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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
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39・滅びの村、教会

 教会の中は扉から祭壇まで一本身廊が続きその左右を長椅子が置かれたよくある内装の教会だったが、ただ小さな村だからだろうか小さな小窓はあるもののこの手の教会によくあるステンドグラスの類は一切はめ込まれていない。

 祭壇の奥内陣には2体の古びた女性の像が立っていて向かって左側の像は右側だけ鳥のような翼を大小2枚生やし左手で剣を掲げており右側の像は左側だけ鳥のような翼を大小2枚生やし右手で逆手に持った剣を掲げていた。この世界を作ったと言われる女神アセラとテセラを模した女神像だ。

 そんな建物の中5人の盗賊がいた。2人は見張り、と言う訳ではないだろうが扉の前に小さな椅子と机を持ってきて安物なのか年代物か分からないが数本のワインを置き扉の前を陣取り2人でワインを飲みながら談笑していた。

 祭壇の前には2人、その辺りにある椅子はめちゃくちゃで乱雑に並んでおりその中のまともな長椅子に2人は向かい合うように座っていた。そこに鎧は付けず上半身裸でズボンを穿いただけの男が二本の剣を腰にぶら下げあくびをし6つに分かれた見事な腹筋をボリボリとかきながら奥の扉からやってきた。


「馬車が無かったがまさかあの馬鹿人買いに話つけるのにわざわざ馬車に乗って行ったのか?」

「やっと起きたのかよ大兄貴。まぁ久々の手柄で兄貴も嬉しいんだ、大目に見てやってくれ。あと腹が減ってるなら食堂に森で捕まえた牛・・・いや豚だったか?焼いた肉と適当に作った良く分からんスープがあるから食っていいぞ」

「それならもう食った。それより別に怒っちゃいねえさ。ただあれも結構良い値で売れるんだ、いくら外装は質素っつっても傷物にされちゃ困る」

「兄貴だって分かってるさ、何しろ自分で手に入れた手柄だ自分で捨てるほど馬鹿じゃないさ」

「ん~ならいいが・・・つうかあいつら俺が寝ている間に酔って女に手出してねえだろうな?」


 扉の前で酔っ払いの2人を指差しながら睨んだ。大兄貴の前に座る2人の賊は苦笑いを浮かべながら手をひらひらさせた。


「出してねし出させてねえよ、安心してくれ。折角の初物だぜ?高値で売れるんだ何もやらねえよ。むしろあいつらが酔っ払って馬鹿しないよう俺らはあの女が売れるまで酒を控えてるんだぜ、むしろ俺達を先に褒めてほしいくらいだ」

「そうかそうか。おい!俺は飲むぞ!その酒よこせ!」

「飲むのかよ!」


 楽しげな賊達はゲラゲラと笑うと突然大兄貴は真面目というよりやや怒った顔で扉を睨んだ。


「てめえら!扉から離れろ!早く!」

「?」


 大兄貴は叫んだがお酒でほぼ酩酊状態の2人は何も分かっていない、そして突然の爆発が2人の盗賊を吹き飛ばし血と肉が混じった爆風と無数の扉と椅子と机の破片が3人を襲った。





 教会の前まで走り抜けたロインは扉から少し離れ開いた小さな門の前で立ち止まると受け取った火薬袋を教会の扉に向けて投げた。


「合遁、花火!」


 火薬袋が扉に当たる瞬間と忍術の発動は同時だった。想像よりも大きい爆発だったようで扉どころか左右の石壁も一部吹き飛ぶ程の威力だったのでもしもう少し近づいて使っていれば自分も吹き飛んでいたかもしれない。

 灰色の煙と砂埃が混ざり合う煙幕の中ロインは首に巻いたマフラーを口元まで上げ千里視と千里聴を解除して中に飛び込む。教会の中も煙幕が立ち込めていたが迷うことなく残った3人の賊に向けて走り出した。吹き飛んだ大小の破片が床に散らばっていたが脚力強化によって躓くことなく全て蹴散らし刀を抜き一直線に身廊を全力で走った。


「風遁、刃」

「誰だてめえは!」


 3人とも飛んできた破片から身を守る為だろう、背を向けて身を屈めていたがたった1人腰に二本の剣をぶら下げた兄貴とよく似た外見の大兄貴だけがすぐに突如乱入してきたロインに気が付いた。

 ロインは脚力強化を生かしまだ反応出来ていない2人のうち1人に近づきその首を刎ねる。


「糞がぁ!」


 もう1人も続けて始末したかったが大兄貴の剣を避ける為にロインは後ろに下がりながら回避、煙幕のせいか大兄貴は追撃してこず少し咳き込みながらロインを睨んでいた。


「けほっ・・・くそ!てめえその髪幻魔族か!」


 ロインは大兄貴に詰め寄り刀を数度振るが簡単に防がれ大兄貴には届かず大兄貴も器用に二本の剣を振るうが脚力強化によって足で十分な回避は可能だった、いやハズだった。

 しかし何度か切り合ってる間に少しずつロインを上まる攻撃を大兄貴はしてきていた。動体視力強化を使わなくても十分に見える攻撃だが小さく無駄の無い動きとロインの動きに合わせる、というより明らかに動きを先読みし的確にロインの攻撃を防ぎまた虚を突く攻撃を二本の剣から繰り出され、ロインはいつの間にか回避だけでは追いつかなくなりゴーダンの剣を逆手に抜き防御に費やし始めた。


(マズイ、この人俺と互角・・・いや、ちょっと強い)


「同じ二刀流だと?てめえは本当に幻魔か?・・・おい!いつまで座り込んでんだ!」

「ごほっ・・・ごほっ・・・ああくそ!すまねぇ」


 大兄貴はやり損ねた仲間に声をかけた。残った盗賊は立ち上がりこちらに顔を向けたが破片が目に当たったのか、手の甲で拭い目をパチパチと何度も瞬きさせ涙を浮かべたその目はまだはっきりとロインが見えていないらしい。

 ただこのままでは同時に2人とやるのは危険と判断したロインは父の指示を思い出しその中に『体術』の使用は禁止されていない事を思い出し再び大兄貴に向かって走り出す、そしてサラディナがサージディスに食らわしていた同じまわし蹴りを大兄貴の顔に向けて放った。


 この時ロインにとって2つの幸運が重なった。

 1つ目に脚力強化のままであった事。

 ロインは移動速度、反射速度を上げる為に使っていたがこの魔法は当然蹴りでの攻撃強化に効果がある。

 また身体能力は常人以上の能力が元々備わっていてこれはノイドの厳しい鍛錬によるものだろう、実際には脚力強化を使用しなくても素の蹴りだけでも十分骨の1本や2本をへし折る事は可能な威力がありそこに脚力強化が加わった為に下手な剣で切るより殺傷能力が高い蹴りになっていた。


 2つ目に大兄貴は固定概念にとらわれていた事。

 大兄貴は直接ロインと剣を合わせていた、当然ロインの実力はこの時点で分かっていたはずだった。

 しかし『幻魔族は魔法能力に優れ身体能力に劣る種族』だとその考えを変える事が出来なかった。

 そして自分に絶対の自信を持つ大兄貴は自分を過大評価しロインを過小評価してしまい大兄貴はロインの蹴りを普通に剣ではなく左腕で受けてしまっていた。

 結果大兄貴の左腕の骨は粉々に砕かれロインの蹴りを耐えきる事が出来ず祭壇を破壊しながら女神像近くまで吹き飛ばされてしまった。


「大兄貴!貴様!」


 賊は吹き飛んだ大兄貴に驚きしかしすぐに剣を抜いて構えた、がもう遅かった。

 既に目の前にいたロインは脚力から腕力強化に切り替えゴーダンの剣で賊の剣を弾き飛ばしていた。

 痺れる両手には何も握られておらず賊は自分の両手とロインの顔を見比べる事しか出来なかった。


「風遁、刃」


 刀は抵抗も無く盗賊の胸にスッと入っていく。

 賊は痛みと恐怖に顔を歪めロインのマフラーを掴みそのまま崩れ落ちる。

 その時偶然にもロインはそれと目が合ってしまった。

 なんとか原型が保っているものの一部が吹き飛び唯一残った大きく見開く片目だけでロインを見つめる。

 扉の前にいた男の1人、床に転がる男の首と。

 その瞬間ロインの心臓は大きく跳ね上がった。


「この糞ガキがぁぁぁ!」


 大兄貴は無事だった右腕だけで剣を振りかぶってきたがそれは先ほどまでとは打って変わり剣術と呼べない繊細のかけらも無い理性を失った大降りで力任せの一振り。いつものロインなら素人同然の剣に恐れることもない攻撃のハズだったがロインに余裕は一切無かった。




 鼓動は異状に早く脈打つ。


 呼吸は乱れ思うように息が出来ない。


 体も思い通りに動かずそれは水の中にいるような、あるいは夢を見ているように重い。


 そればかりか今自分の意思で体を動かしているのかどうかも分からない。


 ココが異常状態のロインに気が付きいつでも助けられるように九尾の狐に立ち戻っている事もロインは気が付かない。


 大雑把な大振りの攻撃をかわそうとしたが何かに躓くようにロインと大兄貴は絡まって倒れた。


 ロインは攻撃したつもりはなかったが倒れこんだ時偶然にもゴーダンの剣は大兄貴の心臓を貫いていた。


 覆いかぶさるような形で大兄貴は即死した。


 剣に支えられるように途中で止まっている。


 大兄貴の口からこぼれる血はロインの顔にポタポタと落ちていく。


 それがマフラーを失ったロインの口の中に流れ落ちた時大兄貴を突き飛ばした。


 大兄貴の死体は仰向けになったまま動かない。


 ロインは必死に唾と一緒に血を吐き出す。


 鼓動は更に早くなる。


 喉が詰まり息がまともに出来ない。


 朝食以外何も食べていないゆえ胃液だけがこみ上げ吐きそうになり口元を押さえる。


 何故このような状態になったのか分からない。


 そもそも今どんな状態なのかさえも自分自身で理解できないほど混乱している。


 世界から音が消える。


 世界から色が消える。


 世界が闇に包まれる。


 寒いわけではないのにガクガクと体が震える。


 寒いわけではないのにカチカチと歯が音をたてる。


 何年ぶりだろう、泣きそうになる。


 その時声が聞こえた。

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