33・人間と幻魔の歴史
「幼少の頃何かあったと聞きましたし幻魔族と人間族、お互い色々あったのですから嫌なら無理をして話す必要はありません。しかしもし宜しければ何故人間と幻魔が憎くしみあったのか16年前戦争の前後、あなた方人間族に何があったか教えて頂けませんか?」
「???」
3人の傭兵は質問の意味が理解できず完全にハテナ顔だった。
「す、すまねえノイドさん・・・あんたの言ってる意味がイマイチ分からねえんだが・・・」
「どうやら16年前の戦争に関して人間族と幻魔族に伝わっている歴史は微妙に異なっているという事です」
「そうなのか?」
「ならばまず幻魔の歴史からお話しましょう」
ノイドとロインの2人が知る歴史を語り始めた、人間と幻魔の争いの歴史を。
始まりはおよそ100年程前、南アティセラ大陸には2つの幻魔族の町と2つの人間族の国があった。
幻魔の町は北西と南東に、人間の国テンタルース王国は中央から北東に、もう1つの人間国カサリン王国は南西にあった。
しかし幻魔の町の1つが突然宣戦布告もなくカサリン王国によって滅ぼされた。
正確には攻撃を受けほぼ壊滅した幻魔族、そして当時その地にいた大賢者は自分達の命と引き換えに禁忌の魔法を使い敵ごと自滅した。
結果その周辺は砂漠化、その町の幻魔族は全て死に人間の軍隊と共に行軍した王も戦死した。
また王には子供もいなかった為正当な王位継承者はおらず国としてまともに機能せず結果内乱が起こった。
しかし内乱を抑え国民の支持を得たテンタルース王国に吸収され1つの国としてまとめられる事となった。
そして昔からテンタルース王国とこの地のサーファン王国は非常に深い友好関係にありそれ以降南北アティセラ大陸で人間と幻魔が永く争う事となった。
しかし16年前突然流れは変わった。
幻魔族の前に第三者と呼ばれる何者かが現れ大賢者の1人が支配操られ第三者は南アティセラに残るもう1つの町に拠点を置いた。
町に住んでいた幻魔族の中約30人程が犠牲となり第三者は更に悪魔をも操って複数の人間とエルフをも誘拐したのだ。
それが引き金になったのだろう人間族は幻魔族に戦線布告した。
ただ宣戦布告したのは北アティセラのサーファン王国が南アティセラの幻魔の町ではなく北アティセラの幻魔の2つの町に対してだった。
これには1つ理由があり南アティセラの幻魔の町は森の中にありその森の一部には妖精族、水の妖精と呼ばれるエルフと風の妖精と呼ばれるスプライトが共存する村があった。
もしこの幻魔の町を滅ぼすとなれば進軍出来るように森を一部開拓する必要があった。
そうなれば人間族は幻魔族だけではなくこの地に住む妖精族も敵対する事になってしまう。
彼ら妖精は個体数が非常に少ないとは言えエルフは剣と魔法の両方に長けスプライトにいたっては全員が精霊召喚が出来る程、幻魔以上の魔法の使い手と言われている。
実は100年前滅びたカサリン王国が自分達の国にもっとも近くにあったこの町ではなくわざわざ遠くにあったもう1つの幻魔の町を攻撃したのは妖精族を恐れた為だとも言われている。
そして同盟を組みサーファン、テンタルース両国は幻魔を滅ぼすべく攻め入ったのだが2つの種族にとって悪夢の出来事が起こってしまった。
2種族が争う戦場に1体の強力な悪魔が現れ人間と幻魔両軍を滅ぼしてしまった。
第三者の一方的勝利かと思われた時、天使が竜と神獣を連れて現れ天使はテンタルース王国と手を組み無事に悪魔を操る第三者を倒し両種族を救ったと言われている。
そして16年現在に至る・・・これが幻魔族の歴史だ。
「・・・・・」
「いかがですか?おかしい所はありますか?」
3人の傭兵は静かにノイドとロインの話を聴いていた。
サージディスは組んでいた腕を解きポツリと呟いた。
「なるほどな、大きな道筋はあんたの言ったとおりだ。ただやはり所々俺達の知っているものと微妙に違うか・・・」
「カサリン王国が幻魔族を攻撃したのって確か王子が暗殺されたせいだったわね」
「暗殺?」
「ああ、何でも王子たちの寝室に忍び込んでまだ幼かった2人の王子を暗殺、しかも捕らえた暗殺者は幻魔族と分かりぶち切れた王が幻魔の町を攻撃したがあんたの言うとおり砂漠化するほどの大魔法で全軍を巻き込んでの自爆。て言うか禁忌の魔法って何だよ?無理矢理『精霊王』を召喚したが失敗して自滅したんじゃなかったのかよ、あんたら幻魔怖すぎんぞ」
暗殺・・・これには大きな違和感を覚えた。
魔法に長け身体能力が乏しく戦闘において大事な事は精霊召喚による他人任せである幻魔がわざわざ自ら出向くだろうか?。
小さな町や村で一般人を殺すならそれ程難しくは無いだろう、しかし警備が万全な一国の城に潜入する素人がいるだろうか?。
忍者でありそれらを生業としていたノイドだからこそ分かるが警備をすり抜け目的を達成するのは口で言うほど簡単ではない。
ただ自分達が知らないだけで忍術以上に隠密に特化した魔法があったなら身体能力の低い者でも可能なのかもしれないが・・・。
あるいはこれがもし『忍者』の仕業だったなら・・・例えば海を越えてこの地に来た忍者がいたとしたら、または自分達と同じように神隠しに遭いなんらかの形で暗殺依頼を受け達成したものの最後に捕まりノイド達と同じ黒髪で幻魔族と勘違いしたのなら十分にありえる。
だがノイドが知りたいのはそんな事ではなかった。
「他には?」
「そうだな・・・16年前戦線布告したのは幻魔族の方からだし・・・悪魔は1体じゃなく複数、もっといたはず。 それと天使、竜、神獣の話は聞いた事はねえな」
「(やはり)・・・天使が16年前の戦争を終わらせた・・・われ等幻魔族では有名な話。それに現在その天使は南アティセラの幻魔の町に住んでいるハズなのですが・・・聞いた事はありませんか?」
「ん~誘拐事件の事で俺達も多少その幻魔の町の事は知っているけど・・・やっぱり天使が出てきたなんて話聞いた事ねえな。それにもしテンタルース王国が天使と手を組んだとか本当だったら今頃有名になってるぜ」
「そうですか・・・(天使そのものが実在するかどうかはまだ不明だが人間族の間では天使の存在は無い・・・今もまだ第三者は存在し人も情報も操られている可能性があると思っていいか?しかも幻魔だけではなく人間・・・国家さえも操っていたとしたら・・・しかしだとしたら何が目的で戦争を起こし終わらせた?そしてこの16年間何故何もしない?やはり直接会って調べるしかないか。まったく・・・下忍の情報収集にどれだけ救われてきたか思い知らされる瞬間だな)」
「・・・神獣・・・竜・・・」
ノイドとサージディスが会話中何かに気が付いたサラディナが消えそうな声で呟き、それにロインが気が付いた。
「サラさんどうかしました?」
「いえ、天使は私も聞いた事はないけれど『神獣を連れた盲目の少女』の噂話を聞いた事があって・・・」
「神獣を連れた盲目の少女?」
「ええ、南アティセラの東にある町に『パーンドール』という町に神獣に跨った少女が時折現れるそうなんだけど・・・その盲目の少女が竜の巫女だって噂があるのよ」
「神獣を連れた竜の巫女・・・」
ロインは小さく呟いてココを見た。
(まさか自分以外にも神獣に憑かれた人がいる・・・)
ロインはその盲目の少女に興味が沸いた。
その少女に会えばもしかするとココが何故自分に憑いているのか、何故自分の言う事を聞き自分を守ろうとする行動を取るのか分かるかも知れない・・・と。
サージディスは顎を摩りながら妹の言葉を反復させた。
「神獣を連れた盲目の少女・・・竜の巫女ねぇ。16年前と関係あるならもう少女って歳じゃねーな。もしかして当時その巫女があまりにも可愛いから天使呼わばりしてるなんて馬鹿げた可能性があるのかねぇ」
「無いとも言えません、私も別の誰か、何かが天使と呼ばれているのではないかとも考えています。がその巫女が天使である可能性は限りなくゼロに近いでしょう。サラディナ殿、その巫女は南アティセラの東にあるパーンドールという町だけの話なのですよね?」
「ええ、他の町では竜の巫女が現れたって話は聞かないわね」
「私が大賢者・・・父上殿から聞いた限り南アティセラにある幻魔の町は西側の森の中にあると聞いています。その幻魔の町の賢者、人間族で言えば市長のような存在として天使が住んでいるはず・・・東に住むその巫女とはおそらく別人でしょう。ただ・・・場所ではなく個人に憑いた神獣などそうそうありえない、もしかすると私達が聞く天使と何か関係があるかもしれません」