38・滅びの村、強襲
タイトル変えました。章別けに関しては迷走中。
「悪魔の爪痕?どう言う事だ?」
ノイドが尋ねると偽アニーは語り始めた。
「兄貴から聞いた話だが16年前人間と幻魔の戦争が起きたと同時に1体の悪魔がこの村にやって来て住んでいた村人が1人残さず殺されたそうだ。当時北のレティーフルと南のカザカルスは拠点にされていたんだがこの村が襲われた後その悪魔はレティーフルに向かったらしくどうやらレティーフルを襲う際に悪魔が勘違いして先に見つけてしまったこの村を滅ぼしたんじゃないかって聞いたよ」
「その悪魔、戦場に現れた悪魔がこの村に来たのか他の悪魔が来たのか分かっているのか?」
ノイドの質問に偽アニーは首を横に振る。
「さあな、その時は俺もまだガキだったし・・・そういや悪魔と言えば大兄貴も兄貴もこの国は何か隠してるって思っているみたいだ。俺は馬鹿だから良く分からないけど兄貴が言うには何故『悪魔』としか表現していないのか疑問に思っていたよ。魔物の中でも最強とされている『悪魔種』であるレッサーデーモンやグレーターデーモンといった固有名で何故言わないのか、新種の魔物なら何故国は発表しないのかどうして国民に注意を呼びかけないのか。実際人間と幻魔どっちも勝ち負けなし、しかしなんで戦争が終わったのかその辺りもあやふやだしな」
「もしかしてお前達や大兄貴と呼ぶ連中はこの村の出身なのではないか?盗賊に身を落としたのもこの国がこの村に起きた悲劇を国中に伝えなかったから、まるで悪魔の襲撃が無かったかようにあるいはこの村が最初から無かったかのように振舞ったからではないか?」
ノイドの例えに偽アニーは考え込むように少しだけ首を傾げ小さく頷いた。
「俺は此処の生まれじゃねえが言われてみれば大兄貴達はこの辺りの事を詳しく知っているしそうなのかもな」
「そうか」
1度頷いた後唐突にノイドは興味が無くなったと言わんばかりに荷物を降ろし袋の中から木箱を取り出し更に中から握り拳より小さい袋を1つ取り出しロインに放り投げた。袋を受け取った瞬間ロインの顔は無邪気な子供っぽい顔から戦士の顔になっていた。
「ロイン、村の中の状況はもう把握しているな?」
「はい」
「私は上、お前は下をやれ。そいつは『花火』を使って扉を吹き飛ばせ。攻撃は刀剣のみ。クナイと魔法の類は強化系を除いて一切使用禁止。ココには攻撃させるな、全てお前がやれ。行け!」
「はい!」
ロインの返事と同時に2人は村の中央に向かって走り出した。当然走りながら疾風迅雷、千里視、千里聴に加えロインは脚力強化で教会に向かって更に加速。
教会側と見張りをどうするのかどう分けてどう立ち回るのか作戦もまだ決めていないのに突如動いたロインとノイドと2人の突然の行動に残された4人は呆然とし暫くしてロインが起こした爆発でサージディス本日2度目の絶叫が村と森に轟いた。
「あんたらは何やってんだぁぁぁっ!」
ノイドは忍術の発動後屋根の上に飛び上がり脆くなった屋根上箇所をきちっと避けて手を腰の脇差に、忍術『風遁,、刃』を脇差に掛けながら駆け抜け一気に三階の窓に向かってとんだ。
窓は開いておりノイドは簡単に目的の部屋に飛び込み着地と同時に抜いた刀を横に一振り、窓を背に座っていた男、おそらく良いカードが来ていたのだろう笑顔のままの首が床に転がった。他の2人は自分のカードに集中していて首が床に落ちた音で初めて首無しの仲間を見て異変に気が付いた。ただその時にはもう1人の首が舞いその後方から剣が弾丸のように飛ぶ。結局残された1人も悲鳴を上げる事も剣を抜くことも椅子から立ち上がる事も出来ないまま真っ直ぐ飛んできた剣を避ける事も出来ずその顔で受け止め壁まで吹き飛ばされ、そして剣は壁に突き刺さった。剣にぶら下がった状態で絶命した盗賊には目もくれずノイドは右手に持つ一人目の盗賊から奪い盗賊二人目の首を刎ね血で汚れた剣を見つめた。
「悪くない、この大陸の盗賊は意外と質の良い剣を持っているじゃないか。まっ、ゴーダン殿の剣と比べればガラクタだが」
無造作に剣を放り投げ北側の窓に近づき普段決してロインや家族には向けない冷たい目で教会の方を見下ろした。それと同時に爆発音が轟き大量の煙と砂埃の中ロインは飛び込みその後ろから付いていくココが見えた。
(さて、御膳立てはここまで。ロイン、もしこれでお前が駄目になるようならテノアの町に帰ってもらう)
朝方盗賊を発見した時にノイド達は狙われていると分かっていた時点で殺しても良かった。兄貴と呼ばれた賊と戦った時『わざと刀とクナイを弾き飛ばされる』必要もなかった。しかし今回『ロインを計る為』にあえて後手にまわる様な手段を取っていた。
本来忍びの里では物心付く頃には殺生をさせていてそれは殺人、暗殺を身近なものにする為である。最初は自分達が食べる物である肉や魚を得る為川で捕った魚を、山で狩った小動物を自ら殺させた。次に自分達が大事に育てた、可愛がった家畜も殺させた。それらが問題なく出来た時最後に人間を殺させる。殺す人間は暗殺の対象であったりたまたま捕まえた他国の忍者であったり凶作が原因で今日明日食う事すら困まり結果盗賊などに身を落とした農民であったり誰を殺すのかその状況で変わる。殺す対象者がいなければ酷い話だが関係の無い老人をさらってくる事もあった。
人間を殺す、それが出来なければどんなに強くても下忍止まりだ。ただ里でもなければアイル達の異常な過保護の中ではそれらを実行する事は不可能だった。だから今回ロインにやらせる前に先に見せたのだ・・・父親である自分が人間を殺すところを。少なくともその場面を見せても変化は無かった、いつものノイドの言動を信頼しきったロインだ。残るは実戦、全てをその身で受ける事。
肉を切る感触。
骨を断つ感触。
血の匂い。
血の味。
消えゆく命。
殺す殺した相手が自分へ向ける怨みつらみを込めた瞳と罵声と悲鳴。
耐える者耐えられぬ者、あるいはそれが当たり前として、自然なものとして受けいられる者人それぞれだ。もしロインが人殺しに対して耐えられない受け入れられないのなら幻魔の町に帰り静かに暮らすべきだとノイドは考えていた。
兄貴に武器を弾き飛ばされた事に関しても対人戦の勘を取り戻す為に切るや刺す以外の殺し方が出来るようにと自ら飛ばしたものだ。しかしそのお陰で今ロインは兄貴より強い大兄貴戦で決して手を抜けない、本気でやらなければならない状況になった。こちらは偶然だと言え今回の御膳立てに一翼担うことが出来た。
目を閉じて千里視でロインの戦いを立ち込める煙幕を散らさぬよう天井付近を通じて教会内を見ていた。この時モウガンとサラディナが走って教会の方に向かって走っているのが、また遅れて偽アニーを連れたサージディスも確認できる。
そして・・・悪い予感は的中した。
目を開きひらりと三階の窓から飛び降り教会に向けて走り出した、動かなくなったロインを助ける為に。