31・質問と答え
黙祷を捧げた後5人は一緒に街道に戻り、北に向かって歩いていた。
「それですまないんだがさっき話の途中だったろ?あんたら本当に何もんなんだ?異質だとか何とか言ってたけど1人で有戦型のリッチとやり合おうなんて正気じゃねえぞ」
「有戦型?」
これにはロインだけではなくノイドも知らなかったのか反応していた。
「魔物には『無戦型』と『有戦型』ってのがあるんだ。前者は生まれてすぐの魔物なんだが後者の魔物はさっきのリッチみてえに人や魔獣と戦ったやつ、つまり戦闘経験を積んで成長したやつの事さ。
まっ成長と言ってもピンきりあって・・・そうだな、有名な昔話で危険ではあるが強くはない魔物『ゾンビ』は火で燃やすなり肢体バラバラに出来るなら傭兵でなくとも一般人でも倒せる魔物だが言い伝えで異様に強くなった有戦型ゾンビが出来ちまってエメラルド、サファイアの魔法使いを含めた傭兵が10人以上集まってやっと討伐出来たって話もあるくらいさ。ちなみにその有戦型のゾンビたったの3体でエメラルド5人が死んだそうだ」
「そう言う事か・・・2度目の攻撃魔法の未使用・・・連続召喚・・・確かに幻魔には伝わっていないリッチの戦い方だった。元々魔物の出現、幻魔の町への襲撃に来る確立は低い。そして自分で戦う事より精霊召喚による他人任せの戦闘方法では知る事も出来ない・・・か」
魔物は戦闘経験を積んで成長する。
能力が同じ魔物でも有戦か無戦のどちらかで戦い方が変わり強さが変動する・・・テノアに来てから15年間戦ってきた魔物は全て1度の戦闘で倒してきたノイドには知ることの無い事実だった。
ロインも勉強になると言わんばかりに『なるほど』と頷いていた。
人間の町に行く時に山を超えてきたがそこでノイドが言ったとおりだった。『強さそのものより経験が勝る事もある』・・・まさにそれを自分と戦ったリッチが実証させたのだ、今回のリッチ戦はロインにとっては1人で勝てなかった敗北ではあったがノイドの教えが本物でありこれ以上の無い経験でもあった。
「だからこそ驚いてんのさ・・・精霊を召喚したのならまだしも3対20どころか1対20、更に剣で互角にやりあってんのがね。なぁ、異質ってのは何だ?そんな黒ずくめとかなんで怪しいカッコしてんだ?旅の者ってお前ら何か目的あんのか?」
「兄さん!いい加減にしろ!」
隠しも無くストレートに聞くサージディスに流石にサラディナも切れたようだ。
まだ聞こうとするサージディスを押しのけサラディナは頭を下げた。
「ごめんなさいノイドさんロイン君!うちの兄アホだからデリカシーなくて」
「アホ!?なんだもぎゃ!」
サージディスは妹に文句を言おうとしたがモウガンに顔面から押しのけられ変な悲鳴を上げた。
「俺からも謝罪する。実は16年前俺達が子供の頃幻魔族と少々いざこざがあってそのせいでサジも2人に興味があるだけなんだ」
「別に構いませんよ。16年前の戦争を含め幻魔と人間の間には色々あった以上、気になって当然の事。気にしないでほしい」
「すまない感謝する」
ノイドの言葉にモウガンはホッとした。
「そう言えばあなた方は傭兵でしたね」
「そうだが?」
「ならば我らも少し聞きたい事があります。そちらが良ければ少し休憩をかねて話をしませんか?」
ノイドの提案にモウガンは快く受け入れた。
その向こうでサラディナはサージディスの首を軽くしめて大人しくさせているのだがその光景をみたロインが「うちのマローネも大きくなったらあんな妹になっちゃうのかな~」と自分ではなく妹の未来を心配していた。
街道右手にあった森の木陰で一時休憩する事になりそれぞれが思い思いに座り込む中サージディスが頭を下げた。
「さっきはすまねえ・・・いや・・・本当に申し訳ありませんでした」
後方からサラディナに睨まれて礼儀正しく謝罪しなおした。
どうやらサージディスはサラディナに頭が上がらないらしい。
「さっきも言ったように構いませんよ、大丈夫です。それよりサージディス殿の質問ですが異質と言うのは単に幻魔族の中で比べて身体能力が優れているってだけですよ。実際先ほどのリッチ戦でこの子の戦いぶりを見たのなら分かって貰えると思いますが」
「ああ!見た見た!ほんとびっくり度肝抜かれちまったよ。もしかしてノイドさんも剣を振るったらあんなつええのかい?」
「ええ、一応剣を教えたのは私ですからこの子には負けませんよ」
「・・・まじか・・・すげえな」
「・・・あのノイドさん、私も1つ良いですか?」
ノイドの説明にサージディスが驚いているとサラディナも意外と聞きたい事があったのか恐る恐る質問した。
「ええ、どうぞ」
「ノイドさんもロイン君も刀なんて持っていますけど折れずにちゃんと武器になるんですか?そもそも刀を実戦用武器として作れる鍛冶職人がいるなんて聞いた事が無いんですけど・・・」
「ちゃんと武器として使用できますよ。ですが問題が無いわけではない、そこで私達が暮らす町で鍛冶師をしているドワーフがいるのですがその方の情報で美術品としてではなく武器として刀を打っているドワーフがいると聞き・・・実はそのドワーフを探す事がこの旅の目的、先ほどサージディス殿のもう1つの質問の答えです」
「へー・・・もしかして2人が持ってる刀をそのドワーフが作ったのかい?」
「現状では不明ですがその可能性があると私は信じそのドワーフを探しています」
勿論妖刀を除き2本の刀は里の下忍に打ってもらったものだがそれを説明したところでややこしくなるので説明する気は無い。
ただ刀とドワーフの話が出てきてから1つの異常が起こっていた。
それはノイドだけではなく同じようにこっそり千里聴を使っていたロインも気が付いていており異常の原因であるモウガンを見ていた。
モウガンはサラディナに言われて兜を外してその凶暴そうな顔を晒しているのだがその辺りからどうも様子がおかしかった。
どこか怯えたような、また少しそわそわしてスケルトンと戦っていた時の冷静さもなく千里聴で聞こえていた心音も不安定で刀の話が出てきた時から心音は異様に早くなっていた。
「あのー、モウガンさん顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
ロインが心配そうに指摘するとモウガンは何故かビクッとなってやはりどこか怯えながら「ご、ごめん大丈夫・・・です」と空を見たりと目も合わせようとしなかった。
そんなモウガンを見たサージディスとサラディナは深いため息を付いた。
「あー・・・すまないな2人とも、こいつは大丈夫だよ。ただどうもこいつ昔から人見知りする奴で今は兜かぶって顔を隠してる時は問題ねえんだが脱ぐといつもこんな調子でな・・・」
「一応お話しするのに顔を見せないのは失礼だからと思って兜は脱がせたけど・・・ごめんなさい
ノイドさんロイン君、また顔を隠させてもらうわね。・・・はいモウガン!かぶって!」
サラディナは問答無用で兜を取り上げ無理矢理かぶせると確かに顔が隠れた瞬間モウガンの心音は安定し落ち着いていた。
多少ずれていたのか兜を調整してから頭を下げた。
「申し訳ない」
「大丈夫なら良いんですよ、それにしてもモウガンさんの素顔って迫力のある顔をしてるんですね」
安心した顔でパタパタと手を振りさらりと失礼な台詞を吐くロインにノイドの拳骨が落ちた。
「「いて!」
「ロイン!失礼しましたモウガン殿」
「・・・ごめん」
「いえいえ、よく言われますし事実ですので。それよりもノイド殿」
「?」
「先ほどの刀を打つドワーフを探しているとの事ですが・・・もしかすると俺達は知っているかもしれない」
「それは本当ですか!?」