40・滅びの村、救出
ノイドが教会の中に入ると同時に千里視と千里聴によって立ち込めていた煙幕は一気に散らされていく。入り口付近は爆発で吹き飛んだ2人の盗賊のおかげで目も向けられないほど凄惨な光景のはずたがノイドは平然とその上を歩き既に普通の狐に姿を変えたココの横をすり抜け固まったように動かず止まっているロインの傍まで近寄った。
「ロイン」
呼びかけるがロインは女神像に目を向けたまま動かない。
「ロイン!」
再び大きな声で呼びかけるとロインはゆっくりとノイドを見てふるふると震える手で女神像を指差した。
「父さん・・・いた」
「何?何がいた?」
「・・・渡り鳥がいた!」
「何?」
ロインの叫びに思わずノイドは女神像やその辺りを見回した、千里視で誰もいない事が分かっているのに。
「待て待てロイン、お前は何を見た?」
「何をって父さんが言っていた渡り鳥だよ!ほら!ってあれ?」
自分が指差す女神像を見たがロインはキョロキョロと辺りを見回しハテナ顔だ。
「あれ?さっきまで確かに渡り鳥がいたのに・・・いたんだよ父さん!俺達と同じ忍び装束を着た忍者が!」
「落ち着けロイン、私は煙幕を避けて千里視でこの建物内外を可能な限り見ていたが此処にはお前とココ、盗賊達と建物奥の女以外誰もいなかったぞ?もう一度聞くが一体何を見た?何があったんだ?」
「何がって・・・うえぇ!」
急に顔をしかめぺっぺっと唾を吐き出した。
「うー最悪、こいつの血飲み込みそうになってたの忘れてた」
「大丈夫なのか?」
「うん、平気平気」
「そうか」
「でもおかしいなぁ~絶対にさっきまでいたのに」
ノイドはロインを見、千里聴で心音を聞く。不安定な心音ではなく先ほどまでと打って変わりいつものロインがそこにいた。何があったのか不明だがノイドの不安だったものは乗り越えている。その時サージディス達がやってきて声を上げた。
「うげぇ!なんじゃこりゃ、ひでぇな」
赤毛の兄と妹は顔をしかめ手で口元を隠した。
「大丈夫か?サラ」
「ありがとう・・・大丈夫」
「皆やられたのか」
モウガンは顔が見えないが声を聞く限り平然とし偽アニーは人の死に慣れているのか無残な姿となった仲間の遺体を見てもやったのがこの幻魔族なら当然かと自然と受け入れていた。しかし4人が足元に気をつけながらノイド達の元まで来ると床に倒れている自分達の頭を見て偽アニーは流石に驚愕の顔を浮かべていた。
「大兄貴、兄貴に続いてまさかあなたまでやられちまうなんてな」
「まさか見張りも一緒に盗賊全部やっちまったのか?」
「ええ、全員殺しました。そんな事よりサラディナ殿」
「はっはい!」
サージディスの質問に腕が立つと聞いていた大兄貴の死もさも当然と言わんばかりのノイドに突然名を呼ばれたサラディナは背筋をぴんと伸ばしてしまった。
「右扉の奥にいる女性はサラディナ殿が見てやってください、お任せしてかまいませんね?」
「ええ、任せて」
「ロインもサラディナ殿について行け、怪我をしているようなら治癒魔法を掛けてやれ」
「はい」
「奥の女性は2人に任せて残った私達は・・・」
ロインは盗賊からマフラーを取り返した後サラディナと一緒に奥にある扉に向かって歩き出す。その後ノイドは残った3人に何かを言おうとして気が付いた、ココがロインに付いていかずその場に立ち止まって女神像の辺りを見ている事に。
「どうしたココ?」
ココはハッとしてノイドを見た後ロインが入った通路と女神像を交互に何度か見た後ロインの後を追いかけた。ノイドは女神像を改めて見直したが何がどうと言うおかしい所は無かった。
「・・・・・(ココもこの女神像に何かを見たのか?ロインは忍者、渡り鳥と言っていたが)」
「ノイドさん?ノイドの旦那!大丈夫か?」
考え込んでいるとサージディスが心配そうに顔を覗き込んできた。
「ああ、すまない大丈夫だ。私達はこの教会裏に捨てたと言う商人達の遺体を回収・・・するにしてもしないにしても1度確認だけはしましょう」
教会の奥はどうやら関係者の生活場所となっていたようで食堂、調理場をはじめ寝泊りする為の小部屋がいくつかあった。
サラディナが順番に扉の開いた部屋を覗くも中には誰もおらず1つ1つ進んでいく、勿論ロインは商人の娘が何処にいるの分かっていたがあえて何も言っていない。2人で通路を進んでいると一番奥の部屋だけ扉が閉まっている。
「あ、サラさん、一番奥の部屋だけ扉が閉まってますけどもしかしてそこに監禁されてるんじゃないですか?」
「そうか、逃げないように鍵をかけているかもしれないわね」
扉に近づいて取っ手を見るとどうやら壊れており鍵も掛けられない状態で2人は顔を見合わせなんとなく苦笑いを浮かべた。サラディナが取っ手が取れてしまいそこにあいた穴に手を入れゆっくりと扉を開き部屋の中を覗き込む、室内にあったのは他の部屋と同じ机と椅子、洋服タンスとベッド、そのベッドの上に女性がいた。
歳は20前後で短めに切りそろえられた金髪、ベッドに座っているので身長こそ分からないがほっそりとした体格は偽アニーに良く似ている。服は勿論宝石類など身に着けていたものは全て剥ぎ取られたのだろう、下着姿で両手両足を縛られているのだがそこから逃げる事が出来ないように更にベッドに繋がれていて怯えた顔で2人を見ていた。
「もしかして商人のアニーさん?」
「はい・・・そうです・・・けど」
「無事で良かった!あなたを助けに来たのよ」
サラディナはアニーを安心させるように笑顔で近寄り縛ってある両手両足を解きに掛かった。
「え?私を・・・助けに?」
「そうよ外にいた盗賊は全て倒したわ、安心して」
「私・・・助かる・・・」
盗賊に捕まってからこの状態でずっと耐えていたのだろう、せき止めていたものが一気に流れ出すようにボロボロと涙を溢れ出させ嗚咽交じりの声で泣き出した。サラディナは慰める様にそんなアニーを抱きしめ背中を優しく撫でその間そんな2人を見ながらロインは先ほど見た渡り鳥の事を考えていた。
(絶対にいたハズなのにあの人達何処に消えたんだろ?忍び装束とは違う変わった服を着ていたけど隣の女の人も忍者なんだよな?ん?女の人?あれ?何人いた?男?女?どんな顔をしていたっけ?そもそも俺はあの人達とどんな会話をした?なんで俺は渡り鳥って思ったんだ?)
勿論忍び装束を着ていたからと自分でノイドに言い切っているし同じ忍者でノイドから渡り鳥の事を聞いていたので瞬間的にそう思っただけなのだが不思議とついさっきの出来事の記憶だけが消えかかっておりちゃんと思い出せずひどく曖昧で実は本当は幻覚を見たんじゃないかと一瞬思った。ただなんとなく左手を触りながら1番最初にかけられた言葉を思い出すと『それ』だけはハッキリと思い出されつい呟いていた。
「大丈夫、私達がいつも傍にいる・・・か」
「ロイン君?どうしたのロイン君?」
「え?」
ふと気が付くとアニーを縛っていた紐は既に解かれておりアニーは顔を真っ赤にしてロインを見ていて困ったように下着だけの姿を両手両足を使って必死に隠そうとしていた。どうやらロインは考え事をしている間にそんな気は全く無かったのだが下着姿のアニーに見とれていた形なっていたらしい。
「あ!ごめんなさい!ちょっと考え事をしていて・・・待って」
そう言ってロインは探すふりをしてタンスから服を見つけ取り出す、それはどうやら当時この部屋を使っていたのだろう修道女の服で幸い保存状態は良さそうでサイズさえ合えば問題なく着れそうだ。
「あ!サラさん良い物がありましたよ、アニーさんサイズが合うか分かりませんがよければこれを着てください。俺は部屋の外で待ってますので、あと治癒魔法が使えますので怪我をされていたら遠慮なく言ってください」
早口でまくし立てさっさと部屋の外に出たロインはココも出てきてから扉を閉めて廊下で待った。しばらくして呼ぶ声が聞こえたので部屋に入ると少し大きいようだが修道服のワンピース部分だけ着たアニーがベッドの端に座っていた。
「ロイン君、どうやら盗賊に縛られる時抵抗した際に手足を怪我をしたみたいなの。念のために治癒魔法をかけてあげてくれる?」
「はい、分かりました」