30・傭兵達の墓標
「大丈夫か?ロイン」
「ん・・・平気・・・ただあれだけ頑張ったのにスケルトンの奴宝石落とさないなんて・・・」
ノイドの手を借りて立ち上がったロインはまた座り込みそうな程ガッカリな顔をしていた。
「まぁあれは魔法の産物、相手の魔法の矢を破壊しただけで宝石が出ないように
魔法で作られた・・・といって良いか分からんがスケルトン達も破壊したところで何も出ないさ」
「得たのは戦闘経験だけ・・・別に良いんだけどさ・・・あ」
ロインは3人組が自分達に近づいてくるのに気が付いた。
3人の代表だろうか、魔法使いが話しかける。
「怪我は大丈夫かい?もっとも信仰系魔法が使える幻魔に怪我の事を聞いても仕方がないんだろうが」
「はい、ありがとうございます。助かりました」
「そうかい?そりゃ良かった。それよりも・・・」
ロインに向けられていた笑顔から少し怒ったような顔をノイドに向けた。
「あんただよ!何でこの子が1人で頑張ってんのに魔法の1つも援護してやらねぇんだ!」
「ん?私がこの子の援護を?」
ノイドは一瞬驚いた顔をしてから苦笑いを浮かべながら肩をすくめ申し訳なさそうに謝罪した。
「それはすまない・・・ただ助けてくれた君たちに申し訳ない事を告げるが別に助けなど必要なかったのだが・・・」
「え?」
「それでも助けてくれたのだ感謝はしている、ありがとう」
今度は3人が驚いたが確かに直接見ていたので事実なのだろうと信じた。
幻魔が精霊を召喚しているのならまだしもこの少年は本来ならば並みの戦士が1対1でも敵わないはずのスケルトンをたった一人で20近い数を相手に剣と魔法で奮闘していたのだ。
それにリッチに止めを刺しに行った際の常人離れした動きと剣と魔法の同時攻撃・・・人間族でも出来るものはそうそういない、
3人の知る限りそんな事が出来るのはサーファン王国の西にあるシュリンク教皇国の聖騎士と
南アティセラ、テンタルース王国の剣聖と呼ばれる魔法騎士くらいだ。
それこそ剣術自体を使いこなす幻魔に対して驚くなという方が無理な話だろう。
「あんたら・・・何者だ?」
「ただの旅の者ですよ。まぁ私達2人幻魔族の中では少々異質な存在ですが」
「異質?」
「それよりもあなた方に1つお願いがあるのですがその前に・・・私の名はノイドでこの子は私の息子のロイン」
「ロインです、改めて助けていただいてありがとうございます」
2人は軽く頭を下げ自己紹介に3人は釣られて姿勢を正した。
「あ、ああ・・・気にするな。俺達3人は傭兵で俺は『サージディス』、見ての通り人間族の魔法使いで一応このチームのリーダーみたいなもんだ」
「私は『サラディナ』、悲しい事にこのサージディスの実の妹です」
「うおい!」
「俺は『モウガン』、残念な事にサージディスの義理の弟だ」
「お前ら・・・喧嘩売ってんのか・・・」
わなわな震える赤い髪の魔法使いサージディス、赤い髪の女戦士サラディナ、フルプレートの戦士モウガンとそれぞれ名乗った。
「義理の弟?」
ロインはモウガンとサラディナの二人を交互に見るとモウガンは首を振った。
「義理と言っても俺達は孤児で一緒に育ったんだ、実の家族じゃない。サジとサラの2人は血のつながった実の兄妹だがな。それより俺達にお願いと言っていたが・・・」
兜で顔は見えないがモウガンはノイドを見るとそれに頷き地面に散乱しているスケルトン達の灰を見た。
「我等が攻撃を受ける前からスケルトンの剣が血で濡れていた。魔獣なら良いが人間・・・傭兵がこの近辺で死霊達と戦って殺された可能性がある」
「何!それは本当か!?」
サージディスは声を上げ何故か一瞬だけロインを見て驚愕しすぐに周りを確認した。
辺りを見渡したが所々小さな起伏と膝上辺りまで草が伸びている場所もあるのでその全てを見ることは出来なかった。
「ええ、それでもし人間が殺されていれば弔おうと思ったのですが・・・傭兵達の間ではどうされているのですか?」
「そ、そうだな、可能なら遺体を回収。場所や状況によってはその場所で埋めてやるし不可能なら残念だが放置って事もある」
幻魔2人と傭兵3人と二手に分かれあるか無いか分からない遺体の探索が始まった。
狐のココが匂いを辿って探す案が初めに出たが元の匂いが分からないと却下した。
とは言えそこは神獣だ、ロインが『近くにある血の匂いを探して』と言えばすぐに見つかるかもしれないがしばらく2人は『探しているふり』をしていた。
実はすぐに千里視の範囲に2人横たわった者が確認出来ていたがサージディス達が探していた場所から近い為彼等に発見してもらう事にした。
そして程なくしてサラディナの呼ぶ声が聞こえ全員彼女の元へ向かった。
「この人達はやっぱり傭兵ですか?」
「ええ、そうみたい」
ロインが尋ねるとサラディナが遺体に目を向けたまま答えた。
2つの遺体はサージディスとモウガンが調べている。
「2人とも魔法攻撃を受けた後はなく何箇所も剣で刺された後だけがあるな」
「おそらく2人でリッチに攻撃したが先ほどのように連続召喚され捌き切れなくなりスケルトンに殺されたってところか」
「ランクは・・・エメラルド、俺達と同じか。ただ俺みたいな魔法使い無しでリッチをやるにはたった2人では不可能って事くらいエメラルドなら分かるだろうが・・・なんで逃げない・・・なんで戦おうとする」
サージディスは遺体がつけている傭兵の腕輪を見ながら怒りか悲しみか分からない震える声で呟いた。
一部とは言え忍術が使えるノイドはリッチがそれほど脅威の魔物とは感じない、むしろ弱い部類の魔物だがほとんど魔法が使えない人間族にとって魔法を使える魔物はやはり脅威の存在らしい。
「ランク?エメラルド?」
ただランクと言う単語にロインは気になって飛びついた。
それに対してサラディナが自分の腕輪を見せながらロインに答えた。
「腕輪に宝石が埋め込まれているでしょ?これで傭兵、冒険者のランクが分かるのよ。ランクは強さもあるけど傭兵としての経験の証明でもあるわ」
「ランクってどれくらいあるんですか?」
「1番最初に登録するとランクはクリスタル、傭兵初心者ってところね。
基本半年はクリスタルのままである一定の依頼をギルドを通してこなせば半年後自動的にアメジストにランクアップするわ。当然依頼を受けずに放置していても1年経とうが5年経とうがランクアップはしないけどね。後はランクにあった依頼を受けるか独自で魔物と魔獣討伐の数をこなせばアメジスト(最下級)からエメラルド(下級)、サファイア(中級)、ルビー(上級)、最終的にダイアモンド(最上級)と上がっていくわ」
「へ~・・・ランクが上がると何かあるんですか?」
「ランクが上がれば当然受けられる依頼の幅が増えるし同じ依頼、例えば町から町への護衛でも高ランクの方が依頼料が良いのよ」
『あ~お金の為なら人間は何でもするってやつか』とロインは声には出さず心の中でややがっかりしていた。
「はんっ・・・何が冒険者だ、傭兵は傭兵だろう。
アメジスト以降ギルドを通さなくても魔物討伐でランクアップ出来るようにしちまうからこんな自分に見合った仕事をせず無茶する馬鹿が増えるんだよ」
遺体の調査を止めて立ち上がったサージディスは地に横たわる遺体をひと睨みしてからまるでイラついたように呟いた。
どうやら悲しんでいたのではなく怒っていたようだ。
「落ち着けサジ。それよりどうする?ここはギリギリまだ町も近いと思う、煙玉も届く範囲だろうが・・・使うか?」
煙玉・・・色の付いた狼煙を上げられる道具で通信手段の乏しい地で利用される連絡網の1つでノイドのいた国でも狼煙は利用されていたのでよく知る物だ。
この地では色付きの煙玉が利用され青い煙なら成功や安全を意味し赤の煙なら失敗や危険、来るなを意味している。
他にも強力な魔物や魔獣が町に向かっているなど襲撃を知らせる時は黄色の煙で今回のような死者が出て遺体運搬、回収の協力が必要な時は赤紫の煙が利用される。
「いやいい勿体ねぇ煙玉もタダじゃねぇんだ、せめてもの此処に埋めてやろう。えっとノイドさん?良ければ地の魔法で穴掘ってくれないか?俺は地の魔法はあまり得意じゃないんだ」
「分かりました、ロイン」
「はい・・・土遁、奈落」
返事をしたロインは遺体の真横に立ち忍術を発動させるとおよそ2メートル四方、深さ1メートル半の穴がゆっくりと出来ていった。
(ドトンナラク?幻魔族特有の詠唱の何かか?それにしてもよく見れば確かにギルドで聞いたように2人とも杖無しか・・・凄いと言えば凄いんだが・・・幻魔の魔法は人間の魔法を軽く凌駕するって聞いていたがこんなものなのか?杖無しだからか?そう言えば自分達を『異質』と言っていたが何か関係があるのか?)
魔法使いが使う杖の類は材料に魔獣石が利用され様々な効果がある。
よくある物は魔法効果を高め威力の底上げが1番多いが他には魔法速度を上げ連続で魔法発動を可能にしたり範囲型の魔法は更に効果範囲広げたりと出来る。
「これで良いですか?」
「ああ、ありがとう。モウガン」
「分かった」
モウガンは鎧は着けたまま槍斧だけ置いて遺体を軽々と抱え穴にそっと置いていく、凄い怪力だ。
また装備品や所持品は生きている者が有効に使う、奪っても問題なしと言うと思いきや
サージディスが1度荷物の中に不審物が無いかどうかを確認して問題が無ければ遺体と一緒に埋める為底に置いた。
サージディスは口では彼らに不満を持っていたようだが意外と敬意を持っているようにロインには見えた。
再びロインの忍術で土をかけられた後杖に出来そうな程の太さの木を2本を見つけ墓として大地に突き立てられ5人は手を合わせ黙祷を捧げた。