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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
47/114

45.調査隊、出発

「本当に大丈夫なのか?君は貴重な魔法使いであり本件の情報源でもあるがかなり顔色が悪いぞ。無理をしているのならゆっくり休め、今回の件は傭兵だけではなく兵達の方でもかなり動いてくれるそうだ。人手は多いに越した事はないが無茶をする必要はない」



 応接室に案内されたサージディスと遅れて来たモウガンの前に30代後半くらいのまだ比較的に若いギルド長が座っていた。

 兵士から既に話は伝わっており今すぐに出られるよう武装は済んでいてビャクオン対策だろう、鎧こそ皮製だが手足に無骨な鉄製のガントレットとロングブーツを身に着け太もももしっかりと守れるようにチェーンメイルスカートを腰に身に着けている。ただ腕は肘から肩にかけて着けられる金属製の防具が無かったのか本来剣のグリップなどに巻く皮を腕に何重にも巻きつけていた。



「その……俺も……鎧を着ている俺が行くからサジは残った方が良いと思うけど……」



 ギルド長に賛成なのだろう、兜を脱いだモウガンがオロオロとした言動でサージディスを説得しようと試みた。



「本当に大丈夫だって。何かして気を紛らわせたい気分だし、かと言って診療所に行ったってやる事ねえからな。代わりにお前がサラ達の事見てやってくれ」

「分かった」



 ギルド長は立ち上がり短めのショートソードは腰に、小型のラウンドシールドは背中に背負う。



「話は決まったな、よろしく頼むサージディス君」

「ああ、まかせてくれ」

「と言ってもまだ今回ギルドに集まってくれた者達の準備にもう少し時間がかかる。君も今のうちにしておきたい事があればしておいてくれ」



 応接室から出て受付、待機場まで戻ると行く者と行かない者と二手に別れ喧騒に包まれていた。

 行く者の中にどうやら軽装備だが弓を持った狩人として経験のある者、エメラルドの傭兵2人が対ビャクオン戦になった時の指導をしていて『連携をとって襲い掛かってくるので二人以上で背中合わせになったほうが良い』『動きがかなり早い為大きな重い武器より小さくて軽く素早く攻撃できる武器の方が有効』『可能なら弓など飛び道具で近づけさせない事が大切』など狩人だった時の経験を格上の傭兵達に教授している。

 残りの聞き手はモウガンのような露出の少ない、特に腕と足がしっかり守られた装備をした完全装備に近い傭兵達で参加しない軽装備の仲間や友人から弓や短剣など借りている者もいる。そして残念ながらサージディスのような魔法使いはギルド内にその姿はない。しかしダイアモンドこそいないがサファイアが6人とルビーが5人いるなどサージディスから見ても申し分の無い戦力であり更にこの町の警備兵も動いてくれる事から逃げ足の速いビャクオンの討伐は難しくとも襲われた場合の対処、亡くなった傭兵の遺体回収は問題なく事が進むだろう。



「んじゃ今のうちに宿だけでもとっておくか。皮肉にもあの2人のお陰で消費した物は無いから再準備する必要もねえし」



 サージディスがギルドの外に出ながら声をかけるとモウガンは頷いた。と外に出て宿屋に向かう二人だったが広場に顔を向けたサージディスがその足を止めた。モウガンも立ち止まってサージディスが見つめる方に顔を向けた。

 時間が時間だけに広場には人の姿はまばらだ。広場には何かあるのか?と聞かれれば特別何かあるわけではない。中央には小さな噴水、子供達が遊ぶ為か芸術の為かあるいは両方かもしれない謎のオブジェが多数。その中に1つ高さ2メートル横幅4メートル程度の石碑があった。何か文字が書いてあるようだがモウガン達の場所からでは離れすぎて何が書いてあるのか分からない。



「サジ、寄って行くか?」



 モウガンは声をかけるがサージディスは無反応、暫くお互い何もせず立ち止まっていたがサージディスが首を横に振った。



「いや、あそこに行く時はサラも一緒に明日、夜が明けてから3人揃って行こう。それよりさっさと宿とっちまうぞ」

「ああ」











 町の建物の屋根はそのほとんどが陸屋根と呼ばれる水平の屋根でまた屋上として利用されている建物が多い、当然落下防止の為囲いのある屋上ばかりで身を隠すには十分な形だった。それらを利用してロインは情報を得る為に、ノイドはサージディスと村に向かう他の傭兵達の監視の為屋根の上から移動していた。もっとも隠れなくても気配を消し闇に溶け込んだ彼らを見つける事は容易ではないだろうがそれでもモウガンのように勘の良さと実力を持ったものが他にいないとも言えないので手を抜く事は無い。

 ノイドは門に向かって屋根から屋根へと渡っていく、門の近くまで来ると傭兵と装備が統一された兵士で編成された調査隊がちょうど町から馬に跨り出るところだった。

 集まった数は装備が不規則な傭兵が15人。そしてこのサーファン王国の紋章である黒い狼が描かれた盾と鎧で統一されたこの町の兵士が20。およそ31人のフルプレートアーマー、あるいはそれに近い戦士が揃っていた。あの村でノイドが千里視で確認したかぎりビャクオンの数は20も満たなかったので、あれから増えていなければ討伐するも追い払うも問題ないだろう。

 そして20の兵士とは別にたった1人だけ魔獣石なのか宝石を胸に抱いた女神の彫刻がされた木製の杖と上の帽子から下の靴まで白一色の服装に右の胸に黒い狼の紋章が刺繍された白ローブを身にまとった神官のような魔法士がいた。もっとも魔法士は信仰系の魔法契約を許された者だ、神官と言うのもあながち間違っていない。

 そして傭兵達の中にたった1人別の傭兵が操る馬の後ろに黄色がかった白のローブを着た馬に乗れないサージディスの姿があった、しかしモウガンとサラディナの姿はそこには無い。その魔法使いの姿を離れた屋根の上からノイドは見つめながらどの方法で町の外に出て彼らを追跡するか思案していた。



「ここからどうするか、どちらを選択すべきか」



 方法は2つあった。1つは素直に門から出る事。恐らくだがこの町の人間の幻魔に対する反応を見れば簡単に出る事も再びこの町に入る事も出来そうだった。ただ彼らの後をつけるようにこの町を出たとなればこちらの情報は簡単に洩れるだろう。ならばもう1つ誰にも悟られず町から出て帰ってこなければならない。

 彼らが準備をしている間ノイドが町の地形を調べたかぎり町から出る事は容易く屋根から町壁に飛び移れば外には出る事は可能。問題は進入、戻ってくる事だった。かつて十人衆として里で活動していた時は潜入する為の鉤縄などもあったが現在は持ってはいないし、旅立つ前にゴーダンに手伝ってもらい作る事も考えた事もあったがそもそもが町には隠れて潜入する事は考えておらず、またカザカルスの町のように荷物検査により安全の為取り上げられるか契約の腕輪の力で使用制限が加えられる為、町の中に持ち込んでも無駄である為準備をしていなかった。



「まさか取調べも無く入れるとは想定外。まぁ各国各町の決まりなど分からぬ以上どうしようもない。ロインと話したよう当初の予定でいくべきか」



 千里視で町壁の上で明かりの為の焚かれた火と警備兵の動きをじっと確認する。多くの火は焚かれていない為ノイドが溶け込む闇は十分にある。警備兵に関しても村への調査に人員を割かれたせいだろうかそこまで多くない。屋根を伝い町壁まで近づき警備兵の動きを見極める。



「ではロイン、当初の予定通りに進める、こちらの事は頼んだぞ。風遁、疾風迅雷」



 此処にはいないロインに声をかけ何故か苦笑いを浮かべた後風の結界を纏いノイドは町壁に向かって駆け出し屋根から屋根、そして壁へと飛び移る。音も無く着地するとそのままの勢いで駆け抜け町の外の深き闇へとその身を躍らせたがそれに気が付いた警備兵は1人もいない。

 通常なら壁の上の高さから落ちれば地面に激突し死ぬだろうが操る風で落下を制御し3メートルくらいの高さ辺りでゆっくりと降りていく。

 街道に目を向ければ兵と傭兵は馬による移動で既に遥か先、街道を完全に無視しノイドはただ一直線に駆け出した。平地に近い地形とは言え多少の丘、川も流れていたがノイドはほぼ速度を落とす事も無くそれら全て軽々と越える。

 僅か数十秒で調査隊の声が千里聴で聞こえる位置まで近づくと彼らの複数の会話の中からサージディスの声だけを探すが黙っているのか聞こえない。また兵士達の口数少ない雑談の中から自分達幻魔に関する会話もあるかと注意していたがやはり一切話題になく『夕方に町に来た魔物はガーゴイルだった』とか『最近魔物がいつもより少ないのは魔物が賊の方に行って代わりに倒してた可能性がある』など魔物、盗賊の話しかしていない。

 暫くして村がある森に近づくとノイドは調査隊を追い越す形でぐるりと回り込み千里聴の届く距離を保ちながら彼らより先に進み森の中に入っていく。

 ノイドはビャクオンは勿論他の動物や魔物と魔獣に警戒しながら木の枝を可能なかぎり揺らさぬよう身軽に枝から枝へ渡っていくと先程の村に調査隊より先にたどり着いた。調査隊はまだ街道から森の入り口に着いたところでノイドはその間ビャクオンを含む他の肉食獣や魔物の索敵、また遺体の状況を千里視で村の中を1つ1つ確認していく。



「どうやら村の中にもその周辺にもあの獅子はいないが何匹か野犬が入り込んだか。遺体も傭兵の方は無事、それに対し盗賊こちらの思惑通り骨だけを残してほぼ綺麗に食べられている」



 ただ1つノイドが殺した見張りにいた盗賊、壁に貼り付けにされた盗賊は胸から上だけが綺麗に残されていた。



「ふむ……1人だけ食べ残しがあるがまぁこれは奪った剣を使っているのだ、問題ないだろう。さてサージディス殿、君が言っていた証拠は骨だけ、君達が選ぶ未来が存在するかしないかは今君の手の中にある……さぁどちらを選ぶ?」



 村の外の枝の上からノイドは村に入ってきた調査隊の中にいるサージディスの行動と発言に見つめ聞耳を立てた。何時でも何処にいても殺せる、彼らの命は手中にあると言わんばかりにノイドは楽しそうに笑っていた。

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