41・滅びの村、親子
「此処か」
「ああ」
ノイド達はロインたちが入った反対側にあった左奥の扉から教会内を抜けて裏手にまわると装備品を全て剥がされた傭兵達4人と本物の商人であろう男の遺体が掘ってある穴に無造作に捨てられていた。
森の中にある村であったため場合によっては血の匂いに引き寄せられた肉食動物の餌になっていた可能性もあったが幸い盗賊に殺された時以外の傷はなく商人もおそらく服なども金になると思ったのだろう、首を絞めた以外の傷はなくむしろ傭兵達よりも綺麗な殺され方だった。
「サージディス殿、傭兵達の遺体はどうされる?やはり此処に?」
「いや、今回は全員町に連れて帰ろうと思う。煙玉でも使って助けを呼んでも良いが町から近いから1度町のギルドに行って話しておいても良いだろう。ただ馬車を使わせてもらっても流石に5人全員の遺体を運ぶのは無理だろうからこのまま連れて帰るのは親父さんだけ。モウガン遺体を頼む」
「分かった」
モウガンが穴から5つの遺体を抱え上げ教会から取ってきた比較的綺麗なカーテンや食堂にあったテーブルクロスなど使って遺体を3人で出際良く包んでいった。
ふと何か気になったのかモウガンが1度森を見た後サージディスに1つ提案をする。
「なぁサジ、せめて傭兵達の遺体は教会の建物内の部屋に入れておかないか?今回は運が良かったがいつ匂いに釣られて森にいる肉食獣が来るかもしれない」
「それを言っちゃー此処より教会入り口付近が1番マズイ気もするが・・・あ、入り口と言えばアニーさんにあの惨劇の場見せるのはあまりよろしくないんじゃねーか?」
「それなら問題はありません、ロインは気が利く子だ、私達がこちらに来ている事も知っているし裏手からまわってくるはずです」
「そうかい?なら良いが・・・」
ノイド達の会話を千里聴で聞きながら治癒魔法を掛けつつ今回は気が利かなかったのか少し落ち込むように「ごめんなさい」とロインは小さく呟いた。
「え?どうしたの?ロイン君」
「あっいえ何も。・・・終わりました。アニーさんまだ痛いところはありますか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「うん。それからサラさん、自分がやっておいてなんですが教会入り口が結構酷い事になっていましたから裏からまわりませんか?一応例の事もありますし」
サラディナも多少慣れてるとは言え同じ事を実感しているのか苦笑いを浮かべながら頷いた。
「そうね、確かにあれはあまり良い光景ではないわね。アニーさん」
「はい?」
「仲間と合流するのに少し教会の裏手に回ってもらえますか?アニーさんにとってつらい事だけどお父さんの事もあるので」
「・・・分かりました」
特に驚いたりなどなく極自然にサラディナが何を言いたいのかアニーは分かっているようでもしかするとアニーは目の前で父親が殺されているところを見ているのかもしれない。食堂から中を通り抜け裏手から外に出るとノイド達がちょうど傭兵達をカーテンなどを使って遺体を包み終わったところだった。
「兄さん、こちらがアニーさんよ」
「そうか、無事で良かった・・・」
「・・・・・」
助けたかった人を助けられたのだから嬉しい反面アニーと偽アニーの2人が作り出した空気に若干凍りついていた。それはそうだろう、自分達を襲い拉致し父親達を殺害し更に自分がおとといまで着ていた服を盗賊・・・男が今目の前で着ているのだから複雑な心境になってもおかしくはない。いくら高価な服だったりお気に入りの服だったとしても返してほしくはないだろうし余程の理由が無い限りもう一度袖を通したいとは思わない。
冷たい沈黙が流れたがノイドは流される事無く遺体の1つに近づき顔が見えるようにカーテンの一部を広げるとやはり父親の商人であったようでアニーは折角乾いた目から再び涙を溢れさせ小さな声で「お父さん」と呟くのが全員の耳に届いた。
「ロイン、町から応援がくるまで傭兵達は暫く教会の部屋の中に入れておく、手伝ってくれ」
「分かりました」
「サージディス殿サラディナ殿、御二人はアニー殿をお願いします。モウガン殿行きましょう」
「承知した」
「盗賊、お前は私達について来い」
「・・・ああ」
ノイドとロインは1人ずつ傭兵を背負いモウガンは二人の傭兵を肩に担ぎその3人の前を盗賊が歩いて教会の中へと消えた。
盗賊が教会の中に消えたと同時にアニーは倒れこむようにしゃがみ込み父の遺体に顔を寄せてその首に腕を回し暫くは何も言わず抱きついていただけだったが肩を震わせ嗚咽交じりの消え入りそうな声で「お父さん」と何度も何度も繰り返された。
2人はそんな彼女を見守っていたが幼かった頃両親を失い孤児となった当時を思い出したのかサラディナの頬にも1粒涙が流れそれに気が付いたサージディスは「兄のくせに情けない」と思いつつ子供の頃のようにただ手を握ってやる事しか出来なかった。
「・・・・・」
「・・・・・」
傭兵の遺体を部屋の床に寝かせ扉を閉じた後戻る途中ノイドは誰にも聞き取れない小さな声で呟きしかしロインはそれに答えるように小さく頷きココに顔を寄せる。
4人が戻るとアニーは遺体に身を寄せて泣いておりサージディスとサラディナは静かに見守っているだけだった。盗賊だけバツが悪そうに森などに目を向けロイン達3人もアニーが落ち着くまで静かに見つめていた。暫くしてアニーは商人を包んだ顔の部分を閉じてから立ち上がり涙を拭うと真っ直ぐ全員を見つめ改めて御礼を言った。
「皆さん助けていただいてありがとうございます」
「気にしないでくれ、親父さんは駄目だったがあんただけでも助けられて良かったよ。それよりアニーさん達が使っていた馬車が村の外にあるんだ、親父さんの遺体だけでも馬車に乗せて町に帰ろう」
「はい。あのう・・・亡くなられた傭兵の皆さんは?」
「彼らの遺体はギルドに報告して後ほど回収してもらうようにこっちで話をつけておくよ」
「そうですか・・・」
アニーは何処か申し訳なさそうに沈んだ顔をした。もしかすると盗賊達は兄貴がノイドにやったようにアニーを人質にとり傭兵達は手も出せないまま殺されたのかもしれない。ふとサラディナは空を見上げた、まだ空は明るいとは言え既に陽は傾いている。
「兄さん、話は馬車の中でして早くレティーフルに向かいましょ。アニーさんも大丈夫のようだけど一応診療所でちゃんと診てもらっておいた方が良いわ」
「はい」
「そうだな、モウガン親父さんを馬車まで頼む」
「分かった」
モウガンの武器はサラディナが、荷物はノイドが置いた荷物と一緒に村の入り口に置いておくつもりだったが教会の騒ぎで結局持ってきてしまったのでサージディスが持ち商人の遺体はモウガンがそっと担いだ。全員が村から出る為に教会の敷地の外まで出た時ロインはアニーに近づいた。
「ごめんなさいアニーさん」
「はい?」
ロインに呼ばれたアニーが振り向くと同時にアニーは急に倒れこみそんなアニーをロインは受け止め支える。
「どうしたのアニーさん!?」
「風遁、刃」
サラディナが驚いた声を上げアニーに近づくと今度は盗賊の偽アニーがドサッと音をたて倒れる。全員が目を向けると盗賊は仰向けで倒れていた。それは心臓に一突き、恐らく偽アニーは自分が死んだ事も分からず絶命したのだろう、偽アニーは恐れも驚きも無い表情で事切れておりその足元にはノイドがちょうど脇差を鞘に納刀するところだった。