29・傭兵達の援護
(魔物相手のマナ切れを期待するは愚の骨頂、と父さんなら言うだろう。じゃあどうする?強化魔法を動体視力から腕力に変えて・・・いや、さすがはゴーダンさん作の剣。それに魔法効果付加で頭さえ破壊すれば一撃で倒せている以上腕力強化は不要。では体力強化は?確かにこのまま長期戦を考えれば役に立つだろうけど動体視力強化が無くなれば多分・・・)
ふと森の中でノイドを追いかけて枝から枝へ飛び越えていた時速さに目が追いつかず足を踏み外した事を思い出し身震いした。
(うん駄目だな、間違いなく動体視力強化外したらこいつらの剣は裁けなくなる。残るは脚力強化で一気にリッチに近づいて止めを刺す、これが1番理想か?とりあえず保留で攻撃はどうだ?ファイアボール以上に広範囲に効果がある忍術や魔法・・・)
ロインの魔法は基本レネ達から教えてもらっていた。
ただ元々魔法能力が高いが身体能力が低い幻魔族は強力な精霊魔法を習得するよりも精霊そのものを直接召喚する事を優先とする事が多かった。
それは身体的に弱い彼らが直接戦う必要の無い、代わりに精霊に戦ってもらう事を選んだ結果だった。
精霊を召喚するよりも自分で直接戦いその中に組み込みたいロインはそれゆえ魔法より忍術の習得中心に力を注いだのだが、しかし忍術風遁の一部はノイドに直接教わったもののそれ以外の忍術は書物による独学だった。
いくら忍術と魔法は同じで魔法の才能があっても1人で習得するには限界があった。
各術の難易度の違いだったり冷静さを欠き焦った状況で使えたり使えなかったり、また知っていても全く使えない忍術もあった。
「ならば合遁、花火!・・・駄目か」
広範囲重視で火と風を合わせた合遁術の基本忍術『花火』を使ってみたが効果としてスケルトンの広がった間合いでもなんとか3体ほど巻き込んだが残念な結果だった。
まず術の中心にいたスケルトンは衝撃でアバラ数本と防ごうとしたのだろう、盾を持っていた左腕を吹き飛ばしただけそれ以外は目に見える効果がなかった。
他の2体は無傷でもしかするとひびの1つ2つ与えたかもしれないか死して動くものに意味はないだろう。
一撃で倒せないならリッチの召喚速度が勝り処理しきれなくなるだろう、それが分かっているのかリッチも戦略を変えるそぶりは見せていない。
(広範囲・・・あと威力・・・ん~雷遁で1つうってつけがあるんだけどまだ使えた事ないし・・・
リッチは全く動かずに今もなお召喚魔法を続けている・・・死霊だから火は有効・・・今俺が使える火遁で1つ凄い良いのがあるんだけどこっちは使えてもマナの消費が激しい・・・リッチは確実倒せるだろうけど気を失わずに残ったスケルトンをやれるか?どうする、スケルトンが邪魔だがやはり脚力強化で一気にリッチをやるか?やるなら早い方が良いのにどうする?・・・落ち着け俺)
なんとか冷静だったはずのロインの中で焦りが生まれムクムクとそれは大きくなっていった。
魔法使いが「ぜぇぜぇ」と息切らして2人から遅れる事およそ30秒ほど、幻魔の2人組みの戦いが見える30~40メートルくらいの位置。戦士2人は黙って幻魔と魔物の戦いを見つめていた。
「はぁ・・・はぁ・・・どうした・・・んだよお前ら、なんで助けねえ」
「・・・兄さん・・・あれ」
「見ろ、やはりあの2人普通じゃない」
魔法使いが必死に息をつきながらもなんとか声を出すも顔も上がらず今にも倒れそうだったが男戦士に手を借りてなんとか顔を上げた。
まだ苦しそうだったがその目は驚きで大きく見開く、そして呼吸が落ち着いてから搾り出すように声を出した。
「おいおい、何だよありゃあ・・・幻魔のガキが1人で20近いスケルトンと剣で接近戦?嘘だろ?何の冗談だ・・・つうかもう1人はなんで何もしねえ!」
「犬の代わりだろう狐もいるが何故か動かない」
「狐?」
男戦士の言葉によく見れば確かに1匹の狐がじっと戦いを見つめていた。
「犬だろうが狐だろうが戦闘の糞の役に立たねえんだ、どうでも良い!
それよりどうなってる?普通幻魔族は体力が・・・ん?あれはリッチじゃねぇか!」
魔法使いはスケルトン達の更に向こう側、魔法使いリッチがいる事を確認した。
どれだけスケルトンを倒そうがリッチがスケルトンを召喚し続け限りその数を減らす事はなかった。
「・・・あの子・・まだ子供にも見えるけどいくつかしら」
「幻魔族は俺達人間より寿命が長いからよく分からないが確かに見た目だけなら10代前半くらいか」
「リッチ相手に何落ち着いてんだ!さっさと助けるぞ!」
そう言って魔法使いは杖を持ち直しスケルトン達に向かって走り出し戦士2人はそんな魔法使いをあっさりと追い抜かした。
「助ける・・・か。少なくとも敵ではないと言うことか・・・今は。ならばちょうど良い、この大陸の人間の実力を見せてもらうか。それにしてもあの赤い髪・・・確かゴーダン殿の話では東アティセラで見られる人間のハズだが・・・何が目的だ?」
ノイドはロインを助ける必要性を感じていたが謎の3人組の力量を見るために手は出さず彼らに任せる事にした。
「ファイアランス!」
その声が草原に響いた後巨大な炎の槍が一直線に貫きロインの左側にいたスケルトンが4体ほど炎に包まれ灰となった。
千里視と千里聴は使っていたがスケルトンとリッチに集中していたロインはその魔法が誰が使ったものか分からなかったが父ノイドが動かない事から少なくとも敵ではないのだろうと認識した。
それと同時にスケルトンの半分が魔法を使った者の方に歩いていくがすぐに金属がぶつかり合う音が響いた。
スケルトンの数が減りロインに少し余裕が出来た為チラっと直接目を向けた。
見えたのは二人の男女の戦士、そして杖を持ったいかにもな魔法使い。
ロインを驚かせたのはフルプレートの男、槍と一体化した斧の一振りで3体のスケルトンの頭が粉々に砕け倒していた。
その男から兜のせいだろうくぐもった声が聞こえた。
「大丈夫か!?我らが援護する!」
「あ、ありがとう!」
ロインもスケルトンの頭を破壊しながらもう一度ノイドを確認するが特に動く気配は無い。
とリッチは3人の傭兵の増援に戦い方を再び変えた。
残ったスケルトンは全て3人組に向かう、そして召喚を止めたリッチの前に炎の矢が何本も現れそれはロインに向けて放たれた。
しかも1度放って終わりではない、休むことなく何本も何本も炎の矢は作られほぼ連射に近い速度でロイン1人だけに矢が放たれていた。
しかし動体視力強化のままでいたロインにとってその数の矢は無意味だった。
遠くから飛んでくる矢よりむしろ前後左右からくる剣の斬撃の方が余程脅威だ。
脚力強化こそ出来なかったが疾風迅雷だけで回り込むように矢を全て回避しながらリッチの懐に飛び込む。
「風遁、かまいたち!」
忍術を放つとリッチは杖を前にして魔法防壁を張ったのか風は一瞬何かに阻まれたがリッチの目の前にまだあった矢は全て消え去り防壁もあの一瞬では不完全だったのか風はリッチにも襲い掛かる、が風の刃はリッチのローブだけを切り刻んだだけで大した効果は与えていなかった。
しかし目に灯る紫の光が強くなりロインにはそれがリッチが驚愕したように見えた。
ロインは左手に持ち替えた剣でリッチの杖を切り飛ばし続けて忍術を放つ。
「火遁、刃!炎の剣!」
右手で抜かれた刀が突然真っ赤な炎に包まれリッチの胸へと横なぎの一振り、炎は一瞬で消えたがリッチの胸の辺りから真っ二つ、上下に分かれる。
直後炎に包まれ地に倒れたリッチはもがきながら肘から切られた腕をロインへと伸ばし初めて出すしゃがれた絶命の声、まるで地獄の亡者が上げる怨嗟のような声を上げながら灰となりリッチを象った宝石が残された。
「あっ!・・・あれだけやって宝石1個って・・・召喚されたスケルトンはゼロって・・・」
戦闘はまだ終わっておらずロインはがっくりとうなだれたが残ったスケルトンは3人組により無事撃破された。
戦闘はもう終わったとばかりにココはロインの元に駆け出し、しかしノイドはそんなロインに気を止めず残ったスケルトンを片付けている3人組を見つめていた。
(全身鎧の男、かなり強い・・・今のロインでは女はともかくあの男は勝てぬな・・・魔法使いは白兵戦にもち込めば問題は無いが・・・。さてさて、彼らは何者か・・・会話を聞いた限り少なくともわれ等を幻魔族であり忍びの者とまるで思っていないようだが・・・まっ、この程度なら殺すも捕らえるも容易・・・しばらく自由に泳いでいただこうか)
ノイドはゆっくりとココに続きロインの元に歩み寄った。
刃・炎の剣・・・風遁、刃の火遁版。火属性効果が付くが1度きりで消える。ロイン作。
ファイアボール・・・精霊魔法、巨大な火の玉。着弾場所を中心に広範囲に焼き尽くす。
ファイアランス・・・精霊魔法、巨大な炎の槍。一直線に貫き触れたものを焼き尽くす。