族であれば前衛である騎士が盾となり後衛である魔法士がその間に魔法を使うのだが幻魔族の能力では前衛になれる者はいなかった。当然詠唱中に攻撃を受ける事になり魔法が発動する事無く殺されてしまう。

 だからこそ魔法詠唱は簡略化されたのだが勿論一長一短はあった。

 簡略化は確かに魔法発動を早くしたがその威力、効果は落ちてしまった。更に同じ魔法でも簡略化された魔法はマナの消費が増大してしまう。しかし魔法能力の高い幻魔族からみればそれらの短所は長所に比べれば微々たるものだった。

 気になるのはこの簡略化された魔法だけが何故人間族であり異国……正しくは異世界である忍者達に伝わったのか謎ではあるが。しかし今回の旅が終点を迎えた時、謎は完全に解けるだろう。現時点で初代半蔵はこの大陸で妖刀だけではなく魔法を得た可能性があるのだから。


 話を戻そう、簡略化は鍛冶で言えば武具の作成が本来数日かかるものを僅か数時間で完成させるようなものだと言う事。なるほどとノイドから見れば非常に分かりやすい説明だ。短時間で作った物だから武具としての性能や耐久性は落ちる事は不思議ではないし無理を言って作らせているのだから料金の上乗せが発生しても当然だ。ならば正しい詠唱を新たに修得するか?となった時それは不可能だった。幻魔達が本来の詠唱を捨てたのは千年前とも数千年も前だとも言われており、覚えている者も伝える者ももはやいない。


 ノイドは禅蔵から受け取った忍術、合遁術に関する事が書かれた書物を何度も見直しそして応用し実行した。使う術は既に習得している忍術を組み合わせるだけだ、理論では分かっている。しかし技術で言えば如何すれば良いのか頭では分かっているのに手が思ったとおりに動いてくれない、あるいは知っている事を分からぬ者に全てを一つ一つ教えているのに相手にうまく伝わらない、どう説明すれば良いか判らないと言った方が近いかもしれない。

 それでも何度も試し何度も失敗を繰り返し休む事無く何度も挑戦し、そして試行錯誤し遂に閃風刃雷を習得、僅か十日ほどで自分専用の忍術として未完ながら成功させてしまった。


 そんな凄い努力と見事な結果に余計な事ではあるが実は突っ込みどころが一つある。

 それは閃風刃雷を習得する際、クナイが壊れては意味が無いので変わりに落ちている小石や少し太めの枝など使い術を掛け投げていたのだが、疾風迅雷も効果だけでもそれらは想像以上に強力な投擲武器に変化していた。

 制限のあるクナイと違いほぼ無限とも言える石や落ちている物を使えば、風遁刃を使わなくてもいくら壊れようとも問題など無いのだ。ただこの事にノイドは最初から気が付いていたがロインが父の為にわざわざ考えてくれたのだ、義理を欠いた事など出来ずあえて真実は言わずノイドは苦難、茨の道を選びそして習得してしまったのだ。

 これを親子愛と言うべきか、師弟愛と言うべきか、それともただの親馬鹿と言うべきか。



「勝負内容は一瞬と一撃、しかし異常とも言えるマナの損失。極めた、完成させたと言うにはまだまだ早いか。さてと、本当ならマナの回復に努めたいが調査隊は待ってくれない、いっきに目指そうか」



 少しだけ休んだ後ノイドは立ち上がりこれから登る山の頂上に目を向けた。

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